特集

大学と高等学校の情報教育連携

高等学校における新しい情報教育

清水康敬
(東京工業大学大学院社会理工学研究科長)



1. はじめに

 去る3月に、高等学校の学習指導要領が告示され、普通科において実施される教科「情報」の内容と取扱いが明らかになった。この普通教科「情報」は、2単位の必修教科で、「情報A」、「情報B」、「情報C」の3教科目から1科目を選択履修することになっている。そのため、すべての高校生が「情報」を履修して大学に入学してくるため、大学入試や大学における情報教育に大きな影響を与えることになる。
本稿では、今回の教育課程の改訂において示された普通教科「情報」が新設された経緯と内容、情報教育の在り方等について説明した。


2.教科「情報」の新設について

 第15期中央教育審議会において今後の教育改革の基本指針が検討され、「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」が平成8年6月に公表された。それを受けて、「情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の進展等に関する調査研究協力者会議(以下、協力者会議)」において、情報教育について具体的な検討が行われた。そして、平成9年10月、「体系的な情報教育の実施に向けて」として協力者会議報告が出され、情報教育の基本的な考え方と、体系的な情報教育の内容について整理された。そして、平成9年11月、「教育課程の基準の改善の基本方針について(教育課程審議会中間まとめ)」が出され、中学校における「情報基礎」を必修にすることと、高等学校普通科に教科「情報」を新たに設ける提言がなされた。
 その後、上記の情報教育に関する協力者会議において、高等学校普通科の「情報」の3科目として「情報A」、「情報B」、「情報C」の内容について検討して、教育課程審議会に提出した。その結果、平成10年7月、「幼稚園、小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾学校及び養護学校の教育課程の基準の改定について」の答申が、教育課程審議会から出され、高等学校普通科における情報が必修となった。これは、生徒の関心に応じて授業が受けられるように、「情報A」、「情報B」、「情報C」から一つは受けなければならない選択必修である。
 このように、新しい教科「情報」が高等学校普通科に新設されたことは画期的である。しかも、今回の教育課程審議会のまとめでは、道徳を除くすべての教科・科目において内容の厳選が図られ、授業時間数が削減された中で、必修の「情報」が新設されたことは、これからの情報教育の重要性が、特に認められたことを意味する。


3.情報教育の目標

 「情報」という言葉は非常に広い概念であるので、何らかの伝達がある限り、すべてが情報であるということもできる。そのため、各教科における情報伝達をするあらゆる活動がすべて情報教育であると言うこともできる。しかし、このように考えてしまうと、新しい教科「情報」を新設することはむずかしい。
 そこで、協力者会議では、インターネットが急速に普及している現状等を踏まえて、情報教育における目標と内容について検討した。その結果、今後の初等中等教育段階における系統的、体系的な情報教育の目標として、以下に示す三つの能力・態度として提案した。
  1. 「情報活用の実践力」
     課題や目的に応じて情報手段を適切に活用することを含めて、必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し、受け手の状況などを踏まえて発信・伝達できる能力。
  2. 「情報の科学的な理解」
     情報活用の基礎となる情報手段の特性の理解と、情報を適切に扱ったり、自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法の理解。
  3. 「情報社会に参画する態度」
     社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響を理解し、情報モラルの必要性や情報に対する責任について考え、望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度。
     ただし、実際の学習活動では、コンピュータやインターネット等を具体的に活用する体験が必要であり、必要最小限の基本操作の習得にも配慮する必要があるとしている。
     現在、学校現場では、コンピュータを使っていれば情報教育を実施していると考えられる場合もあるが、ここでは、各教科の学習指導の効果を高めるためのコンピュータ等の活用と情報教育における活用を明確に区別した。すなわち、情報教育では、ここで示した三つの能力・態度を育成することを目標に据えた教育と定義している。

4.小中学校における情報教育

 情報教育は、小学校から、中学校、高等学校を通じて、体系的、系統的に実施されることになる。
 小学校では、コンピュータやインターネットに慣れ親しむことから始め、主に「情報活用の実践力」の育成が中心となる。そこで、小学校3年生から新たに設けられる「総合的な学習の時間」を中心に情報教育が実施される。
 中学校では現在、技術・家庭科に選択領域の「情報基礎」が設けられており、その履修率は96%となっている。これは、ほとんどの子供たちが履修していることを意味している。しかし、多くの学校では、中学3年で履修していることから、学習した成果が他の教科等で活かされていない。
 そこで、中学校の技術・家庭科の技術領域において、「情報とコンピュータ」が必修となった。ここでは、コンピュータの基本的な構成と操作、コンピュータの利用など、情報に関する基礎的な内容を学ぶことになる。また、生徒の興味・関心に応じて選択的に履修できる発展的な内容が設けられている。また、「総合的な学習の時間」においてコンピュータ等を積極的に活用することにしている。
 高等学校の普通教科「情報」は、中学校までの情報教育の習得を踏まえて実施されるが、特に「情報とコンピュータ」と連続性を持たせている。


5.普通高校における情報教育

 現行の高等学校普通科における情報教育は、その他の科目などとして情報に関する教科・科目の設置が可能となっている。しかし、情報化が進展したため、高等学校段階における情報教育が重要となる。
 そこで、普通教科「情報」の目標を次のように設定されている。「情報及び情報技術を活用するための知識と技能の習得を通して、情報に関する科学的な見方や考え方を養うとともに、社会の中で情報及び情報技術が果たしている役割や影響を理解させ、情報化の進展に主体的に対応できる能力と態度を育てる。」
 この教科「情報」は、2単位の選択必修である。選択必修ということは、二つの科目を履修する生徒もいることもあり得る。例えば、「情報A」と学習した後に「情報B」を取るということが決まっているわけではなく、どの科目を先に履修してもよいことになる。そのため、三つの科目が内容的に重複しないようにしている。また、どの科目を選択しても、情報教育の目標である三つの能力・態度が育成できなければならない。そこで、いずれの科目においても、情報教育の目標である「情報活用の実践力」、「情報の科学的理解」、ならびに「情報社会に参画する態度」をバランスよく学ぶようになっている。
 このようなことから、「情報A」は、「情報活用の実践力」の育成にやや重点を置いている。そして「情報A」の目標は、「コンピュータや情報通信ネットワークなどの活用を通して、情報を適切に収集・処理・発信するための基礎的な知識と技能を習得させるとともに、情報を主体的に活用しようとする態度を育てる。」である。内容は、四つの項目から構成されており、(1)情報を活用するための工夫と情報機器、(2)情報の収集・発信と情報機器の活用、(3)情報の総合的な処理とコンピュータの活用、(4)情報機器の発達と生活の変化、となっている。
 「情報B」の目標は、「コンピュータにおける情報の表し方や処理の仕組み、情報社会を支える情報技術の役割や影響を理解させ、問題解決においてコンピュータを効果的に活用するための科学的な考え方や方法を習得させる。」となっており、「情報の科学的な理解」にやや重点が置かれている。そして、「情報B」の内容は、(1)問題解決とコンピュータの活用、(2)コンピュータの仕組みと働き、(3)問題のモデル化とコンピュータを活用した解決、(4)情報社会を支える情報技術、の4項目で構成されている。
「情報C」では、「情報社会に参画する態度」を重点としており、「情報のディジタル化や情報通信ネットワークの特性を理解させ、表現やコミュニケーションにおいてコンピュータなどを効果的に活用する能力を養うとともに、情報化の進展が社会に及ぼす影響を理解させ、情報社会に参加する上での望ましい態度を育てる。」ことを目標としている。内容の4項目は、(1)情報のディジタル化、(2)情報通信ネットワークとコミュニケーション、(3)情報の収集・発信と個人の責任、(4)情報化の進展と社会への影響、となっている。
 次に、この普通教科「情報」では、コンピュータや情報通信ネットワークなどを活用した実習を積極的に取り入れることとしている。そこで、「情報A」では総授業時数の2分の1以上を、「情報B」及び「情報C」では総授業時数の3分の1以上を、実習に配当することを原則としている。そのため、今後この教育を実施するためのインフラと指導体制を整備する必要がある。
 内容の取扱いに当たっては、内容の全体を通して情報モラルの育成を図ることとしている。また、授業で扱う具体例などについては、技術的な内容に深入りしないように留意することとしている。なお、情報技術の進展は急速であるので、適宜見直す必要がある教科である。


6.専門高校における情報教育

 農業・工業・商業・水産などの専門高校では、専門教科「情報」が設けられている。この教科は、高度情報通信社会で必要となる情報関連技術者等を養成することが目標となる。
 そこで、専門教科「情報」は11科目から構成されており、(1)情報産業と社会、(2)課題研究、(3)情報実習、(4)情報と表現、(5)アルゴリズム、(6)情報システムの開発、(7)ネットワークシステム、(8)モデル化とシュミレーション、(9)コンピュータデザイン、(10)図形と画像の処理、(11)マルチメディア表現、となっている。
 このように、専門教科「情報」の内容は、普通教科「情報」をより発展させたものとなっている。


7.おわりに

 ここで説明した新しい情報教育は、平成15年(2003年)から実施される。高等学校の教科「情報」の解読書は、本年秋には発表される見込みである。それから、教科書作りが始まり検定も行われることになる。
 ただし、コンピュータやインターネット等のハードウェアの整備、学習ソフトウェアとインターネット上の学習情報の整備、指導体制と支援体制の確立等、情報化に対応した教育環境を実現することが課題である。
 特に、指導する教員の確保については「情報」教員免許との関係もあり、緊急課題である。文部省では平成12年度から3年間で9,000名の教員を対象にした研修を実施する計画である。その際、平成19年度の補正予算で概算した教員研修等を目的とした衛星通信教育ネットワーク(通称L−Net)も活用されることになる


参考文献
  1. 文部省:21世紀を展望した我が国の教育の在り方について. 第15期中央教育審議会第一次答申, 平成8年7月19日.
  2. 文部省:体系的な情報教育の実施に向けて.情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議第1次報告,平成9年10月3日.
  3. 文部省教育課程審議会:教育課程の基準の改善の基本方向(中間まとめ).平成9年11月17日.
  4. 文部省:幼稚園、小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾学校及び養護学校の教育課程の基準の改定について(答申).平成10年7月29日.
  5. 文部省:情報化の進展に対応した教育環境の実現に向けて.上記協力者会議最終報告,平成10年8月5日.
  6. 文部省:高等学校の学習指導要領.平成11年3月.

【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】