機械工学の情報教育

「設計製図教育総合支援システム」導入による
教育環境改善とその効果


岡部 眞幸(上智大学理工学部機械工学科助教授)
清水 伸二(上智大学理工学部機械工学科教授)
曽我部 潔(上智大学理工学部機械工学科教授)



1.はじめに

 現在、「ものづくり」に関する国内外の設計・生産技術環境は、3次元データを中核とする設計・試作・製造システムの活用、ならびにコンカレントエンジニアリング(CE)やラピッドプロトタイピング(RP)などの設計・生産手法の導入によって急速な変革を遂げようとしている。これらの環境のもとで国際的にも十分通用するとともに、より知的でかつ創造的な生産活動を行いうる技術者の出現が、現在および将来の機械工学の分野において強く望まれている。大学においても、こうした変革に対するカリキュラム上の対応が望まれている。
 このような背景のもと、本学科では、1997年3月に、平成8年度私立大学・大学院等教育研究装置施設設備費を得て、図1に示すような『設計製図教育総合支援システム』を導入し、約1年間、その運用に当たってきた。本稿では、これに伴う本学科の設計製図教育環境の改善とその効果について紹介する。


2.システムの概要

 本システムは設計製図機能と教育支援機能の2つの特徴を備えたクライアント/サーバー型のWindows NTによるネットワークシステムである。設計製図を行うPC側のネットワークは、4台のアプリケーションサーバーに25台ずつ、合計100台のクライアントが接続されている。周辺機器として図面出力用のプロッターやプリンタ、さらにCAM用小型モデリングマシンも設置している。
 これらのサーバー、クライアントにはソフトウェアとしてI-DEAS Master Seriesが導入されており、学生全員(学年定員90名)に同じ環境を提供している。また、製図だけではなく、3次元設計、CAMやFEM解析への展開も可能にしている。
 さらに、本システムでは100台の学生用PCの横にA3サイズの小型製図機を配置し、基礎段階における手書き製図の重要性を強調しているのも大きな特徴のひとつである。
 講義支援ネットワークは、教師側から配信するCADのオペレーション画面、機械要素部品の実物映像、ビデオ教材やカメラ撮影した映像を学生側で容易に視聴できるようにしたシステムである。さらに、クライアントにはワードプロセッサ、表計算、プレゼンテーションツール、C言語などのソフトウェアが導入されており、学生が設計計算やレポート作成に使用するのみならず、計算機演習科目等でも有効活用できるようになっている。
図1 システム構成図


3.教育環境の改善効果

 まず最初に、学生全員に対してCAD端末と小型製図器を提供することができたので、以前のようにCAD端末とドラフターを2クラス交代で利用するのではなく、全員同時に授業を進行できるようになり、非常に効率的になった。
 本システムの各種機能の中でも、計算結果や解析結果をその場で確認し、それらの結果を同時進行的に設計対象にフィードバックできるようになった点は高く評価できる。
 また、ネットワークを介した講義支援機能により、学生は教師側から配信された文書情報や映像情報を、学生2人に1台の割合で設置されたAVモニターを介して視覚的に学習できるようになった。特に、教師用PCで行うCADオペレーションの様子を、AVモニター上でリアルタイムに確認できるようになった点は、学生の理解を深める上できわめて重要であり、従来個別的になりがちだった説明内容を一元化ならびに平等化できるというメリットをもたらした。さらに、教師側のAVセレクターによって、書画カメラ、ビデオデッキ、教師用PCなどを自由に切換えることができるため、各種の教材を盛込んだ有意義な講義を実施できるようになった。これによって、講義内容の一層の理解に向け、講義支援体制が従来にも増して充実したといえる。また、ネットワーク環境の特徴を利用して、講義の課題に対して教師宛てにメールで解答するという講義スタイルもとることが可能となり、学生に電子化コミュニケーション社会への対応も体得させることができるようになった。
 さらに、教育支援機能として、レポート等作成のための文書作成/計算支援機能が提供されたため、学生は設計製図教育科目のみならず本学科で開講されている各種の講義科目でも本装置を有機的に活用できるようになった。
 図2に、3次元CADおよび小型モデリングマシンを用いて行う実習科目の課題例を示す。
図2 3次元設計の課題例


4.おわりに

 本システム導入の目的は、システムの操作が可能な技能者の育成にあるのではなく、機械工学分野において今後ますます必要となるであろうクリエイティブな人材の育成にあることは言うまでもない。本システムを高度に活用して行くことにより、より先進的な「ものづくり」の分野で活躍できる人材の育成を目指したいと考えている。
 なお、ソニー(株)には本システムの導入・運用に関し、大変お世話になっている。この場を借りて厚く御礼申し上げる。


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