社会福祉の情報教育

社会福祉学部におけるプログラミング教育


高橋亘 (関西福祉科学大学社会福祉学部教授)



1.プログラミング教育導入の背景

 関西福祉科学大学は1997年4月、大阪府柏原市に開学した。社会福祉学部 (1学年約300名) のみの単科大学である。本稿で紹介させていただくのは、本学の第2学年対象の通年開講科目「コンピュータサイエンス」についてである。私たちの情報処理関連のカリキュラムでは、当教科の前後に、第1学年で「コンピュータ基礎」(リテラシーの実習)、第3学年で「データベースシステム論」(講義)が開講されている。
 一般に文科系の大学におけるプログラミング教育にはいろいろと困難な問題があると言われる中で、あえてこのような教育を実施しようと企てたのには次のような理由がある。
  1. 第1学年開講科目「コンピュータ基礎」で、必修として、ワープロソフトや表計算ソフトの使用方法を既に修得していること。
  2. 文科系の学生にとっても、物事を構造的に捉えたり、自由な発想に従って独創的な思考法を身につけることが重要であること。
  3. 高齢者や障害者の情報機器へのアクセシビリティーや情報機器を通じたアミューズメントについて、社会への啓蒙活動や具体的な支援が福祉の大学に強く望まれること。
  4. 3. の要望に対応しうるヒューマン・マシーン・インターフェイスの制作に、福祉の現場を直視することによって修得される社会福祉学部の学生の感性が、重要なヒントを与えることが期待されること。


2.教程の構成とねらい

 前節の期待をもとに、次のようなVisual Basicを用いた教程を構成した。大半は通常のプログラミング教育とほぼ同様で、
1章 コンピュータとプログラミングに関する講義
2章 Visual Basicへの入門
3章 4コマストーリーの作成
4章 動く絵のフォームの作成
5章 アニメーションの作成
6章 音楽を奏でるフォームの作成
7章 簡単なゲームの作成(IF文、繰り返し実行、 配列の利用)
8章 簡単なデータベースの作成
9章 視覚障害者を配慮したユニバーサルデザイン1)(音声合成装置と連動)
と進むが、最後の9章で、障害のある人と健常者が分け隔てなく利用できるソフトウェアとしての配慮を盛り込む点に、私たちの教程の特徴がある。WindowsやMacOSのような視覚に依存するOSに対して、圧倒的なハンディを受ける視覚障害者への配慮を盛り込むテーマを取り上げた。この章で、8章までに作成したプログラムに対して、画面の状態を音声で読み上げるように機能を追加する。自然な形で、世界障害問題研究所の提唱するユニバーサルデザインの理念とその実現方法を習得するように配慮した。


3.設備・成果・問題点とその解決・展望

 教程を実施するに当たって、教室の各コンピュータ (1教室50台のPC-AT互換機) にVisual Basic(VB) Ver.5(Learning ed., Microsoft 社) と「ドキュメントトーカ Ver.3」(カテナ社)をインストールした。VBがプラットホームとして優れている上、「ドキュメントトーカ」がVBに呼応する OCX (OLE custom control) を提供しているからである。
 教室の環境としては、学生用のコンピュータの他に教員用のコンピュータと、これらのコンピュータをクライアントとするサーバが設置されており、Windows NT サーバと Windows 95 クライアントによる、ドメイン仕立てになっている。ハイパーテキスト形式の教科書をサーバの中に用意し、講義や作品の創作に併用してマニュアル等を参照できるようにした。必要な画像ファイルや音声ファイルなども、常設の共有フォルダとして配置し、学生が自由にサーバから取り出して利用できるように配慮した。また補助設備として、写真などの画像を利用できるようにするため、教員用のコンピュータにイメージスキャナを付設し、サイズの大きな画像をフロッピーディスクで取り扱えるように圧縮フォーマットに変換するため、Photshop等の画像ソフトをインストールした。
 スタッフの環境について言えば、専任教員1名、非常勤教員2名で、各2コースずつ担当するので、合計6コース、1クラスの学生数は平均30名程度となる。30名を超えるクラスを1教員で担当するのは大変であるので、本年度より第3学年の学生を TA (Teaching Assistant) として、採用することにした。大学の完成年度を待って、第4学年以上の学生を TA に当てる予定である。
 昨年度実施した結果では全学生の6割の学生が履修を希望し、その8割の学生が単位を取得した。全体には、楽しみながら難しいプログラミングの知識を習得できたこと、中には、ユニバーサルデザインを卒業研究にと考える学生が出てきたこと、等が良かった点としてあげられる。
 問題点としては、第6章がVB(Learning ed.)で不可能なこと、「ドキュメントトーカ」が日本語の解析に弱く読み誤りがあることなどがあげられる。しかし、前者はProfessional ed.を用いることで解決するし、後者は筆者が開発中の日本語解析の人工知能2)により解決することが期待される。
 私たちの例にも見られるように、言語解析の人工知能の技術は、いたるところでユニバーサルデザインを持つヒューマン・マシーン・インターフェイスの中心的課題になると言えるし、社会福祉学部の学生の卒業研究から大学院における研究の重要なテーマになるものと考えられる。

図1 ツールボックスに配置したOCX 図2 OCXを働かせるコード
引用文献
1) URL: http://www.wid.org/.
小川美紀雄:障害者とマッキントッシュ.東京,
毎日コミュニケーションズ, 1997.
2) 高橋 亘:視覚障害者のためのヒューマンインターフェイスにおける
ユニバーサルデザインと人工知能.
関西福祉科学大学紀要,Vol.1,p41-49,1998.

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