特集 学びの質向上に向けたICT活用の取組み(その1)

ICTツールを用いて調布市と南部町における
「空き家活用」の可能性を探る

髙橋 大輔(共立女子大学 建築・デザイン学部建築・デザイン学科教授)

1.はじめに

 現在、筆者は調布市まちづくりプロデューサーという立場で市内住宅地の「空き家」を地域の居場所としてどのように活用するかという活動と、鳥取県西伯郡南部町の豊かな農村地域に建つ規模の大きな「空き家」を活用した地域の居場所づくりの活動をゼミナールの学生たちと行っております。
 調布市と南部町を単純に比較することは難しいのですが、ICTツールを学生たちと使うきっかけになったのが、行政チームと一緒に空き家問題をどのように考えていくかが始まりでした(図1)。

図1 LINEを使ったICT教育授業までの流れ

2.調布市とのICT教育活動について

 調布市は2020年度に東京都の「先駆的空き家対策東京モデル支援事業」[1]に採択され、SNSを活用して空き家予備軍を可視化するためのプロジェクトを始めました。また科研費基盤研究としてもこのプロジェクトの一部が採択されておりました。都内でも空き家が少ない調布市ですが、いずれ空き家が増えるであろうという予測から、若い世代への空き家啓発活動を行うため、最初は筆者のゼミ活動[2]として、次に1年生の課題解決ワークショップという授業(写真1)として、さらに筆者のゼミと晃華学園中学校高等学校の佐藤駿介先生と生徒たちで、LINEを使った空き家問題に対する解決策のアイデアを企画提案する活動を行ってきました。コロナ禍での活動だったため、関係者の打合せはすべてオンラインで行いました。大学生・高校生・中学生による幅広い年代がオンライン上で一緒に取り組むというだけでもハードルが高いプロジェクトでしたが、活動範囲をさらに広げ、地域住民と取り組むハッカソンプロジェクト(写真2)や「15年後の我が家へ」住まいのフォトレター展コンテスト[3]を実現することができました。このコンテストは高大連携のプロジェクトとして、最初の企画段階からLINEを使ったコンテストの告知、事務局運営まで、中高大生が協働したこの活動は大きな反響を呼び、調布市民だけではなく、全国に広がり、大成功を収めました。これら一連の活動は、TechPlant株式会社代表取締役兼IRISデータラボ株式会社取締役である久保裕一氏、調布市の松元俊介氏のお力添えなくしては成功しなかったことを付記しておきます。調布市におけるこれら一連の活動については市のホームページ[4]にまとめられていますので、ぜひご覧下さい。

写真1 1年次の課題解決ワークショップ講評会
写真2 高校生・大学生・地元住民のチームによる空き家ハッカソンプロジェクト

3.南部町とのICT教育活動について

 南部町は米子市に隣接する人口約1万人、まち全体が里山といわれるほどの美しい地域です。筆者らはこの町の青年団と一緒に、10年間かけて高姫地区にある約100坪(約330u)の大きな空き家を地域の居場所として再生・運用するために、改修提案や運営組織づくりを月に一度オンライン会議を行いながら進めています。
 この取組みは2019年の夏頃に先方からの依頼を受けて始まったプロジェクトですが、2020年冬のパンデミックによって暗礁に乗り上げ、本来であれば現地に行って物件の現状把握をした上で改修計画の作成や、青年団や地域住民の方々の要望などを収集する作業がまったくできない状況でした。1対1のオンラインミーティングであれば筆者自身経験があるため容易ですが、その環境に慣れていない大人数の合意形成をオンライン上でどのように進めていけばよいのか試行錯誤しつつも、まずZoomでのオンラインワークショップをゼミ生たちと進めながら、運営方法を適宜修正してきました。今では運営方法も定着し、月に一度の地元青年団との定例ミーティングでは、改修案のCGや模型をこちら側から提示し、先方の要望などを取り入れつつ、2022年春に改修案が完成しました。夏にはようやく学生たちと現地入りすることができ、青年団や地元の方々と初めての対面のワークショップを開催することができました。今年の夏にはいよいよ改修工事が始まります。南部町の皆さんとの関係はこれだけにとどまらず、南部町の社会課題を建築の1年生にいくつか出題してもらい、全14週のうち、前半の7週で前出の久保氏にLINEを機能拡張することで、より効率的かつ細かなコミュニケーションツールである「LINY」のインストラクションしてもらい、後半の7週で学生たちが5人1グループで社会課題の解決策を企画提案するといった取組みも行っています。自治体の困りごとを解決するためにこのツールを使って提案するグループが非常に多いことも、この教育の効果が出ているのではないでしょうか。

4.共立リーダーシップとICT教育

 学生の授業アンケートでも行政チームや住民の方たちとオンラインで真剣に議論できたことに対する満足度や、自分でアプリケーションを作ることが社会を大きく変える可能性を持っていることに新しい目標ができたことなど、とても前向きな感想が多かったことが印象的でした。
 本学は「他者と協働して目標達成を目指す力」を「共立リーダーシップ」として掲げています。これを意識してこの取組みを行っているわけではありませんが、建築は様々な分野の方々とのコラボレーションによって成立するものです。そういう意味でも学生が他者と議論を重ねながら、ひとつのものをつくりあげる経験をすることは、貴重なものになるはずです。そこからリーダーシップが育まれ、ICTツールを使いこなすことが学生の将来の可能性を拡げてくれるということを信じつつ、学生たちとともにこの取組みを続けて参りたいと思います。

関連URL
[1] 調布市が採択された2020年度先駆的空き家対策東京モデル支援事業
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2020/08/31/08.html
[2] デジタルスキルの教育・実践の場を提供するTechPlant株式会社代表取締役 久保裕一氏のnote
https://note.com/y_kubocchi/n/n25378514ce5f
[3] 晃華学園中学校高等学校と共立女子大学による「15年後の我が家へ」住まいのフォトレター展
https://www.city.chofu.tokyo.jp/www/contents/1645505134180/index.html
[4] 調布市における空き家等対策について
https://www.city.chofu.tokyo.jp/www/genre/0000000000000/1504575073034/index.html

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