情報教育と環境

国士舘大学の情報教育と環境



1.はじめに

 本学は大正6年(1917年)に創立され、現在は6学部(政経学部一部、政経学部二部、体育学部、工学部、法学部、文学部)、短期大学および大学院5研究科(政治学研究科、経済学研究科、経営学研究科、工学研究科、法学研究科)からなる総合大学である。
 本学の教育・研究は、世田谷キャンパス、鶴川キャンパス、多摩キャンパスの3カ所で行われており、現在これらのキャンパスで、約12,000人の学生が教育を受けている。
 本学における情報教育は、昭和39年に工学部用としてHIPAC-101Bが導入されたことに始まる。以後30数年に亘り、主に大型汎用コンピュータを利用した教育・研究が行われてきた。しかし、平成9年のシステム更新に際しては、それまで存続していた大型汎用コンピュータを廃止し、CPUサーバ、並列計算サーバを擁するネットワークを主体としたオープンシステムへの全面転換を図った。このネットワークシステムの下、本学の教育・研究活動が日夜活発に行われている。


2.情報教育

(1)情報科学センター

 本学においては、昭和50年に汎用コンピュータの全学共同利用を推進していくために電子計算機センターが創設され、昭和63年に情報科学センター(以下「センター」と略称)と名称変更された。現在センターは、専任教員4名(内兼担1名)、非常勤講師9名、専任職員4名、派遣社員3名で構成されている。
 教育という面では、その創設初期の頃より、各学部等の代表委員およびセンター専任教員より構成されるセンター運営委員会を中心にして、全学的な情報科学教育の計画立案および推進が行われてきた。また、センター専任教員と非常勤講師が、その全学的情報教育実施の中心的役割を果たしてきている。
 情報処理施設という面でもセンターは、優れた教育・研究成果に結びつくことを目指して、その設備の提供と共同利用施設の運営・管理という点から学内における中心的役割を果たしてきた。現在は共同利用施設としての大型汎用コンピュータは持っていないが、学内ネットワークの整備・管理、ハードウェア・ソフトウェアの保守、教育用端末室等施設の運営・管理等々、センター担当業務は年々増加の傾向にある。センターでは、これらの業務に対処すべく作業を進めている。

(2)本学の情報教育の特色

 本学の情報教育の特色を述べるに当たっては、初期の段階より全学的情報教育の普及と充実を目指して進められてきたことを挙げることができる。そして、全学(短大を含む)に亘る情報教育の効果の統一を図るという点では、特に「情報科学」という通年の講義科目を設置している。「情報科学」は、全学部(短大を含む)のカリキュラムの中に設置されているので、本学の学生であれば誰でも履修可能である。平成10年度は、文系学部(政経学部一部、法学部、文学部)の1年生全体の約54%が履修している。特に政経学部一部の1年生では、全体の約70%が履修している。内容的には、情報科学の基礎的事項に関する講義であり、高度情報化社会の到来にあたって、学生の専門に関わらず基本的に身につけておくべき事柄、あるいは理解しておくべき事柄を中心に構成されている。「情報科学」の講義は、センターの専任教員および非常勤講師が担当している。
 さらに文系学部(政経学部、法学部、文学部)においては、2年次に「情報処理1」、「情報処理2」(各2単位)というパソコンによる実習を伴う科目が設置されている。初期の頃は、これらの科目の教育内容には、汎用コンピュータを使ったプログラミング教育が含まれていた。しかし、現在はパソコンソフトを利用したワープロ、表計算の基本技術の習得およびVisual BASICによるプログラミングを中心にした教育を行っている。また、最近では、これらにインターネットを利用した教育が加えらている。この科目もセンターの専任教員および非常勤講師が担当している。また、工学部のプログラミング教育、体育学部および短期大学におけるコンピュータリテラシー教育もセンターで担当している。
 一方では、各学部固有の情報教育がセンター設備を使って活発に行われている。まず工学部以外の学部では、政経学部一部の「システム設計」、「コンピュータ会計」、「データ解析論」、「演習I・II」、政経学部二部の「商業英語」、「演習I・II」、「プレゼミ」、体育学部の「スポーツ情報処理論」、「スポーツバイオメカニクス実習」、「体育生化学実習」、法学部の「法情報学」、「統計情報学」、文学部の「図書館学」、「教育学演習」、「計量地理学」、「リモートセンシング」、「地図学」等の科目を挙げることができる。工学部においては、学部の性格上多くの科目でセンター設備が利用されており、CAD教育、ゼミナール等でもよく利用されている。これらの科目は、主に各学部の専任教員および非常勤講師が担当している。
 また、春・夏の休暇を利用してセンターは、情報処理教育講座を例年開催している。この講座は、日商「日本語文書処理技能検定(ワープロ3級)」と「ビジネスコンピューティング検定3級」以上に合格可能な技法習得を目的として行われている。就職難が叫ばれる時代にあって、資格に対する学生の関心が高く、例年多くの学生が受講している。
 生涯学習の一環としてセンターは、平成9年度から世田谷区役所との連携協力の下、「中高年の就業のためのパソコン講習会」等いくつかの講座を実施し、その設備・講師の提供を行った。社会からは大学自身が「地域に開かれた大学」となることが、今後益々求められると予想されるので、このような講座は来年度以降も増えていくように思われる。

図1 国士舘大学ネットワーク概念図


3.システム環境と設備

 本学においては、平成7年度から9年度にかけて、世田谷、鶴川、多摩の各キャンパス内に光ケーブルによる学内LANを構築した。これによって、学内のどの研究室からでも学内ネットワークに接続できる環境が整った。世田谷キャンパスは、1.5Mbpsの専用線でSINET東工大ノードにつながっている。また、世田谷、鶴川、多摩の各キャンパス間は専用線で接続されている。平成9年から10年にかけて政経学部、体育学部、法学部、文学部、附置研究所および短期大学の各教員の研究室にパソコンが導入され、これらが学内ネットワークに接続され、教育・研究に活用されている。
 教育用としてセンターは、マルチメディア機能装備のCAI装置を備えた教育用端末室を世田谷キャンパスに2教室(パソコン130台)、鶴川キャンパスに2教室(パソコン102台)、多摩キャンパスに1教室(パソコン51台)の合計5教室を設置している。世田谷、鶴川の教育用端末室は、装置の切り替えにより2教室を連結して1教室として使うこともでき、また、2教室を同時に別々の講義・演習で使うこともできるように作られている。これらの教室は、情報科学関連科目のみならず、専門科目の講義や演習にも利用されている。特にCAI機能は、教員の講義・演習支援という面で多いに役立っている。例えば、教卓にはOHP、ビデオ機器が設置されているので、教員はこれらの装置からの入力情報を学生に送信できる。また、学生の出席状況あるいは作業内容の把握、学生レポートの処理等に便利な機能を備えている。教育用端末室は講義優先で使用されているが、講義で使用していない時間帯には、学生の自習用に解放されている。
 研究・教育用としてセンターは、世田谷キャンパスにコラボレーション室、ワークステーション室、入出力室を設置している。コラボレーション室では、演習・ゼミ等のディスカッションに便利な環境と10台のノートブックパソコン、ビデオプロジェクター等の設備が提供されている。ワークステーション室には、研究用の10台のパソコン、9台のワークステーション等が設置されている。また、この部屋には個人研究用ブースが6室用意され、各々のブースにワークステーションが1台ずつ設置されている。研究者が、ここで自分の研究室にいるが如くに、長時間研究に専念できるよう工夫されている。入出力室は、研究者用の設備であって、ワークステーション、パソコンに加えてOCR装置、スキャナ、CD-R装置等が設置されている。
 平成11年には、パソコン48台からなるマルチメディア的プレゼンテーションを可能にするLL教室が、鶴川キャンパスに完成の予定である。


4.直面課題

 設備に関しては、世田谷キャンパスでは平成10年度のメディアセンター完成と共に、念願であった教育用端末室を2教室設置することができた。以前の1教室だけの状態では、学生の自習に何かと不都合が生じていた。しかし、教育用端末室を使用し行う講義・演習の飛躍的な増加により、またもや学生の自習に不都合が生じ始めている。本来なら自習専用室を設けるべきところであるが、現実的には困難な問題である。
 教育上の問題としては、まずカリキュラムに関する以下の問題がある。文系学部(政経学部一部、法学部、文学部)の現行のカリキュラムにおいては、1年生で「情報科学」を履修し、2年生で「情報処理1・2」を履修するようになっている。しかし、最近これらの学部より「情報科学」の履修とは独立に、1年次からコンピュータリテラシー教育を行いたいという要望がでてきている。また、教員免許法の改正により今後免許取得のためには、「情報機器の操作」が必修となる。共に内容的にはカリキュラムの見直し、変更につながっていく問題である。この問題に対処すべく作業を始めている。また情報教育に関する講義の総コマ数を増やすという問題でもあるので、それに伴う教員の確保、教室の確保が現実的な問題として浮上する。
 教育上の問題として、さらに「全学生にIDを付与する」という問題がある。本学ネットワークシステムは、希望者と講義履修者にIDを付与するという制度で運用されている。しかし、学生達自身の希望に社会のニーズが加わり、全学生へのIDの付与という声は、高くなりつつある。センターとしては、全学生へのID付与を平成11年度より実施すべく準備を進めているが、どのような教育をした後にIDの付与を行うべきなのか、どのような環境を提供すべきなのか等々処理すべき問題が多い。


5.まとめ

 本稿においては、本学の情報教育、システム環境と設備等について述べた。学内LANの整備、平成10年のメディアセンター完成に伴う情報科学センターの移転によって、本学の情報化は大いに進展した。一方では、社会全体の情報化の波も一段と進みつつある今日、このような環境における今後の大学の情報教育は、いかにあるべきかを全学的に見直す作業が始まっている。



文責: 国士舘大学情報科学センター助教授
  川崎 治夫

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