事業活動報告 No.1

2022年度 私情協 教育イノベーション大会 開催報告

 本大会は、「学びの自由度・質を高めるDXへの取組みと人材の育成」をテーマに、ニューノーマルにおける大学の教育改革の方向性を共有するなかで、学修者本位の教育の実現と学びの質向上に向けたDXの取組み、世界を意識した人材の育成、グローバル人材の育成への取組み、学修行動データによる学修分析、学生のメンタルヘルスへの対応、データ活用力育成に向けた教育実践の紹介、著作権法改正に伴う権利処理の対応、スタートアップ教育によるイノベーション人材の育成、データサイエンス・AI人材育成の授業事例の紹介を行うとともに、ICT利活用による授業改善の研究や学修成果可視化などの実践又は研究事例の発表などを通じて理解の促進を図ることにした。
 1日目の「全体会」では、向殿政男会長(明治大学)から、「学びの自由度・質を高めるDXへの取組みと人材の育成について認識を共有する中で、効果的に実現していくにはどうすればよいのか、教育内容と方法、教育の質保証、社会と接続したスタートアップ教育などを多面的に探求し、改革行動につなげられる場となることを期待している」との挨拶の後、9月6日から8日に亘るプログラムがオンラインで実施された。

第1日目(9月6日)

全体会

【ニューノーマルにおける高等教育の姿と国の支援】
高等教育におけるデジタル人材養成の推進

文部科学省高等教育局専門教育課課長補佐 木谷 慎一 氏

 コロナ禍を経てデジタル技術を活用した教育は、もはや新型コロナウイルスへの対応といった一側面を超え、多様な学習ニーズに対応するためのものになりつつある。先進的な技術の活用によって、いつでも、どこでも、だれでも、学修できる機会をもたらし、対面授業にも負けない深い学びや学修者本位の大学教育が提供できると考えている。そのためには、オンライン教育の活用にあたって、大学機関と産業界との連携・協働を一層深めて教育のオープンイノベーションを実現することが重要である。そこで、現在、文部科学省で行っている取組みの一端を紹介する。
 一つは、対面授業が困難な状況においても、学生の学習機会が確保できるよう、遠隔授業で取得できる単位の上限への算入が不要となる場合のルールを明確化し、60単位の上限への算入を不要とするような特例措置を講じた。
 二つは、各大学等が着実に遠隔授業を実施できるよう、遠隔授業にかかるシステムやサーバーの整備、授業で使用するカメラ・音声機器等、学生へ貸し出しするモバイルルーターなどと、遠隔授業を行うための技術面、教育面を支援する支援体制の整備、例えば機器/ソフトウエアのトラブル対応等の専門人材の配置にかかる必要経費など含めて、補正予算として約100億円を予算措置した。
 三つは、デジタル技術を活用して、特色ある優れた教育の取組みやアイデアを大学教育の現場とEdTech等のスタートアップ企業が共同で実践し、試行錯誤、普及を促していく取組みとして「スキームD」を展開している。サイバー・フィジカルを上手に組み合わせて、教育のデジタライゼーションを起こし、高等教育改革を推進することを目的としている。具体的には、「Pitchイベント」を開催し、教職員やデジタル技術者が、授業価値を最大化するアイデアを提案し、これまで大学と企業のマッチングを行い、成功事例を積み上げて、その成果を発信していくことが重要と考えている。

 四つは、教育の高度化・DX教育への取組みに関する2事業の内、「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」として、教育環境にデジタルを大胆に取り入れることで、大学等のDXを迅速に強力に推進し、その成果の普及を図ることを目的にしている。「学修者本位の教育の実現」、「学びの質の向上」に資するための環境整備として、令和2年度第3次補正予算60億円を確保して実施した。例えば、LMSを導入して、全カリキュラムにおいて学生の習熟度を把握し、蓄積された学生の学修ログをAIで解析し、学生個人の最適化された教育を実現する取組みや、VRを用いた実験・実習を導入するなど、これまで困難と思われていた内容を遠隔授業で実施する計画モデルを採択している。
 その取組みの一例として、金沢工業大学では、学生一人ひとりの入学から卒業までのデータを統合し、学生がどのように学びを深めたのか、どのようにつまずいたのかを明確化する中で、データをAIで分析し、人に加えてAIがアドバイスする計画としている。また、東海国立大学機構では、VR技術等を駆使した新しいスタイルでの講義コンテンツの開発と授業への適用を試みた取組として、オンラインやオンデマンド教育やアビリティ支援を目的として、ハイフレックス教室の整備や、障がいを抱える学生への遠隔授業講義支援環境の整備を実施している。
 五つは、「デジタルと専門分野の掛け合わせによる産業DXをけん引する高度専門人材育成事業」として、スマート化が進む農業、工業などの人材育成にDXの教育設備の支援、新たな教育手法の開発の人件費や事業推進費を支援するために、第3次補正で46億円を計上し、39件採択している。その取組みの一例として、豊橋技術科学大学において先端アグリテックエンジニアを養成する取組みや、石川工業高等専門学校において持続可能なインフラを支えるDXエンジニアを育成する取り組みが行われている。
 最後に、高等教育段階における数理・データサイエンス・AI教育では、現在、「AI戦略2019」の育成目標に基づいて、認定プログラムの普及促進を進めている。

 特に、すべての大学でリテラシーレベルのプログラムを創設して欲しいと考えている。デジタル人材の養成は、「デジタル田園都市国家構想」基本方針の中でも掲げられており、2026年までに230万人を養成することになっている。この中には、今年度より認定の始まった応用基礎レベルを修得した25万人が含まれている。
 リテラシーレベルや応用基礎レベルのプログラム認定は、毎年3月に説明会を開催し、8月に決定することにしている。多くの大学に申請をしてもらうことで、よいプログラムが認定され、そのプログラムが模倣されることによって、よい教育プログラムが普及・展開されることを期待している。令和4年度は、リテラシーレベルで139件が認定され、昨年度78件と合わせて217件が認定されている。また、応用基礎レベルでは、68件が認定された。
 認定されたプログラムの内、他大学の模範となるようなものとして、リテラシーレベルでは大正大学、応用基礎レベルでは早稲田大学、久留米工業大学のプログラムがある。こうした大学の事例を参考にして、数多くの大学が応募してくれることを期待している。
 令和3年度の私立大学等経常費補助金特別補助の中で、数理・データ・サイエンス・AI教育の充実にア、イ、ウの取組みを実施の大学等に支援している。「ア」の、自大学で全学的に数理・データサイエンス・AI教育のプログラムを実施し、履修率の向上や自己点検などを実施している取組みは、105大学等となっている。「イ」の、他大学に対して教育コンテンツを提供する大学等の取組みは、21大学等となっている。「ウ」の、数理・データサイエンス・AI教育の導入の検討を行っている取組みは、125大学等となっている。なお、この中で認定を受けていない大学等は、早く認定を受けていただきたい。今年の9月15日に認定申請に関する説明会を開催するので、是非参加いただきたい。困りごと等あれば、コンソーシアム、あるいは文部科学省に質問いただきたい。

【質疑応答】

【質問】
データサイエンスに関する教育が今後広まっていくことが予想されるが,どのような人材が増えることを期待しているのか。
【回答】
企業が求める人材がどのレベルであるかが明確化されていないので具体的なことは説明が難しいが、すべての学生が読み書きそろばん程度の数理・データサイエンス・AI教育を受けることで、人材の底上げがなされることを期待している。
【世界を意識した人材の育成を考える】
大学教育を変えていくには:リベラルアーツと学びの壁を取り払う覚悟

東京財団政策研究所長、日本学術振興会顧問、内閣府統合イノベーション戦略推進会議「AI戦略」有識者会議座長、本協会副会長 安西 祐一郎 氏

 明治以降、近代教育の歴史を辿れば分かる通り、社会の構造が変わると教育の構造も変わる。DXは社会構造の転換なので、それに合わせて教育の構造も変化することになる。
 大学教育の何が変わるかというと、第一点は、何でも周りがお膳立てしてくれた経済成長の時代とは異なり、新しい社会構造では自分が自分の人生を作って行く、自分で努力しなければいけない時代になった。これは、若者にとって機会が広まったとも考えられ、オープン化が推進する。大学教育で学年のオープン化が進むと、学年に関係なく、デジタルを活用した学びの取り方や、社会人の学び直しが進む。18歳から27歳ぐらいまでの同じような人達だけがいる場ではなく、いろいろなバックグラウンドを持った、いろいろな思いや目的を持って学んでいく人達の集りの場になってきている。
 第二点は、イノベーターの育成が必要になる。ここでいうイノベーターとは、社会をよく変えていく革新者という意味で、自分から思い立って、自分の努力で社会をよくしていく人達のことを言う。大学教育において、イノベーターを育成するためのカリキュラムをどうやって具体的に組み込むかが課題となっている。
 第三点は、知識革命が起き、知識のあり方が変わってきた。知識を断片的に記憶するだけでは、全然役に立たない。イノベーターになるには、知識をつなぎ合わせることが必要になる。自分で知識を反芻し、自分の持っている知識が社会とどのように繋がるのかを考える。大学教育では、それらを使って実際に実践していく場を提供できていないといけない。その中でリベラルアーツの養成が重要になる。リベラルアーツは、判断力の養成の基盤であり、知識の構造や繋がりが昔からの思想・歴史・古典を含めて把握されていることで、自分がとっさの判断をするときに必要になってくる。
 このような「オープン化の推進」、「イノベーターの育成」、「リベラルアーツの養成」をしていくには、大学はどう変わるべきか。
 まず、オープン化を推進するためには、「壁」を壊す必要がある。例えば、社会人の学び直しに対しては、安い学費、フレキシブルな授業時間、単位の取り方、本格的な内容を持った授業の提供など、大学での真剣な対応が求められる。学年の壁を超えるには卒業の壁を超えるという、非常に難しい問題があるが、壁を壊すというのはそういうことである。
 次に、イノベーターを育成していくには、専門課程の中でカリキュラム作りが必要である。専門課程の知識とイノベーターの育成を接続することが課題である。専門課程の教員はイノベーターを目標に授業しているわけではないので、専門課程、一般教育課程の教員が作り上げていくことが大事である。
 それから、リベラルアーツを養成していくには、判断力を鍛える実践的な訓練を授業の中で定着させることと、社会的関係力の基盤、いわゆる尊敬できる人達との関係、人脈を教職員で作っていくことが大事である。
 こうした内容については、「教育の未来−変革の正規を生き抜くために」(中公新書ラクレ)に詳しく示したので、参考にしてほしい。日本を取り巻く問題には、人口の減少やデジタル化だけではなく、国際政治経済の変化や自然災害もある。これに対応していくためには、イノベーターの育成が重要で、私立大学がデジタルのバックアップのもとでこれに取組んでいくことが重要だと思う。
 また、この中で「学びの基本項目12」を挙げている。その最初に「知識を鍛える」がある。アクティブ・ラーニングを通して学びの原動力を高等学校で養った後、大学ではその知識を鍛えなければならない。例えば、「民主主義」といった知識では分かっていても、知っているようで知らない言葉であり、より深く知るための学習が必要である。そのために、教員の役割もあるが、データベースの連携技術も進めていく必要がある。また、知識を鍛えるために必要な訓練をするには、似たような問題を作成するようなAI技術も必要である。

 このような取組みは、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIPプログラム)の「ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間」で進められている。また、文科省は、大学に対してデータサイエンスとAIの人材育成でさまざまなサポートを行っている。今後、コミュニケーションのデータをAIで解析して、どのように学生にフィードバックするかといった未開拓の領域もあるが、デジタル技術が社会のトランスフォーメーションのために開発され、企業・大学の教職員などすべての人が協働して日本の新しい教育の場を作って行くことに貢献してほしいと思う。

【質疑応答】

【質問】
アメリカのメジャーリーグで活躍している大谷翔平選手が、子どもの間に9マスのマンダラチャートを使って自分の目標を作っていたという話があります。このようなチャートは個人を伸ばすツールとして有効だと考えられるか。
【回答】
チャートや図表、グラフは奥の深いものから浅いものがあるが、大事なものだと思う。問題解決のAI研究において、図の理解の仕方をどう支援するかは面白く役に立つテーマである。図はそもそも情報が足りていないもので、図の理解には推論が必要になる。そこで、推論の仕方を学ぶことが大事である。また、推論を誘導できるような図をどのようにしたらデザインできるかという点も面白い課題になる。
【社会のDX活用:保険料を変動させるDXの取組みと組織改革】
「Vitality」による生命保険DXの取組みと大学教育への期待

住友生命保険相互会社情報システム部 AIオフィサー 藤澤 陽介 氏

 Vitalityプログラムのコンセプトは、健康状態を把握し、健康状態を改善することにより、それがポイント化され、年間2万4,000ポイント以上あればゴールドステイタス、2万ポイント以上あればシルバーステイタスというようにステイタスに応じて、ジム・スポーツ用品、ホテルの割引などのリワード(特典)が受けられ、保険料が変動する。
 健康状態の把握には、健康診断結果を保険会社に提出する。正常であればポイントを付与、がん検診の受診を促すという目的でポイントを付与する。健康状態の改善には、主に運動、日々の歩数・心拍数等データも保険会社に連携され、それに応じてポイントが決まり、リワードが使える仕組みである。

 リワードパートナーは、提携企業の他にも年々増加しており、ステイタスに応じて最大4割の割引が受けられる。Vitalityのプログラムは有料であるが、このサービスで収益を上げようというのではなく、その結果として顧客が健康になり、リスクが減り保険金の支払いも減るというようなところを見込んでいる。
 保険料の変動の仕組みも最大約3割、保険料が安くなる。社内分析では、Vitalityに入っている人と入っていない人で死亡率が40%、入院率が10%違う等の結果を得ている。このVitalityの価値・効果の研究を某大学と協議をしながら進めているが、まだデータがリッチに蓄積されていないところがかなりあるので、因果関係、因果推論はできていない。
 一般的に保険会社内というのは、従来型保険に典型的なライフサイクルでのデータ、中抜きで、繋がっていないようなデータが会社の中に大量に安置されており、保険に加入してから病気などになるまでの情報が見られないという悩みがある。ところがVitalityのプログラムでは、毎年、健康診断書を提出する、日々の歩数のデータを入手できるということで、生活習慣病に罹患、亡くなるまでの継続したライフサイクルデータが社内に蓄積されている。
 コホート研究(調査時点で、仮説として考えられる要因を持つ集団の曝露群と持たない集団の非曝露群を追跡し、両群の疾病の罹患率または死亡率を比較する方法:日本疫学会)による比較で、Vitalityの集団は地域バイアスが少なく、年齢層も幅広く70代、80代も徐々に増えつつある。100万人規模のコホートが今後どんどん積みあがっていく。アウトカムも、死亡だけではなくて保険保証の単位でデータが集まり、入院理由、手術の種類、介護、知症、などをカバーする保証を提供し、長いスパンでのデータ収集が可能となっている。
 今年5月頃、海外の大学との共同研究で発表された論文にVitalityのデータを使って、運動するとコロナの重症化が防げるのかという研究が公表された。運動すると重症化が防げるエビデンスがあり、マーケティングされ、因果関係を分析したというところに価値がある。日本でもこういったことを今後推進していきたい。
 大学教育との関わりの一環として、慶應義塾大学FinTEKセンターにデータサイエンスの講座を提供している。コンセプトとしては、文系人もPythonを使ってデータ分析ができる人材を育成するというもので、約3,000名が応募し、複数回講義、課題提出、採点を実施した。単に機械学習の知識を教わるだけではなくて、実際どういう使われ方をしているのかを知ってもらうという主旨で、実際のデータに似たようなダミーのデータを作成し、受講学生はこれを利用してPythonによる予測モデルを作成するなどのデータサイエンス講義を実施している。今後一層、留学経験を踏まえて、日本でも産学連携でいろいろ取組みたい。

【質疑応答】

【司会者所感】
2000年、2008年、2020年と藤沢氏の歩みが、ICT教育のターニングポイントにリンクしていてトレンディだと思う。
【質問】
大学への期待として実践データをもとにしたデータサイエンス教育について、企業との連携支援の可能性についてどう考えるか。
【回答】
実際の生データ提供は、個人情報の同意の取り方など難しいが、似たようなデータ提供は可能で、大学等教育施設で活用できるような活動を今後もやってきたい。共同研究であれば、データ提供は可能で、社内で推進していきたい。
【グローバル人材の育成:学生主体の柔軟な学びの環境を考える】
学びの自由度、国際通用性が求められる場としての遠隔海外連携授業

上智大学学長 曄道 佳明 氏

 遠隔授業の大学での位置づけとしては、コロナ禍で余儀なく実施せざるを得なかった状況から、オンライン教育を選択するフェーズへ変化してきている。遠隔と対面の授業を比較することから、視野を広げ、人の成長に資する教育環境を如何に構築するかに議論の主題は変わってきており、遠隔授業は、対面授業の補完的な措置ではなく、活用のフェーズに入ってくる。あるいは選択することで、何かを生み出すという教育的な作業を行わなければならない。
 教育の立場からは、授業効果ということについてまだ必要な分析もあるが、授業効果に一定の効果があると判断をされている教員の方が多くいる。また、学生の声として、理解度や、質疑への参加促進、参加がしやすいといった学生の立場の利点も生み出されている。このことから、対面授業の補完的役割からは、もはや脱却しているのではないか。当然そこでは教育の質保証に関して、PDCAサイクルによる検証も必要と考える。
 一方、学ぶ立場からは、遠隔授業環境に対して、受講場所の自由度というものが生まれている。また、時間的な制約からの解放にも歓迎の声が聞かれる。授業の満足度に関しても、アンケートで満足をしているという、過半数の結果が得られている。このようなことから考えると、遠隔授業を今後活用していくということに対して、圧倒的な障壁というものは、かなり取り除かれてきていると思う。
 平成24年の中教審では、「予測困難な時代にあって生涯学び続け、主体的に考える力を持った人材は、受動的な学修経験では育成できない。」とし、思考力、表現力を引き出す教育の重要性が提言されている。これに加え、学生自身が体系的に学修をデザインして、分野、あるいはその範囲、自分の到達度を見極めながら学修をすることができるように、学生自身で学びをデザインできることが重要と考える。
 枠組みを作って、この順番に学べばよい、これを学んだら次はこれ、といったような枠の中だけの教育が高等教育で実施されているが、社会に出て、その枠がすべて取り払われたとき、創造的な活動を求めても無理ではないか。そういった意味で学生の時から、学びをデザインする、その学修形態、対応というものを、われわれは意識する必要があるのではないかと考える。遠隔授業の環境は学びをデザインする力を発揮するための追い風になるであろう。
 具体的な遠隔授業の効用として、(1)学生の学びの自由度が向上する。
 場所と時間の自由度、人生の中での学生生活をデザインする自由度があがる。また、学びの体系として、学科等で学ぶ専門的な軸の体系とともに、横断的・複合的な施策が行われているが、どのように横断性・複合性を持たせるかをデザインするのは、本来は学生にあるべきと思う。また、挑戦的な経験機会への参加が可能となる。経験的な学びの効果は個性的な学びを実現すことができる。特に、個性としての教養に重きを置くべきではないかと考える。そのプロセスにおいて、どのような教養をレイアウトするかによって、個性に繋がるものであろうと考える。さらに、個性的な学びの実現として、海外留学中に、遠隔授業で自大学の科目を履修し、現地フィールドで、関連科目を履修し、ボランティアやインターンシップに参加しながら、多様なキャリア形成を可能にするなどが考えられる。人としての成長に、自然に多彩な道筋を描かれることができるようになるであろう。一方課題として、学修の質の担保に対する教育的な支援、学生の学びのデザイン力の獲得、ここが重要となる。
 (2) 国内外の他機関との連携が物理的に容易となったことである。海外高等教育機関との交流、協同機会の創出が容易となった、ジョイントディグリー、ダブルディグリープログラムの構築に効果的である。
 (3) 教育する側の自由度も向上している。教育活動の基本スタイルであるOn Campusがこれから部分的ではあるが解放される可能性も遠隔授業は秘めている。例えば、海外現地の研究題材を用いて遠隔授業を配信する。国際会議に参加をしながら、時差を利用して現地から授業を配信することもできる。
 一方で、とりわけその海外と連携した遠隔授業のようなものを考えると、我々の教育の国際通用性というものが問われてくる。しかもリアルタイムに問われる時代になってきていることも、認識しておかないといけないかと思う。例えば、日本の学生が海外大学の授業に触れる機会が増えてくると、海外の学生が日本の大学の授業を受けることが容易になり、日本の大学の授業に触れる学生の量が拡大し、比較評価が生まれることを覚悟する必要がある。
 授業交流のような機会を持てば、授業の内容、授業のレベル、ディスカッションのレベル、言語能力のレベルといったものが問われることになるので、日本の高等教育が世界の評価をリアルタイムに受け、その国際通用性が問われる時代になってきた。

 留学が経済的、あるいは時間的な理由でできない、断念をしていた学生たちにとって、オンライン留学という新しい道筋ができ、また、留学をする前段階の学びの機会としてオンライン留学というものを位置づけることもできる。場所、時間というところでの学び方の柔軟性が生まれ、キャリ形成の多様化につながってくる。
 COIL型授業とは、海外連携型協働学習(Collaborative Online International Learning)で、米国のニューヨーク州立大学が提案をしたものである。2006年からニューヨーク州立大学では、こういった推進組織が設立され、学問領域の異なるクラス間でもテーマ設定によっては交流が可能で、学生は議論のグループワークを通じて、多様性のある環境で学びを深めることができる。上智大学では、海外の教員との共同によってコラボレーションのプログラムをつくっている。準備をする教員は相当な負担であるが、講義を実際に行い、学生の議論をモデレートするといったような役割を果たす。ここで、学生は協働することによって議論し、作業をし、課題解決策の提案を行うといったような授業が進められる。
 一方でCOIL型授業は、可能性を多く秘めていると同時に、国際通用性という意味での課題もある。授業のぶつかり合いに外ならないので、担当の教員は、授業内容の交渉、教授法のすり合わせ、学生のポテンシャルに、自分自身の授業をさらすことになる。物理的にオンライン環境でCOIL型授業を作ることはできるが、開発に相応のエネルギーを要する。但し、学生の新しいグローバル教育効果の創出につながり、自大学の教育の質を、海外大学との比較の中で検証する機会になりうる。こういった意味で、授業の国際通用性も大学教育の中で、新しい評価指標になっていくであろうと思われる。

【質疑応答】

【質問】
学生の学びのデザイン力の醸成に繋がるような取組みがあれば、紹介いただきたい。
【回答】
非常に私は本質的なところだと思う。大学で学ぶということに対して、どの程度準備ができていますかということ。大学に入ってからでは難しく、高学年になってから、履修しておけばよかったなどと後悔することも多い。高校から大学に学びを進めるということが、どういう意味なのか、ということを入学者が十分に理解をしている必要がある。それは入学してから半年かけてやったのでは間に合わないので、高大接続・連携をもっと強く打ち出されるべきであろうと考えている。
【教育DXに向けた学びのプラットフォーム作りの取組み】
LMSで繋がる学修環境の再構築・キャリア支援とスマートキャンパス構想

関西大学副学長 藤田 高夫 氏

 関西大学は、2年前に『関大LMSで繋がる「今の学び」と「未来の自分」―学習環境の再構築とキャリア支援―』によって文部科学の補助事業「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」いわゆる「Plus-DX」の二つの取組み「学修者本位の教育の実現」と「学びの質の向上」で採択された。
 2018年度からBYOD(Bring Your Own Device)を推奨してきた。学生が自分のデバイスを持っていつでもどこでも関大LMSにアクセスできる環境を提供し、学生の主体的能動的な学修時間を実質的に増加させることを目的とした。創立130周年を記念した「Kandai Vision 150」ではBYODは大学教育の質的転換を加速させる改革として位置づけられている。
 これは全学的な合意を少しずつ取りながら進めてきた。PCやタブレットでキーボード入力を前提とし、必須となる無線LANはコロナ禍によって前倒しで全教室に設置をし、サポートセンターや利用講習会等の開催、PCの一定期間の貸与、情報処理教室を一定程度残し順次縮小するなどを行ってきた。現在入学時点でノートPCは89%、タブレットを含めると97%の学生がデバイスを所有していた。経済学部、外国語学部は100%となっている。情報処理教室のPCの更新にかかる多額の費用をソフトウェアの拡充などに充て、情報処理教室をアクティブ・ラーニングに対応した部屋に改変した。これらの活動は2018年度から動いていてコロナ禍での想定ではなく対面授業を前提としていた。現在遠隔授業から対面授業の復帰というか回帰が進んでいるが、この構想自体は現状でも意義を持ち続けるであろうと考えている。
 学びの可視化とポートフォリオの構築を結ぶのがLMSということになる。さらに、学びの可視化の具体的な取組みとしてDX化によるシームレスな学修環境の構築を目指したプロジェクトが始動している。クラウド型動画プラットフォーム「Panopto」を2021年12月に全学導入し、関大LMSと連関させて機能強化を図った。これによりオンデマンド授業をDropboxにアップロードするということがなくなり、さらに全学で110台新に導入した教室カメラで自動的に動画がアップロードされるなどPanoptoによりLMSの弱点を解消した。動画にメモを残すこと、メモをクリックするとその動画部分が再生される。字幕は視覚障がいの学生、留学生には好評である。教員側からは、学生個人の視聴時間、何倍速で見たのか、動画内の視聴回数がグラフ化できるためわかりづらい部分が把握できる。オンデマンド授業だけでなく対面授業での反転授業への活用、配慮学生への動画撮影なども容易になり、学生の学びやすい環境がある程度実現できた。

 学生の視聴履歴をとるには、デバイスの設定が必要である。大きな課題はこの視聴ログを検証するのは担当している教員一人ひとりが行わなければならないことである。既に3,000時間の動画がアップされ、学生の利用時間は総計で134,000時間になっているが、予想よりまだ少ない。視聴ログから教育効果を測定(ラーニングアナリティクス)によって学修成果の可視化につなげられればと考えている。
 もう一つ、LMSと繋がっているのはキャリア支援との連携である「関大版ハタチのとびら」である。学生の活動記録を一元化して既存の就職支援システムに繋ぎ、データを参考にしながらキャリアサポートができるようにするもので、「自分は1、2年次の時に何を考えてきたのか」を振り返りながら3、4年次の就職活動に繋げられるようにしている。オンライン面接のために個人ブースも全キャンパスに設置した。学修履歴、興味が増えていくとAIを使って最適な動画を配信することが可能となるが、まだこのコンテンツは8本しかない。ハタチのとびらの履修者もまだ少ないが、数年後に履修した学生とそうでない学生の就職活動の実態、結果が出てくると有効なアピールができると考えている。
 大きな取組として国際教育を前提としたDXの試みがある。COIL授業とは国際共修環境、すなわちボーダレス、インタラクティブ、インクルーシブを実現する環境を創出することである。
 全キャンパスにグローバルスマートクラスルームをオンラインで他の教室に繋ぐシステムを導入し、対面授業をつなぐことにした。また、発話を伴うオンラインで授業に対応するSelf-Learning Spaceを各キャンパスに設けている。国際教育の点では日本の高等教育の国際的通用性については、オンライン授業が一般化していくと、日本の授業が世界にさらされて質的な問題を意識せざるを得なくなってくる。
 コロナが収束してもオンライン授業がなくなることはない。もう元に戻らないであろうと考えている。

【質疑応答】

【質問】
国際的通用性を確保するときに必要なスマートキャンパスの条件とは何か。
【回答】
実際の授業時間や学生がどのくらいコミットしているかの評価とかが日本では甘いと思う。外国人の乏しいボキャブラリーの中で一生懸命表現しているマインドは日本の教育ではなかなか育成できない。
【質問】
BYODにおいてスペックの統一や同じデバイスを持たせたりしているのか。
【回答】
推奨スペックは示しているが、実際はそれよりももっと良い。自宅でWiFiにつながらなかったら大学で行うことを推奨している。
【起業教育に対する国の支援と今後の取組み】
アントレプレナーシップ教育と大学発スタートアップ創出に向けた支援について

文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域振興課産業連携推進室長 篠原 量紗 氏

1.今なぜアントレプレナーシップなのか

 生産年齢人口の急激な減少、産業構造が一変し、人々に求められる素養も変化している中で、学び直し、アントレプレナーシップ教育が必要となってきている。時価総額が高いと評価される会社の顔ぶれががらりと変わり、半導体の日本のシェアは1980年代後半50%をピークに減少し、予測では0%とも言われている。18歳の若者対象の社会や国に対する意識調査によると、責任ある社会の一員として、夢を持ち、国や社会を変えられると思う人材が育っていない。解決したい社会課題を考えて、周囲と積極的に議論する人材も育っていない。社会人に対しては、社会に出てから継続的な目標や自己研鑽に対して消極的といえる。このような状況で、世界の著名な方々がアントレプレナーシップ醸成の重要性と将来像を発言しており、ハーバードビジネスレビューでは、アントレプレナーシップについて、「自ら社会の課題を発見し、周囲のリソースや環境の制限を超えて行動を起こし新たな価値を生み出していく精神」と掲げている。
 そこでアントレプレナーシップを教育するとしたら、どのように整理ができるか、私達で考えたのが木の絵になる。「未来の社会像」としては、多様な価値を認めWell-beingを達成するためのよりよい社会、一つが固定されたものではなく、常に考え続けていかなければならないものとして設定している。それを実現するための、「目指す人材」としては、急激な社会の環境の変化を受容し、新たな価値を生み出していく精神、アントレプレナーシップを備えた人材を育てていく。そのために一番下の根っこの部分は、大学卒業までに広く身に付けるべき能力として、専攻分野を通じて担う学士力、知識・理解、汎用的技能、態度・志向性、統合的な学修経験と創造的思考力等といわれている。

 そういったものを身に付けた上で、アントレプレナーシップの醸成は、動機付け・意識醸成の段階とコンピテンシーの形成が相互に影響しながら培われていくと考えている。社会に存在する課題を自分事として捉える、課題の発見力や共感力を育むことを入口に不確実性の高い環境下でも自身の持つ資源を超えて機会を追求し、未来創造や課題解決に向けた行動を起こしていくための精神と態度を学ぶ、そういう場や機会を提供していく。上は、未来創造や課題解決のために必要な汎用知識やスキルを提供するとともに、それらを活用し、実現に向けた仮説検証、試行錯誤ができる機会を提供する。そういう段階を経て、研究成果の活用も含めてスターアップやスモールビジネス、地域特有課題の解決など、想像したい未来・解決したい課題に応じ、実際に事業を進めていくにあたり、必要な専門知識や機会を提供していくところで、培ってきたアントレプレナーシップを社会実践という段階で発揮していく。この一連のまとまりをアントレプレナーシップ教育の全体像と考えている。
 整理し直すと、「動機付け・意識醸成」では、起業家の体験談を聞く、地域の課題に触れる体験型授業、「コンピテンシーの形成」では、ビジネス知識の獲得、アイデア創出の方法論と実践の場の提供、「社会実践」では、ファイナンス・法務など専門的知識の提供、ベンチャーキャピタルの提供などとなる。

2.大学発スタートアップとアントレプレナーシップ教育の現状と課題

 アントレプレナーシップを備えた人材がますます重要だが、他の国と比べるとスタートアップが成長していくためのエコシステムが十分でなく、醸成状況、教育の状況がまだ低いという課題がある。
 大学発スタートアップ創出に繋がる支援体制を持っている大学は、774大学中GAPファンドを持っている35大学、アクセラレーションプログラム36大学、メンタリング制度45大学、インキュベーション施設45大学と支援体制が整っている大学は限定的である。調査によると起業が少ない最大の要因として、失敗に対する危惧や、身近に起業家がいないことがあげられる。アントレ教育を実施している大学は27%程あるが受講率は1%、民間や他大学・外部との連携がほとんどの大学で十分とはいえない。
 こうした背景から「スタートアップ・エコシステムと形成に向けた基本方針」が令和2年に出され、今後3年間を集中期間としている。このパッケージは、スタートアップの「創出」段階、スタートアップの「育成」段階、世界との「繋ぎ」段階に大きく分かれ、文部科学省では、「創出」段階のアントレプレナーシップ教育をしっかりやっていきたいと考えている。
 拠点としては2種類あり、「グローバル拠点都市」は、スタートアップ・エコシステム東京コンソーシアム、名古屋市、浜松市などが入っているCentral Japan Startup Ecosystem Consortium、大阪・京都・兵庫神戸コンソーシアムに福岡スタートアップ・コンソーシアムがある。「推進拠点都市」は、札幌・北海道スタートアップ・エコシステム推進協議会、仙台スタートアップ・エコシステム推進協議会、広島地域イノベーション戦略推進会議、北九州市SDGsスタートアップエコシステムコンソーシアムがある。この拠点では、大学の技術シーズと企業との共同研究、ベンチャーキャピタルからの投資、それらが有機的に連携して、新しいサービスを提供するスタートアップが、自律的・連続的に作られることを期待している。

3.大学発スタートアップ創出支援やアントレプレナーシップ教育への支援に向けた施策の動向

 文科省の施策として「大学発新産業創出プログラムSTART」には2つあり、一つは先ほどの拠点を支援するもので、自治体・産業界と連携して大学における実践的なアントレプレナーシップ教育、GAPファンドを含めた一体的な起業支援体制の構築による起業支援さらに初等・中等教育段階からのアントレプレナーシップ教育の推進を求めている。もう一つは、個々の大学で特筆すべき取組みを支援するプロジェクト推進型であり、研究者の技術シーズを事業プロモータが一緒になって事業化に向けていく起業実証支援である。この取組みの前には、次世代アントレプレナー育成事業(EDGE−NEXT)を2017から2021年度、その前にはグローバルアントレプレナーシップ育成推進事業(EDGE)を2014〜2016年度に行ってきた。対象とか金額を徐々に広げ、重要性が国として認識されている状況である。

【質疑応答】

【質問1】
大学の現場で樹木の一番根元を一生懸命やっているが、そこから1つ上のアントレプレナーシップの醸成に行くためには何が必要か。
【回答】
アクティブ・ラーニングとか、PBLを行う時の課題設計の仕方とか、グループワークのファシリテイトの仕方を意識すると良いのではないか。
【質問2】
ロボットコンテストなど民間で行っている。小さな失敗とか、成功体験を通して醸成できるようなものを何か検討しているか。
【回答】
国としてのコンテストのようなものは今のところない。拠点ごとに行っている体験を支援していきたい。教育現場としてはどのように評価するかがポイントになる。醸成促進事業でどういう成果なり評価ができるか考えていきたい。

第2日目(9月7日)

テーマ別意見交流

分科会A:学修者本位の教育、学びの質向上を目指すDXの試み

LMSの高度化と学修データ統合システムによる学修者本位の教育の実現

神戸大学情報基盤センター教授 熊本 悦子 氏

 神戸大学では、令和2年度の文科省の「デジタル活用教育高度化事業」による取組みとして、一つはLMSの高度化と教室のスマート化の基盤整備、もう一つは、学修データの一元管理とAI等を用いた学修分析と可視化を実施した。
 LMSの高度化では、デジタル教材配信システムを導入し、どういうメモを録ったのか、マーカーをどこで引いたのかなどの学修の過程を全部ログとして記録し、解析ツールを用いて閲覧時間、達成率、操作回数、時系列の操作履歴確認等の分析が可能になることで、学修に対するフィードバックや教材改善の資料につなげることが可能になった。そして、ハイブリッド授業の質を向上させるために、ハイフレックス型授業の教室を全学に整備した。この教室整備は、教室からビデオを配信してハイブリッド授業を行うという学修の高度化を実現させた。
 学修データの統合では、KDWHと呼ばれる学修データ統合管理システムを構築し、個人情報の仮名化を行った上で、学修ビッグデータ蓄積と一元管理を可能にした。具体的には、卒業生データを活用したAIアプリを開発し、学生の各業種への適合度を推測するという取組みを実施した。個々の学生の学修履歴、成績、目標、活動記録から分析した結果として、希望業種の適合度等を学生に提示し、この結果を個々の学修指導に用いることを計画している。
 今後は、質の高いハイブリッド授業を授業全体の10%までもっていくことと、AIを活用した分析を進め、エビデンスに基づいた教育・学修改善を進めていく予定にしている。

【質疑応答】

【質問】
Moodleの教材配信とデジタル教材配信システムの棲み分けをどうしているのか。システムに関する学生の声はどうか。
【回答】
Moodleだとダウンロードしたかどうかくらいしか分からない。教材をどのように読み進めていったかという学修過程を知りたい場合に、こちらの教材配信システムを用いることで、学修効果というのをさらに高めることができる。アンケートでは、画面上でマーカーを付けたりとかできるので、学生からは、ネガティブな回答はなく、ツールの一つとして認められていると感じている。

ジブンの学びをデザインできるAI支援型LMSの実現

山口大学教育・学生支援機構講師 岩野 摩耶 氏

 山口大学では、授業科目レベルで学修の習熟度を学生が自ら確認できるシステムを設計し、学生個人に最適な学びを提供するための取組みを実施した。
 LMSに蓄積されたデータをAIで解析し、学生個人のパーソナリティに応じた評価を可能にして、学生が自分自身で学修を推進することを目指している。その背景として、コロナになって教員が使う遠隔講義のツールがバラバラでだったことから、システムの入り口を一本化し、シラバス、資料、動画、各種の情報を統一的に表示していくことと、データをAIで解析し、学生個人に合った目標設定を支援することができるのではないかというところで取組みが始まっている。
 具体的には大きく4つの取組みを行っている。一つは、ラーニングマップの設計による学生の習熟度の可視化、二つは、マイシラバスによる授業の配布資料、課題、動画、アンケート結果などの一括表示と学生個人に最適化された教育の提供、三つは、学修ポートフォリオによる学びのプロフィールのエンロールメントマネジメントと学生自身による学びの記録の振り返り、四つは、AIの活用による学生の新たな学修目標設定の支援である。
 今後の計画としては、学生によるシミュレーションによって、最適な学修のためのアドバイスを個々の学生に提供するための仕組みの導入などを検討している。

【質疑応答】

【質問】
AIを使ってデータ解析する場合、専門職員で解析されているのか、何か試行錯誤しながら方向を決めているのか。
【回答】
専門的な教職員はいない。データサイエンス教育センターの教員と企業とで行っている。

DXを活用したテーラーメイド教育の試み

女子栄養大学栄養学部教授 赤井 昭二 氏

 女子栄養大学では、DXを活用したテーラーメイド教育として、補助金を活用し学生一人ひとりに最適な学びを目指すことにしている。そのために、学内に散在する多くのデータを統合データベースシステムで連結させ、教職員が一体となってデータを可視化することで、学生にフィードバックできることを目指している。
 具体的には、まず、Unified-Oneという統合データベースの使用によって、半期・四半期ごとに自動で集約し、学生情報と学修における情報を紐づけされるようになっている。次に、そのデータを横断的・多角的に解析することで、学生個々の学修状況から次の目標を出させるよう「Tableau」と呼ばれる解析ソフトを使って解析を行う。その上で、解析結果を可視化して、教職員だけでなく、学生本人や保護者の方にまでフィードバックし、次の目標、次の学修時間を提案することにしている。また、補助金を活用して、ハイブリッド型授業推進のための実験実習用デジタルコンテンツを独自に制作するとともに、自学自修するためのデジタルコンテンツを加速化している。
 このようなシステムをうまく取り込みつつ、AIを活用して、卒業時の目標に対してどのくらいの位置にいるのか、あとどのくらいの学修時間が必要なのかなど、数値化・可視化し、AIで提案できるよう取り組んでいる。
 StuDX(学生本位の教育の実現)に向けた課題としては、授業の価値を高めないと、どうしてもオンライン授業と比較されてしまう。対面授業とオンライン授業のベストミックスを今見つけることをやっている。一番重要なのは、今後教員のスキルアップとメディア授業を常設化して、うまくAIを取り入れて、これらのデータを活用するということかなと思っている。

【質疑応答】

【質問】
コロナ禍で調理実習の授業をどのように運営・工夫をされていたのでしょうか。
【回答】
調理実習の動画を配信し、学生達で教材を買う、大学から送る、大学に取りに来させるなどして、調理した画像を提出させた。しかし、手技が見えないと、調理器具の扱いが分からなく上達しないので、現在では自分の見たい角度で見れるようなデジタル画像を3画面、4画面の教材を作りながら授業に用いている。

データ一元管理とAI解析による学修の最適化と無限学習の試み

獨協医科大学看護学教育点検推進室長 馬醫 世志子 氏

 獨協医科大学では、令和2年度から令和6年度の5年間で大学全体のDX推進計画が立てられている。
 具体的な取組みとして、一つは、全学生が同時アクセスに対応できるよう、「WiFi6」や「5G」を導入し、大容量のデータ通信が行われてもストレスなく使用できる環境の構築、二つは、全学的にデジタル技術を活用した授業実習の普及とサポート体制の整備として、XR、ロボット等を用いた教育とデジタルサポート体制の整備、セキュリティポリシーの策定を進めている。三つは、データ一元管理とAI解析による学修の最適化と無限学習の試みが文科省のプラスDX事業として採択された。
 このDX事業では、4つのプロジェクトを立てて進めている。一つは、学生が自らの学修成果を把握して、主体的に学べるように、データを一元化してAI解析・可視化し、リアルタイムに学びを表示する。二つは、AIを用いた自動テロップ・翻訳による学びの機会拡大として、国内外の講義動画の音声をAIで自動テキスト化・テロップ化することで、海外講義動画の自動翻訳、おすすめ教材の自動表示の開発を行う。三つは、演習動画の声・表情をAIで解析し、学修者の参加度などを可視化し、教育評価・改善に活用するとし、現在開発中である。四つは、過去データのAI解析による学修者支援として、AIで予測した結果などを踏まえて支援が必要な学生を早期に発見する予定にしている。
 現時点では開発中の計画が多いものの、授業を進めていく中で、教職員間で育成したい学生像や教育を話し合う機会が増え、各部署の課題の可視化につながったなどの成果を得ることができた。

【質疑応答】

【質問】
一国家試験の合格率をどれくらいにするとか、目標を定量化するような点もお考えでしょうか。
【回答】
国家試験の合格というよりは、看護学部における就職1年目の離職がすごく高いので、定量ではなく感性、共感性の可視化が課題になっている。

DXで教育・研究・働き方を高度化し、教育効果の最大化を目指す試み

福岡工業大学学術支援機構次長、情報基盤センター情報企画課長、附属図書館事務長 藤原 昭二 氏

 福岡工業大学では、今年度から中期経営計画(マスタープラン)がスタートし、教職協働の組織的な取組みの中で、DXにより、教育・研究・働き方を高度化し、「教育効果の最大化」を図り、イノベーション・コモンズ(共創拠点)への進化を目指している。
 学園全体で「デジタル化、データ」と「人、組織」が有機的に機能することを真のDXだと考えている。そのためには、教職員一人ひとりが自分事として動いた結果の積み重ねが、「教育効果の最大化」につながっている。
 教育DXでは、学生自身の情報環境やサポート面を整えることが重要で、学生BYODを重視した。その上で、myFITと称する学修支援システムと、FIT-AIMという学習ポートフォリオを組み合わせたシステムを中核に構成し、各シナリオで学生と双方向性を確保している。これに、myFITを互換するスマホアプリとMoodleのe-Learningシステム、スマホ出欠管理システム、授業動画配信システムで利便性を高め、あらゆる授業形態に対応している。

【質疑応答】

【質問】
DXの推進に伴う予算化の優先順位は、トップダウンではないのか。他のDX以外にも大学における優先度があるので、その辺りの判断はどういう形になっているのか。
【回答】
マスタープランとの整合性、大学の方向性等の整合性があるかがチェックされ、その上で予算化、優先順位等々が勘案されて、採択され、実行に至る流れになっている。情報基盤センターの運営委員会で議論し、コンセンサスを得て、予算委員会で多面的に審査され、採択が決定される。
分科会B:コロナ禍での学生のメンタルヘルスを考える

「こころとからだの健康調査」1割以上うつ症状

秋田大学大学院医学系研究科教授 野村 恭子 氏

 秋田大学の学生を対象とした2020年度と2021年度のメンタルヘルスケアの調査結果から、コロナ禍において、中等度以上のうつ傾向があると推測される学生の割合が10%を越え、さらに高くなってきていることが分かった。また、新規うつ症状リスクや自死念慮リスクに関する因果分析行ったところ、経済的困窮や学業不振がリスクを高めることや悩みを聴いてくれる人がいる場合にリスクが半減することが分かった。
 そこで、大学の取組みとして、ハイリスクな学生に学生支援課から連絡をいれるとともに、学生を自殺ゲートキーパーに養成する活動も行っている。この活動によって、キャンパス全体の精神衛生向上が期待され、自殺のリスクを軽減することができると考えられる。また、学生による学生のためのメンタルディスタンスとして48分の動画を作り、効果・検証しており、上手くいけば全国に無料で使用できるよう準備していく予定にしている。

【質疑応答】

【質問】
コロナ禍以前と比較して、10%を越えているのは高いのか低いのか。
【回答】
コロナ禍以前に秋田大学で行われた同様の調査結果はないが、他大学で行われた結果よりも本調査結果の値の方が高くなっている。おそらく、コロナ禍でうつ傾向は高くなったと考えられる。

「コロナ禍における心のケア」7つのコツ

昭和女子大学学生相談室長 水戸部 賀津子 氏

 コロナ禍のストレスによって学生のストレス反応が重症化しないようにするために、留学・災害時に指導していたストレス対策をもとに「コロナ・ストレスを乗り切るための7つのポイント」をまとめた。
 その内容は、①「正しい情報を知り、実行する」として、学生にストレスとは何かを考えてもらう、心と体、考え方と行動に出るので、心をコントロールしたければ考え方と行動を変えようとインフォメーションすることにより、モチベーションを上げている。②「こんなとき、心が乱れるのは自然なこと」として、寛容な気持ちを持たせ重症化させない。③「自分のストレス反応を知る」として、何をストレスに感じているのかが、分かることにより、自分へのケアを早める。④「よく眠り、きちんと起きる」として、生活時間を自分でコントロールする。⑤「コーピングレパートリーを10個持つ」として、自分なりの気晴らし方法、例えば音楽を聴く、話す、食べるなどのレパートリーを増やして使い分ける。⑥「人とつながり、ひとりの時間も確保する」として、いろいろな人と少しずつ偏らないでバランスよく繋がるようにする。⑦「気持ちを表現する」として、飾らない自分の気持ちを表現する。
 このようなコツを使って、ストレスが成長につながるよう、プラスの面が芽生えるようにしていくことが多い。

【質疑応答】

【質問】
「7つのコツ」をどのような形で学生に伝えているのか。
【回答】
1年生のときに全学生対象の授業で伝えている。

スマホでセルフチェック「みらい健康手帳」の利用

広島大学保健管理センター教授 岡本 百合 氏

 広島大学では、コロナ禍におけるメンタルヘルス支援として、①入学時のメンタルチェックを行い、ハイリスク学生を呼び出すこと、②欠席が多い、成績不良の学生をチューター教員から紹介してもらうことを行ってきた。これらは一定の効果が認められるが、より早い段階で学生が自己のメンタルヘルス状態を認知し、必要であれば援助行動をとることができるよう、ヘルシーキャンパス・プロジェクトを立ち上げ、スマホアプリ「未来健康手帳」を開発した。
 アプリの中で、気分、睡眠、食事などのセルフチェックした結果が得点化され、「健康」、「注意」、「警告」が表示され、学生が同意したら自動的にデータが保健管理センターに送信され、早期の介入や相談を行う。効果としては、メンタルヘルスへの意識の向上、リアルタイムに測定することで気づくことで、援助希求行動を高め、メンタルヘルスリテラシーの向上を目指している。将来はAIで回復過程まで解析し、セルフケアができるのではないかと考えている。

【質疑応答】

【質問】
このスマホアプリは、現在どの程度利用されているのか。
【回答】
現在、開発が終わったところで、既に利用することはできるが、本格的活用は秋以降となる。

コロナ禍、ハイブリッドによる学生相談の心の支援と課題

甲南大学文学部教授、日本学生相談会理事長 高石 恭子 氏

 コロナ禍において学生相談の実施形態は、従来の対面形式だけではなく、オンライン形式の活用も進んだ。オンライン相談の利点は、相談へのアクセス向上や感染の防止といったものがあげられ、リスクも伴うが利点の方が大きいと思われる。
 今後、デジタルネイティブ時代の学生の心の成長を促すには、「青年期の3密(濃密・親密・秘密のある人間関係)」が重要であるが、それに伴うリスクに対応するための専門的部署として学生相談機関は重要である。対面相談の実施、体験型のグループプログラムの提供などが重要になる。もう一つは、コロナ禍での配慮(遠隔支援)に慣れた学生に、コロナ後に向けてどう教育機関としてルールを示すか、合理的配慮の観点からも学生相談機関だけではなく、全学的支援の教職協働体制の強化が必須になってきていると思う。

「県大ほっとカフェ」の状況と展望〜コロナ禍における学生支援〜

山梨県立大学学務課学生担当 花原 遼 氏

 コロナ禍で「本来あるはずだったキャンパスライフの喪失」が起こり、学生の孤立が危惧される状況になったことから、学生が気軽にコミュニケーションを図ることができる場として「県大ほっとカフェ」を立ち上げた。
 オンラインツールを用いた座談会から始め、2021年度後期からは対面とオンラインを併用したイベントの開催を進めている。一方、学内での認知度が低いことも分かった。そこで、今後は他部署や教員を巻き込んで、学生の安心感の創出や心の拠り所として認識されるような場になっていくよう、活動を継続していく予定である。

【質疑応答】

【質問】
現在「県大ほっとカフェ」を運営しているのは、誰なのか。
【回答】
職員が中心で運営している。今後は、趣旨に賛同してくれる教員の参加や組織体制の強化を進めるつもりである。
分科会C:質向上を目指すオンライン授業、ハイブリッド授業

ハイフレックス+ライブ授業収録(VOD)の「全部盛り」授業

立命館大学国際関係学部准教授 越智 萌 氏

 全部盛り授業とは、対面授業をZoomによるライブ配信する、いわゆるハイフレックスに加えて、ライブ配信を収録したビデオをオンデマンド(VOD)の形で提供・公開する3つを合せたものである。
 基本的には対面授業で行うが、コロナに感染、基礎疾患にある方が家族におられる場合は、ライブ配信授業の参加を認めている。ビデオ配信の授業への参加は、海外留学生でライブ授業に参加できない場合に対応している。ただ、全部盛り授業は15回実施するのではなく、9回以降の授業の半分を充てている。ここで行う全部盛り授業では、主に学生報告を行う。対面参加の学生は教室で報告し、オンライン参加の学生は、自分が配信できる場所から報告を行う。VOD参加の学生は、報告を録画して教室で流す。留学生の入国規制などに対応するためにVODも必要であった。
 全部盛り授業の課題は、①オンライン参加の学生はカメラ移動を積極的に行い、授業に参加しているような視点の確保と、発言に抵抗があることから話しかけをする工夫。②VOD参加者については、同時性がないので、対面授業とライブ授業の学生全てに掲示板でディスカッションする。③グループワークが問題で、VOD参加者はSNSを使って学生同士で交流するという工夫が必要。

オンラインも対面もTeamsとLMSで反転授業

名古屋学院大学経済学部長 児島 完二 氏

 100名以上が履修する経済専門科目での反転授業の仕組みとして、LMSから次回授業までに予習すべき範囲を授業開始6日前に連絡する。授業は対面又はオンラインのいずれかで参加できるが、実際はほとんど対面授業に参加している。
 予習パートでは、学生が確実に予習するよう、4種類のデジタル教材(5分ほどの解説ビデオ、エクセルでの実習、PDF版のテキストの関連問題、択一式クイズ15問)により課題を課している。予習を義務付けるため、平常点に加点している。ここでは、前回の応用問題でつまずいている点を解説・復習を終えたら、予習範囲のクイズと同問題の小テストで確認する。
 授業パートでは、小テストで間違いの多いい設問の補足説明を行い、学生には教え合いを推奨する。その上で、LMSで4択の授業理解度調査(よく分かった、分からなかった)を実施する。その後で、新規の応用課題を提示し、応用課題などを含んだミニッツペーパーを提出させている。対面では相互の教え合いを推奨し、でき抜け制で退室を許可、未完了者が僅かであれば個別フォローする。
 反転授業の評価としては、期末試験において最頻値のモードが30点上振れした。アンケートから、「授業における適切な教材・資料の提示が理解を促した」との結果も得た。

【質疑応答】

【質問】
事前学習の評価方法は、どのように行っているのか。
【回答】
小テスト、理解度調査など多様な指標で評価している。

ICT活用による分野横断型実験授業の試み

昭和大学歯学部歯学教育学講座教授 統括教育推進室長 片岡 竜太 氏

 問題解決力や連携力の養成を目的に、7分野(医学、歯学、薬学、看護、社会福祉学、栄養学、情報コミュニケーション学)の学生2グループが、テレビ会議とSNSで意見交換するICTを用いた分野連携型授業を学修の進め方などを掲載した「学生用ガイド」を用いて実施した。
 授業は、2段階で行った。第1段階では2年生を対象に「多職種の役割を知る」を目的に、授業ビデオをもとにグループでプロムレムマップ化する。第2段階では、4・5年生を対象に「健康長寿社会の実現のために他分野がどのように連携すべきかを考える」を目的に、問題発見から問題解決のプロセスを踏んで授業を行った。
 分野横断型授業は、患者、家族の状況をグループで可視化・共有するため、プロムレムマップを作り、問題を明確にする。その上で、問題点の優先順位付けを行い、解決策をまとめる。低下した機能回復、予防、生きがいへの支援、地域における対策まで提案する。プロムレムマップは、初回に学生個人でまとめた抽象的な内容と、グループでまとめた内容とを比較すると、具体的で問題が明確になっている。
 学生の感想・意見では、対面でなくてもオンラインでコミュニケーションをとれることを体感した。他学部との共同は刺激的で広く深い知識が得られた。自分の専門性を伝えることの難しさを改めて知ったなどであった。アンケーとでは、チーム医療が重要、グループプロダクトができたに関しては、「とてもそう思う」という学生が100%、他学部の専門的な内容についての理解、自学部の内容について説明できたは、第一段階よりは達成度が向上した。
 授業の設計で重要なのは、お互いの専門性を理解し、自分野の立場で実体験を説明する時間を十分にとること、7分野の教員による専門分野でのコメント、アドバイスのファシリテーションを確保することである。成果としては、広い視野で医療・健康生活を考えることができ、自分野についてのアイデンティティを深めて、他分野の役割を知り、多職種と連携し、社会の問題に対応・解決する経験ができた点などがある。

【質疑応答】

【質問】
情報コミュニケーションの学生が、新たに入ったことの効果とは何か。
【回答】
医療系学部に比べ、社会福祉、栄養、情報コミュニケーション学と広がりが増えれば増えるほど、専門性を伝え、連携・共同してプロダクトを作るハードルが高くなるし、刺激が大きくて学修成果が高まった感触を持っている。
分科会D:スタートアップ教育を考える

講義と課外活動を連動させたアントレプレナーシップ育成支援

崇城大学総合教育センター教授 川副 智行 氏

 学生の就業に対する捉え方の変化などを踏まえて、2020年度から「起業家育成プログラム」を、卒業時に会社・公務員に加え、起業も選択できるスキルを身に付けることを目指した「アントレプレナーシップ教育プログラム」に更新した。
 そのミッションは、「創造性」に「個性」を融合した「独創性」を確立する教育の実践によって、「常識にとらわれない思考力」「課題を解決に導くチームメイキング」「情熱を持ち続けるセルフマネジメント」を有する学生の育成である。未来像は、①自発的に物事にチャレンジする独創性を獲得した学生が専門課程を経て活躍する、②熊本から、崇城から小さくても世の中に新しい価値を発信する、③就職活動の選択肢に公務員・会社員に加えて第三の選択肢「起業」が自然となる世の中をつくる、としている。
 このプログラムは、講義と大学が設けた教育の場としての課外活動(「起業部」)で構成されていることに特徴がある。講義は、1年前期にマインドセットという意味合いの強い新しい「考え方」を身に付ける講義を展開し、1年生の後期にビジネスプランコンテストに挑戦することを課す講義をしている。2年次は、「創造性」を発揮できるようなスキルを身に付ける、それを形にするための「企画提案力」を目指す講義を行い、3年次の専門領域に向かわせる。
 課外活動は、企業部の学生が、テーマ探索(4−6月)、プロジェクト設計(7−9月)、実証実験・学内ビジネスプランコンテスト(10−12月)、最終報告(1−3月)を通じて、実際のフィールドワーク、成長体験の検証を行う。これらの活動を通して、学内出資会社「SOJO−スタートアップラボ」から、出資を得て起業した事例が誕生している。大学としては、学内にあることでサポートが受けられ、成功確率の高いビジネスが提案できることと、将来の選択肢を狭めないようセーフティネット体制をとっている。

【質疑応答】

【質問】
専門教育課程との接続から卒業研究、さらに進化して大学院生になり企業との産学連携などへの展望が開けていけばいいと思うが、如何か。
【回答】
学生が思いついたアイデアだけでは難しいと思っている。専門課程の研究室からシーズをビジネスに変えるような形での参画が、非常に成功に近いのかなというふうに思っている。

授業とビジネスプランコンテストによる起業教育

日本工業大学産学連携起業教育センター教授 筒井 研多 氏

 1・2年生対象の寄附講座「創業の基礎」をスタート科目として、3年生前期の授業「企業とビジネスプラン」の期末レポート(約300件)が「ビジネスプランコンテスト」のエントリ一を兼ねている。一次審査で個人20件、二次審査で8件が夏期休暇中に個別指導を受け、10月末の最終審査会に臨んでいる。
 授業の目的は、起業人材の輩出ではなく、企業のイノベーション、第二創業を支える人材育成を目標とし、就職・起業を目指す学生双方に役立つ授業としており、「起業スキル」と「起業家精神(マインド)」の獲得を目指している。そのために、①日常的にアンテナを張って情報探索の習慣をつけ、②概念的・論理的思考力によるひらめき(アイデア)、③それにもとづく事業計画作成、そして何よりも④「自分事」に向かうモチベーションの獲得を狙っている。
 モチベーションとマインドの定着を図るため、一方通行にならないように、前回授業でのいいレポートを表彰する、毎回Google Formでアンケートをグラフ化して、学生の意見が授業に取り入れられるようにする、毎回実際のビジネスプランの先輩に来てもらい発表する等、飽きない授業を工夫している。また1、2年生の新設授業や他の授業と連携しながら、ビジネスプラン自体の質の向上を図っている。
 学生の授業評価は、正解追求型はないこと、学生個々人へのフィードバックが多いことなどの理由で、非常に高い。一方で、ビジネスプランコンテストにエントリーしない学生が多い。その理由は、恥ずかしい、他の課題・資格勉強・インターンシップなどで忙しい、単位取得が目的としている。この問題をどう解決していくか、授業レベルではなく、大学レベルでの検討が待たれるところである。

【質疑応答】

【質問】
チームでやるものと、個人でやるものを併用すると少し違ってくるかなと思うが、如何か。
【回答】
「現代社会の基礎知識」という授業はチーム活動と個人活動を行っている。授業内グループワークは3人〜5人程度でディスカッションさせ、レポートは自分でさせることで、主体性と協調性ができていけば、変わるのではないか楽しみにしている。

地域活性化を体現する「次世代アントレプレナーの育成」

山形大学アントレプレナーシップ開発センター長 小野寺 忠司 氏

 アントレプレナーシップの定義を、起業に限らず新事業創出や社会課題解決に向け、新たな価値創造に取り組む姿勢や発想・能力等(起業家的行動能力)としている。多摩美術、東京理科、滋賀医科、早稲田、山形の5大学で文科省のEDGE-NEXT(次世代アントレプレナー育成事業)を展開し、山形大学アントレプレナーシップ開発センターがその拠点となっている。
 そのビジョンは山形を世界から必要とされるイノベーション創出の産業地域、21世紀型のシリコンバレーのような産業地域を実現するとし、そのミッションは新しい価値創造に挑戦する意欲を持ったアントレプレナー人材の育成とする。現在までに創出したベンチャーは、山形大学で16社、連携で4社、EDGE-NEXTで10社になる。
 このプログラムの最大の特徴は、中・高生、大学・大学院生、社会人、教員・研究者、起業家までを対象とし、主として企業から運営資金(受講料、協賛、寄付)を得ていることである。中高生には「起業家マインド醸成プログラム」として、県内の中高生を対象に県・山形大学・山形放送の連携プロジェクト「山形イノベーションプログラム」によって、地域課題をテーマに事業計画の立案コンテストを開催している。また、東北地方の高校生を対象にしたシリコンバレー版の「スーパーエンジニアプログラミングスクール」も展開する。大学生・社会人には山形大学の「起業家人材育成プログラム」とコロンビアビジネススクールの「Venture for All Program」をジョイントした「新事業創出イノベーションプログラム」を開講している。
 このように山形大学単体のプログラムではなく、行政、企業、金融、報道等各機関の協力と支援、他大学・海外大学との連携によって、ベンチャー企業が持続的に創出されるエコシステムの構築を図っており、今後の展開が期待される。

分科会E:国際連携協働学習(COIL)

ICT活用によるポストコロナ禍期のCOIL教育実践

関西大学グローバル教育イノベーション推進機構副機構長 池田 佳子 氏

 COILとは、アクティブ・ラーニングを促すグループ活動のタスク設計をコラボレーションタスクとして行う教育実践で、ICTを活用して海外大学との連携を基本に、多国籍の文化集団で構築している。活動期間は、海外大学と日本の学年歴の違いなどを考慮すると、例えば1セメスターの内で海外のクラスとのオーバーラップがある4週間から6週間の中でオンライン国際協働学習を(Collaborative Online International Learning。)行う。
 2021年のプログラムでは、総勢200名以上の学生の応募があり、合計で約80人の学生を11の国と地域から受け入れた。
 ポストコロナ禍期のCOILの展開ということで、コンソーシアム型、多方向型のCOILをしたことで、誰もが参加しやすく、限定的な地域・国だけではない、グローバルな学びを日本人学生にも他の学生にも提供できるようになった。コロナ禍前は、学生の留学先は偏りがあったが、COILの取組みで、多様な地域に分け隔てなく参加できるメリットがある。
 パンデミックを経験した大学教育というのは、より環境に優しくて、誰も取り残さない、そして多様性かつ国際化というのが、いま日本社会で求められている。
 関西大学では、教育のDXとして、global smart classroomを設け、一緒に快適にインタラクティブにグループワークすることを可能にする。そうすると必然的に、COIL/virtual Exchangeをはじめとしたデジタル技術を駆使した国際教育の方法論は、もっと進化しなければならないと考えている。

【質疑応答】

【質問】
今年、海外大学から200人参加しているが、学部もバラバラなのか。関西大学の中でも様々な学部の学生が参加という形でしょうか。
【回答】
全学共通科目の位置づけとして、提供していることもあり、13学部が参加している。また、海外留学生、中には院生もおり、専門分野もバラバラで参加をしてきている。デジタルバッジを活用し、そこに評価基準、学習時間などのメタデータがついているので、それを参考に海外の大学は、何単位に値するか、この分野は単位互換できると解釈をしている。

COILによる看護教育の事例紹介

静岡県立大学看護学部講師 根岸 まゆみ 氏

 静岡県立大学は、上智大学と協働して、コンケン大学、ドルノゴビ医科大学の看護学部とCOILを実施している。授業の内容は、事前課題として自己紹介、大学紹介動画を作成してもらい、それを事前に共有し、看護学生自身の健康をテーマにして、各国の学生が、それぞれの大学生活、日常生活で健康にまつわることをどのような点に気を付けているかを、英語でスライドを使ってプレゼンし、最後に質疑応答、ディスカッションを行った。
 学生の反応は、文化を尊重した看護実践の重要性への気づき、海外の学生との悩みの共有、よりグローバルな視点が芽生えたというものが多かった。
 一方、COIL授業の実施には、教員1人ではできない。海外との調整、時差の問題など、教育実践の調整には、相当の労力を有するため、国際交流センターの協力を得て実施している。

【質疑応答】

【質問】
COILによる発展看護実習は、実習の部分をオンラインで繋ぎ、両大学での実習場面を見せ合うような、イメージでしょうかうか。
【回答】
はいそうです。コロナで行けないので、オンラインを通じて、実際に海外ではどうしているかというのを、ディスカッションベースでプレゼンなどを交えて行っている。

グローバル人材教育としてのCOIL型授業の活用

南山大学国際センター長 山岸 敬和 氏

 南山大学のNU-COIL(Nanzan University COIL)で育成する人材像は、多文化共生力、学際的国際力、問題発見・解決力で、Career Oriented Interactive Leadershipという、グローバルマインドを持った国際人を育成するプログラムである。
 NU-COIL には、3つのステップがある。STEP 1の「ベーシックCOIL」では、言語と文化の交流を行う。STEP2の「アカデミックCOIL」では、専門分野をベースに議論を行う。STEP3の「PBL COIL」では、企業、団体、官公庁などが抱えている課題を、両国の学生がコラボしながら解決策を考え、プレゼンしてフィードバックを受ける形になっている。
 PBL COILは、例えば、サマープログラム、インバウンドプログラムをアニメ・漫画で提案する課題を提示し、南山大学とUMBC、Maryland大学の学生9人程度で、情報収集、アメリカの学生とアメリカに有効なプロモーション方法の議論、ショートプロモーションのイメージムービを作成し、提案に対して評価を受けるCOIL を7週間実施した。課題使用言語はチャンプリンガルで状況に応じた適切な言語の使用としている。
 COIL科目から学生は、自分の意見を求められる、自分の国を振り返る、想定外のことへの対応など、異文化理解の面白みと厳しい現実も理解しながら、プロジェクトマネジメントの重要性を理解していった。COILは、留学とは違う次元の国際交流とか、国際プロジェクトでできるという意味では、非常に有用なツールであると考えている。

【質疑応答】

【質問】
設定された時間外の学修外時間は、どれくらい実施しているのしょうか。
【回答】
企業の方々も非常に積極的に関与してくれたので、学生も盛りがって、LINEで空き時間を見つけて、こちらが指定した以上の交流をしていた。
分科会F:著作権法改正に伴う権利処理の注意点と補償金制度

授業コンテンツの権利許諾範囲と補償金の分配

神奈川大学学長補佐、法学部教授 中村 壽宏 氏

 著作権法35条の改正により、SARTRASという機関が設置され、ここに大学などの教育機関が補償金を支払い、権利者へはSARTRASから分配するということになった。教育機関からSARTRASへは、定額方式(年間、5月1日の学生数×720円+消費税)や個別課金方式(使用コンテンツ数×履修者数×10円+消費税)などの方法で補償金が支払われる。これにより大学では、第三者著作物を、授業内利用・同時授業公衆送信・異時授業公衆送信することが自由化された。
 一方で、補償金を支払っても許容されない行為として、機関管理・経年利用・共同利用などがある。
 機関管理とは、第三者著作物の使用は大学が管理するのではなく、担当教員に限られること、経年利用とは、第三者著作物は年度ごとに限られること、共同利用とは、複数の教員で担当する授業であっても、個々の教員が第三者著作物を取得する必要があることで、これらを行うためには、教育機関と権利者の間で基本ライセンス契約又は専門ライセンス契約を締結する必要がある。
 また、海外の出版社などの中に、著作権法35条の規定に従わず、個別契約で35条をオーバーライドすることを主張する権利者が存在する場合があり、これについてはSARTRASに問い合わせることで解決できることが期待される。
 補償金の分配については、SARTRASが各大学に対して、著作物の使用状況をサンプリング調査し、分配業務受託団体を経由して、教育機関から集められた補償金を権利者に分配している。補償金を受け取った出版社などは、本来は著者に補償金を支払う必要があるが、多くの場合、そのような対応が行われている例は少なく、今後の課題といえる。
 一方で、小規模の業者や個人的なWebサイトにコンテンツやイラストを公開している権利者の場合、SARTRASに認知されることもなく、分配業務受託団体を設立することは困難であるため、補償金支払いの対象とはならない。そのような権利者の属する新団体を設立していくことも今後の課題といえる。
 著作物使用の制約を考えるにあたっての確認事項の一つとして、どのようなものが著作権対象の著作物となるかという点について、著作物は「思想又は感情を、創作的に表現したもの、文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するもの」と定義されているが、「コンテンツ制作者の思想や感情が表れているかどうか、オリジナリティを有するか、創作的に表現されているかどうか」という点が要件となる。
 二つは、著作者と著作権者である。著作者はコンテンツを作った本人のことであり、著作権者でもある。著作者以外で、著作権を行使できる人を著作権者という。著作者は、論文や書籍の著者であり、それを複製し譲渡する出版社が著作権者に該当する。この両者間で、著作者から著作権者に譲ることのできない権利として、公表権、氏名表示権、同一性保持権、名誉声望から成る著作者人格権がある。
 ここで重要なのが、同一性保持権であり、第三者著作物を利用する時には、そのままの形で使用しなくてはならず、改変することはできないということである。但し、例外はあり、例えば映画やドラマの一部だけを切り取って使うこと、フルカラーのものをモノクロでコピーして配布すること、大きなものをA4サイズに縮小するような場合、同一性は保持されていないが、やむを得ない改変として許容される。
 同一性保持の問題として、第三者著作物の訂正もある。例えば、①データの誤り、②誤植、③古い専門用語、④社会的に不適切な表現などの箇所を変更すると同一性保持権違反となってしまうため、このようなケースでは、適宜授業内の説明でカバーする必要がある。
 最後に、授業内での第三者著作物の使用のまとめとして、非営利の教育機関において、教育担当者及び学生が、授業の課程において、第三者著作物を自由に利用できる。さらに必要と認められる限度内である必要があり、この限度内であれば、第三者著作物を複製・配布・サーバーへの蓄積ができる。これには、著作者の利益を不当に害する用途・様態での利用は許されないという例外規定がある。

【質疑応答】

【質問】
LMS内の教材著作物を同じ大学の教員内で共有し、自分の授業に使用することは許されるか。
【回答】
各教員がそれぞれのアカウントでログインするLMSで、教員本人が作業するのであれば、許容されるが、コピー元のデータをLMS上に公開してしまうのは許容されない。
分科会G:授業改善とラーニングアナリティクス(LA)

ラーニングアナリティクスとは?

京都大学学術情報メディアセンター教授 緒方 広明 氏

 ラーニングアナリティクスとは、情報の技術を用いて教員や学生からどのような情報を獲得して、どのように分析・フィードバックすれば、どのような学修・教育の効果があるかを研究する分野である。
 タブレットを使って学習をすると、デジタル教材やビデオの閲覧記録やメモを記録でき、今まで捨てられていた情報を活用しようというものである。データを集めるためのポリシー、ガイドラインなどをいろいろなステークホルダーに参加してもらい構築する必要がある。
 我々が開発しているBookRollというデジタル教材配信システムでは、PDFを登録すればWebブラウザで閲覧でき、学生のページ遷移、マーカー、メモなどのログデータが蓄積され、ログパレットという分析ツールで分析できる。例えば、英単語の分からないところを学生がマーカーで印をつけ、それを重ね合わせることで学生が分かりにくい単語を抽出できる。また、手書きでは手が止まって書くのに時間がかかっているという解答プロセスを記録でき、タイムラグなく間違いや分かりにくい箇所が見つかるようになっている。
 一般社団法人エビデンス駆動型教育研究協議会では、BookRoll、LEAFシステムに企業に参加してもらい産学連携で進めている。

【質疑応答】

【質問1】
1つの授業の分析だけでなく、ある学生の複数の科目を横断的に分析することはできるか。
【回答】
合理システムというブロックチェーンを使用した仕組みとしてはできるが、事例はまだない。
【質問2】
個人情報の取扱いはどうなのか。
【回答】
各学校の中で閉じていて、それが外に出ることはない。他の学校とデータを共有する場合には匿名化されている。匿名の場合は学生個人にフィードバックすることはできない。

eポートフォリオとしての学習データとラーニングアナリティクス

東京学芸大学ICTセンター、情報教育教室教授 森本 康彦 氏

 教学マネジメントで学修成果の見える化が行われているが、可視化することが認証評価のために目的化していないか。可視化の利点は、学んでいる学生の学習レベルを自らが把握して、“学修成果の地図”を与えることを意味する。ICTによって自動的にログは集まる。ログとログの間に学修者のレポート、議論などさまざまな学習の営みがあり、この記録が学習記録となる。ログと学習記録を合わせて、「学びの記録eポートフォリオ」と呼ぶ。これを使って、どのように学修者中心の教育を作っていくか。その手段がラーニングアナリティクスと考えられる。
 ラーニングアナリティクスの要としては、学習者による「主体的/自律的学び」が土台となる。したがって受け身の学生には役に立たないかもしれない。土台ができたら、あとは学習者にダッシュボードを見せれば良い。各機関でラーニングアナリティクスのシステムを開発することは難しい。
 タイプは3つ考えてみた。タイプ1は「既存のLMS等の可視化の機能を利用」、タイプ2は「学内のさまざまな可視化機能を集約したダッシュボードを開発」、タイプ3は「新規に究極のLAシステムを開発」がある。
 学習・学生生活のダッシュボード、教務システム、図書館、教育実習などを表示させるタイプ2のダッシュボードを開発した。例えば、「eポートフォリオ・コンテナ」ではレポートを蓄積し、自己評価のグラフ、相互評価結果がレーダーチャートとして出てくる。これを見て学修者は自分を改善していくことができる。LAの開発に手が届かないような大学でも、既存のLMSをラーニングアナリティクスと同じような構造ととらえてやると、使っていくことができるのではないかと考える。

【質疑応答】

【質問】
開発されたダッシュボードは機能的に活用され、学生に効果的なメニューは何か。
【回答】
教員は4年間の学修成果を希望するが、学生は、毎回の授業の前と後でどう変わったか、レポートがどう変わったかの時系列が見えれば気付きができると考える。

大学教育における学習分析の活用事例

九州大学大学院システム情報科学研究院教授 島田 敬士 氏

 研究としてのラーニングアナリティクスと、現場への展開という意味での実践を両輪に取り組んできている。学習分析を原動力に、学習者の事前事後学習、弱点発見・克服、そして最終的には学修者自身がデータを振り返り、意欲向上に繋げるという学修エコシステムの構想がある。
 各学習者が今どのページを見ているかをリアルタイムで集めて可視化するヒートマップによって、授業が順調か、説明不足かがわかる。10名の先生がコースに分かれて同じ資料で授業を行い、各学生の開いたページと先生が説明しているページとの差分を色分けすると、はじめは同期し、途中からばらつき、演習を行うとバラバラになる様子がわかる。先生が同じならば教える学生が異なっても同じ傾向が出る。類似性を二次元地図にプロットする技術を使うと、先生の教え方が学習者の活動に影響していることがわかる。コロナ禍で閲覧ヒートマップを先生だけでなく学生にも公開すると、学生は他の学生が何を見ているのがわかるようになり、ページ上にアクションをより残すようになっている。
 学生同士が教え合える環境として、自分の考えを投稿して他者の助けになればというリポジトリがある。投稿者はしっかり考えて書くので深い活動ができる。記事の中身を分析し、何に困っているか聞きだしながらお薦めの記事を返す仕組みとして、Teaching botシステムの研究・開発を進めている。他にも教材の自動要約、小テストの分析から必要な復習教材を紹介するなどを行っている。テーラーメイドな支援を行い、少しだけ足場を作ってあげた方が最終的によい成果が得られという結果が見えてきている。

【質疑応答】

【質問1】
二次元地図に活動だけでなく、成績も載せることはできるのか。
【回答】
それはとても重要で、シミュレーションする学生・先生のマッチングができ、成績が上がるという示唆までは得られているが、現場でどうやるかは大きな課題である。
【質問2】
対面とオンラインで、何か違ってきた点はあるか。
【回答】
教員の指示の仕方が変わったのかもしれないが、オンラインでは授業時間外の学修時間が増えた。
分科会H:データ活用力育成に向けた授業実践の紹介

本協会情報教育研究委員会、情報リテラシー・情報倫理分科会

 本協会の情報活用能力育成のガイドラインに基づき、高校で必履修となった「情報T」との接続を受けて、大学の初年次教育からの学士課程での一貫した授業実践例としての江戸川大学での実践例の紹介と、本協会の「情報活用教育コンソーシアム」における活動が報告され、意見交換を行った。
 まず、江戸川大学の「データ活用力育成に向けた授業実践の紹介」では、①私情協の社会で求められるガイドライン構成の意図とガイドラインに沿って問題解決能力を育成するカリキュラムの構成と導入授業例、②私情協のモデル授業を踏まえた初年次及び3年次における本学でのプログラミング教育、③AI活用を含めたSTEAM教育及び高大接続、④数理基礎力に不安のある文系大学におけるデータサイエンス教育の試みが報告された。
 具体的には、玉田(本協会情報リテラシー・情報倫理分科会主査)から、1年前期の3コース共通科目で必修授業の情報コミュニケーション論において、私情協ガイドラインの「到達目標A」の問題発見・解決思考の枠組みを理解し、実践できるよう問題解決のサイクルを何度も繰り返して学ぶ授業実践の方法と、各専門分野の知識と関連付けて考えることのコツが紹介された。
 次いで、小原氏からは、情報システムコースでの授業実践として、1年次のプログラミング概論において、どのようなプログラミングを作成するのか、論理的思考が理解できるようになった事例と、3年次のシステム設計では、システム開発における問題解決の実践例が紹介された。
 山口氏からは、AI活用体験の導入として、苦手意識を持たずに全員が取り組めるように、Scratchを使った実践を試行するとともに、ScratchによるAIプログラミング体験などが紹介された。
 松尾氏からは、データサイエンス教材の実践例として、3年前期選択科目のデータ処理応用では、数学的見方・考え方を活用して、現実の問題を、データ分析できる表現に変換できる力を習得させるため、現実の問題を解決するような経験が含まれた教材が必要と考え、採用に関わるデータを題材にして、「どのような人材を採用したらよいか」という問題を過去の採用データを用いて予測させたところ、一部の学生を除いて、分析結果を示すのみで、現実に起きている問題を統計分析に変換する姿が見られなかったという報告が行われた。
 引き続き、全体討議に入るに先立って、玉田氏から、情報活用教育を改善し、質向上を図るための「情報活用教育コンソーシアム」での意見交流活動、コンソーシアムに掲載の初年次向け反転授業を導入したビデオ授業ガイド、専門専門科目との連携を図るモデル授業のシナリオなどの紹介が行われた。
 全体討議では、文系学部でプログラミング教育を全学的に進めるカリキュラムの在り方や、高校でのプログラミング履修が足りていない学生へのフォローとして、例えば、私情協でプログラミングのオンデマンド教材を作成し、提供する可能性の検討、理解が低い学生に対してオンライン又はオンデマンドでTA・SAによる助言を行うなどの意見交流が行われた。

分科会I:オンライン授業の学修評価と試験方法

振り返りとフィードバックによる学びと成長の一体的推進〜形成的評価の実践例〜

関西大学教育推進部教授 山田 剛史 氏

 振り返りとフィードバックによる学びと成長の一体的推進について、学修意欲や学修実感を高める教員フィードバック、振り返りとフィードバックの実践と効果、そして、振り返りとフィードバックの効果を更に高める心理的安全性の実践と影響の3点が報告された。
 学修意欲を高めるにはフィードバックが大事であり、その効果も高かった。また、フィードバックは回数が多いほど、対面でも遠隔でも、学びの充実度が高まった。フィードバックの方法としては、授業が終わるときに学生からICTを使って振り返りのコメントをもらっているが、そこからベストコメントなどを紹介している。
 学生の感想としては「感想を書くことで、授業内容を思い出し、その時自分が考えたこと、思ったことを文字にすることで、復習にも繋がり、授業を受けて終わりになってしまう事も減ると分かりました」などがあった。3つめの心理的安全性の実践が特に注力していることで、安心して、他の学生同士で議論ができる、自分の感想とかコメントを思い切って振り返りに書ける、といった状態を作るようにしている。心理的安全性が高まることは、行動的なエンゲージメントにつながり、それが学習成果の獲得化につながる。

【質疑応答】

【質問】
実践してみて感じられたことはないか。
【回答】
名前を例えばニックネームでお互い呼び合えるようにする、グループを毎週変えるなどが心理的安全性とエンゲージメントを高めることに効いていると感じた。

LMS依存の試験とアンケートフォーム型試験への試み

専修大学経済学部准教授 小川 健 氏

 遠隔監視におけるビデオ解答を利用した紙面筆記型試験の方法と、自宅などからのフォーム型のオンラインテストを利用した遠隔監視の方法の2点について報告する。
 紙面筆記型試験では、解答を紙に書かせてビデオ会議で監視をする形式をとった。試験の開始前に名前を言わせてビデオ会議に入れさせて、机の上や壁などをスマートフォンで撮影写させてから、さらに、手元を映しながら答えさせ、写真でファイルを提出する形式である。
 フォーム型については、Google Form用のタイマー起動アドオンであるQuilgoアドオンを利用した。アドオンにより、タイマーとしてのオンデマンド受験ができるほかに、一斉受験機能も追加される。
 監視の面では、カメラによる顔監視、PCスクリーンでの監視ができる。また、問題群のランダム割り当てが必要になる場合もあり、今回も選択肢をランダムに配置するなどした。これらのカメラ監視やスクリーン監視については、受講生の理解が欠かせない。そのために、必要最低限の場合に留めることも大切である。

分科会J:データサイエンス・AI人材育成の支援

大阪公立大学研究推進機構特任教授

成城大学非常勤講師 辻 智 氏

 文系大学生向けデータサイエンス・AI授業の実践事例として、データビジュアライゼーションとテキストマイニング系、画像処理のダッシュボードの活用について紹介する。90分の授業の中で、20分ほどこのような内容を挟みながら、検定、回帰、クラスタリングなど統計を中心とした内容へと展開している。文科系だからデータサイエンスは関係ないと思っている学生が結構多いが、このようなトピックを挟むことで、知的好奇心を刺激するトピックをたくさん紹介するのが良いとした。
 データビジュアライゼーションでは、ジョンズ・ホプキング大学において全世界のCOVID-19感染状況を日々アップしている。リンク先を貼り込んで学生に見せることでダッシュボードが時系列でどのように変化しているかを考えさせる。ダッシュボードは、データビジュアライゼーションの例として大変有用である。その他にも、WHO(世界保健機構)、CDC、自治体ではロサンゼルス市のオープンデータなどのダッシュボードから学生それぞれが学習できると思う。このような様々なデータはExcelファイル、PDF、CSVファイル等でダウンロードして活用できる。これらを一つの授業でやるのではなく、授業で予定している回帰分析や、特に直線回帰のところに差し込んでいくと、オンラインの授業であっても学生は最後まで見てくれている。
 テキストマイニングは多くの先生方がすでに利用されているので、私の工夫しているところを紹介していく。
 日本語の原文をAIで訳させて、それをまた日本語に戻し、日本語の原文と訳された日本語で、どのくらい一致しているかを比較していくことはよくやられているが、オリンピックの記事などをDeepLで訳し、もう一度DeepLの中で日本語に戻して比較すると、「総理大臣」が「首相」であったり、「完全な形」が「全面的」になっていたりなど、可逆的な出力になっていないのがわかる。他の翻訳ソフトにおいても、AIには理解できない日本語原文であっても、文章の語順を入れ替えてみる、同義語に変えるなどで学生に書き直しをさせると、上手な訳になったりする。
 AIを使って訳すときは自分も頭を相当使わないと、うまくいかないことが多いことを体験することで、統計についても理解しようとなる。日常から教材で使えそうな文章を書き留めておくと、授業で使えるかと思う。デモとして使える紹介として、WatsonのNatural Language Understandingは、テキストを入れると評判とか、感情とかを数値で表す機能がある。言語系の学生は大変興味を持ち、このようなアプリを日常的に利用することに繋がる。このようなことも学生に紹介するのも良いと思う。
 最後の画像処理は、以前学生から「ヒストグラムって日常生活に役に立つのか」と問われた際に、IBMで液晶ディスプレイの開発に取り組んでいたことから、X軸に輝度、Y軸にピクセル数としてヒストグラムに表すことをやってみた。これを、Pythonのプログラムにして学生に配布し、オリジナルの絵のRGBの値を50ずつ右にずらして行ううちに、80にすると明るすぎるなどわかってくる。学生は何回も写真を取り込み書き換えて学習できるので、一石何十鳥となる。ArtとAIで創作意欲を刺激できる。その他に、AI画伯で自分の写真を変える、また、テキストを入れて見合った画像を出力するGakyoなどを通して、どのような文書をいれると思うような画像になるかを考えさせると結構面白い。文系の学生の場合、データサイエンスの授業にすごく不安を抱えている。今回ご紹介したようなものを入れることで、15回をドロップアウトさせずに、マイナスイメージをプラスにしていくことが教員側としては大切だと思う。「データをどこから仕入れてくるのか」とよく聞かれるが、KaggleとかGitHub、Qiitaなどはいつも覗いている。KaggleのページからはJupyter notebookのデモがでていて、Jupyter notebookを立ち上げることもできる。また、フェイスブックでPythonとかデータサイエンスという言葉を入れると、授業で使えるヒントを結構得ることができるので利用してみてはどうか。

【質疑応答】

【質問1】
講義科目のなかでやられているのか。
【回答】
講義のなかで、ダッシュボードとして使うやり方とRESASのAPIを使うのとPythonからやることも入れている。それを4科目のなかで順番に、段階的に行っている。
【質問2】
評価方法はどのようにしているのか。
【回答】
対面での試験やレポートで採点という場合もある。レポートは指示した内容が書かれているかで採点していく。
【質問3】
学力的に難しい学生に対しては別の対応があるか。
【回答】
特に数学ができないとか気にされる先生もいるが、理解するのが遅かっただけで、そういったレッテルを張らず、上下のクラス関係なく、みな同じような感じでやっている。

第3日目(9月8日)

教育改善を目指したICT利活用の発表

※以下の発表者は、発表代表者のみ掲載。

A-1 公募を活用してアイデア力とビジネススキルを高める取り組みについて
九州共立大学   森部 昌広

 オンライン授業におけるコミュニケーションスキルを高めるために、スポーツビジネスに関する公募への学生参加を活用して、学生のモチベーション向上・維持や学習効果について比較検討した。その結果、公募を行った実験群と授業のみの対象群について出席率、個人面談実施率、LINE等への投稿数および成績評価結果について差が見られた。双方の群に対して、様々なコミュニケーションツールを用いて教育的介入を行ったが、対象群には意図が伝わっていないと思われる。今後は事前の条件設定、ガイダンス、理解度の確認について検討を進める。

A-2 教養系講義における反転授業の導入〜遠隔授業で学んだことを対面授業に活かす〜
豊橋創造大学短期大学部   伊藤 圭一

 コロナ禍で経験した遠隔授業の経験をもとに、反転授業とルーブリック自己評価を対面授業に導入した。学生からは、「自分を客観視できて不足箇所を理解できた」、「質問がしやすい」などの肯定的な反応が得られた。今後はルーブリック評価規準の見直しと動画予習教材の導入により、より学習効果向上を狙いたい。

A-3 授業外学習用Webサイトの利用を通して見た学習に対する意識:韓国語3の授業から
大妻女子大学短期大学部   中尾 圭子

 第2外国語クラスは、中級レベル以上になるとクラス数が減少し、履修者の実力差が大きくなるため、学生群への指導が分散するため進度、達成度、学習意欲に影響を与えることが多い。そこで、学習の動機や意欲保持のため、授業外学習用Webクイズを併用してメタ認知を促すリフレクションする機会を提供した。その結果、実力差や学習方法の違いがあっても、意欲の維持が可能であることを示唆する結果が得られた。今後は、テストの回数、実施時期、授業外併用方法、テスト返却時の励ましや声掛けの効果についても検証していくことが課題と考えている。

A-4 非連携のサービスを組合せての締め切りリマインドの試みと異質方針への説明
専修大学   小川 健

 複数の大学で非常勤講師を務める場合や同一の学内でも相互連携していないサービスを使う場合、課題の〆切日時のリマインドや提出確認表示に利便性が損なわれることがある。具体的な例として Google Classroom と Respon の併用が挙げられる。前者はまとめレポート(他社の回答非公開)と後者は記述式解答問題(他者への回答公開)としているが、Responが Google Classroom には連携していない。そこで、学生には選択式の質問投稿を行い科目の特殊事情への理解度を問う形式を取った。その結果と課題を報告した。

A-5 LMSを活用した事前学習の取り組み−留学生対象の読解授業におけるJiTT実践−
関西大学   永井 可菜

 留学生の日本語学習者を対象とした読解授業において、JiTT(Just-in Time Teaching)指導法を用いた実践を行った。当該指導法は理系科目での実践が多く語学授業では殆ど見られない。本実践の特徴として、事前学習にディクテーションおよび掲示板への書き込みを提供した。受講者の80%から内容の理解が深まったことを示すアンケート回答が得られた。今後は、客観テストの結果などを用いて学習者の能力向上を明らかにすることが課題である。

A-6 LMS移行に必要な教員支援の在り方〜山梨学院大学の事例〜
山梨学院大学   原 敏

 コロナ禍で普及したLMSが新システムへ移行することになった。移行開始まで半年という中で、移行先LMSと旧LMSの教員視点での機能比較、特に「無くなる機能」を把握・明示すること、また教員の「行いたい講義運営の作業」に合わせたLMSの本来想定していない使い方や外部サービスとの組合せなどの講習も支援サービスに含めた。その結果、移行前後での教員のLMS使用機能はほぼ変わらないという結果が得られた。

A-7 「千一夜カレンダー」−文芸創作教育におけるウェブサイトの活用方法第2報−
日本大学芸術学部   楊 逸

 作家を目指すためには、身の回りに起きた些細な出来事やひらめきを掴みとり、吟味し、仲間に話してみるという習慣が大切であると考えられる。その「機会」の創出のために、カレンダータイプのWeb型記録システムを構築した。4月から学生にスマホでアクセス・入力させ、その即興ストーリーを小説に整えるプロセスを議論する取り組みの試みを始めた。アンケート回答によれば、月2回の利用頻度は70%程度、「千一夜を使って意識してアイデアを考えるようになった」が50%を超えた。今後も、「創作脳」を効果的にトレーニングできるようにシステムの改善をはかる。

A-8 医療人のコミュニケーション力向上を目指すデジタルツールと経験を統合した重層的教育
滋賀医科大学   河村 奈美子

 精神疾患を有する患者の看護実践として、講義による知識修得、小グループによる患者理解の共有と課題抽出、シミュレーション演習体験とデブリーフィングデータ管理システムやウェアラブルカメラを活用したコミュニケーション学習TBL、積極的意見交換促進ツールによる経験共有という一連の演習を実施した。このデジタルツールと経験の統合により、動画見直しによる気づき、役割比較、エキスパートナースの実践の学び、患者視点でのケアの受けての疑似経験が可能となった。また、積極的意見交換促進ツールによる他者からの学びが可能となり、意見尊重・協力の土壌を体験できた。

A-9 機械翻訳と外国語教育について考える
前愛知工業大学   ラングリッツ 久佳

 外国語教員に「機械翻訳と外国語教育について考える」のアンケートを実施した結果とその課題点が説明された。学生が機械翻訳を容易に使用してしまう状況があることを踏まえて、外国語教員の機械翻訳との付き合い方、学生への指導の仕方について考察がされた。機械翻訳を使いこなすには、ある程度の語学力・文法力が必要とされ、外国語教員が、機械翻訳の仕組みを学び、まず自身が使いこなすことが必要であると考える。

A-10 新しい学習方略LBP(LTD based PBL)の実践とその有効性
日本歯科大学   長田 敬五

 1学年のPBL授業「歯科医学入門演習」実施してきた結果、能動学習やグループ学習の習慣が涵養されてきたようであるが、学習活動の劣化などの課題があった。そこで、2016年度からLBP(LTD based PBL)を考案し実践した結果、学習の展開や深化が進行するため、LBPは学習プロセスを通じて各自の自己決定感を醸成することができた。また、学習者の内発的動機づけの育成効果も内包していることが示唆された。

A-11 地球環境に優しいモビリティの研究を通じたエネルギー教育の試み
玉川大学   斉藤 純

 研究室での研究活動に加えて、学部や学年を問わず有志の学生が参加できるPBLとして、実践的なものづくり教育とエネルギー教育が説明された。具体的な内容は、再生可能エネルギーの太陽光と資源循環型エネルギーの可能性を持つマグネシウムを組み合わせた地球環境に優しいハイブリッド・ソーラーカー開発である。エネルギーの可視化の手段で、計測データの共有により教育効果を高められるものと期待している。

A-12 オンラインで実施したPBLテュートリアルでの小グループ活動
日本歯科大学   田谷 雄二

 PBLテュートリアル教育について、オンラインでの有効性や試みた工夫などについて考察がされた。1学年127名を対象として、後学期に3課題をZoomのブレイクアウトルームを活用して、9週にわたり6人グループで小グループ活動(LBP)を実施した。学生のアンケート結果から、対面と同様にオンラインが、工夫次第で有効な手段として活用できる可能性が示されたが、オンライン上で対話を深める場面では、改善の余地が残っていることも報告された。

A-13 回帰木を用いた工学院大学学習支援センター数学科の教育効果の分析
工学院大学   永井 朋子

 様々な科目の土台となる数学などの基礎科目について、データに基づく教育効果の総合的な分析、決定木の手法を用いた分析について説明された。数学の分析は、目的変数をテスト点数とし、学習支援センターの指導を説明変数として、回帰木による分析を行い、テスト点数にどの程度影響するのかを調べた。演習提出の効果、基礎講座継続参加の効果、前提として習得すべき授業科目の洗い出しなどの教育効果の定量的な分析結果が示された。

A-14 被服分野の対面授業におけるオンデマンド教材−アナリティクスにみる教材の利用実態−
武庫川女子大学   末弘 由佳理

 3年ぶりに全回を対面授業で実施した「アパレル構成学実習Ⅱ」の授業実践及びICT教材の活用実態、学生からのICT教材への評価について報告された。作成・利用した教材は、動画18本、PDF資料13本であり、動画はYouTube化した。18本動画を学生が視聴した回数平均は1.6回/人であり、一斉説明動画の視聴の平均は0.9回/人、事前作成動画の視聴は4.3回/人であった。学生からは「復習に役立つ」という回答が多かった。オンデマンド型ICT教材は、自身のペースで繰り返して視聴ができるメリットが大きく、対面授業においても有効な教材である。

A-15 文系学生初年次を対象とした統計学入門の現状把握調査−学習項目別に−
関西学院大学   岩田 一男

 統計学入門を受講した1年生に統計学のイメージと理解度について調査し、統計学に対する文系履修学生の学習項目別の理解状況と、履修学生が考える基礎知識を高める方法が報告された。学生が、難しく感じた学習項目は「回帰直線の計算」、「さまざまな分布」、「決定係数の理解」、「データ収集方法」などであり、学生が不得手とする項目分野については、動画教材の充実を図るなど工夫を加えていきたい。

A-16 VBAプログラムによるエクセル関数・式問題に対する解答の正誤判定と採点の自動化
流通科学大学   関 陽

 全学部1年生を対象に表計算ソフトの演習を中心とする「情報処理入門」を開講している。課題としてExcelファイルを提出させ、各問題答案の正誤判定や採点を手動で行っており、時間・労力・判定ミスなどの対策としてVBAプログラムを中心とする採点BOOK(Excelファイル)を作成した。50名程度の受講生の提出ファイルは3分程度で処理され、授業時間内にリアルタイムに正誤判定ができ、すぐにフィードバックすることも可能となり、授業の質を高める一助になった。

A-17 繰り返し授業における学修成果と学生満足度の差異から見た授業ICT化への考察
愛知文教大学   小林 正樹

 同じ科目を複数回担当する授業の実状をデータにより多面的に考察された。各授業で学生の①出席率、②最終成績、③満足度のデータを収集し、それらの差異の有無を統計的手法により分析した。出席率は月曜1-4について差異が認められ、最終成績は月曜1-2に関しては差異が認められた、満足度の差異は見いだされなかった。一概に効率性のみを追求し導入することは危険ではあるが、繰り返しの一部をICTにより効率化し、その余力を学生への指導等に回すことが出来ればと期待したい。

A-19 CSSによる表示要素絞り込みを援用した基礎的なGit利用法学習
東大阪大学   石川 高行

 単一の文書等を複数人で同時に執筆するためによく使われる仕組みの版管理System「Git」について、CSSの変更で初学者向けにする手法が提案された。権限が分けられ、受け入れ可否判断ができる仕組みとして、Gitは条件を満たす最も普及している仕組みである。ただし、Web UIの英語表記から学習負担軽減を実現できる手軽な方法が求められていると考え、Firefox等のBrowser上でCSSに手を加えることができるPlug-in“Stylus”を用いて、概念の隠蔽と日本語表示を可能とした。この“Stylus” 用いて、2022年度後期に文系大学生にGitHub利用を体験させる予定である。

A-20 テキストマイニングによる体験型学習が与える教育効果の評価
東北医科薬科大学   渡部 俊彦

 医療人としての心豊かな人間性と高い倫理観を育成するため、薬学部薬学科1年次前期の早期臨床体験では、一次救命学習、病院・薬局見学,薬害に関する学習、ハンディキャップ体験などを行っている。年度により内容を変えたハンディキャップ体験について、受講者の感想文を計量テキスト分析した。2020年度は視覚障害と歩行が危険を想起させるポイントになっており、2022年度は、視覚障害下の歩行体験で学生に障害者が抱える危険について考えさせる効果的な手法となっていることが証明されたなど、教育効果の検証がされた。

A-21 オンライン授業に対応する手指衛生指導の可視化とその教育効果の検討
大手前短期大学   白水 雅子

 歯科衛生学科学生を対象に、動画を用いた手洗い指導法とその教育効果について検討した。動画を用いた方法では、従来の指導法と比較して手洗い時間が延長する傾向がみられ、より時間をかけて丁寧に手洗いを行うようになった。動画による視覚的な手洗い指導は、簡便で学生も分かりやすく、手指衛生の動機づけに効果的であったと考えられる。視覚媒体は、学生の主体的な学びを生み出すことができるため、引き続き他の指導においても応用と促進を進めていきたい。

A-22 薬学部5年生向け学習支援用ICT教材:学生の教材選択の傾向と学習効果
神戸学院大学   福留 誠

 単位認定を伴わない国家試験対策のパイロット的特別学習プログラムとして、複数のICT教材を薬学部5年生に提供している。学生が6年進級直後の模擬試験にて示した成績を比較する事により、提供教材の効果を推測した。自己学修において好む教材の形態と、効果に期待できる教材の形態とには、乖離がある可能性が見いだされた。この結果から、一つは、学生の興味を引き、簡単に取り組める教材から効果の高い高負荷の教材利用へ誘導する仕組み、もう一つは、取組む時間・負荷が高いが、成績浮揚の効果に期待が持てる教材として、相補性のある二系統の教材開発を展開して行きたい。

B-1 VPN接続による学内実験機材への遠隔操作環境の整備
東京医療保健大学   駒崎 俊剛

 対面授業時と同様に学生の同時実験を可能とするために、VPN環境を構築した。授業は、①授業日1週間前に教材を配信、②授業日はオンタイムで30分間程度の実験概要の説明と質疑応答、実験、④事後授業で実験レポート作成、である。事前授業の参加者は少なかったが、学生同士がテレビ会議システムやSNSを活用して学び合いをする学修行動がみられた。なお、エラー発生時の状況を整理して丁寧に説明することが重要との指摘があった。

B-2 初年次教育の情報環境整備に向けたシステム変更
日本大学   谷口 郁生

 初年次教育のための情報環境のシステム更新について、PC教室のシステム構成、メディアコーナーのシステム構成、認証システムの統一、プリント管理システム等の構築とその運用状況についての報告である。ネットブート環境を廃止し、単一イメージのOS復元環境への更新、および学生の自習用ブースをVDI構成によるゼロクライアント環境を維持しながら、オンプレミスサーバーの構成からクラウドに移行するなど多岐にわたる。

B-3 ICT を活用した合理的配慮−Teamsを用いたチューター制度−
日本獣医生命科学大学   柿沼 美紀

 障害のある学生に対する合理的配慮の支援方法として、Microsoft Teamsを用いた学生チューター制度を導入した。ICTを用いることで場所や時間を選ばずに支援が可能になり、支援内容の記録を共有できるようになった。また支援対象学生が気まずくなりがちの遅刻や休みの連絡なども文字で行うため、対象学生にとっては負担が軽減されたようである。この手法は、アフターコロナにおいても支援方法の主柱として期待される。

B-4 2Dから3Dに拡げるGIS教育
立命館大学   笹谷 康之

 地域の課題解決のために、QGISを用いた2Dから3Dに展開する教育プログラムの実践報告である。「測量学実習」で基礎的なQGISを学修し、「専門ゼミナール」では、地域の課題・資源を可視化して、まちづくりに生かすための2D/3D地図の活用法を実証実験している。今後は、地域の資源・課題を3Dの空間+過去から将来計画までの時間の4Dで可視化して、まちづくりに活用する構想である。

B-5 教職課程における基礎科目と演習科目における質保証のためのICT活用授業
流通経済大学   鈴木 麻里子

 教職課程における学生と教員、学生同士のコミュニケーションを図るために反転学修とメタバース活用した授業実践報告である。基礎科目では反転授業を採用し、学生は教員作成動画の視聴ノートを作成して課題に取り組み、教員がコメントする。演習科目ではメタバース(アバダーなし)を活用して、Webexブレイクアウトセッションでグループ討議を実施し、必要に応じて教員も参加する。

B-6 ビジネス教育の基盤としての専門科目「ディベート」のデザイン
昭和女子大学   藥袋 貴久

 新たなビジネスを構想する能力の獲得にむけて、理論や概念枠組みを総合する経験や、課題解決の「ディベート」の授業の報告である。これは戦略的思考と視点移動、論理的・批判的コミュニケーション、政策立案と意思決定を重視し、政策・システムデザイン、プレゼンテーション、批判的論理的思考などを短期間に繰り返し実体験させることが可能な統合的方法論といえよう。

B-7 移民との共生についての政策立案ゲーム
南山大学   佐々木 陽子

 入門・概論講座では学生の興味が深まらず、意見発表の機会を確保することは困難という課題を、入門講座「多文化共生論」において、日本の移民政策の「政策立案ゲーム」(シミュレーションゲーミング)を用いて課題の解決を試みる実践事例報告である。結果として学生間コミュニケーションは順調に進み、政策発表から投票の場面では全体の達成感も得られた。

B-8 遠隔でのインターゼミナール実施に向けたメタバース活用の試行的実践
共栄大学   伊藤 大河

 Zoom やMicrosoft Teamsなどは1人の発表者に対して複数人が同時に聞くコミュニケーションツールである。そのため、メタバースの活用を考え、そのプラットフォームとして「VRChat」と「cluster」を比較するために、学生にオンライン調査をした報告である。学生がメタバース導入について好意的で、日本語表示であり使いやすさもあり、「cluster」の使用が望ましい結果が得られた。今後の活用拡大が望まれる。

B-9 富山短期大学におけるAI初級教育への取り組み
富山短期大学   春名 亮

 「地域社会でも必要なデータ活用力」というテーマで行われたAI初級教育の試行講義で、受講者に対して行った小テストとアンケートの結果をもとに、AI・データサイエンスの必要性が9割以上の学生に理解され、77%の学生が内容を理解し、8割の学生が興味を持ったと回答するという結果が得られた。短期大学における数理・データサイエンス・AI教育に関する開講の方向性を検証することができた。

B-10 文系学生を対象としたデータサイエンス教育の導入−初年次情報科目での実践を通して−
淑徳大学   松山 恵美子

 「情報処理法」という名称の情報科目で実施した数理・データサイエンス・AI教育導入についての報告が行われた。「実データの収集と配布」、「基本的な分析」、「AI技術を利用した分析」の内容の授業実践により、受講した学生が興味をもってデータ分析に取組み、その目的と意義については当初予想していなかった成果が得られたことが確認された。

B-11 私大文系大学における数理・データサイエンス・AI教育(リテラシーレベル)の試み
駿河台大学   太田 康友

 全学共通教育科目として情報処理教育センターが所管する数理・データサイエンス・AI教育のパイロット科目である「データリテラシー入門」における授業内容について報告が行われた。講義の目標である「数学やICTに対して苦手意識を持つ学生であっても前向きに学習に取組み、受講後も社会の変化に対して興味を持って追いかけることができるようになる」ことは概ね達成できたと考えられる。

B-12 ZOOMを活用した化学系学生のグローバル化プロジェクト:世界がキャンパス
近畿大学   今井 喜胤

 「国際的学士・修士育成のための国際横断グローバルプロジェクト:世界がキャンパス」プロジェクトについての報告が行われた。国際的に活躍できる化学者の育成を目指し、「オンライン海外大学訪問」、「オンライン海外研究室訪問」、「オンライン海外国際交流」、「オンライン海外企業訪問」の活動を実施し、Zoomなどのオンラインツールを活用して、リアルタイムでの国際交流を実現している。

B-13 ICTを活用した双方向授業活用の日本語教員養成プログラムと授業内フィードバック
神戸女子大学   安原 順子

 日本と海外の大学との間での「ICTによる双方向授業」を中心に「学習者オートノミー」の育成に焦点を当てた取り組みについての報告が行われた。海外の提携校が管理するe-Learningシステムを使用した連携教育について、学修の有効性を検証することを目的としている。授業内フィードバックを重視する授業方法は、学生が自律的に学習する授業プログラムの構築に寄与できるという結果が得られた。

B-14 文化を視座とした日本語クラスにおけるハイフレックス授業の取り組み
城西国際大学   尾本 康裕

 コロナ禍で来日できない留学生も含まれた状況で開講された「社会と文化の日本語」という科目において実践されたハイフレックス授業についての報告が行われた。対面での受講者とオンラインでの受講者の自習教材の活用状況およびアンケート調査の結果から、対面授業とオンライン授業を比較した。今後もハイフレックス授業が継続される状況に向けた基本的な指針が得られた。

B-15 遠隔授業質向上を目指した韓国サイバー大学の授業・評価方法のモニター
日本大学   金 炯秀

 遠隔授業の質向上を目指し、韓国でのオンライン授業を実施しているサイバー大学での教育実践を調査した結果についての報告が行われた。韓国で最初に設立されたサイバー大学の文系科目を対象として、学部・学科の構成、修得可能な資格、授業実施方法、成績評価法と理解度確認試験について調査した結果を紹介した。これをもとに、今後の担当授業に活用することが述べられた。

B-16 保健医療系大学教育における効果的なオンライン学習の活用に関する検討
奈良学園大学   堀内 美由紀

 保健医療系大学におけるオンライン授業に関し、Instructional Designの視点から、ICT活用の推進について検討した結果についての報告が行われた。保健医療学部に所属しオンライン授業を実施した教員に対して行ったオンラインアンケートについての考察結果が述べられた。結論として、保健医療系学部の必修である演習・実習科目について非対面授業を構成可能なことが確認された。

B-17 コンピュータ実習を伴う遠隔ライブ授業における仮想的な教室環境の運用試行
東海大学   宮川 幹平

 コンピュータ実習を伴う授業を、教員・受講生が遠隔から参加し、同時双方向型の授業として実施する方法についての報告が行われた。オンライン上に構築された仮想的な教室空間により実施された授業の予備実験を行い、教員と受講生の間での指導・相談および受講生どうしの教えあいの実現の可能性を検討した。2022年度秋学期に実際の授業において導入する予定である。

B-18 スマートウォッチを導入した健康経営教育の試み
神奈川大学   飯塚 重善

 開講科目「健康経営論」で、受講者にスマートウォッチを貸与して実施した健康経営教育の取組み結果についての報告が行われた。この取組みで、受講生はスマートウォッチにより、自身の健康情報を「入手」し、その情報を「理解」して「評価」し、健康行動に移す「活用」という4つの力を育成することを目標としている。この取組みの延長線上には、企業における社員の「ウェルビーイング」経営があり、これにつながることが期待される。

B-19 教員養成課程における美術教育の特色ある活動
立教大学   南雲 まき

 情報機器を活用することで、教員養成課程における美術教育の授業内容の充実を図った実践についての報告が行われた。オンライン環境を用いて、彫刻家を招聘した授業や海外の大学と交流を実施した。学生によるリアクションペーパーやポートフォリオの記述から、この授業の体験から、美術教育の意義を体感できたことが認められる。

B-20 双方向授業における学生意見のリアルタイムテキストマイニングによる集約方法の検討
中京学院大学   由良 亮

 学生からの匿名コメントを募集・共有する形式の対話型双方向授業の実践結果についての報告が行われた。授業中にはほとんど得られない学生からの発言を、匿名コメントの投稿に代えることにより、学生の学習行動を積極的なものに導くことが可能となることが分かった。その一方で、システム面に、表記の揺れによる問題や単語区切りの問題などがあり、今後の改善が期待される。

B-21 4G沿岸基地局および衛星通信を通じた陸・海遠隔実習・研修の可能性探索
東海大学   千葉 雅史

 洋上での遠隔教育の実現のため、従来の衛星通信に替えて、沿岸域の走行時に、非衛星通信回線の有効性を検証した取組みについての報告が行われた。実際に海上を航行し、沿岸基地局からの電波捕捉状況を確認することにより、安定した通信状態が確認された。これにより、陸・海間学生フォーラムや乗船実習課程での資格教育に応用可能であることが分かった。

B-22 カリキュラムの最適化に資する「FUプラスアップ授業」の取組み
福岡大学   鈴木 学

 半期2単位の15回授業の1回をオンデマンド型授業として実施することにより、過密化した学年暦の問題解決を図ったことについての報告が行われた。授業の初回をオンデマンド型とする「スタートアップ授業」を実施することにより、提供されるシラバスや初回授業内容の詳細解説により、学生の履修のミスマッチを防ぐなどの効果が得られた。


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