特集 学修者本位の教育の実現、学びの質の向上を目指した大学教育のDX構想(その2)

データ一元管理とAI解析を用いた
学修の最適化と無限学習を目指す大学改革事業

吉田謙一郎(獨協医科大学 学長)

小橋  元(獨協医科大学 副学長)

山岸 秀嗣(獨協医科大学 教学IRセンター准教授)

馬醫世志子(獨協医科大学 教学IRセンター准教授)

1.はじめに

 獨協医科大学は、1973年に栃木県壬生町に開学し、2023年に創立50周年を迎える、医学部、看護学部を有する大学です。「学問を通じての人間形成」を建学の精神とし、これまでに9,000人を超える人間性豊かで優れた医療人を養成し、輩出してきました。また、緑豊かな美しいキャンパスで、学生と教職員の距離が近く、個々の学生に対するきめ細やかな教育を行っています。
 近年のコロナ禍において、対面授業や医療現場での実習が大きく制限され、学生同士の直接のコミュニケーションも難しくなりました。そのため本学では、学長主導のもと、「Society5.0」(サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムによって開かれる新しい社会)に対応したスマート化、デジタルトランスフォーメーション(DX)の積極的推進に向けた取組みを大学と病院の両方で開始しました。
 大学での教育における取組みは、以下の3つの計画を5年間(令和2〜6年度)で進めていく予定です。

(1)ポストコロナ時代に耐えうる情報基盤の強化

 5Gを導入し、大容量のデータ通信が行われてもストレスなく使用できる環境の構築を行います。

(2)デジタル技術を活用した授業・実習の普及

 個々の教員が数多くのデジタル技術の中から、担当する授業・実習に活用できる技術を選択し、よりよい教育を提供できるよう、教員に対するデジタルサポート体制を整備し、教員同士が学び合うシステムを構築します。特に演習や臨床実習においては、XR技術、画像解析、ロボット等を複合的に用い、新たな実習・学修環境を提供します。

(3)データの一元管理とAI解析による学修支援

 学内に分散する全データを統合し、一元管理するシステムを構築し、そのデータはAIでの解析を行います。その解析結果を用いて、学生一人ひとりの現状を可視化し、学修をサポートするポータルサイトである“D-RPG: Dokkyo Real-Professional-Guild”を新しく開発します。
 最後に掲げた(3)は、「データ一元管理とAI解析を用いた学修の最適化と無限学習を目指す大学改革事業」は、文部科学省の令和2年度大学改革推進等補助金「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」(取組①:学修者本位の教育の実現)に採択されました。
 本稿ではこの取組みについて紹介します。

2.取組み概要

 従来、学生を取り巻く学修環境や過去データは、学内の各部署に分散して存在しており、必ずしも十分に学修支援に活用できていませんでした。また、従来の一斉教育では、個々の力を最大限に伸ばすことは難しく、限られた教材での画一的な教育になりがちでした。
 本取組みでは、データを一元管理し、AI解析を用いて学修の最適化を行い、個々の学生のニーズに応じて限りなく学ぶことができるシステムの構築を目指しています。

3.取組みの内容(図1)

図1 取組みの概要

 本事業における4つの取組みは以下の通りです。

(1)ポータルサイトである“D-RPG: Dokkyo Real-Professional-Guild”システムによる学修者本位の教育(図2)

図2 ポータルサイトである
“D-RPG: Dokkyo Real-Professional-Guild”システムの概要

 学務情報支援システム上にあるデータや各部局で管理しているデータ等、全てのデータを一元化します。また、新たな学修管理システム(Learning Management System:LMS)を導入し、現行のLMSより詳細な学修に関するデータを収集します。これらのデータを一元管理してAI解析を行い、D-RPG上で可視化するとともに、解析結果を利用して学修者本位の教育を目指します。具体的には、①単位修得状況、履修科目、出席率、科目成績、模試結果、課題提出状況、各種調査結果等をリアルタイムで閲覧することを可能にします。これにより、学生は現状把握・学修計画立案が容易となり、自ら学ぶ姿勢を養うことを目指します。また、教員は学生の現状把握が容易になり、支援が必要な学生への声がけ、課題の量や提出期限、授業の進行速度の検討等を即時に行うことが可能となります。②掲示板機能などのSocial Networking Serviceの導入を行います。これにより、模擬患者や被験者の募集、授業や学生生活でわからないことを聞くことを可能にします。学部や学年を超えた交流ができ、学生同士で学び合える環境を構築します。③チャットボットを導入します。これにより、蓄積されるデータを基に構築されたチャットボットを用いて、よくある質問については、24時間365日、いつでも即座に問題を解決することを可能にします。節約できた教職員の時間はより深く、きめ細やかな支援を必要とする学修者に充てることができ、学びの質の向上を図ります。④ロールプレイングゲームのように楽しみながら学べる環境を構築します。学修者の身につけるべき能力をレベル化して表示します。すなわち、学生は自己学修の結果、「経験値が上がる」という具体的な報酬が得られることになります。それにより、学修者は成長を実感しながら、楽しく意欲的に学べることになります。

(2)AIの自動テロップ/翻訳による学びの機会拡大

 講義動画の音声をAIに認識させ、テキスト化し、テロップ(字幕)として登録することにより、その講義動画の情報を可視化します。この情報を基に、AIを用いて、学生が学修したい教材の簡単検索や“おススメ”動画の自動表示を行います。また、AI自動翻訳機能を用いて海外の講義動画を日本語変換します。学生に全世界で実施されている講義を受講する機会を与えることで、学修領域の拡大、教育内容の高度化を図ります。

(3)声/表情のAI解析による教育評価・改善

 主にグループワークや演習の際に、カメラとマイクを設置して学生の画像と音声を収集し、AIによる解析を行います。これにより、個々の学生の授業参加度や理解度を把握し、参加度や理解度の低い者に対して教員が積極的にアプローチ出来るようにします。また、学生の医療面接の実習風景を撮影したものをAI解析し、結果をフィードバックすることで、学生は自らのコミュニケーション力を客観的に省みることができます。

(4)過去データのAI解析による学修者支援(図3)

図3 過去データのAI解析による学修者支援の概要

 学生に関するデータの一元化とともに、データベースを構築し、蓄積される学生の基本情報、属性、生活状況、習慣、行動特性、経験、学習履歴、成績、各種評価、アセスメントテスト等のデータをAI解析することにより、成績不振者、心身の不調を抱える学生、留年・休学・退学となる可能性の高い学生の早期発見・早期介入を目指します。成績だけではなく、生活面や社会的・精神的側面を含めた学生を取り巻く環境に目を向け、個々の学生に合わせたきめ細やかな支援ができる環境を構築します。

4.取組みの目標と目指す成果

 本事業により、①学生が主体的に学ぶことができ、②学生同士や教員との間でのリアルタイムの情報共有が可能となります。また、データの一元管理は、③学生の個別化・最適化教育を可能にするだけでなく、④事務作業時間の節約による学生支援の充実、⑤教学IRデータ解析の推進による教育のPDCAサイクル回転、⑥災害等により対面不可能な状況における教育の継続も可能となります。

5.おわりに

 「Society5.0」に向けた新しい本学の教育DX事業について紹介しました。獨協医科大学の教育において何より大切なことは、建学の精神である「学問を通じての人間形成」です。私達は、新しいDX事業の推進とともに、「人間教育」(こころの教育、プロフェッショナリズム教育)をさらに深化させることを目指してまいります。

謝辞

 この度は、文部科学省の改革推進等補助金「デジタル活用高度化事業」に採択いただき、私達の夢を実現する機会を与えて頂きまして感謝申し上げます。また、本事業の遂行にあたりご協力、ご支援いただいておりますすべての学生、教職員、関係者の皆様にこの場を借りて、深く御礼申し上げます。

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