政治学の情報教育

総合情報学部での政治学教育


三宅 一郎(関西大学総合情報学部教授)



1.はじめに

 私は三つの演習課目の他に、「ミクロ政治分析」と「マクロ政治分析」の二つの専門講義課目を持っている。演習科目はすべて実習中心であるが、講義課目にも実習を組み入れられないかと考え、昨年度から試行錯誤で始めたのが、以下の授業(計画)である。まず戸惑ったのは、実習教室のパソコンは50台なのに、受講生は100人を越すということであった。そこで、学生にペアを組ませて教室に全員収容しようとしたが、故障中のパソコンも少なくなく、機械に触らずじまいの学生もあったことと思う。この問題は、2年目に受講生が半減することによって図らずも消滅した。
 実習といっても1学期、約12回の講義の内、せいぜい3回に過ぎないのだが、学部が法学部でなく情報学部なので、ウィンドウズやワープロなど私が教えなくてもよいのは幸いである。そこで、初回からSPSSを使うことができ、わずか3回でも少しは実習を行ったという気分に浸ることはできる。問題はテキストとデータである。政治学のテキストの他に、統計ソフトの解説書と社会統計学の教科書が必要になる。これらを1冊にまとめた本は存在しないし、半期の授業のために3冊も教科書を買わすわけにもいかない。「ミクロ政治分析」はテキストもデータも自前なのでまだましだが、「マクロ政治分析」はそうでないから、適切な文献とデータの入手に苦労する。良い文献だと思っても、そのデータが公開されていなければ採用できない。これまでにデータを提供して下さった方々に御礼申し上げるとともに、論文の発表と同時に、データも公開するという慣習が、学界に早く定着しないものかと願う次第である。


2.ミクロ政治分析

1997年度春学期 2単位 三宅一郎

授業概要
 ミクロ政治とは個人レベルの政治である。政治家の行動、例えば国会内での議員の行動もミクロレベルではあるが、本講義では、一般有権者レベルの政治と理解しておく。一般有権者も多様な方法で政治とかかり合う。投票参加、政治意見の表明、署名運動、政治家や官僚との接触、被接触など。
 一般有権者の政治行動と政治意識の個人レベルでの分析がこの講義の主たる内容になるが、データは世論調査データでなので、内容が政治的ということを除けば世論調査データの分析と等しい。

授業計画
  1. 世論調査法とサンプリング(教材配布)
  2. 地元意識と保守化(テキスト第1章):クロス表分析(1)
  3. 衆議院選挙調査データとSPSS(社会科学のための統計パッケージ)の概要(教材配布)
  4. SPSSによるデータ解析実習(1):データ探索とクロス表
  5. 一党優位制下の政治意識(テキスト第3章):クロス表分析(2)
  6. 新党の社会的基盤(テキスト第8章):tテストと分散分析の初歩
  7. データ解析実習(2):tテストと一元配置分散分析
  8. 候補者評価の決定因(テキスト第2章):多重分類分析
  9. 投票の決定因(テキスト第7章):数量化2類分析
  10. データ解析実習(3):数量化モデル
  11. 政党支持と政策意見(テキスト第4章):多重クロス表分析
  12. 多重クロス表から対数線形モデルへ
     教科書三宅一郎「日本の政治と選挙」東京大学出版会、1995年
     参考書政治行動と政治意識について
       三宅一郎「投票行動」東京大学出版会、1989年
       綿貫譲治・三宅一郎「環境変動と意識変容」木鐸社、1997年
      社会調査について
       飽戸弘「社会調査法」日本経済新聞社、
      社会統計学について
       芝ほか「行動科学における統計解析法」8章、9章、東京大学出版会、1990年
      SPSSについて
       山本嘉一郎ほか「SPSSウィンドウズ・Mac版」東洋経済新報社
       新村秀一「パソコンによるデータ解析」ブルーバックスB1095
備考 政治学関連の科目と統計学を履修していることが望ましい。
 なお、秋学期の「マクロ政治分析」を続けて受講すると、政治データ分析がわかるようになる。


3.マクロ政治分析

1997年秋学期 2単位 三宅一郎

講義概要
 マクロ政治とは個人を超えたレベルの政治である。国際政治はその例になるが、国際政治のデータにもミクロ政治データが多くあるから(例えば、外交官の行動、国連における投票行動など)、国際政治だからマクロ政治とはデータに関する限り一義的に言えない。世論調査データはミクロデータであるが、集計してしまえばマクロデータになる。例えば新聞社の内閣支持率のデータを30年分並べたデータはマクロ政治データである。
 マクロ政治データ分析は、春学期のミクロ政治分析の講義とは一応独立ではあるが、続けて履修してほしい。また、マクロ政治データは、そのデータの性格上、経済データに似ている場合が多いので、経済分析を履修した受講生は講義を理解しやすいだろう。

授業計画
  1. 民主主義の計量分析
     1 ダール「ポリアキー」第1章「民主化と公然たる反対」
     2 曽根研究室「世界の民主主義度」(教材配布):主成分分析(テキスト新村5章7章)
     3 SPSSによるデータ解析実習(1):主成分分析 曽根のデータを用いる。
  2. 選挙
     4 小林良彰「現代日本の政治過程」第4章「公約と投票行動」:回帰分析(1)
     5 山田真裕「投票率の要因」選挙研究NO.7:回帰分析(2)(テキスト第8章)
     6 データ解析実習(2):回帰分析 山田の選挙区別棄権データを用いる。
  3. 財政と政策:DOES POLITICS MATTER?
     7 堀要「日本政治の実証分析」第2章「日本の政治システム」:回帰分析(3)
     8 富永健一「福祉国家形成の普遍主義的解釈」「日本産業社会の転機」第3章:パス解析(1)
       (安田・海野4・3)
     9 データ解析実習(3):パス解析 富永のデータを用いる
     10 小林良彰「現代日本の政治過程」第7章「政治的合理仮説の検討」:パス解析(2)
     11 三宅「一党優位政党制と外交基本路線」年報政治学1994:時系列分析(1)lag変数
  4. 経済と政治
     12 西沢由隆「経済政策に対する業績評価としての自民党支持率」(教材配布):時系列分析(2)ARIMAモデル
     教科書新村秀一「パソコンによるデータ解析」講談社ブルーバックスB1095
     参考書授業計画で掲げた書物はすべて参考書であるが、その他に、SPSSと統計学の参考書として、
       新村秀一「SPSS for Windows入門」丸善、山本嘉一郎ほか
       「SPSSウィンドウズ・Mac版」東洋経済新報社,1997年
       安田三郎・海野道郎「社会統計学」丸善(特にパス解析)
備考 講義は原則として、この授業計画にしたがって進める。受講者は、図書室で文献を読んでくること。
 質問は講義中でも受け付けるが講義前に質問メモを提出するのが望ましい。


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