特集 学びの質向上に向けたICT活用の取組み(その1)

ICTを用いた多職種連携の試み
〜歯科と栄養学科の大学間合同授業〜

大久保 真衣(東京歯科大学 歯学部准教授)

1.はじめに

 歯科医師として必要な栄養学の知識を持ち、管理栄養士の役割を把握した上で管理栄養士と連携をとることは大切であると考えます。平成30年には日本老年歯科医学会が『歯科医師と管理栄養士が一緒に仕事をするために』という学会の立場表明を示し、歯科医師の食支援への関与を強く求めています。歯科学生が摂食嚥下リハビリテーションを学ぶ上で、食物形態や物性について学修することは必要なことであり、栄養アセスメントに基づく必要栄養量を食べやすく飲みこみやすい食事の形態にして提案できる管理栄養士と共に学ぶことは、将来のスムーズな連携のための礎になると考えます。また歯科学生が早くから関連する他業種の学部学生と共に学ぶことは貴重な学修体験にもなります。そこで、本学歯学部学生と大妻女子大学家政学部食物学科管理栄養士養成の学生で、ICTを用いた多職種連携をイメージした合同授業を行いました。これは多職種連携教育(以下IPE:Interprofessional education)を意識した、卒前教育で異なった大学の他学部学生と共修することを目的としています。

2.方法

 2021年度地域包括ケアと高齢者の歯科診療「介護施設実習・地域包括実習・食物物性実習」に参加した、本学歯学部第4学年(以下、歯学部学生)134名と大妻女子大学家政学部食物学科、管理栄養士養成2年生(以下、家政学部学生)53名を対象にしました。実習期間は3日間としました。
 1日目は、本学から「高齢者の摂食嚥下機能」と題してGoogle Meetを利用した同時双方向型対話形式オンライン講義を行いました。摂食嚥下の生理や解剖など基礎科目で修得した内容の復習から、摂食嚥下機能評価のスクリーニング検査や精密検査について講義を行いました。オンラインの画面を見ながら、開口しながら嚥下したり、喉頭の挙上を確認したりして自分で身体を動かしながらの講義、実習を行いました。またリアルタイムでボランティアの被験者による嚥下内視鏡検査を行いました。被験者や術者に講師が指示を行い、頭部や体位の違いで食塊の移送が変化する様子をオンライン上で観察しました。PPE(個人防護具)を着用して嚥下内視鏡検査を行う様子を観てもらうことは、歯学部学生にとってはこれから迎える病院臨床実習を意識する良い機会にもなったと考えます。最後に症例を提示し、歯科医師の視点での評価やリハビリテーションの内容を説明しました。
 2日目は、大妻女子大学から「高齢者の栄養、食物物性について」の講義を行い(写真1)、1日目の症例について管理栄養士の視点から解説を行いました。さらに症例の必要エネルギー量を算出し、摂食嚥下機能に応じて食物形態を変えた3種類の食品を実際に作製しました。オンライン上であるため手元が詳細に見え、食物形態が変わっていく様子が理解しやすかったと考えます。食物物性の講義では、自宅で個々に100mlの水を用意して、配布したとろみ剤を用いてとろみ水を作製し、物性を感じながら全て飲みほしてもらいました。その後、オンライン上で同じ配合のものをと物性測定機で測定する様子を観察しました。とろみ水を嚥下した時の自分の触感や視覚と物性測定機の値との関係が印象に残ったのではないかと考えます。

写真1 大妻女子大学の調理実習室と本学を結んだオンラインでの嚥下調整食品講義

 3日目は、歯学部学生約5人と家政学部学生2または3人からなる7または8人の小班25班を編成し、PBLを行いました。Google Meetを利用したオンライン上で、症例を提示して口腔内の問題を抽出させ、患者に適した栄養及び食形態と歯科的対応を検討する小グループでのディスカッションを行いました(写真2)。プロダクト作成は、スライドをオンライン上で共有しながらグループ内で協力して行いました。班が多くなってしまいましたが、一班の人数が少ないので一人ひとりが積極的に話さないといけない状況になり、活発な話し合いとなりました。話し合いの中でお互いのカリキュラムなども紹介しあうことで、相互の理解が深まったと思います。発表では歯学と栄養学それぞれの視点からの問題をあげ、多面的に解決する提案が行われました。このことを通じて多職種連携の必要性について考えることができたと思います。分野の異なる学生がICTを活用した遠隔授業に参加することよって、症例から問題を解決するという少し難しい内容にもかかわらずスムーズなPBLが実施できたと考えます。

写真2 一班7名程度の両校混合学生グループとチュータ―によるPBL

3.アンケート調査とその結果

 合同授業後、本学倫理審査委員会の承認を得て、歯学部学生に対しGoogle Formsを用いたWebアンケート調査を実施しました(図1)。アンケート内容は実習と多職種連携について問うものとし、①興味をもった、②内容の理解が深まった、③授業時間を増やしてほしい、④多職種連携への理解が深まった、としました。評価分析は、とてもそう思う、から全くそう思わない、までの6段階の選択式とし、単純集計しました。歯学部学生には口頭および書面により、本研究の目的、調査への同意の有無や回答の結果が個人の不利益とはならないことや個人情報の保護などに関する説明を事前に行いました。

図1 実習と多職種連携についてのアンケート結果(歯学部学生134名)

 アンケートの各項目に対しては、肯定的な回答がほとんどでした。授業時間については増やしてほしいという肯定的な回答が多くありましたが、他の項目と比較すると、あまりそう思わないという回答もありました。学生からは「他職種を専攻する学生と話ができたことは視点が異なり面白かった」、「自分たちの知らないことを他職種(の学生)から聞くことで、知識が深まり大変勉強になった」などの感想がありました。

4.考察

 多くの学生は、少人数のグループ学修が重要であり、PBLによって問題を論理的に整理して解決する能力が向上するのを実感しているという報告があります[1]。PBLのような教育手法を導入することは、歯科医療に必要な多職種連携を実践できる能力を有する歯科医師の養成に不可欠であると考えます。世界的にも多職種連携の重要性が言及されており、WHOフレームワークでは、各国において多職種連携・連携教育を実践することを推奨しています[2]
 本実習は、多職種連携のチーム医療と摂食嚥下障害のある高齢者のための栄養学を修得するためにも、将来の歯科医師の専門教育において必要なプログラムであると考えます。今後、分野を横断して考察する能力が不可欠になることから、多彩な学部と交流できる多職種連携・協働を見据えた講義や実習は、学生にとって貴重な経験になるでしょう。今後継続して実習を行う場合には、教育効果評価法について慎重に検討する必要があり、現在の授業時間についても再検討する必要があると考えます。
 このようなオンラインを利用した実習・講義は、対面も併用したハイブリット型にすることによって、他大学との交流や知識の共有が容易かつスムーズに行え、将来歯科医師として多職種連携が必須になる歯学部学生にとっては、有効な教育手法であると考えます。その意味で本実習は、多職種連携に関わる学生の専門教育において必要なプログラムであり、多彩な学部との交流は将来の多職種連携・協働を推進するものになると考えます。

参考文献および関連URL
[1] 小野和宏,大内章嗣,魚島勝美,その他:歯科医学教育へのPBLテュートリアルの導入―新潟大学歯学部の試み―,日歯教誌,22:58-71,2006.
[2] WHO:Framework for Action on interprofessional Education&Collaborative Practice.World Healt Organization.Geneva,2010.
http://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/70185/WHO_HRH_HPN_10.3_eng.pdf;jsessionid=8586A8EE471B684388297910F54A8F1A?sequence=1

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