情報教育と環境

城西大学における
情報教育環境と経済学部における初等情報教育



1.はじめに

 城西大学は、経済学部(経済学科・経営学科)、理学部(数学科・化学科)、薬学部(薬学科・製薬学科)の3学部6学科と、短期大学部(経営学科・文学科・専攻科)および大学院(経済学研究科・薬学研究科)から構成されている。学生数は、経済学部6,054名、理学部954名、薬学部1,143、短期大学部954名、合計9,105名となっている。文科系と理科系の学生数比率は7:2、ただし、理科系でも薬学部のコンピュータ利用については文科系に近い。
 本学の情報教育環境は、現在のところ本誌「情報教育と環境」でしばしば紹介されるような統一性の高い環境とはなっていない。ネットワークも少々陳腐になったが誇るに足る「100MbpsのFDDI」ではない。今もDOSマシンは現役で、少なからざる授業で利用されている。穿孔機はつい一昨年まで現役で活躍していた。本学の環境も現実に多数の大学が抱えている物的、人的な経路依存に基づいた進化の途上にあるといえよう。本稿の前半では、現時点における本学の情報教育環境を簡単に紹介したい。
 そのような環境にあって、台風の目は学生数の67%を占める経済学部である。経済学部で必修科目としてコンピュータを利用した科目が設置されることは、即座に1500人の学生が同一の設備で学ぶことを意味する。また、コンピュータを利用する選択科目を設置すると、履修制限と教育内容のトレードオフに悩まされる。インターネット利用を学生にオープンにすると、専用回線は慢性的に麻痺することは容易に予想できる。近頃はやりのノートパソコンの入学時強制購入も、サポートや授業の面を考えると1,500人を対象としては現実に不可能である。
 他方で、社会が経済学部卒業生に期待するコンピュータ関連の知識や技能の水準が急激に高まっているのも事実である。それではどうするのか?
 本稿の後半では、経済学部生を意識した初等情報教育における若干の試みを紹介する。


2.城西大学における情報教育環境

2-1.ネットワーク

 本学の基幹LANは、3台のスイッチングハブ(PowerHub)を10Mbpsの光ファイバーで接続したハブ型ネットワークである。基幹LANはが96年に完成し、各研究室とパソコン演習室に情報コンセントが設置された。既存のメインフレームTSSネットワークは基幹LANの一部となり、SS-Netは基幹LANと接続されて情報コンセントを設置しなかった研究室では現在でも利用されている。各PowerHubを結ぶ光ファイバーは100Mbpsに対応しており、PowerHubにオプションを追加すると100 MbpsのFDDI型ネットワークに変更できるようになっている。PowerHubは、主要なプロトコル(TCP/IP,IPX,AppleTalk)に全て対応している。
 現在、インターネットは電気通信大学との間に64Kbpsの専用線でぶらさがっている。1997年度には専用線を256Kbpsに増強する予定である。学内ネットワークへの公衆回線経由のアクセスは、96年度からPPP接続が可能になったがPPP対応のモデムが4台なので、現在もTTY手順でのアクセスが一般的である。97年度にはPPP対応のモデムを8台に増強する予定である。

2-2.演習室のプラットフォーム

 演習室のプラットフォームとしては、メインフレームが2台、数値計算用にSUNが3台とHPの計算サーバが1台。HPのNetwareサーバが3台、SUNのインターネット各種サーバが7台、HPのWindowsNTサーバが1台、Apple Talk用のWorkgroupサーバが1台、教育用のパソコンは、Macintosh(30台、1演習室)、Windows3.1(180台、4演習室)、Windows95(130台、3演習室)、DOS(150台、2演習室)の合計490台となっている。
 演習室のパソコンで基幹LANに接続されているのは、MacintoshとWindows95のすべてと、Windows3.1のうち130台、DOSのうち90台の合計380台である。Windows3.1はNOSとしてNetwareを利用しているが、主として理学部が利用する30台についてはTSS端末にも、TCP/IP端末にもなっている。 DOSの90台はTSS端末である。ちなみに、TCP/IPの端末として利用しているパソコンは、先のWindows3.1の30台の他には現在のところMacintoshの30台だけである。Netwareにぶら下がっているWindows3.1の130台は、GlobalMHSを介してインターネットとの電子メールのやりとりはできるようになっている。Windows95は1997年度よりWinYatを導入してTCP/IP端末として利用する予定である。端末のユーザー管理を行っているのは、Netwareにぶら下がっている130台のWindows3.1と30台のMacintoshであり、MacintoshについてはAppleTalk上でAtEaseを利用している。
 この他に、学生がノート型パソコンとEther-Netカードを持ち込めば基幹LANに接続して利用できる情報コンセント教室として、30台規模の教室が1つ(97年度にはもう1教室追加)と48台規模の教室が2つある。


3.経済学部における初等情報教育

3-1.経済学部生のパソコン利用に対する意識

 筆者はコンピュータを専門とする教員ではない。かといって、パソコン少年だった過去も持ち合わせていない。筆者が学部学生だった82年から86年の日本の経済学部では、コンピュータなるものは魔法使いの道具に過ぎなかった。ごくまれに「キューハチ」を持っている学生もいたが、なにやらあやしげなゲームをやっている姿しか見たことはない。大枚はたいてそんなモノを買う必然性は感じなかったし、コンピュータを薦めてくれた先生は1人しかいなかった。悪筆の筆者にとっては、「ワープロ」こそ必要なモノであり、大学院に入ると即座に購入したのは「ワープロ」であった。
 あれから10年、「キューハチ」や「ワープロ」は「キューゴー」や「マック」になった。パソコンを持っている学生は確かに増えた。しかしながら、彼や彼女は何にパソコンを使っているのか? ワープロくらいならと答える学生は増えた。レポートは手書きを認めないといえば、手書きのレポートが出てくることはなくなった。プロバイダーに入ってインターネットを使っている学生も増えてはいる。
 筆者が93年に実施した調査(新田[1994])では、コンピュータ利用への経済学部生の意識は質的には10年前とあまり変わっていなかった。現在の学生が就職を意識した漠然とした不安を持っている点を除いてではあるが。レポートの清書用とゲーム以外に何に使うのかが想像しにくいのである。また、難しそう(魔法みたい)という意識も相当根強く残っている。93年以降、調査は実施していないが、しばしば学生から発せられる問に大きな変化はなかった。

3-2.経済学部における初等情報教育の進化

 現在、本学の経済学部では1年次生必修のフレッシュマンセミナー(4単位)において、日本語入力演習を実施している(年間13コマ)。「せめてワープロくらいは」という親心(?)から94年の現行カリキュラム実施時から始まった(旧カリキュラムでは選択科目として類似の授業内容の「情報処理基礎(4単位)」を置いていた)。この授業を95年に担当した筆者が試みにNetwareで電子メールのやりとりをさせてみたところ、学生の評判はよかった(電子メールのみ)。
 この逸脱を大きく進めて96年にはプラットフォーム(Windows3.1とMacintosh)とレベル(日本語入力ができるかどうかの2段階)を学生が選択できるようにし、さらに、Macintoshの初心者向けクラスを選んだ学生については、ノート型パソコン購入者クラスを設置してみた(4クラス100名)。 Windows95のノート型パソコン購入者クラスを設置しなかったのは、履修希望者が極めて多くなることが予想され(事前アンケートではおよそ600名)、担当者、教室、事務処理の面から実施不可能と判断したためである。Windows3.1の初心者クラス(1年次生の7割)の授業内容はこれまでどおり日本語入力のみとし、他のクラスでは、ワードプロセッシング、スプレッドシート、電子メールを教えることとした。

3-3.購入者クラス

 購入者クラスでは、夏期休暇中に1日4限×3日間の集中授業を行い、全くの初心者が1日目にはPCカードのドライバーをインストールし、FDからFetchをドラッグコピーし、それでサーバからEudoraのアーカイブをダウンロードし、解凍して設定を行い、1日目の最終時限には、拙い入力ながらTCP/IPベースで電子メールをやりとりするところまで持っていけた(その時点では本人たちは、自分がインターネットにつながっていることを自覚していなかった)。学生の評判はいたってよく、このクラスを選択してよかったという反応が圧倒的に多かった。
 このクラスが成功したのは、初心者がパソコンに持つある種の恐怖を取り去る工夫をしたことと、統合ソフト(クラリスワークス)、電子メール、ブラウジング、チャットを使ってパソコンで何ができるのかをカタログ的に示したことである。前者については、フリーズからの脱出方法、FDが出てこない場合の対処法、ユーティリティ・ソフトの紹介、問題が生じた場合の連絡先等を授業に組み込んだ(実際に初期不良のマシンがあったのはご愛嬌だが)。また、初心者のキーボードアレルギーを緩和するため、フリーウエアのチャットソフト(Chatman)を配布し、チャットとメールでキーボードに慣れるように配慮した。

3-4.97年度の試み

 97年度からは、この種の逸脱を修正し、コンピュータ・リテラシーを別の科目として、フレッシュマンセミナーと分離することになった。これは、2年生以上の学生や他学部の学生にも履修の機会を与えることを目的にしている。新設科目「コンピュータ・リテラシーT・U」(2単位)では、ワードプロセッシング、スプレッドシート、電子メールに加えて、簡単なHTML文の作り方も教える予定である。プラットフォームは、MacintoshとWindows95を利用して、ともに、ノート型パソコン購入者クラスと非購入者クラスを設置する。TとUは段階的に学べるようになっており、日本語入力のできる学生はUから履修できる。


4.おわりに

 筆者の担当するゼミナール(「新産業論」がテーマ)では、4年前のゼミナール開設時よりパソコンの所持と利用を推奨してきた。現在の3年生の所持率は100%、その3分の2がプロバイダーでインターネットを使っている。資料等の問い合わせは頻繁にメールで寄せられる。コンパのお知らせ等もメールで配布されてくる。就職活動で大学に出てこられない学生は現状報告と欠席通知をメールで送ってくる。 ゼミナールの報告にも稚拙なものから凝ったものまでコンピュータ・プレゼンテーションがしばしば利用される。日経ニューステレコンから取材した報告は筆者にとっても新鮮な情報であることも多い。レポートの提出も多くの学生がファイルを転送してくるようになった。97年は筆者にとっては情報教育解放元年になりそうである。本稿では書ききれなかったが、経済学部における最も効率的な情報教育は、ゼミナール等を通じて教員が自らのリテラシーを学生に示すことだと筆者は確信する。



<<参考文献>>
新田光重,「城西大学経済学部生の情報機器接触度と
意識に関する試験的調査」,城西大学情報科学研究センター
『城西情報科学研究』Vol.5,No.1,pp.19-31,1994年2月


文責: 城西大学経済学部助教授
  情報科学研究センター研究員 新田 光重
  E-mail:nittiger@alphons.josai.ac.jp
  nittiger@pp.iij4u.or.jp

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