事業活動報告 No.2

2022年度
ICT利用による教育改善研究発表会開催報告

 本発表会は、文部科学省の後援を受けて、全国の国立・公立・私立の大学・短期大学における教員を対象に、教育改善のためのICT利用によるFD活動の振興普及を促進・奨励し、その成果の公表を通じて大学教育の質的向上を図ることを目的としており、平成5年(1993年)から令和4年(2022年)で30回目になっています。
 今年度も引き続きオンラインによる発表会とし、発表者全員に13分による発表映像の提出を事前に求め、8月25日(木)に会場から43件の研究発表を配信しました。その上で参加者と発表者の質疑応答は遠隔リアルタイムで行いました。当日の発表会終了後、1次選考を行い、2次選考の対象8件を選考しました。発表会のオンライン参加者は、発表者を除き105名(47大学、1短期大学、賛助会員4社)でした。その後、9月25日(土)に第2次選考を実施し、授賞者を決定し、11月30日(水)の本協会第35回臨時総会冒頭に文部科学省専門教育課企画官立ち合いの下、表彰式を行いました(表彰式等の詳細は、本号の「私情協ニュース」で紹介しています)。

※以下の発表者名は、発表代表者名のみ掲載しています

Aグループ

A-1 学習状況一覧プラットフォームを用いたオンラインプログラミング演習の実施
中央大学   飯尾  淳

 当該校で2022年度から開始された全学部横断的演習授業である「iDSプログラム」は、全学部学生の希望者を対象としており、学部の垣根を越えた演習活動が可能である。ただし、各学部が複数のキャンパスに分散していることから、遠隔の参加地点を結んでのオンライン演習とせざるを得ないため、各学生の学習状況をその場で確認しづらいとの問題がある。その解決のために、オンラインでのプログラミング演習の円滑な遂行を支援する学習状況一覧プラットフォームMultiViewを開発し、実際の演習において利用し、有効性が示された結果について報告があった。

A-2 統計分析ソフト「R」を用いたデータサイエンス学習におけるICTの活用
金沢工業大学   西  誠

 当該校では、情報のための統計科目を開講している。この科目では数値データの統計的評価について、その数学的意味を理解するとともに、統計分析フリーソフト「R」を用いて統計分析を実践し、データサイエンスに関する知識と技能を深めることを目的としている。令和3年度は、オンデマンドと対面を組み合わせたハイブリッド型授業の中で、様々なICT環境を活用して授業を実践した。その結果、多くの学生が興味をもって統計分析に取り組み、学習目標を達成できたことの報告があった。

A-3 産学連携と学生主体の調査を基礎とした学部で取り組む教育改善
立教大学   山口 和範

 当該校では、新型コロナの感染拡大に伴いオンラインでの教育を導入することになった。オンライン授業そのものの導入の経緯は、対面授業の代替としてのものであったが、教育の質保証や改善のための取組みをNECネッツエスアイ株式会社との産学連携の共同研究として推進し、また、学生が主体となる調査の実施、エビデンスに基づく協議を重ね、オンライン授業の質の改善を行ってきた。今年度は、オンライン授業を、代替としてではなく、大きなメリットを持つ教育方法として実施している。学部全体での産学連携による学習環境の改善の取組みと、経営学部学生の多くが履修する授業における教育改善の取組み事例について成果報告があった。

A-4 基礎化学実験におけるLMSを活用したハイブリッド授業とデータサイエンス導入の試み
明治大学   小池 裕也

 当該校における必修科目「基礎化学実験」は、対面実験とオンデマンド実験を活用するハイブリッド授業で実施されている。この授業科目では、対面実験による直接的な学びと、明治大学のLMSである「Oh-o! Meiji」を活用したオンデマンド実験による自主的な学びを併用することで、学習機会の提供を目指した。授業改善アンケートの結果から、ハイブリッド授業による、LMSを利用した事前学習の有効性を検証できたことに加え、LMSを活用し、数理データサイエンス人工知能リテラシープログラムに基づくデータサイエンスを導入する新たな試みを実施したことについても報告があった。

A-5 ICTを利用した人文学部におけるデータサイエンス教育−遠隔リアルタイムでの実践
和洋女子大学   間淵 洋子

 コロナ禍におけるオンライン授業での協働性の確保と、文系学部におけるデータサイエンス教育の実践を目的とし、「日本語学特殊演習T」において、身近な日本語を対象とした言語計量分析を学生らに実践させた。この授業では、学生発表を主体とし、Zoomのチャットやブレイクアウトルームを活用した、即時的・協働的アクティブ・ラーニングを目指した。また、数学・統計やPCへの苦手感軽減のためにWebブラウザ上で動作する簡便な解析・統計ツールを用いた。細かなフォローによって知識・技能の定着を促したこと等により、学修意欲の向上と課題解決に伴う自己効力感の向上が見られた旨の報告があった。

A-6 大学における学修成果の電子書籍化による知の循環構造の構築
追手門学院大学   湯浅 俊彦

 デジタル・ネットワーク社会における大学の果たすべき役割は、ICTを活用して学生の主体的な学びを促進し、課題解決型の授業実践を行うことである。当該校における事例を中心に、学生の学修成果を電子書籍化し、学内の電子図書館に登録、公開し、そこからまた新たな知見を生産、流通、保存、利用する「知の循環構造」の構築する実践について報告があった。また、PDFファイルではなく、EPUB3という国際的な電子書籍の標準フォーマットで制作することにより、電子書籍の本文検索や音声読み上げ機能など、アクセシブルな電子書籍を提供できることが、本実践の特長の1つとして示された。

A-7 反転授業とオンデマンド・グループワークの相乗効果
関西学院大学   木本 圭一

 本研究は、財務諸表に関する知識の定着・活用、財務諸表分析という判断力の獲得、学修過程及び学習成果の可視化による成長支援、質を伴った学習時間の増加を図ることを目的に行った。
 2022年度は、全面対面授業となったことで、対面グループワークにGoogle Documentへの書き込みを行うこと(オンデマンド・グループワーク=時間外学修時間を活用した反転授業により相乗効果を得る)で、分析対象企業の戦略やビジネスモデルの検討を財務諸表分析数値と関連づけて検討がなされ、学生の満足度や積極性を自由記述により成果を確認することができた旨の報告があった。

A-8 遠隔方式による経営シミュレーションゲーム授業
日本大学   川野 克典

 本研究は、ボード型の経営シミュレーションゲーム「戦略MGマネジメントゲーム」を活用していたが、コロナ禍で実施不可能となったために、新たに「BG21improved by KK」を開発し、Zoom、Google Classroom、及びForms, Storm Xeより作成した動画配信等を統合化して遠隔授業に対応した実学が学べるアクティブ・ラーニング授業を実践した。
 成果として、学生アンケート結果において「考える力が伸びたか」という問いに対して「強くそう思う」「そう思う」の合計が前期83%、後期94%という結果から、対面授業と同等水準の授業を実現できた旨の報告があった。

A-9 大学オンデマンド授業に於ける学生の集中度や参画意識を高める教材作りと授業改善
東京福祉大学   杉山  章

 本研究は、オンデマンド授業において、リアクションペーパーの提出をそれを次回の講義に教員が読み上げることで、オンデマンド授業に参加する学生の集中度や参画意識を高める効果の実証を行ったものである。報告者は、担当している7つの科目について、ハイブリット授業において、リアクションペーパーを活用した授業を行った。その結果について無記名のアンケート調査を行ったところ、学生の評価としてリアクションペーパーの活用について肯定的社会的な結果を得ることができた旨の報告があった。

A-10 ポストコロナ時代による学生の意識変化調査〜ICT活用に関する実証を通して〜
静岡英和学院大学   金  承子

 ポストコロナ禍時代における大学教育の在り方について考察した報告である。報告の授業科目「簿記原理」は対面授業であるが、ICTを活用した授業を実現しつつあること、当該授業受講生に対するアンケート回答結果に関する分析結果等の報告があった。学生は「対面授業」方式と「オンライン授業」方式が併存する現状を理解するものの、将来に漠然とした不安を持っていること、単に授業でICTを活用することではなく、ICT活用から得られたノウハウを対面授業に積極的に応用すべきであること等を結論付けている。

A-11 A履修選択と学修機会の充実に向けたスタートアップ授業動画の効果
福岡大学   鈴木  学

 2021年度に導入された「FUプラスアップ授業」の取組みに基づいた報告である。この取組みは、半期2単位15回の授業のうち1回分をオンデマンド型授業で実施するもので、主に第1回目をイントロダクション部分と授業内容部分の二部で構成されたスタートアップ授業動画として学生に提供している。2021年度と2022年度の動画へのアクセスログ分析結果について報告がなされ、学生が動画を複数回視聴すること、多くの学生が動画に広く触れている等の傾向が明らかとなった。加えて、スタートアップ授業動画が学生の履修選択と学修機会の充実に寄与していることが示唆された。

A-12 「場の力」を創出する、実習におけるICT活用事例
名古屋学芸大学   谷口 友帆

 同じ教室で共に学ぶ仲間の「刺激」、空間を共にする学生の発言、取り組む姿勢、アウトプットの質などの「気配」を「場の力」と定義し、これに着目した報告。オンライン授業の実習科目においてクラウドとミーティングツールを組み合わせたICTを活用して「場の力」を創出し、学びの誘発に取り組んだ。「即時性」、「アーカイブ性」、「フォーカスの力」そして「プレイバック」の4つの要素に効果を見出したこと、またオンライン授業であるにもかかわらず、授業内で学生間の刺激が生まれていること等の報告があった。

A-13 不正行為の防止を考慮した遠隔試験の試み
福岡工業大学短期大学部   上村 英男

 本研究は、問題漏洩や不正行為の防止に配慮した記述式試験の遠隔実施の可能性について考察している。試験実施にあたり、@記述試験の遠隔での実施、A問題漏洩の可能性を低くする、B不正行為の可能性を低くするの3点を配慮している。
 問題漏洩に関しては、OneDriveに備わっている「PDFを参照のみ許可する」機能の「問題は表示される」が「ダウンロードはできない」を活用し、不正行為の防止についてはTeamsにおけるビデオ通話機能を活用して受験時の姿をリアルタイムでモニタリングした。結果一定の成果を上げることができたが、悪意をもって不正行為に及ぼうとする受験者に対して対策は十分とはいえないという結果を得た旨の報告があった。

A-14 4G沿岸基地局および衛星通信を通じた陸-海遠隔実習・研修の可能性探索
東海大学   千葉 雅史

 当該校では、望星丸による航海を通じて日露学生間の相互理解を促進する科目が開講している。ここで展開される「陸-海間学生フォーラム」の円滑な進行と運営に必要なシステム構築や環境整備について報告と、種々の通信経路を活用した遠隔授業の双方向配信の実現に向けた実験的な取組みが紹介された。国内モバイル通信事業者が提供する「海でもつながる」回線を活用した「陸-海遠隔実習・研修」の可能性、資格教育(海洋実習授業)への応用展開の可能性等を明らかにした。

Bグループ

B-1 オンライン授業に対応する手指衛生指導の可視化とその教育効果の検討
大手前短期大学   白水 雅子

 歯科衛生学科の学生を2群に分け、手洗い指導に加えて片方の群に水性ペイントを用いた手洗い手順の動画供覧を加え、アンケート、手洗い時間、手洗い後のATP拭き取り検査と細菌培養を指標とした洗い残しを調べた研究である。手洗い指導(文書の重要な部分を引用して読者の注意を引いたり、スペースを使い注目ポイントを強調したりできる。テキスト ボックスは、ドラッグしてページ上の好きな場所に配置できる)前後の比較では両群とも意識向上、手洗い時間の延長、洗い残しの減少が認められたが、両群間の比較では動画視聴群で手洗いについての意識向上が認められた以外、有意差を認めなかった旨の報告があった。

B-2 ICTを活用したパンデミックにおける地域医療臨床実習代替プログラムの開発と評価
帝京大学   井上 和男

 コロナ禍で実施困難となった医学部5学年の地域医療実習について、キーワードを題材に問題解決を試みるシナリオ、および指導者の経験した臨床事例のストーリーを追いながら医師としての対応を検討するシナリオを用意し、学生はレポート提出後の動画フィードバック等の形成的評価を受ける、オンライン完結型の代替プログラムの開発を試みた報告である。学生レポートに対する教員の動画によるフィードバックが学生の高評価を得た旨の報告があった。

B-3 医学部臨床実習におけるICT利用による省察促進と学習効果の実感および学習意欲向上
近畿大学   貫戸 明子

 臨床実習のアウトカムや獲得すべきコンピテンシーの設定を明確化し、ICTを活用して術者目線の手術映像、オンライングループディスカッション等を用いてコミュニケーション能力、患者への配模や責任感の醸成を図るとともに、相互評価や省察支援等を行って、学修環境に影響されない学修機会の提供と質保証の担保を試みた報告である。カークパトリックモデルを用いた学習効果の検証の結果、この試みが学習効果の実感と学習意欲の向上に資する旨の報告があった。

B-4 計量テキスト分析によるハンディキャップ体験の教育効果の検証
東北医科薬科大学   渡部 俊彦

 薬学部1年次のハンディキャップ体験学習の際にLMSに入力された感想文のテキストマイニングによって教育効果の客観評価を試みている課程で、コロナ禍によって学生相互の接触を伴う実習が実施できなくなったことから学生が感じるべき特定の項目に欠落が生じていることを計量テキスト分析によって明らかにし、それらの結果に基づいて実習内容を工夫することで低下した教育効果の一部を改善できた旨の報告があった。

B-5 ICTを活用したハンディキャップ体験学習の実践
東北医科薬科大学   宍戸  史

 医学部1年次の早期医療体験学習で実施されているハンディキャップ体験学習のコロナ禍に伴うオンライン化によって生じた学習項目の制限(自宅で実施可能かつ介助者不要の機能障害体験,高齢者擬似体験,聴覚障害者体験に限定)による教育効果の変化を、LMSに入力された感想文のテキストマイニングで調べた試みである。その結果、オンライン体験学習では 参加した学生が 聴覚障害体験に強い印象を受けた旨の報告があった。

B-6 薬学部5年生への学習支援に用いられたICT教材の効果比較
神戸学院大学   福留  誠

 コロナ禍における薬学部5学年の要学修支援学生への補講として、国家試験過去問を利用した4種のオンデマンドWeb教材(1.設問難易度を答える教材、2.Webテスト、3.重要単語解説教材、4.重要単語をクイズ形式で学ぶ教材)を提供し、模擬試験3回の成績を解析して各教材の学習支援効果を調べた結果、4学年時GPAが比較的高値であった学生の重要単語解説教材の履修率が高く、当該学生の初回模試の成績が有意に高かった旨の報告があった。

B-7 同時双方向授業から見えた水理学の教育改善について
日本大学   安田 陽一

 土木分野の主要専門科目の一つである水理学において、授業動画を視聴できるポータルサイトや減点評価システムなどを利用し、対面授業とオンライン授業を半々で行う同時双方向授業を実施した。これらシステムの導入により、学生の取り組む姿勢を多角的に評価することが可能となり、積極的に対話する学生、幅広く関心を持つ学生、実務的な観点から学問を考える学生など、活性化した学生が多く見られるようになった旨の報告があった。

B-8 コンピテンシー基盤型のCAD/CG教育
立命館大学   笹谷 康之

 CAD/CG教育を対象として、言語情報、知的技能、認知的方略、運動技能、態度を効果的に向上させるメタ認知を可視化し、コンピテンシー基盤型教育を実践した。Google Workspace for Educationを活用して教材を運用し、学生が学修十戒に基づいて学修の自己管理ができるようにしたことで、成績の向上が図られた。また、振り返りから気付きの変化を可視化することで、Slack等を活用したメタ認知方略を明らかにした旨の報告があった。

B-9 市販のLMSを利用した学習の習慣付けの支援
東京都市大学   小林 志好

 1年生前期の必修科目であるSD-PBL(1)において、学習サイクル1(経験⇒振り返り⇒意識した行動)と学習サイクル2(予知⇒行動⇒振り返り)という二つの学習サイクルを導入した教育を実践した。市販のLMSを活用し、授業終了後に振り返りと目標を書かせることによって、学生に気付きを促すことが可能となった。本取組により、学生の理解度が向上するとともに、問題解決能力や系統的な学習への意識が高まった旨の報告があった。

B-10 オンラインツール利用による遠隔授業の利点活用及び不自由さ改善に関する取組み
東海大学   土屋 秀和

 遠隔授業には復習しやすい、自分のペースで学習できる等の利点がある一方で、直接コミュニケーションが取れない等の不自由さがある。遠隔授業の利点を活かしつつ、不自由さを改善することを目的として、オンタイムのビデオ会議という形式で授業を実施し、ライブ感の充実を図った。本取組により、遠隔授業でありながら、対面授業に近い感覚の遠隔授業が実施でき、従来の遠隔授業で感じられた不自由さの軽減が認められた旨の報告があった。

B-11 バーチャルリアリティ(VR)技術を用いた食肉衛生検査実習の取組み
酪農学園大学   内田 玲麻

 食肉衛生検査は獣医師の重要な職責であるが、食肉衛生検査所の設置数が少ないことや安全面の観点から、大学における斉一教育としての実施が難しい。この問題を解決するため、牛のと畜検査を疑似体験できるバーチャルリアリティ教材を行政及び企業と共同で開発した。本教材を体験した学生や獣医師から、想像以上にリアルであり、実習に参加する準備段階として検査の流れを理解するのに有用である等の好評価が得られた旨の報告があった。

B-12 ハイブリッド授業における双方向性を向上させる授業方法
中京学院大学短期大学部   由良  亮

 日本では教員から学生への一方向授業が普通であり、暗黙的に発言の間違いを認めない雰囲気があるため、双方向授業を実施しても対応できない学生が多い。授業の双方向性を向上させるため、Zoomのチャットファイルをリアルタイムで監視し、匿名コメント化するプログラムを開発した。本プログラムを活用し、匿名化された意見や質問を随時取り上げながら授業を実施したところ、多くの意見・質問が寄せられるようになった旨の報告があった。

B-13 自律的に学ぶ姿勢を育む個別化教育の推進―医療人を目指す者の学び方改革
滋賀医科大学   向所 賢一

 対面授業とハイフレックス型講義との併用、講義動画のオンデマンド配信、講義動画を活用した学生による反転授業教材の作成、検索可能な医師国家試験プール問題の提供等をおこなって学生満足度の向上および医師国家試験への早期からの動機付けに加えて教員のモデルコアカリキュラムの授業内容への反映を図ったことにより、授業時間に制約されずに学生の自律的に学ぶ姿勢を育む個別化教育を推進している旨の報告があった。

B-14 医療における倫理観の醸成を目指したカリキュラムにおけるICT活用の教育効果の検証
昭和大学   加藤 里奈

 在宅医療のシナリオを題材として、医・歯・薬・保健医療学部の学部連携グループ討議をおこなう科目「在宅チーム医療を支えるNBMと倫理・」において、オンラインツールを活用することで在宅医療における倫理的問題について学生が多角的に討議して理解を深化させる授業を展開した結果、患者や家族の立場に立った倫理的な問題に配慮した対応について、90%以上の学生が医療者として倫理観を一層深化させる必要性を認識できた旨の報告があった。

Cグループ

C-1 学生の授業省察力を高める遠隔授業観察の教育効果
四天王寺大学   福本 義久

 教職科目において、初任教諭としての「授業実践力」を高めるため、遠隔授業観察により受講生の「授業省察力」を養う試みの報告。小学校初任教諭(本学卒業生)、受講生、担当教員の3者をZoomで結び、教諭の授業を観察・録画。動画視聴により授業の振り返り、授業記録作成と省察を行わせ、受講生の「授業省察力」を養った。初任教諭においてはPMメソッドにより「授業実践力」の向上を確認した。授業アンケート及び授業省察記録から受講生における「授業省察力」の涵養が認められた旨の報告があった。

C-2 授業内での講義動画視聴によって個別最適化学習を図る授業実践
新潟青陵大学短期大学部   峰本 義明

 知識の定着を図るため、講義動画を作成し、授業中に受講生個々のペースで視聴させ、受講生同士の意見交流を実施した授業実践報告。動画、意見交流はScrapbox、LearnwizOne、Slideを利用し、Google Classroomをプラットホームとして授業環境を構築した。授業方法に関する学生アンケートからは、講義動画の授業内視聴は授業全体の評価を高めること、また、専門知識の学びでは個々のペースや理解度に合った学修の有効性が確認できた。知識の定着への効果は未調査であり、今後の課題とする旨の報告があった。

C-3 電子黒板の板書の仕方、タブレットPCを使ったデジタルノート作成指導方法の開発
椙山女学園大学   坂本 徳弥

 教職課程において、電子黒板やタブレットPC等のICT活用を学生に体験させ、その必要性を理解させるための授業実践報告。ICT活用により学習者全員の授業参加、板書時間の短縮と板書内容の配信、書写時間の短縮と多様なコンテンツを含むデジタルノート作成が可能となる。ICTを活用した授業方法を学生に体験・修得させることにより新たな学びの長所を理解させた。4回の授業アンケートの結果からは、電子黒板及びデジタルノートの使用に対する学生の関心の高まりが確認された旨の報告があった。

C-4 ICT活用による多様性に応じた子ども・子育て支援を通した保育者養成
京都女子大学   瀬々倉 玉奈

 乳幼児保育・教育及び心理学的なアプローチによる子ども・子育て支援を実践し、並行して保育学生を支援者として養成する活動を講義内外で行ってきた。当初は対面形式であったが、コロナ禍を機にICTツールが導入され、オンラインならではの親子支援プログラムを行うなど積極的・能動的なICTツールの活用を図った。これにより、学生間、学生・教員間のコミュニケーションが活発化し、学生自ら問題を発見し対応策を練るなど、非認知能力の活性化にも効果があったと考えられる旨の報告があった。

C-5 遠隔授業における質問支援機能の利用とその効果
静岡産業大学   永田 奈央美

 コロナ禍により、ビデオ会議システムとLMSを組み合わせた同期・非同期講義配信形態で講義が行われており、一定の成果を上げているが、教師と学生のコミュニケーション不全という新しい問題も生じてきている。本研究では学生の「質問」という行為に注目し、学生の疑問解消を支援する質問支援機能を提案した。学生は、5種類の質問テンプレートから選択して質問することができる。3つの科目の遠隔授業で利用し、学生の質問状況を分析したところ、課題中心科目では自由記述のテンプレートが多く、疑問を呟くテンプレートが少ない、などの傾向があることがわかった旨の報告があった。

C-6 タブレット端末を用いた遠隔授業の理解度向上への取組み
東海大学   田中  真

 タブレット端末を使った授業改善の取組みを2020年度秋学期から3学期にわたって実施した。ライブの授業中に、タブレット端末とアプリを使い、黒板を模擬した手書きの操作を積極的に取り入れた。これにより、高速で一方的に解説していた授業に小休止が生まれ、学生が噛み砕いて理解する時間が生まれるなどの効果が期待される。分析の結果、積極的な質問数の増加、成績の向上という良好な結果が得られた。また、タブレット端末を使った板書という基本操作に立ち戻ることで、どの授業科目でも教育効果が向上する可能性を示した旨の報告があった。

C-7 クラウド型スプレッドシートを使った英語語彙集課題−学習者の自律性欲求に注目して−
京都外国語大学   ラムスデン 多夏子

 与えられた語彙を学ぶという従来の語彙学習への疑問から、自分で選択した語彙を学習する半自律型授業外学習課題を開発し、大学の英語資格試験対策の授業で実践した事例報告である。語彙を記録するツールにクラウド型スプレッドシートを使用し、学習成果を可視化して共有することで、同じ目標を持つ学習者同士の連帯感を形成し、学習への動機づけを進め、学習者の自律性欲求を高めた。また教師が進捗状況を常時モニタリングして課題を確認できることによってTOEICスコアアップにもつなげることができた旨の報告があった。

C-8 LMS利用の隔週語学(英語)授業−語学授業の頻度への挑戦
学習院大学   山本 昭夫

 隔週で対面式とオンデマンド式を組み合わせた語学(英語)授業実践を通して、大学の語学授業回数の頻度に一つの問いを投げかける試論である。隔週の対面式授業では受講生が学修意欲を高めてより積極的に英語で対話を行ういっぽうで、オンデマンド式授業においては受講生による課題提出の習慣が定着した。教室外学修時間を増やすことにより自立した学修者育成につなげた。またICTとしてはWebclassというLMSを活用して課題や資料の指示・提出および確認を行った結果、受講生の課題提出が定着し、かつ教員の課題管理も容易になったと旨の報告があった。

C-9 大規模公開オンライン講座(MOOCs)を活用した留学代替プログラム
東京女子大学   鈴木 夏代

 国際英語専攻学科におけるコロナ禍の留学代替プログラム(単位認定)として、英米圏の大学が提供する講義視聴可能な大規模公開オンライン講座(MOOCs)を活用し、専門科目を担当する教員らが授業を立案して実践した授業改善の事例紹介である。特筆すべきは教員の意識改革や変化への対応を促して専攻をあげての取組みにできた点である。MOOCsのコース作成者による聞く・読む課題、クイズ、世界の受講者との意見交換 (チャット)などがプログラムされた学習活動(タスク)に加え、教員が学習者主体の学びと協働学習を促す代替プログラムを作成した。具体的には、自主学習用として設計されたプラットフォームを授業と並立させて授業と授業外の学習の一体化を図った。その結果、学生の授業外学習時間の確保と学習に取り組む姿勢に大きな改善がみられた旨の報告があった。

C-10 地域産学協働によるゴルフ場でのPBIの取組みとICTを活用したモニタリングの試み
帝京平成大学   庄司 一也

 大学生の学習内容や希望を活かせるようにゴルフ場運営会社と協働してインターンシップの内容を精査し、同時に地域の課題解決にも取組むインターンシップ(PBI)を実践した事例紹介である。このインターンシップをとおして、学生たちはゴルフ業界への理解だけでなくゴルフ場の説明、施設見学、業務の模擬体験などさまざまな貴重な就業体験の機会も得ることができた。またゴルフ場とキャンパスとをICTを活用してリモートでインターンシップの中継を行い、関係職員にもその内容をライブ配信するといった「オンラインモニタリング」を実施し、コロナ禍でも教職員がインターンシップに一定の関与や指導を実現できた旨の報告があった。

C-11 コロナを経験した教育に求められるオンラインと対面の融合授業の重要性
相模女子大学   小泉 京美

 大学がWithコロナ時代へと変化して対面授業に戻りつつある中、大規模授業でのオンライン授業の有効性を学習効果に基づいて検証した報告であった。大規模授業で受講する学生がどのような授業を望んでいるのかということを探求するため、学生の授業に対する積極性と欠席防止対策という観点から大規模授業15回の講義の中で3種類の形式で授業を実施した。具体的には@対面ハイブリッド、Aリアルタイムオンライン、Bオンデマンドの3種類の形式で実施し、テキスト・動画の閲覧回数、課題提出回数、出席などのデータを分析して学習効果を検証した結果、オンラインと対面を融合させた対面ハイブリッド授業の重要性が示された旨の報告があった。

C-12 コミュニケーションツールを活用したハイブリッド型PBLの受講継続と葛藤と学びの接続
帝京大学   李  永淑

 「ソーシャルビジネス実習基礎(前期)」と「ソーシャルビジネス実習(後期)」において、ICTとPBLの接続を試みた事例紹介である。これらの授業は社会的企業と連携して学生たちが「働くとは何か」を言語化するプロセスを支援する授業である。しかし、課外活動も多く学生にとって負担の大きい授業として以前は途中で離脱する学生が多かった。そこでICT導入を機にコミュニケーションツールを活用したハイブリッド型PBLとして再設計を行った。その結果、シームレスな教育機会を増やすことにより報告連絡相談が常態化した誰一人取り残さない学習プラットフォームを構築することができ、「負担の大きい授業」として学生たちの間で受講を継続できるか否かという葛藤が多かった科目が、開講以来最多の学生が通年履修できた旨の報告があった。

C-13 コロナ禍のハイブリッド型体育授業が大学新入生の健康生活習慣にもたらす効果と課題
東京電機大学   加藤 知己

 コロナ禍により大学生の健康に悪影響が及ぶ中、ICTを活用したハイブリッド型体育授業を展開し、初年次学生の健康生活習慣に対する教育効果を検証した報告。授業においては、遠隔によるグループワーク実技や講義、学習管理システムによる健康生活習慣を育成する課題などを取り入れた。教育効果を分析したところ、運動頻度、朝食摂取頻度、社会的スキルの低い各学生群において受講による改善効果が確認された。一方、不眠傾向と友人数に対する効果は確認されず、今後の課題とした旨の報告があった。

C-14 栄養士養成課程におけるAI教育の導入とICT活用による教育効果の向上について
大阪夕陽丘学園短期大学   治京 玉記

 基礎学力低下と学力ばらつきの問題を孕む栄養士養成課程における、AI、ICT、OODAループを活用した教育効果向上戦略に関する報告。AIドリルによる入学前教育、e-learningとTBLによるリメディアル教育、そしてスタディサポートをOODAループで連携。AIドリル、リメディアル教育の目標未達成者はスタディサポートにより基礎学力を底上げし、AI解析で抽出された躓き項目はリメディアル教育により基礎学力のばらつきを防止。その結果、基礎学力向上、必須科目の理解度向上等の効果が認められた旨の報告があった。

C-15 学修目標を自己チェックする仕組みによる受講生の主体性促進の試み
武蔵野大学   中村 太戯留

 ICTを活用して学修目標を受講生が自己チェックする仕組みを作り、受講生が主体的に課題内容の質向上に取り組む手法の実証的提案。具体的にはGoogle Classroom/Formsにより次の(1)〜(3)を実施した。(1)学修目標、実施する課題、評価項目の3項を準備。(2)授業冒頭で学生が学修目標を確認。(3)授業のまとめ時に学生が評価項目を自己チェック。受講生アンケートによれば、(2)と(3)は5段階評価で最頻値が5、教員評価と受講生の自己チェックの一致率は8〜9割。これらの結果から、提案の有用性が示唆されたといえよう。


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