特集 学びの質向上に向けたICT活用の取組み(その2)

SE育成を目指した情報と看護による
オンラインでの大学・異分野間連携演習の取組み

小谷 直樹(大阪工業大学 情報科学部講師)

尾花 将輝(大阪工業大学 情報科学部講師)

杉川  智(大阪工業大学 情報科学部講師)

佐野 睦夫(大阪工業大学 情報科学部教授)

足立 安正(摂南大学 看護学部講師)

小堀 栄子(摂南大学 看護学部教授)

1.はじめに

 本稿は、2021年度より実施している大阪工業大学情報科学部と摂南大学看護学部による大学・異分野間連携演習について、システムエンジニア(SE)育成の観点から紹介します。

2.IT人材を取り巻く環境と大学教育の課題

 近年、情報技術(IT)の発展と拡大が目覚ましく、現代人は、各種アプリケーション(アプリ)やサービスを意識的・無意識的に関わらず利用しながら生活しています。もはや、生活に欠かすことのできない程、広く社会に浸透した各種ITサービスを開発、運用、保守するには、これらの分野に関して専門的な知識を備えたIT人材の育成が求められています。しかし、経済産業省の調査によると、日本国内において2030年には最大79万人のIT人材の不足が予測されています[1]
 IT人材=プログラムを書く人というイメージを持つ読者も居られると思いますが、これは、一般にプログラマと呼ばれます。これに対してSEは、顧客が抱える課題を聴取し、そこから実際にシステムを構築していくための要件定義、要求仕様書、設計書を作成する上流工程から、場合によっては、これを請けて設計書に基づいて具体的にプログラミング等によって、開発、テスト、運用、保守を行う下流工程まであります。ところが、大学4年間の教育内容を上流から下流工程までの一連の流れに沿って見直すと、情報に関する専門的な知識やプログラミングといった下流工程に関わる内容に偏重しているのではないかとの認識を抱くに至りました。

3.開講の経緯

 このような問題意識の下、異分野との連携を模索する中で、大阪工業大学情報科学部と地理的に近隣である摂南大学看護学部との連携が持ち上がりました。双方の担当者間で協議を進める中で、演習の実施計画がある程度見えたことと、双方の学生にとって異分野を知ることは良い学びになるであろうとの認識が一致し、異分野連携演習の話が一気にまとまりました。また、本演習は、2021年度からの開講に向けて、その前年度に、本演習を試験的に実施する予定でした。
 しかし、2020年1月から日本国内でも流行が始まった新型コロナウイルスにより、結局、事前実施ができず、何の知見もないまま、本番を迎えることとなりました。2021年も、やはり新型コロナウイルスの流行は続いており、対面かオンラインどちらかでの実施を選択しなければなりませんでした。ここで筆者達は、この状況を悲観的に捉えるのではなく、新しいことに挑戦する絶好の機会と捉え、オンラインでの実施を選択することにしました。看護学部の先生方から、オンラインの活用は、これからの新しい時代の看護を担う学生に対しても良い機会である、との意見も後押しになりました。
 こうして、情報科学部から47名、看護学部から10名の学生がオンライン上に集い、共同演習は始まりました。オンラインでの大学間演習が初めてであったため、問題なく演習が進められるか心配していましたが、双方の学生が高い意識を持って参加してくれたこともあり、無事に終えることができました。最近2年は、情報科学部からは50人超、看護学部からは30人程度の参加があり、双方の学生が異分野間連携演習に価値を見出しているようです。

4.授業概要と教育改善の内容

(1)授業概要

 本演習は2日間、全7回からなる集中講義です。本演習の内容は、大きく分けて、

の3つで構成されています。また、演習1日目(第1〜4回)と2日目(第5〜7回)の間には、3週間の空白期間を設けています。各チームは、この期間にそれぞれの計画に基づいてグループワークを行い、看護上の課題を情報技術で解決する具体的なアイディアを練り上げます。1チームの人数構成は、情報科学部生5〜6人に対して看護学部生2〜3人です。この間、教員が各チームに対して直接指導はせず、学生たちが自由に考え活動します。ただし、各チームはグループワークを行ったことを示すため、チーム内の全メンバーの承認を得た議事録の提出を義務付けられています。加えて、チーム内での貢献度に対する相互評価を取り入れることで、「タダ乗り」にならないように促す工夫をしています。
 本演習は、異分野間連携演習であることの特徴を最大限に生かして、双方の学生にSE(情報科学部生)と顧客(看護学部生)の役割を与えています。SE役は、顧客役が提示する看護上の課題を聞き出し、情報技術の観点からどのように課題を解決するか、これまで学んできた知識、スキルを総動員して考え、その策を提案します。顧客役は、課題の提示とSE役から提案された策が看護現場で実際に使えるか、倫理的に問題がないか等をフィードバックします。顧客役の看護学部生は、1・2年次に病院や介護施設等での実習を行った経験を有していますので、看護の実践についてある程度の経験を有した状態で演習に参加しています。加えて、看護学部生が提示する看護上の課題と設定は、実習や演習の際に遭遇した事例がベースとなっています。このような前提の下、それぞれの立場から意見を述べ合い、異分野間コミュニケーションを通して協力しながらアイディアを練り上げます。異分野間コミュニケーションを通した要件定義に重きを置き、SE業務を疑似的に体験できる演習と定義することで、単に異分野で学ぶ学生同士が集まって漫然とグループワークをするのではなく、それぞれの立場と役割を明確化したロールプレイ型のグループワークへと昇華できました。最終的に、看護現場での課題と提案内容をチームとしてまとめ、発表と質疑応答までを行います。

(2)改善内容

 本演習は、SE役の情報科学部生には、上流工程を疑似的に体験することを通して、異分野の人間を含めた他者と協力することや、自身がこれまで学んだ知識や技術を活用して課題解決の方法を考えることを求めています。加えて、技術的な課題解決の視点のみならず、看護学部生の視点を交えることで、人権や倫理に関する制約や配慮も必要な場合があることに気づかせる狙いもあります。このような実践的な演習を通して、多角的な視点を備えたIT人材として、学生が、今後社会で活躍できる素養を身につけることを目指しています。
 また、本演習は、完全オンラインで実施しています。本演習で導入したバーチャルオフィスoViceは、双方向での会話や画面共有によってスライドや動画を提示できるため、対面実施と遜色のないコミュニケーションができます。図1に示すように、ブース形式やグループ形式といったレイアウトの変更が容易です。対面実施のように、机や椅子の移動といった物理的な会場設営を必要としませんので、学生・教員ともに余計な負担を軽減でき、演習に集中できます。コロナ禍以降、実際の現場でも様々なオンラインツールを用いた打ち合わせが増えているようです。

(a)技術交流会
(b)グループワーク
図1 バーチャルオフィスoViceでの技術交流会と
グループワークの様子

5.異分野間連携演習の教育効果とその確認

 SE育成を目的とした本演習の教育効果について、演習後に提出された情報科学部生の学びや気づきから検証しました。
 回答(有効回答数48件:22年度)を俯瞰すると、コミュニケーションに関する記述が40件ありました。さらに、回答内容を精査分類すると、最も多かった内容は、「コミュニケーションの重要性」であり、31人の学生が取り上げていました。特に、「話しやすい雰囲気作り」、「相手の話を聞く」、「自分の意見を伝える」、「顧客のあいまいな要求から何が問題かを丁寧に聞き出す」等の記述がありました。特に、「顧客からのあいまいな要求」は、実際にSEがよく遭遇します。SEが顧客の課題を解決しようにも、実は顧客自身が課題をよく理解できておらず、対応に困るという場面です。SE役の学生は、実際の現場でも遭遇する場面を経験できており、本演習は、SE業務の疑似体験の場を提供できていることを確認できました。
 次に多かった内容は、「異分野間コミュニケーションの難しさ」であり、24人の学生が取り上げていました。具体的には、「お互いの専門用語が通じない・分からない」という点で、「異分野の人と話す際には、専門用語に頼らない」、「分からないことは質問する」といった記述がありました。また、異分野の人間と話すことを通して、「課題の本質がどこにあるのか」を考える機会になったとの記述も見受けられました。紙面の都合上割愛しますが、これら以外にも、学生は様々な気づきを得られており、オンラインを中心とした演習でも、異分野間コミュニケーションを重視した演習が成立していることを確認できました。

6.まとめ

 本演習は、情報と看護による大学、異分野間連携を通して、これまでの教育では扱うことが難しかった上流工程を疑似的に体験する機会を設け、SEとしての素養を育成することを目指しました。学生が自由記述した学びや気づきを分析すると、コミュニケーションの重要性、異分野間コミュニケーションの難しさと面白さ、他者との協働、相手と課題の理解、といったことが多くあげられていました。これらから、オンライン演習でも、異分野間コミュニケーションを中心とした演習は十分に成立していることを確認できました。
 異分野間コミュニケーションの困難さは、一般社会においても直面する問題です。しかし、これからの多様性や異分野融合による新領域を開拓するには避けては通れない過程です。オンラインでもこのような機会の提供と教育目的を達成できたことを有意義に思うとともに、オンラインを活用することで、大学と分野の垣根を越えた1つの演習モデルを提示することができたと考えています。
 今後の課題は、本演習の教育効果を継続的に検証することと、情報と看護の双方の観点を含めた本演習の教育効果を検証することがあげられます。

参考文献および関連URL
[1] 経済産業省,IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果,
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/daiyoji_sangyo_skill/pdf/001_s02_00.pdf,2016(2023年6月1日参照)

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