社団法人私立大学情報教育協会
平成16年度社会福祉学教育IT活用研究委員会第1回議事概要

Ⅰ.日時:平成16年7月26日(月)午後6時より午後8時まで

Ⅱ.場所:私情協事務局会議室

Ⅲ.出席者:安西委員長、安井、武田、前田、錦織各委員、井端事務局長、木田

Ⅳ.検討事項

1. 新委員の紹介

本年度より、武田丈氏、前田美也子氏、生田正幸氏が委員に就任されたことに伴い、出席された武田委員、前田委員より挨拶があった。

2. 錦織委員による遠隔授業事例について

錦織委員より、「ヴァーチャルコミュニティの構築と仮設検証」と題して遠隔授業事例を報告いただいた。遠隔授業を導入しているのは、大学院修士課程科目「福祉情報論」で、学生数は修士課程1年生5名と学部4年のゼミ生2名の計7名である。

この授業で活用している保健・医療・福祉情報ネットワークシステムは、龍谷大学と日本ソフト開発により開発され、地域における個人の保健医療福祉情報の共有及び関係機関との連携を目的としている。システム自体は、マルチメディアモニタリングシステムとデータベースシステムより構築されており、モニタリングシステムでは、ISDN回線により各地域の機関、住宅と映像音声を相互配信することが可能で、データベースは、個人の保健医療福祉情報、例えば自治体データ、生年月日、性別、健康保険証の記号番号等の基本属性など、256項目に亘る情報を登録可能で、さらにSPSS集計機能も付属している。サーバーは、当初龍谷大学に設置されていたが、恒常的にアクセスするので現在は吉備国際大学内に設置されている。

授業運営としては、課題として仮想自治体の構築、データの集計、予想した結果の検証を課している。具体的には、自治体の決定および仮設を設定し、マクロデータ(男女別年齢別人口)の調査を行い、それに合わせた30人のデータを仮想し、統計解析により仮設を検証し最終的にレポート提出、プレゼンテーションを行う。

学生は3つグループに分かれ、それぞれ異なったテーマにより研究を行うが、アプローチの手法は統一されており、初回の授業と中間報告時には、モニタリングシステムを用いて安西委員長に指導いただいている。

この授業の特徴は、創造性を育てることにある。学生は始めに課題を与えられても何をすべきか把握できず、自分で問題点を見つけなければならない。また、調査したことを単に報告するのみならず、予想される結果を想定し、検証を行うことから、まさに研究活動の練習と言える。科目名は福祉情報論であるが、社会福祉学において求められる技能を総合的に身に付けることのできる授業である。

質疑応答

Q1.この授業では安西委員長に遠隔で参画いただいているとのことだが、龍谷大学間と吉備国際大学間で合同授業のような形式を取られているのか。

A1.合同授業は実施していない。安西委員長個人にボランティアとして参画いただいている。

Q2.このシステムは無償で提供されているか。

A2.有償で販売されている。

Q3.龍谷大学では授業だけでなく地域の機関とも実際に連携しているのか。

A3.当初の目的では、各機関との連携を考えていたが、データ管理及び分析、フィードバック等の役割を担う人材がいないため、使われていない。

2. 安井委員による社会福祉導入教育のためのIT化の可能性について

安井委員より、岐阜経済大学における社会福祉導入教育のための実践例とIT化に向けて問題提起いただいた。

岐阜経済大学では、経済学部にコミュニティ福祉政策学科が設置されており、そのため学生は経済学、地域政策を前提として社会福祉を学習していく。そのような学科の性格上、社会福祉だけを学びたい学生は在学中に他大学に編入したり、また学習意欲の低い学生もいることから、動機付けのために1年生を対象に、コミュニティ福祉政策学科での各教員の教育に対する思いを取りまとめた冊子の配布と学科紹介ビデオを製作した。

今後はITを用いて、新たに学生の就学意欲の向上、動機付けを図りたいと考えているが、何か良い方法があったら是非提案いただきたい。

以上の提起について、下記の旨の意見があった。

  • ITありきで考える前に、現状の問題点を整理・分析して、その解決のためにITが有効であるかどうかを検討した方が良い。
  • 教材としてビデオを使用する場合、見る上での視点や教育目標を想定しない限り、効果的ではない。社会福祉の現場においては、日常業務が忙しいため、提供しているサービスの効果の測定や事後評価ができていない。そのようなプロセスを確立した上で、ビデオに限らず遠隔講義等をむやみに実施しても教育効果を上げることができるとはいえない。社会福祉教育においても、ITの導入以前に、科学的手法を取り入れた教育方法の確立、教育内容の標準化が必要ではないか。
  • ソーシャルワーカーは主観的な洞察力が必要であるため、必ずしも理科系のような科学的手法を採用することはできないのではないか。
  • 例えば医療機関では、ある患者に対する治療法を決定する際に、医師、看護士、社会福祉士、栄養士など複数の専門家によりケースカンファレンスを行い、全員の同意を得た客観性の高い支援方法を決定する。社会福祉の現場でもこのような客観性を担保する実践が必要ではないか。
  • その他

事務局より、7月30日に開催された理事長学長等会議での提案「教育の社会支援についての提案」について下記の旨の説明がなされた。

本提案は、大学教育に対する社会からの評価、とりわけ人材育成面での評価が厳しいことに鑑み、学生の意欲向上、教員の授業支援、及び社会人の授業参画による教育の質的保証に資するために考案されたものである。具体的には、①社会での現場情報・体験情報の紹介・説明、②知的情報の電子化と教育への利用実現、③実務経験者による授業の実現、④学習成果に対する専門家の助言・評価、⑤インターンシップ、ワークショップ、調査実習の受け入れ、⑥e-ラーニング等教育プログラムの共同開発を、主に情報技術を活用して実施・協力いただく。

今後は社会からの支援を得るために、文部科学省に対して政策提言するほか、経済各団体に対しても理解を得るよう努める。合わせて、支援依頼の方法や仲介機関の設置、支援内容・方法を研究する。

社会福祉学は、特に社会と密接に関係する学問分野であることから、今後の活動、特に18年度に発刊する報告書においても、社会との連携をテーマとして内容を考案いただきたい。