情報教育と環境

グローバルな教育ネットワークの構築をめざして
帝塚山大学における情報教育環境



1.はじめに

 帝塚山大学は、1964年に日本初の教養学部を擁する女子大学として発足した。その後87年の経済学部開設と同時に男女共学への移行を果たし、97年度に法政策学部、今年度はさらに経営情報学部を開設、文科系総合大学として着実にその基盤を固めてきた。


2.これまでの取り組み

 「科学的素養を持った文科系人材の育成」を開学以来の柱とし、情報教育にもいち早く取り組んできた本学は、例えば他大学に先駆けてパソコン通信のホスト局開設、インターネットのクラスBドメインの取得、ホームページの開設を行ってきた。さらに、パソコン通信あるいはインターネットを用いた海外の大学との国際合同ゼミナール、電子掲示板の開設など単に環境整備のみにとどまることなく、情報技術を教育に取り入れる様々な試みを行ってきた。


3.進化し続ける全学ネットワーク

 昨年4月には情報インフラの更なる充実を目指して新教育研究支援統合ネットワークシステム「TUNE」(Tezukayama University Network Evolution)の稼動を開始、また同年7月にはこのインフラを利用した新教育サービス"TIES"(Tezukayama Internet Educational Service)をスタートさせた。
 「TUNE」の概要としては、情報教育研究センター(以下、センター)にUNIX、WindowsNT合わせて18台のサーバマシンを、また教養・経済・経営情報・法政策の13教室に約660台のデスクトップおよびノート型バソコンをクライアントマシンとして設置している。サーバOSについてはUNIXがインターネット系および一部演習系サーバを、またNTは授業支援系および学生のファイルサーバの役割を各々担っている。学生にはそれぞれ10MBのエリアを割り当てているが、ホームページ作成等でかなりのエリアを使用するためか、エリアの上限をオーバーする学生が後を絶たないため、次年度は上限を20MBまで引き上げるべく検討している。
 ネットワーク幹線には800Mbpsの光ケーブルを配し、SwitchingHubなどのネットワーク機器を用いてFastEatherで接続、支線では10/100Mbpsの帯域を確保している。
 また「TUNE」はFireWallによるセキュリティの確保、サーバのディスクのクラスタリング、リダンダントなネットワーク構成等、フェイル・セーフに重点を置いたシステムとなっている点も特色として挙げることができよう。
 このインフラ上で稼動するソフトウェアにはSolaris、WindowsNTといったOS系ソフトを始め、各教室共通でインストールされたワープロ、表計算ソフト、プレゼンテーションソフト、データベースソフトや、特定の教室にインストールされている統計解析ソフト、線型計画ソフト、言語教育ソフト(C、Java)など多岐に亘っている。
 さらに、全教室に教室運営システム(学生−教員間通信機能、アンケート機能、キーボード・マウスロック機能等々)を導入するとともに、本学独自の授業支援システム(出欠管理、レポート管理)を導入して授業運営をサポートしている。
図1 帝塚山大学教育研究系ネットワーク TUNE
(Tezukayama University Network Evolution)


4.「TUNE」上で展開される授業

 ひと口に情報教育と言ってもさまざまなレベルが考えられるが、文科系大学である本学にとってやはり「道具としてのコンピュータをいかに使いこなすか」が情報教育の目標となろう。
 基礎となる1年生でのリテラシー教育においては、全学部とも、希望者がほぼ全員履修できるだけの授業数を開講している。例えばWindowsの使い方に始まり、ワープロ、表計算ソフト、インターネット、電子メールの使い方、さらにはプレゼンテーションソフトやホームページ作成を通じての自己表現、情報発信テクニックの習得といった汎用的能力の涵養を目的とした授業が行われている。
 これらの教育を前提に専門課程では、より高度な教育を展開している。例えば社会調査および高度な経済・経営シミュレーションを行うための統計解析ソフト、あるいは最新のマーケティング理論における意思決定の実践・検証ツールとして、線型計画ソフトの利用といったことまで、情報技術を使いこなすことで様々な知識、能力、テクニックを身につけることができるカリキュラムが用意されている。
 また、就職活動においてもインターネットが主要なコミュニケーションツールになりつつあることもあり、全学生へのメールアカウント付与、ニュースサーバ上での学内掲示板開設など、ネットワーク時代を生き抜くためのトレーニングを日頃から自然に行うことができる環境を設けている。
 学内掲示板では授業、ゼミ単位でボードを設け、各種情報伝達、小テスト結果発表など学生と教員のコミュニケーションの一助となる一方、フリートークやコンピュータ関連のボードも設け、学生間あるいは学生とセンター間の意見・情報交換の場も提供している。最近ではネチケット違反の学生にさりげなく注意を与えてくれる学生の出現もあり、ボードマスターを担うセンター側としては予想以上に掲示板の運営がスムーズに行われている点に満足している。


5.「誰でも、いつでも、どこでも」利用できるWeb提供型教材「TIES」

 これまでにも本学では中国語CAI教材への取り組み(第4回情報教育方法研究発表会・私立大学情報教育協会賞受賞 教養学部・林 要三教授)などいくつかのCAI教材への取り組みがなされてきた。
 今回、語学教育に留まらず専門教育においても、聴くのみの授業から学生自身が主体的に参加することのできる授業を目指して新しい教育システムの開発が行われた。
 「誰でも、いつでも、どこでも」をキーワードに開発された「TIES」は、本学学生のみならず広く一般の人々がWeb上に公開された講座を受講、さらには教材作成できるシステムになっている。またチャット機能を利用した「バーチャルゼミ」を月に1度開講、オンラインで受講者と本学教員との間で経済学のゼミを実施している。
 このシステムは本学のめざす「グローバルな教育ネットワークの構築」を具現化したものであり、将来的には他大学、企業、個人といった学外の方々とのコラボレーションを通じ教材の内容を充実、データベース化させ、さらには受講者の学習進捗に合わせた教材提供ナビゲーション機能の開発といった方向へ発展させたいと考えている。


6.今後の課題

 現在認識している課題として、
  1. 自習教室の不足
  2. 情報機器を利用した授業の増加
  3. 情報倫理教育の拡充
  4. システム開発業務の増加といったことが挙げられる。
 1. については、基本的に日中は授業で使用されない時間帯を自習用に開放しているが、既に特定曜日・時間において授業が集中、自習室不足を生じており、今後いかにして自習室を確保するか大きな問題である。コスト的にもこれ以上コンピュータ演習教室を増設することは非常に困難であろうから、一般教室への情報コンセント(もしくは無線LAN)敷設とノート型パソコン貸与による対応といったことを検討する必要があるかと思われる。
 2. については、情報リテラシー教育を必修化しようとする学部の動きや、インターネットを利用する授業の増加など、これまで以上にコンピュータ演習教室の利用頻度が高まりつつある点、さらにはより多くの教員にコンピュータを利用してもらうための、いわば教員側の情報リテラシー向上といった点が今後の課題ではないかと考える。
 3. については、インターネットの普及により外部との垣根が非常に低くなっている昨今、一歩間違えれば本学学生がネットワーク犯罪の被害者あるいは加害者になる可能性や、第三者によるシステム破壊、踏み台行為への防止策等、内外に潜在する人為的危機への回避の必要性を意味する。
 また4. については、「TIES」開発でも経験してきたが、限りある人的リソースや開発費用の捻出等、学内では解決が困難な諸問題について外部企業、団体とのコラボレーションを模索していかなければならないと考えている。


7.おわりに

 センターはこれまで学内でのコンピュータ利用推進を図ってきたが、当然のことながら利用度が上がれば付随して諸問題も増加・複雑化してくる。その上、「秒針分歩」の情報技術がそこに絡んでくるわけであるから、事態はますます複雑化してきている。
 混沌とした状況ではあるが、センターとしてはやはり最も尊重されるべきユーザである学生に対し、いかに価値の高いサービスを提供していけるかを常に忘れることなく進んでいきたいと考えている。そういった意味においても、学内にとどまらず学外とのあらゆる意味での「ネットワーク」を拡げていきたいと考えている。



文責: 帝塚山大学
  情報教育研究センター長 落合 史生
  事務主任 吉田 圭吾

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