特集 学修者本位の教育の実現、学びの質の向上を目指した大学教育のDX構想(その3)

鳥取大学における総合的学生支援
(Quality of College Life)の充実へ向けた
DX推進の取組み

三好 雅之(鳥取大学 教育支援・国際交流推進機構 高等教育開発センター准教授)

1.はじめに

 本学は、地域学部、医学部、工学部、農学部の4学部からなり、鳥取大学憲章に掲げる基本理念「知と実践の融合」のもと、実学を中心として地域の課題を解決し、それを普遍的な知へと展開して我が国及び国際社会に貢献してきました。現在、我が国では人口減少と東京一極集中が進む中で、地域の持続的な発展のため、地域にある大学は地方創生に貢献することがますます強く期待されています。本学では、「地域大学力」をキーワードとして地(知)の拠点大学としてのさらなる機能強化を進めています。その中で「教育力」のためのDXの目標は、総合的学生支援(Quality of college Life)の充実、「自ら学ぶ」教育の効果の最大化をキーワードとしています。
 以上の取組みを進める中で、2020年度に文科省「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」の採択を受けました。本稿では、本プランの概要について紹介します。

2.取組み名称

 総合的学生支援(Quality of College Life)の充実を達成するLMS-eポートフォリオビルディングシステムの構築

3.大学全体のDX推進計画

 本学における教育のDX化推進計画(申請時点)(図1)では、以下の2点を柱としています。

図1 鳥取大学デジタルキャンパス構想及び教育のDX化(申請当時の推進計画)

 本事業は、教育のデジタライゼーションを進める双方の柱にかかる基盤となるシステムとして位置付けています。システムを全学で活用できるように機能拡張するとともに、教育関連システム等と連携します。全ての学生が、「自立的学びと経験的成長の可視化」をもって学修成果を示す、教育の人材育成デジタライゼーションを目指します。

4.取組みについて

 本学では、これまでに学生の学修成果を可視化し、1年間の学びの成果を振り返ってさらに発展へ繋げるといった全学的なシステムがありませんでした。そこで、今回の事業採択を受け、申請時における教育DX推進計画に基づき、図2に示すような、学生の成長の実感と学修成果の把握により「総合的学生支援(Quality of College Life)の充実を達成するLMS-eポートフォリオビルディングシステム」を構築することを目的に進めています。本システム構成は、LMS→学修(フォーマル学習、インフォーマル学習)→学修成果の蓄積・可視化→自己アピールショーケースの作成へと積み上げていくビルディングをイメージしています。正課であるフォーマル学習を従実させることはもちろん重要ですが、一方で学習機会に関する研究では、約70%が学校教育外の学修であるインフォーマルによる学びともいわれています(Kimら,2013)。以上のことから正課であるフォーマル学習のみならず、インフォーマル学習が促進される学修環境を整備するとともに、その成果をアピールでき、評価できるシステム構築を進めています。

5.具体的内容

 今回の事業では、特に図2の(1)〜(3)についてシステム構築を進めています。

図2 LMS-eポートフォリオビルディングシステム概要図

(1)AI解析による個別最適な学修方略のサポート

 各学生への個別最適な学修サポートを実施することを目的に、AI解析機能を導入しLMS中に表示します。具体的な機能は、LMSや学務支援システムに入力されている学修データ(希望職種、成績得点、DP自己評価得点、授業アンケート等)から未来のDP能力別修得度等の学修成果を予測し、学修者へ提示します。学修者の「強み」を明確化するとともに、留年予測等のデータを教員へ通知し、未然に防ぐための必要なサポートを早期に提供可能とします。これにより本学のデジタルキャンパス構想の理念である「誰一人取り残さない地(知)の拠点」の形成に貢献します。

(2)学修者ニーズに沿った多種多様な学びのコンテンツの充実及びリコメンドシステムの導入

 本学では学部編成上、教養教育における人文社会分野の学修選択肢が少ない状況であり、学生アンケートにおいても要望があり、学修コンテンツの充実が急務でした。そのため、フォーマル、インフォーマル双方の学びの充実のため、MOOC等、様々な学びの分野を揃えた学修コンテンツが活用できるよう、企業と連携を進めています。また、多様なコンテンツがある中、学修者がニーズに沿ったコンテンツを効率よく探すことができるようにするため、関連コンテンツのリコメンド機能を構築し、効率的な学びへのアクセスを支援します。

(3)デジタルにおける社会性構築能力を涵養するバーチャルクラスルームの導入

 当初はコロナ禍で学生が大学に来られない状況でも学びを止めないことを目的とした導入でしたが、現在はバーチャル空間での授業やアバター同士のコミュニケーションをはじめ、様々な活用を始めています。例えば医学部のあるサークルでは、学生が入院中の子どもたちへの学修支援や交流をメタバース空間で創造しています。

6.今後の展望

 本事業におけるAI解析による学修支援等を実施するため、また、教学IRとしてのデータ分析を実施するには、各システムに分散している教育関連データを集める必要がありました。このため、データレイク構築と各システム間の連携も進めてきました。今回、全学共通のシステムを構築してきたことで、各学部の分析ニーズにも応えられる体制が出来上がりつつあります。本事業実施における学生の学修成果に関するモニタリングと分析を進めながら、次のステップとしては、全学的な運用に加えて、各学部の活用ニーズにも沿ったシステム構築に繋げることができたらと思います。
 レコメンド機能に関しては、在学生のみではなく卒業生にも活用してもらいつつデータを蓄積することで、例えば銀行に就職した卒業生のログから銀行で活躍するにはどのようなスキルが必要で、どういうコンテンツで学ぶのがいいのかというデータを収集し、在学生に還元できます。こういった発展的なログ活用を実践し、将来的には他大学の学生ともログを共有することで、大学を超えた学びを促進できると期待しています。また、県や地域と連携しながら大学の学修コンテンツやレコメンド機能を県民の皆さんや社会で働く企業の方と共有するなど、誰もが学びたい時に学びやすい環境を整備し、学びの一大コンソーシアムを形成するといった地域貢献も進めていきたいと考えています。


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