社団法人私立大学情報教育協会
平成16年度第2回物理学教育IT活用研究委員会議事概要

T.日時:平成16年10月23日(土)午後4時から午後6時まで

U.私学会館7階会議室

V.出席者:藤原委員長、松浦、川畑、徐各委員、井端事務局長、木田

W.検討事項

1.報告書のテーマについて
前回の委員会において、平成18年秋に学系別教育IT活用研究委員会で報告書を上梓する旨が事務局より説明がなされ、それに伴い報告内容、テーマについて今回は自由討議した。
前回意見交換した際には、大学の物理教育の問題点として、高校の学習内容を補いながら授業を展開しなければいけないこと、また、e-Learningの特色について、学生の理解度を事前に把握することが可能であること、対面授業を補充するために使用することなどが挙げられたが、まずは前回の議論を補足説明が各委員よりなされた。

・ 東京工芸大学でも補習クラスを設けているが、学生には数学的知識も欠落しているため物理だけでなく、他の科目との連携も必要とされているが、数学の教員が学生に求める理解と物理学の教員が求める理解では異なり、相互に教育内容を確認する必要がある。

・ 日本大学工学部では、現在カリキュラムを改定しているが、前回の議論にもあったような補習対策は切実な問題であり、新カリキュラムでも基礎理数科目として、基礎の物理、基礎の数学、基礎の化学の三科目を設置する。基礎の物理では、高校時に物理Uを履修しなかった学生、入学当初のリプレイスメントテストで点数の低かった学生を対象として、微積分を使用しない物理を教えることにしている。ただし、半期の科目であることから、講義だけでは時間的に余裕が無いため、予習復習のためにWeb上に問題集を構築している。この問題集は、工学部の教員と付属高校の教員が共同して構築したものであり、大学ではリメディアル目的、高校では 推薦入試、AO入試で早期に進路の決定した学生に対して活用している。なお、入学当初のリプレイスメントテストは、学内で問題を作る人員が不足しているため、河合塾に委託している。学生個々のテスト結果を詳細に分析してくれるが、費用は高い。

・ 東海大学では、入試での数学の出題範囲が数学Tまでであるため、正規授業が利メディアル教育になりつつある。授業では、マルチメディア教室と実験室で半々の割合で実施している。マルチメディア教室での授業は、学生にコンピュータの操作に慣れさせるという意味では利点はあるものの、物理そのものを教えることにはそぐわないと思われる。また授業の予習を義務化しており、成果はWeb上で提出させている。予習の提出は成績に加味しており、Webサイトを見れば解答できる程度のレベルであるものの、それでも提出しない学生はいる。復習もWeb上で選択問題、計算問題を用意し、提出させており、特定関数を用いて反復学習を促している。

 次に、事務局より18年度上梓予定の報告書の目的について下記の旨の説明があった。

 報告書の目的については、まず教員のファカルティ・デベロップメントに寄与することが挙げられる。日本の大学では、インストラクショナル・デザインが確立していないことや教員の研修が行われていないため、必ずしも教員が十分な教育指導能力を有しているとは言えない。そこで、ITを活用した教育の有効性と限界を明示し、教員の授業改善の参考に資することを目的とする。次に、教員が努力しても学生に対して効果を発揮できなければ無意味であるから、学生の視点を取り入れた教育方法 ?学生の興味を惹くような仕組みや強制的に学習させる環境? についても提言いただきたい。さらには、物理学教育における学習目標、つまり誰の目から見ても通用性のあるような教育内容、教育方法についての指針までに踏み込み、目標達成あるいは教育の質保証に向けてITを如何に活用すべきか、といったことに関して全国の大学に示唆を与えていきたい。

 以上の説明について、下記のような意見があった。

・ 物理教育の教育目標としては、例えば理学部と工学部ではそれぞれ異なる教育目標を標榜していると思われる。本委員会ではこれまで教養としての物理に焦点を当ててきたが、今後は専門教育における物理も意識する必要がある。

・ 学生にどのような物理を学びたいのか尋ねると、身近な現象を理解するための物理を学びたいと回答する学生が大半である。専門科目の教員も、時間的余裕がないことから、計算の公式の意味を理解することまでは要求せずに、公式に当てはめて解を導くレベルまでしか要求していない。

・ 学生の理解度を保証する意味で、最近ではシラバスに到達目標を明記することが要求されている。しかしながら一年生を担当する教員は、リメディアル教育と並行して理解度の保証も要求される板挟みにあっている。

・ いくら教員が学生の理解度を向上させるために努力しても、カリキュラムの抜け目に乗じて単位が容易に取得できる科目を学生は取りたがるのが現状である。本来であれば、松浦委員が実施している毎回の理解度把握は、全ての教員が実施すべきである。つまり教員間の授業運営方法の標準化を、大学が組織を挙げて取り組む必要がある。

・ JABEEでは、学習目標到達のために、どのようなテストを行い学生はどこまで理解したかまで審査の対象としている。しかしながら、教員の教える内容はバラバラであり、JABEEの評価基準を満たしているとは言えない。そのことから、試験問題と教科書を統一化しようとすると教員からの反発が起こる。本来であれば、シラバスを通じて、教員間で相互に教育内容を評価するべきである。

・ 中教審大学分科会では、今後の高等教育のグランドデザインとして、学部教育の充実のための学問分野別にコアカリキュラムの作成と、さらにそれと大学評価を連動させることを提言している。単位の実質化ということが図られていないから、学習目標の明確化と授業間連携が求められているのではないか。

・ LMSは、学習した後の明確な目標を設定し、学習者がその到達までのプロセスを意識しない限り、効果が無いと言われている。元々LMSはアメリカ発祥であるから、学習デザインもアメリカ的発想に基づき、必ずしも日本人に馴染むとは言えない。LMSをより受容させるためには、日本的要素を取り入れる必要がある。また、e-Learningは学習者の学習意欲、動機付けを維持させることが困難である。特にレベルの低い学生は、中弛みした挙句に何も手をつけなくなってしまう。

・ 小中学校での理科の学習時間は年々減少しており、高校でも物理選択者の数が減少しており、かつ受験対策で詰め込み式の授業が展開されることから、知識の相関性が欠落してしまう。そのような状態で学生は大学に入学してくることから、学習目標が立て難い。一方で、学習動機の向上を目的としてe-Learningを活用すると言われており、確かにそれはe-Learningで最も価値の高い側面であるが、現状では大学の生き残りのための道具として導入されるケースが多い。

・ e-Learningの一番の価値は、学習者の個別指導、つまり学生個々の動機を維持させつつ、弱点を補うケアを施すことが可能なことにある。また、授業時間外での学習時間を確保することにも有効活用できることも特色と言える。しかし、あくまでもe-Learningはあくまでも従来の教育を補充するためのツールであり、教育のための切り札では決して無い。

・ 学生に強制的に学習させるだけでは、息切れして脱落する学生が多くなるから、強制だけではなく競争心を駆り立てるような仕組みも必要である。例えばハーバード大学ロースクールのロティッセリでは、授業の事前に、Web上授業テーマに関する議論を課しているが、必要に応じて教員がそこに介入することで、学生の主体的な学習態度をうまく導いている。物理の一般講義でこのようなシステムを活用することは難しいかもしれないが、例えばグループ実験の場合には、実験後のレポート作成の際に、学生間のコミュニケーションを促進させるツールになりうるのではないか。

以上の議論を踏まえ、報告書の授業モデルのテーマとしては、(1)通常の授業におけるITの活用(主に対面授業とe-Learningの融合)、(2)実験におけるIT活用(シミュレーション、あるいは事前事後の学生間のコミュニケーション促進)、また、教育業績評価制度の一般に周知させるために、(3)教育コンテンツの共有化と積極化を図るための評価制度の検討、を掲げることとした。なお、次回委員会では、授業モデルとして紹介すべき事例、プロジェクトを委員各位よりA4一枚程度で持参いただくこととした。なお、担当は下記の通り。

(1) 松浦委員、徐委員
(2) 川畑副委員長
(3) 満田委員、志田委員