特集 生成AIを利活用した授業等の紹介と今後の授業の在り方を考える

生成AI(ChatGPT)を活用したグループワークにおける
学生の学習体験と参加度の評価について

高尾 俊介(甲南女子大学 文学部准教授)

山下  香(甲南女子大学 文学部准教授)

1.実践の背景と概要

 ChatGPTを代表とした生成AIの急激な進化が社会に大きな影響を与え始めています。教育分野では、既に生成AI技術の応用が大きな期待を集める一方で、データセットの偏重やプライバシーの問題、効果的な活用において利用者側の工夫が求められるなど、課題が残ります。単に生成AIを既存授業の枠組みに組み込むだけでなく、活用を前提にした授業設計の体系化が今後の効果的な教育実践において重要であることは言うまでもありません[1]
 筆者らは、2023年4月〜7月に本学メディア表現学科でChatGPTを用いた授業「メディア表現発展演習Ⅰ」(以下本演習)を実施しました。本稿では、演習内での学生の学習体験と参加度の変化をアンケートによって分析し、生成AIをグループワークに組み込んだ教育プログラムの可能性と効果の調査を行いました。本演習には、学生40名が参加しました。演習の第1フェーズでは、「理想のメディア表現に関する授業」のシラバス案をChatGPTで作成しました。第2フェーズでは、それらシラバスを基にグループワークの形式で模擬授業を設計し、最終発表では、8つのグループが各々の理想に基づく15分の模擬授業を行い、学生が生成AIを主体的に活用するという点において、一定の成果が見られました。

図1 本演習の位置づけと概要
表1 本演習の構成

2.個人作業、グループ作業におけるChatGPTの有用性

 振り返りでは、個人作業へのChatGPTの有用性、グループ作業へのChatGPTの有用性に対してアンケート調査を行いました。ChatGPTが個人作業、グループ作業で役に立ったかという質問に対して「とても役に立った」「それなりに役に立った」「あまり役に立たなかった」「全く役に立たなかった」「全く使わなかった」の5件法にて回答する形式とし、38名が回答しました(図2)。その結果、個人作業におけるChatGPTの有用性については、「とても役に立った」44.7%(n=17)、「それなりに役に立った」31.6%(n=12)、「あまり役に立たなかった」13.2%(n=5)、「役に立たなかった」(n=0)、「全く使わなかった」10.5%(n=4)という回答結果となりました。76.3%(n=29)は役に立ったと回答した一方、約1/4である23.7%(n=9)があまり役に立たなかった、あるいは、全く使わなかったと回答しました。グループ作業におけるChatGPTの有用性については、「とても役に立った」55.3%(n=21)、「それなりに役に立った」44.7%(n=17)となり、グループ作業では全員が「とても」あるいは「それなりに」役に立ったと回答しました。一方、「あまり役に立たなかった」、「役に立たなかった」、「全く使わなかった」は0でした。個人作業、グループ作業ともにChatGPTの有用性が認められましたが、約1/4の学生は、個人作業において有用性を感じていませんでした。個人作業に対する自由記述では、「個人作業だったのでまず自分が疑問に思ったこと、模擬授業で説明するうえで知りたいことが出てきたとき、すぐにChatGPTで聞くことで知ることができ(中略)」と個人の相談相手としてChatGPTを活用する意見の一方で、「授業スライドや発表原稿など、自分で内容を考えて書くことが多かったため、あまり使わなかった。」と活用に至らなかった意見も見られました。グループ作業に対する自由記述では、「実際に今回の模擬授業の話し合い時に、どのような授業にするか思いつかなかったときに、とりあえずChatGPTに簡単な質問を投げかけていくつかアイデアを出し、話し合いを広げていくことができ(中略)」「ChatGPTとのやり取りを通して、自分たちの頭の中で考えているふんわりとした考えをうまく言語化して形にしてもらった。」というように、アイデアや意見を出す際のChatGPTの有用性を確認できました。

図2 個人作業・グループ作業における有用性

3.受講前後におけるChatGPTに対する認識の変化

 ChatGPTに対する学生の認識について、演習を通した変化を把握するために、振り返りではアンケート調査を行いました。15回の演習前後でChatGPTに対する認識は変化したか、という質問に対して、「とても変化した」、「それなりに変化した」、「あまり変化しなかった」、「全く変化しなかった」の4件法にて回答する形式とし、38名が回答しました。「とても変化した」47.4%(n=18)、「それなりに変化した」は36.8%(n=14)、「あまり変化しなかった」13.2%(n=5)、「全く変化しなかった」2.6%(n=1)と回答し、84.2%(n=32)が変化する一方で、15.8%(n=6)は変化しなかったと回答しました。認識に変化のあった学生からは、「自分の力に加えて生成AIを使うことで、よりできることの幅が広がった。授業の初めにあった授業内容を考える際に非常に役立った。(中略)それまで議論が止まっていたが進むようになった。」、「完璧な解答を引き出すには使用する人の能力が必要になりますが、積極的に触れていくことで自分だけでは到達できなかったところに手を伸ばすための力になると感じるようになりました。」といったように、驚きや有用性を指摘する意見が出ました。認識に変化のなかった学生からは、「やはり役に立った場面と役に立たなかった場面が半々くらいの割合であったため、生成AIに対する認識は今の段階ではあまり変化していない。」「ChatGPTは抽象的な意見しかできないので、自分から具体的な例や解読が必要だとなります。」というように、生成AIやChatGPTに対する懐疑的な意見が出ました。

図3 受講前後における生成AIへの認識の変化

4.ChatGPTへの関わり方に対する自己評価 ―ルーブリックを用いて―

 振り返りでは、ChatGPTへの関わり方に対して教員が「知識」「スキル」「態度」からなるルーブリックを作成し、39名の学生がChatGPTへの関わり方を自己評価しました。「知識」においては、「ChatGPTの長所・短所、人間の長所・短所について、シラバスの作成と模擬授業の設計の経験をもとに説明できるか」と質問し、「説明できる」25.6%(n=10)、「おおまかに説明できる」69.2%(n=27)、「説明できない」5.1%(n=2)と回答しました。「スキル」においては、「データの加工やアイデア評価といった情報処理における活用方法を探索し、自分が知りたかった内容を引き出し、深めることができるか」と質問し、「内容を引き出し、深めることができる」43.6%(n=17)、「内容を引き出すことができる」33.3%(n=13)、「内容を引き出すことができない」23.1%(n=9)と回答し、ChatGPTから自分の知りたい答えを引き出せた学生とそうでない学生が顕著に分かれる結果となりました。「態度」においては、「作業過程において、ChatGPTからの気づき、仲間・教員・資料からの気づきを区別して記録し、作業の経緯を説明できるか」と質問し、「記録し、説明できる」28.2%(n=11)、「区別、記録している」56.4%(n=22)、「区別、記録していない」15.4%(n=6)と回答しました。作業過程で得た気づきや、仲間・教員・資料から得た気づきに基づき、作業過程を意識的に説明できる学生は少ないことが分かりました。

※ 小数点以下第4位を四捨五入しているため、合計値が100%となっていません。

5.まとめ

 グループワークにおける課題は、グループ内で主張の強く声の大きいメンバーの意見に全体の方向性が左右されてしまう点があげられますが、グループワークを苦手とする学生が個人活動でChatGPTに相談しながら、グループ活動に取り組む様子も確認できました。筆者らはこういった課題を解決し、グループ内のディスカッションを俯瞰的かつ効率的に行うための案として、ChatGPTを用いて仮想的なグループディスカッションの方法を試験的に検討しました。例えば、グループ内の学生4人がそれぞれChatGPT内で属性の異なる5人の仮想の登場人物を設定し、議論を交わさせるというものです。
 別の課題として、生成AIの活用度が浅いため内容が陳腐化してしまい、「生成AIが考えた」シラバスや模擬授業をそのまま人間が発表してしまうケースもありました。授業終了後のアンケート調査では、約1/4の学生が個人作業でChatGPTの有用性を感じなかったと回答しており、その原因としてはプロンプトに対する知識と経験の不足が考えられます。生成AIへの問いかけ方の良例・悪例をひろく紹介することで、学生の自主的な生成AIへの関わりを促すことができます。個別の案の独創性、展開可能性といった指標・評価軸を、学生がChatGPTに提示することで、人間の感性が導き出したアイデアをChatGPTに定量的に評価させることも課題解決の一つの方法として採用できる可能性があります。
 いつでも、どこでも、何についても、何度でも質問可能な、精神的低負荷の思考アシスタントとして生成AIを捉えることで、利用者の思考のプロセスそのものを効率化し、加速させることが可能になった場合、多様な活用方法を理解することこそが重要です。卓上電卓やスマートフォンによって人間の思考様式が変化してきた以上の変化が、生成AIへ順応した思考プロセスの獲得を通じて、人間の知的生産活動にもたらされることは想像に難くありません。人間の認知的領域を分類したブルームのタキソノミー[2]のような教育評価手法を取り入れ、複雑な生成AIの活用を段階的に理解するようなカリキュラムを作成することができれば、教育目標をより高いレベルに設定することができるかもしれません。
 本稿の過程で明らかとなった教育課題の改善については、関連授業を通じて引き続き取り組む予定です。今後も情報テクノロジーを忌避せず、導入の糸口を模索することで、学科におけるICT教育のあり方を更新し、未来の学びのあり方について検討していきます。

表1 授業の概要と教育改善の主な内容
参考文献
[1] 尾関基行、山本あすか(2023).「遠隔グループディスカッションでのChatGPTの利用に関する一検討」『日本教育工学会研究報告集』2023巻、第1号、pp.77-83.
[2] 石井英真(2003).「「改訂版タキソノミー」によるブルーム・タキソノミーの再構築:知識と認知過程の二次元構成の検討を中心に」『教育方法学研究』第28巻、第0号、pp.47-58.

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