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WWWの仕組を利用した履修登録システム
中央大学総合政策学部の例


平 野 廣 和(中央大学総合政策学部教授)



1.はじめに

 履修届は、大学教育が開始されたころから必ず行われてきた作業である。学生数の増加、選択できる科目の多様化により、届けを提出する学生にとっても、また受け取る事務当局にとっても年々複雑かつ煩雑な作業となっている。届けが提出される時期には、多くの職員がこの作業に従事することになる。この作業を効率化することは、大学改革を行う上でも、大学生き残りにかけても必要不可欠なことの一つである。さらに、履修の多様化である近年のセメスター制導入に伴い、従来は年1回の作業が2回以上になろうとしている。
 ところで、従来のシステムは紙を媒体とした手法が主流であり、学生から提出された届け用紙をOCR等で読み込んで入力を行っていた。この方法では、入力して初めて重複のチェック等が行われることになり、完全なデータが作成されるまでには、1ヶ月以上もの時間を必要とする場合があった。
 一方、本学部では、15台のサーバを中核として学部独自でイントラネットを構築しており、全学生がいつでも自由に使える目的で教育演習用に300台余りのパソコン(WindowsNT4.0)を100MBのLANおよび無線LANで接続している。特に、新入生は入学式直後のオリエンテーション時から、情報リテラシー教育の一環として、インターネットの利用方法をまず教育している。
 このような背景から、本学部ではセメスター制導入に伴うカリキュラムの全面改訂に際し、1998年4月からWWW(World Wide Web)の仕組みを利用した、ハードウェアに依存しないWWW履修登録システムを独自に開発し、運用を開始した。本稿ではこのシステムの概要を報告する。


2.システム概要

 本システムの特徴は、WWWの仕組を利用し、本学部内に設置されているパソコンから学部内部専用に準備されたサーバにアクセスし、WWWブラウザ上に表示された履修登録画面を学生が操作して履修登録を行うシステムである。ここで作成された履修データは、事務ホストに履修登録データを渡す前の1次処理として重複チェックを行う機能を有している。
 事務ホストに事前に登録されている学生マスターファイルから受け取ったデータをもとに、学生はこの画面を通じて履修登録を行う。学籍番号およびパスワードにより個人を認識し、事前に決定されている必修科目や語学のクラスは自動的に表示される。また、科目選択の重複は、学生に提示された時間割表から選択するのみなので、重複は絶対に起らない仕様となっている。
 一方、管理者も学生と同様にWWWブラウザをユーザインタフェースとして、学生の登録利用期間の設定、マスターデータの編集、事前登録データの編集を行うことができる。登録された履修データは、事務ホストにFDまたはMOディスク経由で渡される。なお、WWWサーバと事務ホストの間をネットで接続していないのは、セキュリティの確保のためである。本学では、研究教育系ネットワークと事務系ネットワークとは、完全に分離したシステムを採用している。
 ところで、本システムが稼働する上で必要となるソフトウェア環境を表1に示す。どのソフトウェアとも特殊なものはなく、簡単かつ安価に入手できるものである。そのため、開発費のコスト・ダウンに大きく寄与した。
表1 稼働環境サーバ
サーバ Windows NT Server 4.0
Internet Information Server 4.0 クライアント
SQL Server 6.5 または Access97クライアント
クライアント Internet Explore 3.01以上または
Netscape Navigator 4.0以上


3.管理者の運用

 履修システム管理者は、図1の左側に示す運用フローの手順に従って準備を行う。

(1)マスターデータの準備
 事務ホストおいて、以下の5種類のマスターデータの準備を行う。このデータはSYLK(Symbolic Link)形式で作成する。

  1. 学籍マスター
  2. 教員マスター
  3. 科目マスター
  4. 時間割マスター
  5. 事前登録データ(必修科目や語学クラス分け等を含む予め決まっている時間割)
図1 運用フロー

(2)マスターデータの一括入力
 事務ホストにおいて作成したマスターデータを、FDまたはMOディスクを介してWWWサーバへ一括入力する。この入力方式もメニュー方式で簡単に入力することができる。

(3)学生利用時間の設定
 学生がWWW履修登録を実行できる期間を設定する。ここで利用期間を設定するのは、学生がWWW履修登録システムにログインするときに、この日付とWWW管理者サーバシステムの日付とを比較して、学生利用期間内範囲内であれば、履修登録を行うことができるようになっている。

(4)マスターデータの編集
 データベースの一括登録後にデータの変更が生じた場合を想定して、WWW履修登録サーバ内のデータを編集する機能を有している。

(5)未登録者の表示
 本システムには、学籍状態が「通常」にもかかわらず、まだ履修登録を行っていない学生をリストアップする機能を有している。この機能により、未登録者をリストアップして、未登録者に登録を促することができる。


4.学生の運用

 学生は、図1の右側に従って履修登録を行う。

(1)ログイン
 WWWブラウザから履修システムを起動すると、図2に示す利用者ログインの画面が表示される。ここに事前に付与した11桁の学籍番号とパスワードを入力する。

図2 利用者ログイン画面

(2)履修選択
 WWW履修登録システムにログインすると、図3に示すように、事前登録データが取り込まれた各学生ごとの時間割表画面が表示される。この時間割表の「前期」または「後期」のボタンをクリックすることにより、履修選択を行う。ここで、ボタンがなく、かつ科目名が表示されている所が事前登録データ、それ以外は履修選択ができない所である。また、時間割表のマス目が上下に分かれているのはセメスター授業を表している。「未選択」は、科目を履修していない所を表している。

図3 履修選択画面
例えば、土曜日の3時限目の「前期」ボタンをクリックすると、図4の画面が表示される。リストボックスをクリックすることにより、対応する授業科目が学生年次に応じて表示されるので、この中から履修する科目を選択して「OK」ボタンをクリックする。なお、科目を取らない場合には、リストボックスの「選択しない」を選択して「OK」ボタンをクリックする。
図4 選択画面

(3)履修チェック
 本システムには、各自の時間割を作成した後に、履修データを自動的にチェックする機能を有している。履修チェック機能を選択すると、図5の画面が表示される。ここの時間割表の左下に「教職科目単位数」、「通常科目単位数」と「最高履修単位数」をそれぞれ表示している。通常科目単位数が最高履修単位数を超えると、「エラー」の表示を出す。この場合は、図3の履修画面に戻って、取得しようとしていた授業を「選択しない」として、削除を行う。

(4)登録
 履修チェックの結果問題がなければ、履修データの登録を行う。図5の左下の「登録」をクリックすることにより、登録が完了する。

図5 履修チェック画面


5.システム導入効果

(1)登録準備に関わる作業の負担軽減
 本システムによる履修登録に必要となる各種データは、すべて現在使用している事務ホスト内にあるものを使用している。よって従来のデータがそのまま利用できることから、あえて新システムのためにデータを作成する必要がないようになっている。よって、システム運用に関わる事前準備の負担が軽減されている。

(2)システム運用および変更に関するコスト軽減
 本システムの運用開始に伴い、システムの運用および変更に関わるコストが軽減できた。これは、ソフトウェアがHTML+VBScript言語で記述されていることから、一般ユーザでもシステム変更が行え、自由度が拡大している。さらに、WWWを利用していることから、ハードウェアにまったく依存しないシステムとなっているために、情報機器リプレースの際のシステム変更費用がほとんど生じないものとなっている。

(3)登録スケジュールの柔軟化
 本学部の持つ情報機器を最大限に活用できること、さらに登録後の作業時間が大幅に短縮されたことから、学生が登録を行う期間の設定が自由に行え、自由度が大きくなった。

(4)履修登録後作業の軽減
 学生が自分の時間割表を直接画面上で見ながら作成することから、入力しながら自らチェックできるシステムとなっている。さらに、事前履修科目の表示、重複チェック、最高履修単位数のチェックも同時に行っている。この結果、作成された履修データは、ほとんど修正を必要としないデータとなっており、データチェックの時間が大幅に軽減された。

(5)学生の評判
 当初、入力を行う演習室へは、職員が必ず数名立ち会って、かつ学生には、入力の仕方を記述したマニュアルを配布して入力を行う予定であった。しかし、本学部の学生がWWWをいつも使っていることもあり、マニュアルをほとんど参考にせず、画面に表示される手順に従って入力することができた。また、入力に関する質問もほとんどなく登録が行われた。各演習室へは1名の職員が立会するのみとなった。なお、学生が履修登録に要した時間は、事前に時間割表をある程度作成してきた学生で平均で5分程度、画面の前で考えながら入力した学生でも10分程度であった。学生には、おおむね好評であり、開発の目的も達したと考えている。


6.終わりに

 1998年度の2回目の秋期履修届けも無事終了することができた。今後の課題は、本システムを統合型のシステムに構築していくことである。最後に、開発に際して協力をいただいた関係各位に感謝を申し上げたい。


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