事業活動報告 No.2

2023年度 大学職員情報化研究講習会〜ICT活用コース〜
開催報告

 大学職員情報化研究講習会のICT活用コースは、「大学のDX推進に向けた対応を考える」をメインテーマとして掲げ、2023年12月21日(木)、Zoom会議によるオンラインで開催し、24大学(短期大学含む)、1賛助会員から総勢29名の参加があった。冒頭に河合儀昌運営委員会担当理事(金沢工業大学)から、開会の挨拶と本協会の役割や講習会開催の趣旨が説明された。

【話題提供1】

「一人ひとりの個性を伸ばす目標・学修支援DXの取組み」

日本経済大学業務推進部長 田代 雄三 氏

 文部科学省の「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」に採択された「『仲間とともに個性を伸ばす』全学DXプログラム」が紹介された。日本経済大学では、建学の精神である「個性の伸展による人生練磨」に則り、学生が自分の興味・関心といった「個性」(Personality)について考え、それに合った授業を履修することで「知識」(Knowledge)をインプットし、知識を様々な「経験」(Experience)を通してアウトプットすることを繰り返すことで「目標達成」(Achievement)に至るという「PEAKモデル」をコンセプトにシステム開発を行った。開発にはSalesforceを活用した。Salesforceの特長として、ノーコードで学内の教職員が改修できる範囲が大きく柔軟性が高いこと、分析機能が優れていること、学習コンテンツが充実しているなどがあげられる。また、SalesforceのMobile Publisherを導入し、iOS・Androidアプリ「日経大PEAK」をリリースした。
 「日経大PEAK」では、学期の目標に向けた「やることリスト」を作り、完了を積み上げていく。ゼミの中で目標設定や進捗管理を行っており、活動状況に合わせたバッジ付与や表彰制度、出席状況の悪い学生には、自動アラートが上がるといった工夫がなされている。現在、自主的なログイン率は4割前後であり、今後学生が目標達成し、希望する進路に進めるよう、目標入力だけでなく、活動予定の登録・促進に注力している。

【話題提供2】

「学生参加型AI開発による学修者本位の学修支援を実現・普及」

北海道医療大学情報センター長 二瓶 裕之 氏

 北海道医療大学は、北海道石狩郡当別町にある、薬学部・歯学部・看護福祉学部など6学部を有し、学生数約3,000名をかかえる医療系総合大学である。同大学がICT活用を進めた経緯は、①国家試験に向けた主体的な学習時間の確保、A学外医療関係者との情報共有、B札幌から1時間程の通学時間の有効活用である。
 北海道医療大学のDX推進計画は「医療系大学における学生参加型AI開発による学修者本位の教育の実現と普及」をテーマとし、2020年度の文部科学省の「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」に選定されている。
 このDX推進計画の特徴は、AIを学生参加型で内製化することであり、医療人を目指す学生の視点に立った学修者本位の学修支援を図る点である。内製化した教育支援システムに学修ログのAI解析機能を拡充することで、小・中規模の機動性の高いAIを多種多面的に開発している。
 DX推進計画を行う実施体制を構築するにあたり、最も重要なのは、「ICTを駆使した教育の手法や仕組み作りを行うことで、教職員の意識改革をする」ことであり、「学生ひとり一人に応じた学修支援」を行うことが、「大学全体の問題」として捉えることであるとの事。
 このDX推進計画では「内製化した教育支援システム」と「学習ログのAI解析」を組み合わせることで、学部教育に柔軟に対応した多種多様なAIを活用する。現在開発中の「AI-eポートフォリオ」では、成績の動向や苦手科目など、在学中の学びの可視化を目指している。また、学生参加型AI開発を行っており、レゴブロックで作った仮想的な都市空間の学修教材を利用して、自分がどのように行動するのかの意思決定の推論モデルの構築を目指している。画像認識や物体検出から画像生成AIを作成することで、単にAIを活用するだけではなく、学生とともに生成系AIを創ることを実践している。

【話題提供3】

「次世代リーダーを目指す女性のためのDX人材育成」

 日本女子大学通信教育・生涯学習課長 高橋 香織 氏

 日本女子大学では、リカレント教育課程として3つの履修証明プログラムを開設している。そのひとつが2023年10月に開設した「次世代リーダーを目指す女性のためのDX人材育成コース」である。
 このコースでは、就労先でDX推進の中核を担い、それぞれの立場でリーダシップを発揮できる女性人材をリスキリングにより育成することを目的としており、受講者が働きながら学べるよう、5か月間で65時間履修する1コマ100分の授業は、平日夜間と土曜日午前中に全てオンラインで開講している。
 コースの運営に当たっては、12の企業・団体が参加するDX推進事業実施委員会を設置し、企業・団体・地域ニーズや受講生ニーズ、DX推進の現状、求める人材像を把握するためのヒアリングや、コースの内容に関する意見聴取を行っている。
 カリキュラムは、DX推進スキルを体系的に学べる幅広い科目構成となっており、修了時には技術面でITSSレベル2相当、マネジメント・ストラテジーでITSSレベル4相当となることを想定している。コース修了と単位認定した科目には、履修証明としてそれぞれオープンバッチを発行している。また、受講生が全員同じ環境で学べるようノートPCを貸与しているほか、カウンセラーとの個別面談、受講生同士の交流会も開催するなどコース受講にあたっての支援体制も充実させている。
 開講初年度は、幅広い年齢層、業種・職種から26名が受講しているが、従業員数10,000人以上企業の勤務者が4割以上あり、中小企業をメインターゲットにしていたが大企業の多さに驚きがあった。受講の動機も様々で、DX推進担当になったが何をすれば良いか分からない、DX推進のリーダーになることを目指す、社内のIT部門と交渉するための知識を身に付けたい方等であった。

【話題提供4】

「構内をメタバースで再現したバーチャルキャンパスツアー実践例」

畿央大学広報センター課長 伊藤 誠 氏

 バーチャルキャンパスツアーは、コロナ禍により2020年3月のオープンキャンパスが中止となり、1分間のムービー紹介を中心に構成した「KIOオンラインキャンパス」を開設し、参加できない学生へ送るコンテンツを作成したのが契機となっている。その後、来場型オープンキャンパスが復活したが「人数制限」ですぐ満席となることで、参加できない人向けのコンテンツという立ち位置で拡張してきたが、大学としては、オープンキャンパスに来てもらい、現場を見て受験してもらいたいという方針があり、受験生の来場意欲を後押しするきっかけを作ることがコンテンツの目的となっている。
 2020年の1次開発から課題の改修を繰り返し、4次開発で大学構内を撮影してメタバース化したバーチャルキャンパスツアーを開催した。開発当初から課題となっていた「自由に散策できる」を実現し、オープンワールドに慣れたZ世代が自由にキャンパス内を動けるようになった。特長は、リアル重視が基本で校舎写真を多く使用し、通路などはアバターが通れる広さに加工したが、キレイなキャンパスのPR、臨場感の演出ができている。また、他大学があまりやっていない先進性や、これまでの企画を活かしてバナーや動画リンクを各所に設置しているため過去の制作物も紹介している。
 今後の課題としては、大学の監視下にない状態での参加者の交流によるトラブルのリスクはメタバース本格導入へのハードルとなること、窓ガラスはきれいに再現されないなど仮想空間内に再現性が低い箇所が散見されること、ゲームをあまりしない人がマウスなどを利用してメタバース内を自由に動き回るのは少し難易度が高いと思われること、現在の同時アクセスは50名までとしているがイベントをする場合の人数上限をどう考えるかなどが考えられる。
 今年は「とりあえず構築してみた」段階であり、利用者(受験生や在学生)の意見を聞いて「次」をどうするのか再検討するが、学内からの意外な反応としては、進路支援部から、キャンパスの利用が少ない低学年向け案内で紹介したいという意見や、次世代教育センターからは学内認知度を上げる施策としてラーニングコモンズでセンターを紹介したいとの意見があり、意外とメタバースを活用した人は少ない印象があり、今後いろんなアイデアが出てくる可能性がある。

【話題提供5】

「データドリブン思考による意識・業務改革」

 桜美林学園総務部長、総合企画部長 和田 満 氏

 意識・業務改革において、「①個々人の意識の持ち方が重要Aそこへの気づき、踏み出す動きへの支援B「ムリ・ムダ・ムラ」をなくす方向性への導き・ビッグデータ(宝の山)から何を汲み取り導きだすか」を推進する必要があり、桜美林学園では、データドリブン思考によるワークスタイル改革を行った。またマイルストーン(Version1.0、2.0、3.0)を設定し、具体的な取組みとして、ペーパレス化を推進した。紙の削減量については、ファイルメータを設定し、総削減量、部署別削減量の推移について見える化した。さらに、データドリブン思考により、業務量の測定を行い、意識・業務改革を進めるための要改善課題、「①民間企業に比べてストラテジー業務が10%少なく、オペレーション業務が10%多い、A正規(専任)職員のノンコア業務が多くかつ部署によって偏りがある」が明らかになった。これらの課題解決にむけて、ISO90001(マネージメントシステム)認証取得に向けた取組みを行った。今何をしなければならないのか、データをどのように活用すればいいのか、誰が、何のために、何を、どのように、いつまでに、どうするのかについて、3W1Hに基づき、方針・計画を立てて、意識・業務改革を進めた。

【話題提供6】

「RPAをはじめとする業務運営DX」

 国立大学法人三重大学財務部財務管理チーム調達室長 平山 亮 氏

 三重大学は、一つのキャンパスに人文学部・教育学部・医学部・工学部・生物資源学部の5学部と6研究科を有し、学部生約5,880名、大学院生約1,200人が学んでいる。県内全域を教育研究フィールドと位置づけ、地元企業や自治体と大学を繋ぐハブ機能として、多様な地域特性を有する4つの地域サテライトを展開している。同大学では、平成30年度から三つのステージに分けて業務運営DXに取り組んできた。
 当初は、RPAをよく理解している職員によるハンズオン形式のレクチャー説明会などを通じて、有志の職員が身近な業務にRPAを導入し、業務時間の削減効果が高い業務に対して重点的に取り組む体制で始まった。その後、RPAの活用事例が評価され、RPA推進室が立ち上がり、各部署の業務内容をヒアリングしてRPAを順次構築した。
 RPAツールは、Microsoft Office365を契約しており、Microsoft製品と親和性が高いことからPower Automate Desktopを導入・活用している。普段利用しているパソコンでRPAが作成可能で、プログラミングの経験が無くても、作業を見える化しておき直感的にRPAのアクションに落とし込むことで構築できる。また、パソコン操作をレコーディングもできる。
 事例紹介では、大量の伝票、単純作業、繰り返し作業が課題であった支払伝票処理へのRPA導入が紹介された。1件ずつ処理すると多くの手作業時間がかかる伝票処理作業を見直し、事前にまとめてExcelにデータ入力してRPAで処理することで、並行して他の業務に専念できるようになった。RPA導入の恩恵は大きく、令和4年度は40,000件の伝票処理を自動化し、2,000時間の業務時間を削減することができた。作成されたRPAが水平展開して他部門で利用されている事例もあり、会計部門や学務部門、企画部門でもRPAを利用している。他にもMicrosoft365ツールを利用した自動化の事例がある。
 現在、RPA推進室は業務運営DX作業部会へと発展的解消しており、今後は各部署が自立して属人化しないRPAの導入・運用・人材育成体制が重要と考え、「自立型DX推進モデル」を構築して取組みが継続している。

【グループ討議について】

 後半のグループ討議では、約30分の時間をとり、全体を3グループに分け、各グループにてフリーディスカッションの形式で実施した。1人あたり3分程度で自大学のDXについての取組みや情報提供で得た気づきなどを発表し、その後2分程度で質疑応答などが行われた。

【おわりに】

 ICT活用コースは、一昨年、昨年度に引き続き、Zoomによるオンラインで開催された。昨今の急激に進む少子化や物価の高騰によるコスト増などで大学を取り巻く状況は、大変厳しいものになっており、一層のDX推進が今後各大学において重要な施策になるであろう。今回の先進的な取組みの事例報告は、多くの大学に、重要な視点・気付きを与える貴重な機会となったのではないか。開催後に寄せられたアンケートでは、情報提供の内容について「大変参考になった」「有意義であった」など、各大学での関心の高さが示された。フリーディスカッションについても、「各大学のDX化推進状況がよくわかった」「いろいろなアドバイスをいただき導入に向けて、参考になった」など、各大学に持ち帰り検討する契機になったと思われる。一方、「参加大学の所属がまちまちで、回答が上がりにくい場面があった」などのご要望・ご指摘は、今後の改善に活用させていただきたい。

 最後に、今回のICT活用コースに寄せられたアンケートの抜粋を紹介し、本報告書のまとめとする。

文責:大学職員情報化研究講習会運営委員会

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