特集

ノートパソコン利用を考える(事例5)


武庫川女子大学



1.経緯

 本学の取り組みは平成3年度に遡る。当時、学内においては情報教育に対するニーズが高まり、デスクトップパソコンを設置した実習教室の整備が進みつつあった。しかし、大学・短大併せて約1万人の学生のすべてに対し、基礎的な情報教育を実施するには、実習教室の増強だけでは追い付かないことは明らかであった。一方、情報化の進展に伴い、キャンパスネットワークの構築やパソコン通信を始めとするネットワーク環境の利用が当然のことになりつつあった。
 こうした状況を踏まえ、学生にノートパソコンを持たせることが検討された。当時、ノートパソコンはA4型のものが市販されたばかりであったため、代表的な3機種について教育目的に利用できるかどうかの検討を行った。しかし、当時のノートパソコンは、価格対効果の点で無理があったことや、大学独自のパソコン通信サービスを行っていたことを考慮して、通信機能付きのノート型ワープロを選定した。この機種は、本体とFD/プリンタユニットが分離でき、本体のみでは1.4kgという軽量である上、本体のみで文書作成、通信、表計算等が行え、価格面でも現実的な金額が実現した。
 導入形態については、費用負担や既にパソコンやワープロを所有している学生がいることなどを考慮し、希望者への斡旋ということになった。全員に購入を義務付けた学科もあったが、取り組み2年目以降現在に至るまで、希望者への斡旋が原則となっている。
 なお、平成6年度からは、斡旋機種はモデム内蔵のノートパソコンになっている。


2.取り組みの狙い

 本学では、学生への情報機器の斡旋は、当初基礎的情報教育の充実という観点から行われた。すなわち、個人所有する機器を使う場面を増やし、機器操作への習熟、文書処理技法の習得、表計算ソフトによるデータ処理の理解などが一層促進されることを期待して実施した。
 さらに、本学では独自のパソコン通信サービスを機器斡旋に併せて開始したことからも分かるように、「ネットワーク利用への習熟」も大きな目的となっている。現在のように、インターネットが普及する以前の段階では、パソコン通信の活用は、ネットワーク環境を理解する上で効果的であった。現在ではインターネット環境を利用したサービスも提供しつつあるが、パソコン通信はいわばイントラネットとして機能しつつある。


3.実施状況

 学生にノートパソコンを斡旋するにあたって、新入生・保護者等の趣旨説明を入学手続時に文書で配布している。在学生には、学年のはじめのオリエンテーションで趣旨説明を行っている。これらと平行して、学生・保護者との対面相談や電話による相談を常時、情報教育研究センターが行っている。
 学生にパソコンを引き渡すときには、パソコンの梱包を解き、本体や付属品について、一つ一つ説明を行っている。さらに、初心者向けの導入講習会として、ワープロ・表計算などテーマを決め数回行っている。
 機器使用中の各種トラブル、例えばアプリケーションの利用法や通信の設定、機械の故障等についても、常時、情報教育研究センターで利用相談として受け付けている。
 斡旋状況については、機種と台数を表とグラフにまとめたので、次ページを参照されたい。


4.教育活動との関連

 ノートパソコン所有者を対象とした科目は、平成6年度より文書処理とデータ処理の基礎について「情報処理基礎演習I」・「同II」(各2単位)を設けた。これらは、大学・短大ともに受講できる全学共通教育科目の中に位置づけられている。平成8年度からは名称を「文書処理基礎」「データ処理基礎」と改めるとともに、「ネットワーク利用基礎」(2単位)を加えた。さらに平成10年度からは「プレゼンテーション基礎」(2単位)を設けた。


図 斡旋台数の推移


表 年度ごとの斡旋機種
年 度 メーカー/機種名  
3年度 シャープ
WV-700M
ワ-プロ専用機
4年度 シャープ
WV-700M
5年度 シャープ
WV-700M
シャープ
WD-A751M
富士通OASYS
30-AD301
6年度 東芝RUPO JW01V
東芝Dynabook FZ486 パソコン
7年度 東芝Dynabook
EZVision
東芝Dynabook
EZ245 001
8年度 東芝Dynabook
GT-S575
9年度 東芝Dynabook
Satellite Pro
PA1230SA/MWU
10年度 東芝Dynabook
Satellite
PA126159/MWU


 これらの科目は、大学に設置したパソコンで行う授業と個人所有のノートパソコンを使う授業とがあり、ほぼ同じシラバスで開講されている。しかし、この二者についての受講生を比較すると、明らかにノートパソコンを個人所有した学生の方が予習・復習などの課外学習時間は多く確保している。結果的に、提出された課題などの内容も、より充実したものとなっている。すなわち、大学に設置されたパソコンでの自主学習時間を確保するよりも、自宅に持ち帰って自主学習する方がはるかに有効だと考えられる。
 また、学生は電子メールによるレポートの提出などに加え、学内パソコン通信の各種サービス(就職情報、教務情報など)を利用し、日々学生生活に役立てている。


5.将来計画

 過去10年間の情報化の流れで特徴的なことは、ノートパソコンに代表されるハードウェアやソフトウェアの飛躍的な進歩であり、インターネットに象徴されるネットワーク環境の普及である。
 一方、学内では学習環境のマルチメディア化が全学規模で進められているが、さらに平成10年度中に情報コンセントを備えた教室が多数整備される。この結果、授業中の利用だけでなく、課外にもネットワークの利用できるエリアが大幅に広がる。
 こうした状況を積極的に活用するために、従来から取り組んできているノートパソコンの斡旋とともに、貸し出しノートパソコンを用意し、新たな情報関連科目の新設など基礎的情報教育の拡充と、ゼミ等の専門課程での情報教育の強化を具体化する予定である。
 さらに、11年度以降も学生が利用できる情報コンセントの増設を図るとともに無線LANを整備し、学内のモバイル環境を実現する。この結果、課外も含めた学生の学習環境は一層改善される。
 また、学内のマルチメディア化の一環としてキャンパスネットワークを利用した遠隔授業も試行する予定である。


6.今後の課題

 学内の情報インフラの整備は、平成10年度に飛躍的に進むが、こうした環境が授業の改善や教育の改革に寄与するかどうかは、以下の事柄が実現するかどうかにかかっている。   また、ネットワークリテラシーや情報倫理に関する教育の拡充も急務となっている。



文責: 武庫川女子大学
  情報教育研究センター長 濱谷 英次

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