情報教育と環境

WindowsNTを利用した情報処理教育環境
白梅学園短期大学



 白梅学園短期大学は、1942年創立の東京家庭学園を母体とし、厚生保母学園の事業を統合した白梅保母学園を経て、1957年に設立された。ヒューマニズムを建学の理想とし、保育者養成を中心に、人類の福祉に貢献できる人材を養成してきた、伝統ある短期大学である。現在は、保母資格と幼稚園教諭免許状を同時取得する保育科、短期大学としては日本で唯一の心理学科、ゼミナール制度によるきめ細かい教育の教養科と、幼児教育と社会福祉に関する高度な研究指導を行う専攻科(保育専攻・福祉専攻)の3学科1専攻科から構成されており、学生数は900名である。1998年4月からは新たに福祉援助学科を増設し、福祉教育にさらなる一歩を踏み出すことになっている。なお、「白梅」の名前からか「女子短期大学」と誤解されがちだが、保育科および福祉援助学科は共学であり、またかつて開設していた他学科の二部も含めて男性の卒業生は少なくない。


1.授業用の第二コンピュータ室と自習用の第一コンピュータ室

 本学の教育用コンピュータ施設は、第一・第二の二つのコンピュータ室およびコンピュータ準備室からなっている。第一コンピュータ室には10台、第二コンピュータ室には33台のコンピュータ(富士通FM/V 166MHz)とCAI設備(内田洋行CAI-ACE)が設置され、すべて学内LANを経由してインターネットに接続されている。授業は専ら収容人数の多い第二コンピュータ室で行っており、第一コンピュータ室は自由な利用のために常時開放されている。加えて、第二コンピュータ室も授業時間以外には自由に利用できるので、これら二つのコンピュータ室ではいわゆるネットサーフィンや電子メールの送受信を行う学生が常に見受けられる。コンピュータ準備室は、いわゆるサーバルームであり、また授業以外の時間に学生からコンピュータに関する相談や質問を受ける「コンピュータ・アシスタント」が常駐している部屋でもある。
 コンピュータ室を使う授業には、心理学科の「情報処理I」「情報処理II」、教養科の「情報処理概論」、教養教育科目の「情報処理入門」、および教養科・心理学科共通の図書館司書資格科目「情報機器論」「情報検索演習」「資料組織演習」「レファレンスサービス演習」があり、1997年度後期には1週間に合計12コマが第二コンピュータ室で行われている。
 なお、新設の福祉援助学科開設に合わせて、第二コンピュータ室と同規模の「第三コンピュータ室」が1998年3月に増設される予定である。


2.学生のインターネット環境は95年から

 本学がネットワーク組織TRAINを通じてインターネット接続を果たしたのは、1992年12月のことであり、どうにか独立したサイトとしての活動を始めたのは1993年6月であった。初めは数名の教員が電子メールを利用するだけであったが、1994年3月にニュースサーバの運用が始まり、同年10月にWWWサーバの運用が始まる頃には、ユーザは教員・職員の間に徐々に増えていった。
 学生がインターネットを使える環境ができたのは、1995年5月のことである。それまで5インチフロッピーディスクのMS-DOSマシンで運用されていた第一コンピュータ室に、4台のネットワーク対応パソコン(NEC PC-9821)が導入されたのであった。MS-Windows3.1にTCP/IPパッケージを組み込み、メールソフト(AL-Mail)とWWWブラウザ(Netscape Navigator)が動いていた。学生のメールアカウントは、希望を申し出た学生にその都度作成するという態勢をとっていた。
 学生向けのネットワーク環境が導入され始めた1995年5月には、学内向けのネットワークニュースサービスも開始され、また7月には、UNIXのWWWサーバ上に学生の個人ホーム・ページを作ることができるようになった。しかし、どちらも一部の熱心な学生以外には普及せず、多くのユーザでにぎわう迄には至らなかった。


3.WindowsNTによるネットワーク環境の構築

 1996年には、本学のコンピュータ教育設備が老朽化しているとの認識のもとに、二つのコンピュータ室のシステムを一新し、第二コンピュータ室にはCAI設備を導入することが認められた。ちょうど世間で「インターネット」という言葉が脚光を浴び出した頃である。
 新しいシステムの構築にあたっては、Microsoft社のWindowsNT(以下NT)を基本OSとすることと、全学生が電子メールアドレスとWWWの個人ホーム・ページを持てる環境を整えることを基本方針とした。インターネット時代を迎え、これからのコンピュータ・リテラシーの教育は、ネットワーク環境での情報交換と表現を中心とした、いわばネットワーク・リテラシー教育にすべきだとの判断によるものであった。
 コンピュータ教室のネットワーク化により、学内LANに接続されるコンピュータが大幅に増えることになり、また同時にLANを流れるパケットも増加することになるため、学内LANの構成の見直しが必要であった。そのため、それまで1本のイエローケーブルを中心としてほとんどフラットに構成されていたLANに、新たにスイッチング・ハブを導入して、パケットの局在化がある程度できる構成を取った(ネットワーク構成図参照)。教室内のコンピュータはNTのドメイン構成を取ることにし、学生は二つの教室にあるどのマシンからログオンしても常に同じ環境で作業できるようにした。NTドメインの中核となるサーバとしては、1台のプライマリー・ドメイン・コントローラ(PDC)と2台のバックアップ・ドメイン・コントローラ(BDC)を配置した。このうち、2台のBDCは学生のメール・サーバ、ホーム・ディレクトリ・サーバ、WWWサーバを兼ねている。これらの機能を2台のサーバに持たせているのは負荷分散のためであり、学生は学籍番号が奇数か偶数かでどちらのサーバを使うかが決められている。
 学生の環境設定にあたり、最初に問題となったのは、ユーザ登録であった。NTは管理面においてもGUIによる操作を中心としているため、大量のユーザを一括登録するような方法が標準では提供されていない。そのため、一時は個別のユーザ登録をやめ、全学生を単一のユーザ名で使用させる方法などが検討された。しかし、結果としては、JGAWKというスクリプト処理プログラムを応用することで、学生の数だけのユーザ登録コマンドを生成できることがわかり、900名にのぼる学生を一括登録することができた(詳しい方法については、"http://www.shiraume.ac.jp/~kurasawa/NTRAQ.htm"を参照されたい)。
 次の問題は、WWWの個人ホーム・ページをどの場所に置くかということであった。UNIX上で動くWWWサーバには、個人のホーム・ディレクトリの下に特定の名前のサブ・ディレクトリを作成しておけば、自動的に個人のホーム・ページとしてネットワーク上から参照できるという機能を持つものが多いのだが、NT用のWWWサーバにはそのような機能を持つものがない。そこで、WWWサーバのドキュメント・ルートを個人のホーム・ディレクトリのひとつ上のディレクトリに設定し、個人のホーム・ディレクトリの下にホーム・ページ用のディレクトリを作成することで、"http://students.shiraume.ac.jp/st0000/public/"といったURLで参照できるようにしてある(ただし、この方法は、ホーム・ディレクトリのアクセス権に注意しないと、外部から丸見えになる恐れがある)。このような方法により、ネットワーク・ドライブにあるファイルを編集するだけで、簡単に自分のホーム・ページができ上がるのである。
白梅学園短期大学ネットワーク構成


4.授業・学生活動へのネットワーク環境の利用

 NTでは、ディレクトリやファイルごとのアクセス権の設定がきめ細かく行える。これを応用することで、授業の際の教材配布用ディレクトリ、レポートや宿題の提出用ディレクトリなどを作ることができる。
 たとえば、本学のNTドメインでは、サーバの特定の領域を全ユーザがSドライブとしてマップするようになっており、そこには教員の名前の付いたディレクトリが並んでいる。教員名のディレクトリ以下は各教員が自由にアクセス権を設定できるため、そこに必要に応じたアクセス権を持つディレクトリを作ればよい。具体的には、学生のアクセス権を読み取りのみに限定すれば教材配布用のディレクトリとなるし、学生に書き込みのアクセス権を与えたディレクトリを作れば、レポート提出用の場所ができることになる。ただし、実際には、学生が他の学生の提出物の中身を見てもよい場合とそうでない場合では、設定を変える必要がある(詳しくは左記のURLを参照されたい)。
 さらに、学生グループが共同で使用できる作業用ディレクトリを作ることもできる。クラブ活動やグループ研究などでコンピュータを利用する際、文書ファイル等の共有資源をフロッピー・ディスクなどに保存しておくことが一般的であるが、この方法では、「自宅に置き忘れた」「管理している者が欠席した」といった事情からファイルにアクセスできなくなることが意外に多いものである。また、それを予防しようと、ファイルのコピーを作成して複数の人間が持つことにすると、更新が別々に行われてしまうといったバージョン管理上の問題を引き起こしやすい。その点、ネットワーク・ドライブ上の共有ディレクトリにファイルを置いておくことにすれば、そうした問題は起こらないのである。


5.今後の課題

 本学では、現在、インターネットの接続先をこれまでのTRAINからSINETに変更する準備を進めている。学生や教職員の利用が増えたため、対外接続回線を64Kbpsから512Kbpsに上げることになったのだが、接続先ノードまでの距離が近いSINETの方が回線コストの点で有利と判断したためである。この変更は、3月下旬を予定している。
 また、今後は事務システムもネットワーク化の方向に進むと考えられる。事務のネットワーク化に際してはセキュリティの問題が大きいので、本格的なファイア・ウォールの構築、学内LANの構成の見直しなどが必要であると考えている。



文責: 白梅学園短期大学
  心理学科助教授 倉澤 寿之

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