音楽分野の情報教育

音楽教育でのコンピュータ利用について


久木山 直(桐朋学園大学音楽学部講師)



1.音楽におけるコンピュータ利用の現状

 音楽あるいは音楽教育におけるコンピュータの利用としては、大きくMidiを利用するものとオーディオ信号を処理するものに分けられる。Midiを利用するものとしては、シーケンサーによる演奏情報等の記憶と再生、音色外部ディバイスのコンピュータ側からの制御による音色合成、スキャンされた譜面の自動演奏、アルゴリズムによる作曲等が考えられる。オーディオ信号の処理については最近のCPUの処理能力の向上とともにリアルタイムDSP(デジタル・シグナル・プロセッシング)処理が可能となっている。もちろん、Midi情報処理とオーディオ信号処理は相互に関連づけられながら利用されているのが現状である。また、Midi、オーディオ信号とは別のものとして、譜面ワープロによる楽譜制作というコンピュータの利用も行われている。譜面作成においてはMidi、オーディオ信号を直接必要とはしないが、作成された譜面の演奏、また演奏された情報の取り込み譜面化という面ではこうした信号は利用されている。
 さらにマルチメディアとして映像やテキストとの音声信号、Midi信号のリンクはもちろんのこと、こうした他情報を数値変換することで音楽に利用する、ということも行われている。本学ではこうした様々な面に対して互いに関連づけられながら演習されている。
 授業は主に3人の教官により展開され、オーディオ信号処理、アルゴリズムによる作曲等Midi信号処理、シーケンサーによる演奏情報の記憶とエディットに重点を置いたものという位置付けがなされている。
 オーディオ信号処理にはEmagic社のLogicAudioというソフトを、アルゴリズムによる作曲はIRCAMが開発したOpcode社のMaxとMSPを、シーケンサーによるエディットには上記のLogicAudioとMark of the Unicorn社のPerformerをMacintosh上で利用している。
 Midiの外部音源としては、YAMAHAのSY85をマスターキーボードとしてE-muのPROTEUSTシリーズ、YAMAHAのX-816、TX81Z、DX7、RolandD-10等数種類の音源を16チャンネル×2台のミキサーを通して処理している。


2.演習内容

 オーディオ処理を主とする授業ではミュージックコンクレート(具体音楽)制作が行われている。現在のコンピュータ能力では本体のAV機能で処理が可能となっているが、ノイズやコンバートのクオリティの問題等を考え、演習は拡張ボードを使用している。デジタルサンプリングされたドラム・ベース等の音声データをループ処理してリズムパートを作り、その上に様々なスクラッチノイズ等を重ねるような形態での所謂テクノ系ミュージックのようなポピュラー系の音楽制作や、我々の周りにある生活具体音からサンプリングされた素材音をタイムストレッチ、リバース処理等、サウンドにエディットを施し、それらをに組み合わせて作品化するようなものまで多様である。いずれにせよ、嘗てオープンテープのカット編集作業で行われていたこうした音楽制作の流れを簡単に実体験し、新たな作品を作り出している。
 アルゴリズムによる作曲では既成のスタイルをコンピュータで分析、再統合する試みとともに、作曲の過程を論理的に作曲科の学生が意識する、という機会を与えている。商業音楽のアレンジソフトや環境音楽系のアレンジ作曲ソフトというものも市場には出回っているが、そうしたソフトがどのようなアルゴリズムをもっているのかを考えるといった体験も通じて、音楽の生成文法を考える一助にもなっている。演習で使用しているソフトはMaxというオブジェクト指向のMidiプログラミング言語で、一部の学生は自分で作った自動生成のプログラムを作品に全面的あるいは部分構造に利用するなど様々に活用している。こうした結果として得られる作品も重要であるが、音選びの規則を決定したり時間構造を決定するプログラミングを通じて、自分の音楽観の分析、あるいは模範となる作品の構造分析を行うことになり、そうした体験が学生の作品制作に影響を与えているようである。
 さらに、実際に演奏される楽器音、あるいは行為をトリガーとしていくつかのシーケンスを走らせたり、入力されるMidi信号を変換して出力し、生演奏と関係性をもった作品をつくる等、インタラクティブな、コンピュータと演奏者のかかわりをもった作品を制作している学生もいる。
 シーケンサーによるエディットの演習は主に演奏学科の学生を対象としている。オーディオ信号、Midi信号の違いや配線方法等の基礎的な説明にはじまり、既成の作品をリアルタイム入力、あるいはステップ入力することでデータをつくり、さらにそれをエディットすることで、打ち込みといわれる作業を体験させている。打ち込みによって制作されるデータそのものの出来も重要であるが、自分の演奏をデジタル化して捕えるという視点により、感覚的に捕えていた演奏表現の差異というものについて考える一つの手だてとなり、このフレーズをどういう音量の時間変化で弾いた方がよいか、全曲のテンポ管理をどうするか、和音のバランスとしてはどこをどう出していくのがよいか等、楽器の実演奏にそうした体験がフィードバックされていく。
図1 Maxで制作したインタラクティブなパッチ例

 

3.環境整備と問題点

 音楽産業のデジタル機器の利用、開発、発展は目覚ましいものがあり、環境として常に最新の状況で整備し続ける、というのは予算的にもスペース的にも大変難しいものがある。本校のスタジオではマスタリングというCD等のメディア落とす前に、連続した一曲ごとのトータルイコライジング、トータルバランスを調整する前段階作業がやや不整備である。CD-R化するソフト、ハードも現在のところ所有していないので今後こうした面を整備していきたい。
 不特定多数の学生が使う環境では、どこでも起るであろうハードディスクやシステムのメンテナンスと、Midi機器の不具合から勝手な配線の変更が度々行われるといったパッチングの保全の問題も常に抱えている。システムは数台の外付づけのハードディスクにも置いてあり、いざという場合はこちらから起動できるようにしている。パッチングは使用後全部抜いて置くような指導の徹底と、Midi配線は基本的に変更不可としている。


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