特集 学修者本位の教育の実現、学びの質の向上を目指した大学教育のDX構想(その2)

医療系大学における学生参加型AI開発による
学修者本位の教育の実現と普及

二瓶 裕之(北海道医療大学 薬学部教授・情報センター長)

1.はじめに

 2020年度に、北海道医療大学(以下、本学)はDX推進計画「医療系大学における学生参加型AI開発による学修者本位の教育の実現と普及」を策定し、文部科学省の「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」に選定されました。DX推進計画を策定した背景にあるのが、かねてより続けていた本学情報センターの取組みにあります。
 情報センターでは、ICT活用による柔軟な教育支援のため、15年以上にわたり、教育支援システムやLMSを独自に開発(内製化)してきました。1行1行をすべてプログラミングして、全体的なシステムサイズは十万行を超えるに至っています。この過程で得たのが学修ログであり、学修ログを活用することで、学生参加型AI開発による学修者本位の教育を実現することを発想しました。

2.取組みの概要

 DX推進計画の柱は、今までに内製化をしてきた教育支援システムに学修ログのAI解析機能を拡充することで、小・中規模の機動性の高いAIを多種多面的に開発することです。また、特徴は、医療系大学である本学において、AIを学生参加型で内製化し、医療人を目指す学生の視点に立った学修者本位の学修支援を図る点です。
 一方で、多種多面的なAIがあることからも、AIに振り回されることのないよう、全学的に、データサイエンス教育を実施し、AIを活用できるスキルの醸成を図ることとしました。加えて、多様なAIや学修ログを活用したシステムのなかからオープンソース化が可能なモジュールについては、本学DX推進計画サイトにおいて教育機関へ広く公開し、DX推進計画の成果を全国へ普及することとしました。

3.大学全体のDX推進計画

 DX推進計画においては、情報基盤(ハードウェア・ソフトウェア)の整備、AI(学修ログ活用システム)の内製化、データサイエンス教育の実施、事業成果の普及の各項目に対して、現状の課題を洗い出してから、5か年計画で、情報基盤の整備、AIの内製化とデータサイエンス教育、そして、事業成果の普及に順次力点を置きながら、医療教育におけるDX推進と普及を目指すこととしました。

4.取組みの内容

 まず、情報基盤整備(ハードウェア)については、2021年度に、全学無線LANを始めとした情報ネットワーク基盤を拡充し、2022年度には、講義室にもAIが可視化した詳細な情報を提示できるような高解像度デジタルプロジェクタなどのメディア機器の拡充を図っているところです。
 情報基盤整備(ソフトウェア)については、現在、教務データと学修ログの連携を目指して、オフコンと教育支援システム間のデータ連携システムを構築しているところです。これにより、2022年度には、各種教務データ(履修情報、学修ログ、試験結果など)を一括で管理できるようにして、全学的な教育ビッグデータを構築する予定です。
 AI(学修ログ活用システム)の内製化に関しては、本事業で内製化をした多種多面的なAIを大学生活に溶け込ませて全学的な教育の高度化を目指しています。例えば、図1のように、初年次には、学生は、全学生のノートを学修したAI1へ講義ノートを提出して文章指導を受けたり、授業で分からないことがあれば、過去の学生のQ&Aを学修したAI2で基礎学力を身に付けられるようにします。学年進行に合わせ、反転学修でも、学修ログを解析したAI3による刺激を受けたり、グループワークでも、過去のオンライン討議の発言テキストを学修したAI4により新しい知見の刺激を受けられるようにします。さらに、自宅などでも、学修ログを解析したAI5で習熟度にあった演習課題に取り込めるようにすることを目指します。高学年では、多様な教育ビッグデータを学修したAI-eポートフォリオAI6で今までの学修成果を確認して、自身が描く将来像に向けた学修意欲を高めるようにします。
 データサイエンス教育についても、「情報処理演習」や「情報科学」などで、数理データサイエンスAI教育プログラム(MDASH)認定制度(リテラシーレベル)に準拠した教育プログラムを2021年度から全学部で展開しました。なお、本教育プログラムは、2021年度に、MDASHリテラシーレベルに認定され、さらに、MDASHリテラシーレベルプラスとしても選定されました。
 また、医療系大学での学生参加型AI開発を目指して、学生がAI(学修ログ活用システム)開発に参加する授業科目「医療データサイエンス入門Ⅰ・Ⅱ」を2022年度から開講します。授業では、医療人を目指す学生に対してプログラミングを学ぶ動機付けを図るために、教育用ロボットを使ったSTEAM教育も導入します。

5.取組みの目標と目指す成果

 取組みの目標は、医療系大学における学生参加型AI開発であり、目指す成果は、学修者本位の教育の実現と普及です。
 医療系総合大学として学生の視点を取り入れて医療教育に特化したAIを開発することは、医療系教育においては今までにない学修者本位のAI開発モデルになると考えます。さらに、医療を志す学生がAI開発に関わりながらデータサイエンススキルを向上させることは、彼らが医療人として活躍するときに医療のDX推進に大きく寄与するものと考えます。
 今後は、学生参加型AI開発による教育高度化事業をモデル化し、成果をWebや広報誌などを通して積極的に他大学へ普及したいと考えています。
 本学情報センターは、かねてより、私立大学情報教育協会の各種大会や講習会などに参加してきました。これにより、情報通信業界など医療機関以外の産業界の動向を把握し、課題やニーズを捉えることができ、DX推進計画を策定する契機ともなりました。また、私立大学情報教育協会と連携した事業や活動も行っており、これらの取組みを通して、本事業の全国的な普及性を高めたいと考えています。

図1 学年進行やクラスサイズに合わせたAI(学修ログ活用システム)の利用

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