特集 学修者本位の教育の実現、学びの質の向上を目指した大学教育のDX構想(その2)

“学生の学びの心に火をともす”
ラーニングアナリティクスによる教育改革
−芝浦工業大学のPlus-DXによる取組み−

角田 和巳(芝浦工業大学 工学部機械工学科教授)

1.はじめに

 学修管理システム(LMS)の整備拡大や動画配信による遠隔授業の増加といった事例が象徴しているように、コロナ禍を契機として大学教育の現場ではICTの活用が一気に増大しました。本学でもこの傾向は明らかで、LMSの利用率、とりわけ小テスト機能や課題提出機能、学生への連絡機能に関する利用頻度が急伸しています。オンラインを介した遠隔授業の長所・短所は、すでに多くの媒体等で指摘されていますが、教員や学生をはじめステークホルダーの意識変革をもたらしたことに疑いの余地はありません。教育を責務とする大学においては、この機会を肯定的に捉え、教育方法ひいては教育体系の改革に挑戦することが必要です。文部科学省によるデジタル活用教育高度化事業「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン(Plus-DX)」はこのような改革を後押しするものです。本学は「取組①」「学修者本位の教育の実現」に採択されましたので、本事業を柱として大学教育のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めていきたいと考えています。

2.理工学教育日本一を目指したDX推進計画

 本学では、2027年の創立100周年に向けて五つの目標からなるCentennial SIT Actionを策定し、DX推進計画のもと目標達成を目指した改革行動に取り組んでいます(図1)。その中の一つに掲げた「理工学教育日本一」の目標は、「“学生の学びの心に火をともす”ラーニングアナリティクスによる教育改革」を土台としたものですが、ラーニングアナリティクス(LA)というキーワードから明らかように、目標達成のためにはデジタル技術の高度な活用が不可欠です。そこで、Plus-DX事業によりLAを可能とする環境を整え、強化されたシステムを積極的に利用することで学修者本位の教育へと転換していくことを計画しました。

図1 創立100周年に向けたDX推進計画

3.Plus-DX事業による取組みの概要

(1)事業の全体構想

 LAの目的は、様々な学びのデータに基づいて学生の学修状況や学修環境を理解し、それらを最適化することにあります。この目的を果たすためには、「データの収集と蓄積」「データの分析と可視化」の二点を強化することが絶対的な必要条件となります。したがって本事業では、

① 学びに関与する多様なデータを収集できるようにすること(学修システムのDX)
② データの蓄積環境を構築すること(学修情報のDX)
③ データを可視化してデジタル証明やデジタルバッジに活用すること(学修成果のDX)

を三本柱とし、まずハードとソフトの充実を図ります。そのうえで、学習分析ツールを活用して個別最適化された学びを実現するとともに、学習分析のエビデンスに基づいて教学マネジメントを着実に実行していくことを目指します(図2)。この最後のステップが最も重要であり、ここに到ってようやく学修者本位の教育がDXにより推進されたことになります。

図2 Plus-DX事業による取組み概要とその目的

(2)LAを実現するための学修DX

 本学は大学教育再生加速プログラムの採択時に学修支援システムのポータルサイト「Scomb」を構築し、LMSの運用に注力してきました。しかし本事業を進めるためには、外部の様々な学習ツールをScombに統合し、学修支援システムの機能を拡張する必要があります。そこで、LTI(Learning Tools Interoperability)とよばれる技術標準を利用してMoodle、Zoom、BookRollなどの外部ツールとScombを連携し、シームレスな学修環境を実現しました。BookRollは京都大学において開発されたデジタル教材配信システムで、LAのツールとして新規に導入したものです。教員がPDFファイルや音声ファイルに変換した教材をBookRollに登録すれば、学生はBookRollで教材を閲覧しながら、教材上にマーカーを引いたりメモを残したりすることができます(図3)。

図3 BookRollの教材閲覧画面

 BookRollに記録された学生ごとの学修情報(マーカー箇所、メモ内容、閲覧時間など)を教員が確認する場合は、分析ツールのLAViewを利用します。図4はLAViewを用いた分析結果の一例ですが、BookRoll上に記録された全学生のマーカーが色の濃淡となって表示されています。これ以外にも、学修活動に関する多くの情報をリアルタイムで分析・可視化することができるので、その結果をただちに学生指導や授業運営に反映させることが可能となります。授業中にこのようなフィードバックを行うためには、教員がツールの扱いに習熟することも必要ですので、デジタルを活用した個別最適化学習の取組みとして、教職員間で事例を共有することが大切になってくるでしょう。

図4 LAViewを用いた学修活動の分析

 また、LAをさらに展開するためには、多様なデータを一元的に管理する必要があります。そのため本事業では、LMSなどから取得される学修ログに加え、各教室に設置した4K カメラや環境センサーから測定されるデータもラーニングレコードストア(LRS)に蓄積しています。ただし、生体反応と学修活動との関連を分析することは容易でなく、学術的な研究も踏まえて様々な側面から取組みを進めることが重要です。
 以上のようなシステムから取得される学修成果をデジタル証明書やデジタルバッジへ活用すれば、生涯にわたる学生支援の一環となり、DXにより学修成果の利活用が推進されることになります。

4.まとめ

 大学教育のDXを実現する第一段階は、デジタル技術とデータを活用し、教育モデルの変革に取り組むことです。本学はPlus-DX事業の支援を受け、LAを利用した教育モデルの変革に着手しました。この取組みが学修者本位の教育の実現という大きな成果につながることを目指し、本稿で紹介した学修DXをさらに展開していく予定です。


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