特集 学びの質向上に向けたICT活用の取組み(その1)

LMSで行う確認テストと振返りによる
基礎知識の定着と自発的学修の継続

穴田 有一(北海道情報大学 経営情報学部教授)

1.はじめに

 日本の大学がユニバーサル段階に入ったと言われて久しくなりますが、筆者が勤務する地方の小規模大学では、基礎学力が十分ではない学生が多く在籍し、高等教育機関としての教育成果を上げるのに苦労しています。基礎学力が足りない背景に学修習慣の欠如があることは、現場で教育に当たっている教員ならば痛感しているところだと思います。本稿では、筆者の勤務校で担当する科学リテラシー教育としての教養物理学で実践している基礎知識定着と自発的学修継続の姿勢を醸成する授業について紹介します。

2.授業の進め方とねらい

 授業は、復習を目的とする確認テストと振り返りに主眼を置き、図1に示す流れ(A→B→C)で対面の授業を進めています。授業のプラットフォームはMoodle(LMS)です。授業は次のA,B,Cの順で進めています。

A(約15分):前回授業の内容を思い出すために確認テストを行う。教科書・ノートなど何を参照してもよいが、他の学生に相談せず自力で記憶を呼び戻す。正誤が各自の端末にすぐに表示され、学生はその結果を見て振り返り文を入力する。

B(約75分):講義の間に、2、3回ピアインストラクションを行う。

C:宿題により授業内容を振り返る。宿題は採点後、翌週の授業で返却する。

図1 物理学授業の進め方

 確認テストは前回授業の復習ですが、復習を授業の中で行うのは、自発的に授業の準備をする学生が非常に少ないためです。この授業では、物理学への興味という内発的動機から受講する学生は少数派で、多くの学生は単位修得などの外発的動機から受講しています。しかし、後者の多くは、自発的学修習慣が育っておらず、また後者はもちろん前者でも、基礎知識や前提知識の不足が原因で授業が理解できなくなると、受講をあきらめて学期の最後までたどり着かないという事態に陥ります。
 授業の流れAのねらいは、当日の授業で必要となる前回授業の知識を呼び戻し、さらに振り返りにより内発的動機を刺激することです。振り返りが学修効果を高めるうえで有効であることは、多くの研究者が指摘しています[1]。筆者は、振り返りと知識の定着がかみ合うことで、学修意欲が継続し学修効果が得られると考えています。

3.確認テストと振り返りの結果

 図2は学期末試験平均点、学期末試験の受験者数および履修登録者数に対する学期末試験を受けなかった学生の割合(リタイヤ率)の年度ごとの変化を表しています。図2に赤点線で示すように、2005年度に確認テストを始めてから、100点満点の学期末試験で平均点が約20点上昇しました。これは、授業を始める前に、その前提知識である前回授業の学修内容を思い出すことが学修効果を高めているためであると考えられます。詳細は、筆者の論文をご参照ください[2]。なお、この時の確認テストはマークカードで行っていましたが、2015年度に確認テストをMoodleに移植し、振り返りも導入しました。振り返りの導入後、学期末試験平均点に大きな変化は見られませんが、図2に青点線で示すように、リタイヤ率が減少しました。これは、振り返りと知識の定着がかみ合い、自主的に学修する学生が増えたためではないかと考えています。なお、図2で確認テスト導入前の2002年度の学期末試験平均点が高いのは、この年度の履修者数が極端に少なかったことによると考えています。また、2020年度に学期末試験平均点が高いのは、コロナ禍での大学の方針によりオンラインで学期末試験を実施したためであると考えています。

図2 学期末試験平均点の推移

4.振り返り文の分析

 確認テストの振り返り文をテキスト分析することで、学生が苦手としている物理概念や物理量を見出すことができます。図3は、2022年度の振り返り文全体を対応分析した結果です。この学期の学修分野は①力学的エネルギー保存則、②分子運動と状態方程式、③熱力学第1法則、④熱力学第2法則ですが、各分野に共通する単語は、原点付近に集中し、各分野に特徴的な単語は原点から離れた位置に現れます。「復習」「定着」「頑張る」などの振り返りに特徴的な単語が原点付近にあることがわかります。一方、原点から非常に離れた位置に、物理用語「カルノーサイクル」が現れています。そこで、学生が書いた膨大な量の振り返り文から「カルノーサイクル」を含む文を抽出すると、この概念の理解に困難を感じていることがわかります。このような分析を行うことで、学生が学修上で困難を感じている概念を見出し、授業改善に活用することができます。この分析の詳細については、筆者の解説をご参照ください[3]

図3 2022年度振り返り文の対応分析

5.まとめ

 本稿では、自発的学修習慣が十分ではない学生が多いクラスの教養物理学の授業で、確認テストにより授業の前提知識を思い出し、振り返りにより内発的動機を喚起することで、学修効果が向上する可能性を指摘しました。また、振り返り文のテキスト分析により、学生が苦手とする物理概念や物理量を把握し、授業改善に活用する可能性についても触れました。なお、ここでは説明を省きましたが、授業中に行うピアインストラクションへの学生の参加度について、筆者らが調査した研究があります[4]。これは、ピアインストラクションでどの学生がどれだけ話したか、音声を記録して分析したものです。このような分析から、学生の学修意欲を別の角度から調査することも可能であると考えています。

参考文献
[1] 和栗百恵,国立教育政策研究所紀要,139, 85-100 (2010).
[2] Y. Anada, Proceedings of the 20th International Conference on Multimedia in Physics Teaching and Learning (European Physical Society), 285-292 (2015).
[3] 穴田有一,大学の物理教育(日本物理学会),24, 19-23 (2018).
[4] Y. Anada, et al., AIP Conference Proceedings, 110002-1 - 110002-6 (2021).

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