巻頭言

歯科大学における情報教育の夢


佐川 寛典(大阪歯科大学学長)



 21世紀への期待と未来社会の創造に夢を馳せることは、多忙な毎日を送る現代人にとって瞬時の喜びであるが、この社会を支える人間教育の場である大学ではすでに21世紀はスタートしている。しかし、21世紀の展望は、少子化、高齢化社会、緊迫財政等、大学にとっても明るいニュースがなく、グローバルな情報化および国際化だけが、心地よく聞こえてくる。
 情報化に対する医療会の対応は、疾病検査・診断機器の開発(デジタル化)、遠隔診断、電子カルテ、IDカードへの健康情報の導入等、早期から進展した分野である。この情報化社会に活躍できる歯科医師の養成が歯科大学の役割であることから、歯科大学における情報教育の重要性は言うまでもない。
 歯科教育における歩むべき情報教育の理念は、将来の理想的歯科医療(予防歯科医療指向、無歯科疾患社会)を想定し、この社会から望まれる歯科医師像の模索から始まる。歯科医療を取り巻く環境が人口構造や疾患構造の変化、国民医療費の高騰による需給関係の見直し、社会保険制度の改革等により、大きく変容している現在、歯科医療の目的がQuality of Lifeの向上にあり、決して疼痛除去にあるのではないことを明確にし、確認して、Informed consentの確立が図れる人間味豊かな、大自然の中で活躍できる愛情に満ちた歯科医師を理想像として描くべきではないだろうか。
 このような背景の中、歯科の分野における情報化は、1)歯科医学教育、2)歯科医療、3)歯科医学研究、4)卒後教育・生涯研修、5)地域歯科医療支援の5つの支柱からなる。このうち、歯科医学教育は、人文科学や自然科学と同様に座学教育と、プレクリ実習や臨床実習に代表される技術教育を包含するという大きな特徴を有している。座学教育の情報化は、総合的な理解を支援するマルティメディア化、3D画像教材の開発、知識を深め弱点を補強し、個別教育を可能にするインターラクティブ学習、幅広い知識の獲得を容易にする情報検索データベース化、インターネット化等がキーワードになる。技術教育では、臨床前の患者疑似体験が可能なシミュレーション化、正確な診断能力の育成を目指した診断支援システム、適正な治療計画の立案を支援する治療計画システム等が中心となる。さらに、地域歯科保健管理のために多量の情報処理が可能な社会歯科学系の知識の獲得、患者プレゼンテーション用技能の獲得、患者とのコミュニケーション習得用教材などこれまでの歯科医学教育に欠けていた教育が情報化により可能となる。その結果、これまでの歯科医師とは異なる、より専門的で、より幅広い知識や技術を持った歯科医師が誕生することになる。
 大阪歯科大学では、新楠葉キャンパスおよび新大阪歯科大学附属病院の建設に伴い、私情協の協力のもとに、ネットワークのインフラ整備を行い、現在、各種の歯科医学および歯科診療システムの開発中である。私情協の旗印のもとで、全国の私立大学の情報教育がますます発展し、情報化による21世紀の人間社会が、豊かで、利便性の高い社会になるよう希望するとともに、本大学の開発しているシステムが少しでも貢献できることを、新年にあたり、切に願ってやまない。


【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】