特集 学びの質向上に向けたICT活用の取組み(その1)

基礎化学実験におけるLMSを活用したハイブリッド授業と
データサイエンス導入の試み

小池 裕也(明治大学 理工学部応用化学科・専任准教授)

小川 熟人(明治大学 理工学部応用化学科・専任准教授)

1.はじめに

 本学理工学部では、学部1年生に対して「基礎化学実験1・2」および「基礎物理学実験1・2」を必修科目として課しています。したがって、理工学部8学科(電気電子生命学科、機械工学科、機械情報工学科、建築学科、応用化学科、情報科学科、数学科、物理学科)の1年生全員(約1,000名)が、専門分野に関わらず「基礎化学実験1・2」を一年間で履修することになります。実験は無学科混合クラスの形態で実施し、A〜Tの20クラスの各クラスにすべての学科の学生が所属することが特徴です。コロナ禍では、対面実験とオンデマンド実験を活用する「ハイブリッド授業」で、1クラスが実験室での対面実験を3回、動画視聴によるオンデマンド実験を3回の計6回の実験を実施しました。対面実験による直接的な学びと、本学の学習管理システム(LMS)である「Oh-o! Meiji」[1]を活用したオンデマンド実験による自主的な学びを併用することで、自ら情報収集する能力の向上、学生の学修意欲の醸成と学修機会の提供を目指しました。2022年度から、「明治大学数理データサイエンス人工知能リテラシーレベルプログラム科目」のデータリテラシー実習の対象となったため、LMSを活用したデータサイエンスを導入した試みについても紹介します。

2.ICTを活用した授業改善の内容と方法

 2021年度と2022年度にハイブリッド授業を試み、図1に示す流れで授業を構築しました。今後の授業改善に向けた指針を示すことを目標とし、具体的には二つの内容を検討しました。

図1 「基礎化学実験1・2」のハイブリッド授業におけるオンデマンド実験の概略図

(1)オンライン実験教材の精査

 基礎化学実験を受講する学生に、LMSにより全ての実験の収録動画をあらかじめ配信するとともに、実験テキストに収録動画のQRコードを掲載しました。学生の動画視聴の自由度を向上させたことがポイントです。オンデマンド実験用の収録動画において、対面実験をどのようにオンデマンド実験として再現できるかについても課題として取り組みました[2]。安全教育徹底のために、「安全の手引き」[3]の活用や安全教育動画を配信したことも工夫です。

(2)データサイエンス課題の検討

 オンデマンド実験では、学修成果を評価するために、データサイエンス課題としてEXCELを使用したワークシートを配信し、LMSに組み込まれた「小テスト」機能により課題を提出する仕組みを設定しました。「小テスト」には、解答期間終了後の採点結果の公開があり、より迅速なフィードバックを行っています。

3.授業実践の効果

 ハイブリッド授業の試みに対する評価は、LMSの「アンケート」機能で学生からの意見を集計しました。アンケートでは、17の設問が設定されています。ここでは、「この授業は良い授業だと思いますか」と「毎回の授業の事前・事後学習に取り組む時間は平均してどの程度ですか」の二つの設問について紹介します。「この授業は良い授業だと思いますか」の回答を集計した結果,2019年度の対面実験は“とても良い授業だと思う”と“おおむね良い授業だと思う”の好評価が90.4%、2020年度のオンライン実験は86.7%でした。2021年度はハイブリッド授業を試みた結果、好評価は98.9%と非常に高い評価を得ています。授業改善アンケートより教育効果の向上が認められています。
 次に「毎回の授業の事前・事後学習に取り組む時間は平均してどの程度ですか」の3年間の集計結果を図2に示します。事前・事後学習に30分以上取り組んだ学生は回答数に対し、2019年度は17.9%、2020年度は62.1%、2021年度春学期は60.9%、秋学期は51.1%でした。2021年度は、30分以上事前・事後学習を行った学生が50%を超えているものの、秋学期は全くしなかった学生が13.1%となりハイブリッド授業の慣れによる事前・事後学習時間の低下が見られました。オンデマンド実験の動画視聴記録を確認すると授業実施日前に視聴している学生は一部であり、「オンライン実験教材」の事前配信はオール対面実験になった場合、検討が必要と考えています。

図2「毎回の授業の事前・事後学習の時間は平均してどの程度ですか ?」の集計結果

4.今後の課題と展望

 授業改善アンケートの自由記述で、「ちょうどよいペースで講義をしてくださっていたので継続してほしい」、「オンデマンド動画で実験のやり方について説明しているのがよかったと思う」、「オンデマンド授業なのに課題を提出すると先生にフィードバックしてもらえてとても良かった」などのコメントがありました。ハイブリッド授業による、LMS を利用した事前学習は有用であったと考えています。2022年度は「小テスト」用のデータシートをダウンロードしない学生もおり、LMSを有効に活用したデータサイエンス実習の充実も課題です。オール対面実験時の事前・事後学習環境を確立することが、継続課題であると考えます。

謝辞

 「基礎化学実験」に関係する本学理工学部応用化学科の専任教員および兼任講師の先生方、助手およびTAの皆様に感謝いたします。

参考文献および関連URL
[1] 「Oh-o! Meiji システム」概要・利用方法について(明治大学):https://www.meiji.ac.jp/ksys/oh-o_howto.pdf(2023年5月21日参照)
[2] 小川熟人、小池裕也: 「基礎化学実験」におけるハイブリッド授業での材料教育、材料の科学と工学、60、50-53、2023
[3] 実験・実習における安全の手引き(明治大学):https://www.meiji.ac.jp/sst/anzennotebiki.html(2023年6月4日参照)

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