特集 反転授業によるアクティブラーニングの有効性と普及への課題

リアルタイムオンライン反転授業の効果と課題

森澤 正之(山梨大学教育国際化推進機構 大学教育センター副センター長)

1.はじめに

 反転授業は、講義動画などによるオンデマンド型オンライン授業(事前学習)と、アクティブラーニングなどの学習活動を行う面接授業をブレンドした授業形態です。本学では、2019年度までの9年間、反転授業の実践と評価を積み重ね、オンラインと対面の組合わせが高い教育効果をもたらすことを明らかにしてきました。
 2020年度以降はCOVID-19の影響で対面での学習活動が制限され、従来の反転授業の実施が困難になりました。その反面、オンライン授業の必要性が高まることで様々なオンラインツールを活用できる環境になってきました。
 そこで筆者等はそれらのツールを用いることで、面接授業をリアルタイム型オンライン授業に置き換えた反転授業(以降オンライン反転授業と称します)を試行しましたので、その方法及びその効果と課題について紹介します。

2.オンライン反転授業の設計

 本稿では、オンライン反転授業を「授業前に配信された講義動画を自学習し、授業時間にはZoomなどのWeb会議システムやその他のオンラインツールを用いて課題やグループワークなどアクティブラーニング型の学習活動を行う授業」と定義し、従来の面接授業を伴う反転授業を対面型反転授業と称します。
 表1に両タイプの反転授業の実施方法を示します。授業前に行う事前学習は、表1に示すように両者ともほぼ同じですが、授業時間に行う学習活動には違いがあります。対面型反転授業ではホワイトボードを用いた4人グループのグループ学習活動を主とします。それに対してオンライン反転授業では、個人ベースの学習活動を主として、それをGoogle jamboardやGoogleフォームなどを用いて全体で共有するようにしました。ただし、補足する形でブレークアウトルームを使ったグループ学習活動を行いました。オンライン反転授業でも最初はブレークアウトルームを用いたグループ学習を多用していましたが、後ほど示すように効果が上がらなかったので、個人ベースの学習活動を主とするように転換しました。

表1 反転授業の実施方法

 本オンライン反転授業は、工学部機電系学科の電気系科目(電気回路、電子回路)と情報系科目(Cプログラミング、コンピュータアーキテクチャ)の4科目で実施しました。授業は1回90分で、15回の授業のうち14回をオンライン反転授業で行いました。

3.対面型反転授業とオンライン反転授業の比較

 学期末に5件法(質問項目数37)と自由記述のアンケートで評価を行いました。表2に、5件法アンケートで両タイプの反転授業での差が顕著なものを示します。

表2 対面型反転授業との比較評価

 オンライン型は対面型に比べて「事前学習が理解に役立つか」の肯定的評価が10%以上向上していますが、「クラスメイトとの議論が理解を深めたか」は否定的評価が40%以上も増加しており、その肯定的評価も同様に大きく減少しています。また、オンライン型は「知識が着実に身についてきたと実感した」の肯定的評価が対面型よりも高いのですが、「授業内容は難しかった」の肯定的評価すなわち難しく感じている受講生が大きく増加しています。これはオンラインではクラスメイトとのインタラクションが対面に比べては少なくなってしまい、一人で課題に取り組むので「やっている感」は高まるものの理解は深まっていないと考えられます。この点は自由記述からもうかがえ、「対面授業だと紙やホワイトボードに書いた図などを見せながら意見交換ができるので理解しやすかったが、ブレイクアウトセッションでは図を使うのが難しく理解がしづらかった」や「対面式では同じグループの人と気軽に意見交換ができるので疑問をすぐに解決したり、理解を深めることができたが、オンラインではそれが難しい」といった意見が多数を占めています。このようにオンラインでのグループワークでは、学生間インタラクションを高めることの難しさが感じられます。
 その反面、オンライン型ではGoogle jamboardなどを用いることで、個人ベースの演習課題の回答を途中経過も含めて容易にクラス全体で共有できます。それに対しては、「いろいろな人の意見を知ることができた」、「クラスの中での自分の立ち位置がわかった」など、効果を実感する肯定的な言及が多数あり、オンラインならではの効果が見られました。

4.まとめ

 反転授業が大きな学習効果を生じる一つの要因は、オンデマンド教材による事前学習で共通の知識を習得したうえで、面接授業時にグループワークや討論、気軽な意見交換など学生間インタラクションが大きな学習活動を行うところにあります。オンライン反転授業では、この学生間インタラクションを高めることが対面型反転授業より難しいために、学習効果が減少してしまう傾向が見られました。しかし、Web会議システムにオンラインツールを組み合わせるなど、新たな教育活動手法を導入することによって、対面型反転授業と同様、高い教育効果が得られる可能性が大きいと考えます。


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