私情協ニュース5

第8回情報教育推進のための理事長・学長等会議 開催概要



 去る7月31日、早稲田大学総合学術情報センターを会場に第8回理事長・学長等会議を開催した。
 当日は、110大学19短期大学より223名の理事長・学長・理事・学部長等が参加。今回は、「大学における情報の電子化促進と情報開示の課題」と題して、大学情報の電子化を組織的に進めるための問題点を整理し、実現のための対応策など行動計画のガイドラインを模索することとした。
 会は、まず戸高敏之会長(同志社大学)より「平成12年度を大学情報の電子化元年としたい」との挨拶があり、続いて、来賓として文部省私学行政課の村田直樹課長より、「マルチメディア関連補助事業を活用しての積極的な教育研究の情報化と公開の推進が望まれる」との挨拶があった後、最初の基調講演に入った。以下に、会議の概要を紹介する。



1.基調講演

「インフラとしての大学の情報化と課題」

 奥島孝康氏(早稲田大学総長)から、以下のように講演いただいた。21世紀は全ての人が情報を共有し、その上で競争関係を作りながらアイデンティティを作り上げ、それを尊重するという共生の社会を目指していくことが想定される。その中で大学は何をすべきか。学問は、知の源泉であり、知識は共有化されるべきものである。国境を越え、言語を越え、民族などあらゆる障害を越えて知を共有できるような環境が必要となる。これからは、大学の知的財産の共有化を進める中で教育研究のオープン化を実現することが重要。閉じられた教室での授業から授業を世界と結ぶことによって課題探求型、問題提起型の学生を育成する教育を進め、世界的な水準の教育を目指す。それには、教育内容・授業方法が他大学や社会にオープン化することにより、課題提示型、学生参加型の新しいネットワーク型の教育方法を確立していく必要がある。研究もネットワークで成果を公表し、世界的規模の共同研究が行えるようにしたい。また、大学運営も教育、研究の目標を効率的に進められるよう情報環境を最大限に活用し、ネットワーク型オフィスを実現し、職員を新たな業務に展開する仕組みを確立するとともに、研究のオープン化を通して公的資金、民間企業との共同研究をはじめとする外部資金獲得の仕組みを確立し、経営構造改革を推進することも計画している。


2.関連情報提供

 「授業での情報機器の活用状況と問題点、情報化投資の実態」

 私情協の井端正臣事務局長から、次の3点について情報提供があった。

(1)授業での情報機器の活用状況と問題点
 2万人の教員からのアンケート調査の結果について次のような報告があった。
 授業で直面する問題としては、基礎学力の欠如、会話能力の不足、理解度の把握が困難とのこと。授業に情報機器を使用している教員はまだ2割程度で、使用している教員は使用していない教員よりも問題点の指摘が少なく、授業での運営に役立っているとの報告。授業での活用は、例えば人文科学系では「昔の文物や風俗習慣についてインターネットから検索し画像で見せている」、社会科学系では「Webページに教材・資料を載せて、レポート・学生同士の討議に活用している」、「判例検索、インターネットによる外国判例論文検索、電子会議を利用した法律討論」を行っている。理工系ではコンピュータで小実験を行うシミュレーション授業の実施、家政系では演習・実習のツールに使用していることが判明。しかし効果を認めつつ問題も多く、「情報リテラシーの個人差、ノートをとらない」、「結果の数値に目を奪われ理論的背景を理解していない」、「新しい情報機器などについていけない」、「教材を毎週Webページに掲載するのがつらい」、「用意している教材に教室が対応しない」との声があることを指摘。
 今後の授業での活用方法については、「1人1台のパソコンを持たせて自学自習させたい」、「ネットワークで学生とのコミュニケーションを広げたい」とする声が多い。なお、新しい授業方法として、ほとんどの学系で3割から4割がネットワークで外部の専門家から現場情報をリアルタイムで紹介し、理論と実際のマッチングを行いたいとしている。さらに、芸術系では5割がネットワークを介して作品、演奏など教育成果について外部の専門家の講評を得たいとしており、第三者による授業評価を希望していることが判明した。
 今後に望まれる授業環境としては、授業支援スタッフの確保、教材・資料の電子化、学生1人1台のノートパソコン貸与、情報化に伴う教員負担の軽減、情報技術の研修、授業情報の公開、教育業績に対する評価制度の構築、教室のマルチメディア化など大学が取り組むべき課題が多々あることが報告された。

(2)授業方法の情報化を支援する補助金の紹介
 平成11年度より新たに大学改革推進特別経費の中で「教育・学習方法等改善支援事業」が設けられ、学部・学科単位で組織的に推進する教材資料の電子化、学生アシスタントの活用、マルチメディア教室の運営、情報技術研修を含むファカルティ・ディベロップメントの実施、マルチメディアを使用した自宅、学内学習、優れた教育活動を行っている教員の顕彰、教授法の改善、教材開発に2分の1以内の補助が実現したことが紹介された。

(3)情報投資額調査の結果
 10年度決算に基づく教育研究の投資額の実態は、2回の補正予算により、大学で22%の増、短期大学で33%の増となった。大学の規模別でみると大規模大学35%、理工系のある中規模大学40%、医歯系41%と大学において大幅な情報投資が行われた。短期大学は、大学併設校が37%と法人校よりも10%増の投資が行われた。投資額は、大学平均で1校当たり3億6千万円、大規模大学の19億円から人文系単科大学の1億円となっている。短期大学は法人校で5千万円、併設校で4千2百万円となっている。学生1人当たりでは、大学平均で6.3万円となっている。理工系、医歯系が10万円、ついで大規模大学7.1万円、理工系中規模大学、社会系単科大学が6.7万円と9年度に比べ大幅に情報環境を改善したことが判明。しかし、中規模大学、人文系の大学では4万円台で、短期大学の平均5.3万円より下回っていたことも報告された。


3.事例紹介1

「教材電子化の実情と課題」

 最初に中嶋航一氏(帝塚山大学経済学部教授)から「インターネットを介した教材の共同開発と共有化」と題して、開発したTIES2(帝塚山インターネット教育サービス)システムについて紹介があった。このシステムはインターネットを通じた学習と教材作成を共同できるシステムで、メディアで作成した教材を簡単にインターネット上に掲載し、更新したり、送信したり、動かすことができる。表計算ソフトなどをインターネット上で活用できる。例えば、数値を入力すると画面のグラフが変化して、シミュレーションすることが可能で、数学、統計学を活用する難解な経済理論も体験的に理解できる。シミュレーション教材は部品化してデータベ−スとして蓄積されるので、教員は個別テーマごとにコンテンツを作ることができる。一から積み上げるのではなく、できるところから作り、それを流れ図の上に教材を配置して授業とする。
 システム構築の動機は、シミュレーションで理論を体験的に学習できるコンピュータ教材を作りたいという教員の願いを受けて、同大学の情報教育センターが協力して開発した。教材は部品化されているので、他大学の教員にもコンテンツを提供願い、共同化の中で開発することができる。インターネット上で必要とするコンテンツの提供を呼び掛け、大学の枠を越えて教材開発ができることから、開発の負担も大幅に軽減できる。また、学生の側からは、教材を学生の理解度に応じて選択し、構成が可能。授業を学生の興味、意欲に合わせて自分の教材、授業を持つことができる点で従来一方的、固定的に作られてきた教材の欠点を補完している。
 教材情報を公開し、必要な教材をインターネットで募集するこの方法は、教材情報の共有化による新しいスタイルとして今後、歓迎されていくであろう。なお、システム管理上は、サーバにコンテンツを掲載するため、しっかりとしたサーバが必要となるが、パソコンはOSとブラウザがあればよく、ハードウェア、ソフトウェアの経費を軽減することが可能となる。


4.事例紹介2

「ネットワ−ク授業でのバ−チャル教材の実験」

 井桁貞義氏(早稲田大学文学部教授)からネットワーク上での「リアルタイム共同授業」と「マルチメディア授業」での授業の事例を通して紹介が行われた。
 「リアルタイム共同授業」は、通常の授業をテレビ会議システムを利用して共同する大学に配信し、大型スクリーンを通してリアルタイムで行う。学生に共通の興味あるテーマ、地域性があって多角的に学ぶことに意義が感じられるテーマを選び、教室、大学を越えてディスカッションする。そこでの教材はあらかじめコンテンツを作成するのではなく、大型スクリーンを通した音声、動画そのものとなることと、授業後の学生の感想を大学のWebページで知ることも貴重な情報となる。問題は、共同する大学が増えてくると、質疑の時間が大きくなることから授業時間が90分で間に合わなくなり、窮屈さを感じるとのこと。
 「マルチメディア授業」では、ロシア文学の「ドフトエフスキーと聖書」の授業の中で、講義本を理解させるために、テキストの中に登場する異文化、時代背景、登場人物などに関する知識を現実感覚を持たせられるようにすることが重要と考え、映像を含む資料、用語解説などの教材をWebページに掲載し、授業を行っている。映像資料は、英国で作成の教育用ビデオを大型のスクリーンに映し出し、作品中のシンボルに目を向けさせた上で、関連する登場人物の絵をインターネットでパリのWebサイトから紹介し、文学から美術までの聖書文化をキリスト教作家の心情や創作の背景を時代を遡って文字、映像、絵画で総合的に判断することが可能。授業では、90分の中で学生に授業での反応をレビューシートの形で作成し、それをWebページに掲載して学生同士の理解度の向上に活用している。
 今後の計画としては、9月よりバーチャル教材の実験授業として、インターネット放送でリアルタイムに「今日これからこれこれの授業を行います」と幾つもの大学に呼び掛けた後に、あらかじめ講義内容を撮影し、講義資料とともにパッケージ化を行い送信しておく。それを授業の中で見せた後で、インターネットを通じ、教員と学生がリアルタイムでディスカッションを行う近未来型の授業を予定している。


5.全体討議

「電子化促進のための対応策と情報公開」

(1)全体討議に入るに先立ち、教育利用、学術情報公開、電子化促進の支援体制について、次のような課題提起があった。
 「教育利用」については、小澤太郎氏(慶應義塾大学総合政策学部助教授)から、インターネットを利用する授業のメリットとしては、授業の解説場面、板書のコンテンツをリアルビデオやデジタル化しておくと、学生が授業の後で教員がいなくても理解するまで学習することが可能。さらに、教員が用意した練習問題で理解度のチェックができるので、授業への参加意欲を高めることが可能となる。反面、デジタル教材を作成したときに必ず問題となるのが知的財産権の問題で、著作権は教員にあるが、教材作成にあたって大学の施設、設備、資金などを使用しているのであれば、教員個人の裁量だけで教材の使用ができるとは考えられないのではないか。何等か大学の許可を得る必要があるのではないか、との意見が提起された。
 続いて、「学術情報、大学情報の公開」について、白井克彦氏(早稲田大副総長)から、学術情報の公開については、学内での利用と学外での利用とでは、公開に対するセキュリティ、情報コンテンツの更新など大学としての対策が異なると思われる。公開の範囲、公開することの意義、情報共有のメリットなど大学の目標に照らして議論し、整理しておくことが必要。大学情報の開示についても、社会的組織としての責任の観点から、大学が何を考え、どのような教育研究活動を進めようとしているのか、受験生向けの学園ガイドなど大学情報としてどこまで情報開示を行うことが望ましいのか、情報管理の安全対策などについて場合分けして整理しておくことが必要との問題提起があった。
 最後に、「支援体制」について、櫻井 毅氏(武蔵大学学長)から、同大学で取り組んでいる情報化推進の支援体制に対する考え方として、三つの側面から支援へ向けた対応策を検討している。
 一つは、教育研究での多様な利用に応えるシステムが望まれるが、そうなるとそれぞれのシステムごとに特別なハードウェア、ソフトウェアなどが必要となり経費の増高を招く。それには、ハード、ソフトを共通化・標準化しておき、購入コストやメンテナンスコストの低減を図る。そうした上で専門性の高いシステムを順次導入すれば、システム拡張に伴うコストを最小限に抑制できる。
 二つは、電子化推進の組織を一つにまとめること。各学部、研究室で独自のシステムを作り出すと全体の維持管理が困難となる。全体を集中するような資源共有、システム計画管理部門のような全学的支援組織の強化が必要。
 三つは、財務的長期計画を策定し、実施のため専門組織に電子化実施計画の権限を与えることが必要。

(2)ここで、知的財産権の問題について、文化庁著作権課の尾崎史郎氏(マルチメディア著作権室長)から、講義での教材、素材は、作成者である著作者が人格的な利益を守るための著作権、利用のための著作権をもつことになるが、ある一定の要件を満たした場合には法人が著作者になることがある。現実に大学の個々の先生の講義は先生個人の著作物になると考えた方が無難とのこと。しかし、著作権があるからと言って、大学の機器を使用して授業の中身や教材を勝手に発信したり、無断でコピーしていいのかというと、著作権とは別の問題が生じると考える。著作権が全てではないので、教員と設置者側は話し合い、一定のルールを作っていただくことが必要と思うとの、コメントがあった。

(3)以上を踏まえて全体討議に入ったが、討議での話題は主に、事例紹介、課題提起で紹介の事例についてのサポート体制の質問に集中した。テクニカルな支援は、どの大学も教員1人では対応できないので、業者に委託して常駐の要員をおき、補助金を活用して開発しているものが多い。ほかには、大学の能力の中で、センターもしくは一部のネットワークプロジェクトチームの支援を受けているとのことで、新たに職員を補充するという大学はなかった。なお、著作権に関する問題について、教育機関での使用について著作権がフリーになるとか、著作権料が軽減できるようなことが何か考えられないかとの質問には、文化庁の尾崎氏から「インターネットの自分のホームページに他人の著作物を掲載することは、いずれにしても許諾なしではできない」との説明があった。質疑のあと、座長より、著作権に関連する問題については、現在、協会の中で電子化プロジェクト会議を発足して検討を進めており、来年3月までに著作物の利用に関する法人と教員の間のルールについて、何等かの指針を取り纏めたいとの報告があり、終了した。

教育研究部門の規模・種別投資額のグループ別推移


昼間部学生1人当りの教育研究経費における情報化投資額


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