情報教育と環境

金蘭短期大学における
新教養としての情操教育と情報教育



1.はじめに

 金蘭会学園は、明治38年に女子教育振興のため私立金蘭会女学校が創立され、今年93周年を迎える。短期大学は昭和38年に創設、大阪・吹田の千里ニュータウンに位置して35年になり、関西を中心に4万人の卒業生を輩出している。現在、国文科・英文科・生活科学科を擁する女子短期大学である。創設以来、教養を身に付けた女性を育成すべく情操教育に力を入れており、学内のホールで開催される講演会や世界的アーチストのコンサートは16年間で169回を数える。
 情報教育は昭和56年にパソコンを授業に導入し、幾多のリプレースや増設を繰り返し教育ノウハウを蓄積してきた。平成7年度に、これからの高等教育を推進していく基盤として全学的な情報インフラ構築に着手し、短期大学では初めてのATM-LANを中心としたキャンパスネットワークシステムを導入した。
表1 ハンドブック目次
 平成9年度からは情報処理教育課程を新たに開講し、情報化時代にこそ必要な心豊かな情操能力と、社会人としての情報処理能力を身に付けた新教養女性の育成を目指している。以下に、金蘭短期大学における情報教育環境と取り組みを紹介する。


2.キャンパスネットの中にある個人学習室

 本学では平成9年度より入学式の日に、新入生全員にキャンパスライフを豊かにするキャパスネットアクセスためのユーザ名とパスワード、およびキャンパスネット利用ハンドブックとガイダンス日程を配布している。これらは、高校までの教室や図書館などでの知識修得だけでなく、情報化時代の学生としてネットワークによる情報収集やコミュニケーション能力を身に付けるための環境提供である。
 新入生全員を対象に、4月中に各クラス単位(20〜30名)で90分間のキャンパスネット利用ガイダンスを60回行う。内容は、学内のパソコンへのログオン・ログオフ、WWWのアクセス、電子メールの送受信を、各人に配布したハンドブックに添って行う。主旨は「パソコンは面白そうだ」を実感してもらうことであり、そのためインストラクター研修には特に力を入れている。
 キャンパスネット利用ハンドブックは、新入生だけでなく全学生および教職員に配布している。このハンドブックは、学内のキャンパスネットを利用するのに最低限必要な項目に絞って説明しており、学内DTPで作成した。内容は基本編とコミュニケーション編に分かれており、見開きの片方に文章、もう一方に操作画面を掲載し、見やすく使い易いようにA5版で88頁に収めている。
 ハンドブックを教材、ガイダンスを授業と見ると、オープンコミュニケーションコーナー(OCC)は教室設備に対応する。OCCは、専門的な情報処理教育とは別に、授業を離れて気楽に個人でまた友達とワイワイガヤガヤ自由に使える環境を目的に、食堂や図書館およびロビーに設置している。このコーナーは、2人掛けの高目のバーチェア、花弁型のパソコンデスク、電磁波の影響を軽減するLCDデスプレィを採用している。
 次に、キャンパスネットワークシステムを紹介する。ネットワーク系と教室系および研究室・事務室系に分けられる。ネットワーク系はATM-LANを中心に、ORIONS経由のインターネットと公衆回線を接続している学外系と、CAI教室・プレゼンテーション教室とOCCおよび研究室・事務室に接続している学内系がある。マルチメディア教材や情報が快適に学内でアクセスできるようにATMとスイッチングハブでLANを構成する。現在、ユーザーIDは約3,500名でネットワーク接続機器は約500台である。
 教室系には、CAI教室にWindows系とMac系パソコンが導入されている。プレゼンテーション教室では、情報コンセントとノートパソコンとVTRおよび液晶プロジェクターを使用して、学生に分かりやすい多様な授業が行える。
 キャンパスネットの各種フォルダ体系は、個人文書の保管用、教材の取出しやレポートの提出用、学生間の情報交換用など、用途別のフォルダをネットワーク上で提供している。
写真1 オープンコミュニケーションコーナー


図1 キャンパスネットワークシステム
 学生の課題作成などには、CAI教室以外にも自由に何時でも使用できる自習室を設けている。個人文書の保管フォルダでは、学生一人ひとりのホームフォルダがセキュリティ確保の上で用意されており、全学どのパソコンからでも使用できる。学生は登校すると、インターネットブラウザから自分のホームページを呼出して、今日の時間割を確認したり、先生や友達へのメール、および情報検索のためのサーチエンジンへのアクセスなどを行っている。これはネットワーク上での、もう一つの教室・個人学習室と言える。
 研究室の各教員は、自己の研究活動にインターネットを活用し、また授業用の教材をプレゼンテーションソフトやブラウザなどで作って学生に提供できるようになっている。


3.情操教育をより深める情報教育

 情報教育のカリキュラム編成は、国文・英文・生活科学の各専門学科科目を深める視点からの情報リテラシー教育と、専門的に情報活用を修得する教育の2つからなる。
 情報リテラシー教育は、コンピュータリテラシー面からのパソコン操作能力と、ネットワークリテラシー面からのコミュニケーション能力の修得を、演習中心に構成されている。平成8年度の「情報処理演習I」では、62コマで約1,500名が履修した。
 また情報活用教育は、理論・知識(リベラルアーツ)と技能・資格(プラクチカルアーツ)の視点と、基本(コミュニケーション)と応用(ビジネス)の視点から展開している。平成9年度は625名の学生が、情報処理士養成課程(20単位)を履修している。このように学生の情報処理関連科目の履修意欲は旺盛である。
 各専門学科科目の授業でも、教材としてWWWの活用や海外教育機関との電子メール活用、レポートの提出や学生とのコミュニケーションに電子メールや電子ニュースが利用され始めている。このように、インターネットやマルチメディアを活用して、学生に分かりやすい授業方法が行われている。
図2 カリキュラム関連図


4.情報処理教育センターの学生向けメニュー

 上記で述べてきた情報教育環境の下支えをしているのが、情報処理教育センターである。センターは、情報教育システムを維持発展させていくために、平成8年6月にオープンされた。センターの機能としては、学生・教職員サービスとシステム維持管理および企画・広報・研究である。
 学生・教職員サービス機能としては、キャンパスネット運用、パソコン教室運用、情報リテラシー啓蒙、資格取得支援およびパソコン教育相談などである。パソコン教室運用サービスは、学生の履修登録に合わせて各教員・科目への各種フォルダアクセス権の設定を行っている。キャンパスネット運用では、学生へのユーザ名・パスワード発行やトラブル対応がある。情報リテラシー啓蒙は、就職向けや教職員向けのパソコンセミナーを定期的に開催している。資格取得支援では、パソコン関連の学外資格試験(パソコン認定試験,サーチャー試験,初級SAD)取得のためのセミナーを行っている。平成9年度は182名が合格し、学生自身のスキルアップと就職活動への支援が図られている。
 システム維持管理およびシステム拡充は、システムの安定運用が最大の責務である。学生・教職員が日常、教育研究活動に使用すればするほど、インフラ設備として重要度が増してきている。
 企画・広報・研究活動としては、大学のホームページ作成・更新の取りまとめや情報処理教育に関する対外的な窓口となっている。また、今後の情報教育の在り方や情報機器を活用した教育方法の研究を行っている。


5.次のステージへ

 以上、本学の情報教育環境と教育内容を学生サービスの視点から紹介した。文化とは多様でアナログ的であり、文明とは誰でもが使える仕組みでデジタル的である。現在の情報化社会はデジタルが中心に進展しているが、個々の個性を重んじるアナログ的発想も大切である。パソコンやソフトの文明機器を活用しつつ、本学らしい心の豊かな新教養人を育成していくために、必要なコンテンツ(教材)や教授方法の開発がこれからの課題である。



<<参考文献>>
[1] 柳瀬優二他「短期大学における情報処理教育体系の提案」
1997.6,経営情報学会
[2] 柳瀬優二他「情報リテラシー教育の取組み1」
1996.9, 第10回私情協大会事例発表
[3] 柳瀬優二他「全学生に対する情報リテラシー教育環境」
1997.9,第55回情報処理学会
[4] 藤尊弘「キャンパスネット利用ハンドブック」
1997.4,金蘭短期大学情報処理教育センター


文責: 金蘭短期大学
  情報処理教育センター長・教授 柳瀬 優二

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