特集

ノートパソコン利用を考える(事例1)


多摩大学
(バーチャルマネジメントゲーム)



1.多摩大学の科目構成

 多摩大学は経営情報学部経営情報学科の1学部1学科となっており、平成10年度から「経営基礎II」という、1年次秋学期から開講する必修科目を新しく設けた。それまで教科書に沿って基本的なことを「暗記」したり「理解」したりという「受動的」な作業が多かった学生たちに、情報を自分で収集し整理統合して新たな情報や認識を生産・発想するという「能動的」な経験をさせたいという教員たちの共通の思いから誕生した基礎教育科目である。学年を3クラスに分け、それぞれ常勤教員1名、実社会からの非常勤講師1名が担当し、実際に経済活動を行う意味とは何か、会社とはどのような仕組みで動いているのかを学生たちに体験学習してもらう。また、本講義をより実践的、効果的にするために、インターネット上で会社経営ゲームを走らせ講義と連動させることにした。
 この背景には、1年次の学生たちは事前に「情報基礎I」「経営基礎I」という必修科目を受講しており、コンピュータの基本的操作についてはインターネットとの接続、情報検索の方法、電子メールの授受、ワープロ・表計算スキルなどがひととおり身についていること、あるいは経済経営の全体像を学んでいることがある。
 ここで「情報基礎I」「経営基礎I」と「語学」については、多摩大学独自の教育システムの中で展開しており、4年前から開講している。1年次は3クラスに分かれ、各クラスがそれぞれの科目を週2回2コマづつ履修していく。半年のカリキュラムで経営情報に関する学生の基礎的学習レベルがそろう。ほとんどすべての教員がこのシステムを理解しているため、2年次以降では安心してそれぞれの科目の専門教育を展開できることになる。
 以前から「I」に続く「II」の開講については要望があったのであるが、「情報基礎II」については数学とデータベース等への展開により、数値データを加工評価できる力を身につける講義として、また「語学」については必修科目の単位数を増やすことにより実質的に対応することになった。そして「経営基礎II」については上述したように、講義をゲームによってサポートするという形で新しく開講することになった。


2.「多摩大式経済経営シミュレーター」について

 「多摩大式経済経営シミュレーター」と名づけたこのバーチャルマネジメントゲームは、多摩大学と青森公立大学との共同研究で開発したまったく独自のものであり、インターネット上に設けたデータベースサーバのもとで24時間動き続ける。学生たちは普通、WWWのブラウザを通してインターネット上のパソコンであれば、どこからでもアクセスおよび操作が可能になっている。
学生たちは、まず4人から7人の会社を登録し、住宅、乗用車、家電、書籍等の設定されたいくつかの業種から一つを選び、毎期(1週間)ごとに製品を生産してWWW上のバーチャルマーケットに投入する。これらはすべてWWWブラウザ上で行われる。製品を購入するのは、学生個々人である。すなわち、学生は会社経営と消費者の2つの役割を同時に果たすことになる。ここには独特のバーチャルマーケットが生じ、常に市場の動きを監視してすばやく意思決定していく会社が業績を伸ばしていく。結果、どの会社も財務諸表(ゲーム上で自動的に作成される)を読んで分析したり、損益分岐点を計算することが重要だと気づくようになる。高等学校で簿記を習ってきたものなどは、会社の中でも経理担当役員として重宝されていた。また、顧客にダイレクトメールを出したり、業界新聞に広告宣伝を載せるといった工夫もしはじめる。それでも64社のうち倒産が2社、業績不振の会社が7社ほど出ていた。
 8期(8週間)にわたるゲームの結果は、3クラス合同の擬似株主総会で発表する。初回株主総会では、経営不振の責任をするどく追求する意見が出たり、会社の企業理念を問うものが出たりと非常に活発なものになった。
 ゲームの基本構成については多摩大学紀要No.3に投稿済なので詳しくはそちらを参照してもらいたい。またインターネット上では、http://trap.timis.ac.jp:591/ からいつでもゲームを見ることができる(ただし、春学期は前年度秋学期の結果のままである)。


3.ノートパソコン貸与とその支援体制

 今回、多摩大学ではこの講義にあわせてノートパソコンを1人1台貸し出すことになった。デスクトップパソコンでなくノートパソコンにしたのは、パソコンを身近に利用することにより、学生の能力の向上と講義への興味の増加を期待したためである。実際に「経営基礎II」の講義においては、強制しなくても各会社の経営状況を分析したり市場動向を調査したりするのに使われていた。いやおうなくインターネット接続が要求されるこの講義を通じ、学生たちは逆にパソコンを利用する便利さと必要性を強く認識したようである。時々のゲームルールの変更やゲーム会社の業界動向等をリアルタイムにWWW上に掲載したので、それらをうまく利用できた会社、あるいは個人が結果的にポイントを稼いでいた。
 講義には、情報系のシステムサポートが1人常駐することによって、ゲームや操作方法に対する質問に対応できるようにした。また学生TAを各クラスに3人ずつ配置して、パソコンの操作方法の質問に答えたり、財務諸表の読み方などの質問に答えてもらったりした。
 この講義に限らず、多摩大学では学生がTAやMA(メンテナンスアシスタント)となって、教員の仕事をサポートしてくれる体制ができている。TAは出席チェックやレポート提出状況チェックなどの他に、パソコン操作の質問に答え、システムがダウンしていれば簡単な保守も行う。一方、MAは主に放課後のパソコン自習ルームにおり、マシンのメンテナンスの他、学生たちの質問にも答える。今回の1人1台貸与にあたり、これらの学生たちが中心になって使用マニュアルを作成したり、保守の方法を考案したりしている。
 現在、多摩大学ではメディア・インテグレーションセンター(MIC)という名称でネットワークがらみの教育支援等を行っているが、その組織内でも学生ワーキングメンバーとして大勢の学生たちがシラバスCDの作成や、パソコンマニュアルの作成などで力を発揮している。これらの学生たちの多くがパソコンを日常の道具として使いこなしており、その面白さに気づいて積極的に活動したがっている。
 今回の「経営基礎II」において、初めて経営系の講義と情報系の講義が合体した。パソコンに強い学生たちが今度は経済経営問題を考える面白さに目覚め、それら諸問題を分析したり解決したりする手段としてパソコンの活用により「能動的」になってくれるのではないかと期待している。


4.ノートパソコンの教育利用での問題点

 ノートパソコンを教育現場で利用するとき、まず機種選定の難しさがある。以前は3年一昔と言われていたのが、現在では3ヶ月一昔、ちょっと前のパソコンのスペックではもはや使えない状態にまでなりつつある。性能もメーカーによる差が少なくなりつつあり、1社に決めることも難しい。多摩大学の場合は、電子メールとWWWブラウザが使えるモバイルマシンという最低条件を満たすことを第一に考え、MacintoshとWindows95およびWindowsCEマシンの3種類のOSからそれぞれ1種ずつマシンを選び、学生たちの希望をとった。
 また、学内のパソコン利用環境をきちんと設計する必要がある。当然学生たちは自分のパソコンをインターネット接続したいのであるから、適切な場所と電源確保、サーバの設定が必須であることはもちろんのこと、マニュアルやメンテナンスをどうするか、保証書をどう保管するか等、教職員側もきちんとした対応を考えておくべきであろう。



文責: 多摩大学経営情報学部
  教授 杉田 文章
  教授 齋藤 裕美

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