社団法人私立大学情報教育協会

平成17年度第3回医学教育IT活用研究委員会議事概要

T.日時:平成17年10月20日(木)午後6時から午後8時まで

U.場所:私学会館アルカディア市ヶ谷7階会議室

V.出席者:内山委員長、竹内、増田、中澤、渡辺各委員、渋谷まさと氏、 井端事務局長、木田

W.検討事項

1. 中澤委員による授業事例の紹介

中澤委員より、「東海大学医学部におけるI T 教材作成支援体制の紹介と教材の供覧」について報告いただいた。以下はその要旨である。

○ I T 教材作成の学内支援体制作り

東海大学医学部では、2000年4月に教育計画部の下部組織としてIT教材支援室を発足する。同年4月には、医学教育における教材のマルチメディア化を促進するために、UCLAデジタル教材デザイン部助教授のSHJ Uijtdehaage氏を招聘し、数回のファカルティ・デベロップメント講演会を開催する。2001年7月に再びUijtdehaage氏を招き、UCLAの教材使用許可にかかる著作権処理方法の条件を確立する。2003年7月には、学内でのIT教材の普及化を図るため、研究会「ここまで進んだ電子医学教材 ─ I T を使って教育効果を挙げよう ─」を開催する。

○ ここまで進んだ電子医学教材 ─ I T を使って教育効果を挙げよう ─

2003年7月9日に開催。昭和大学の渋谷まさと氏、獨協医科大学の藤岡睦久氏、ソニーブロードバンドソリューション社を招き、それぞれアニメーション教材の作成と業績評価への反映、オートマチックドリルシステム、Flash5の利用方法(実習)に関して講演いただいた。

○ 医学教材のWeb化に関するアンケート(結果)

上記研究会参加教員に対してアンケートを行った結果、教員の評価は概ね好評であった。特に、IT教材支援室との共同で教材のWeb化を図りたいと答える教員が多数を占めた。なかでもPowerPointのWeb化に対する要望が多かった。


○ 教育計画部組織図

2005年度時点で、教育計画部は、次長会、FD委員会、カリキュラム委員会、国際交流委員会、評価委員会、共用試験委員会、国試対策委員会、Web化委員会から構成されている。現在教材作成の支援は、Web化委員会の下部組織Web化実務室が担っている。

○ 教材のデモンストレーション

Web上にアップロードされ、実際に中澤委員の活用している教材をデモンストレーションいただいた。今回は、心電図、皮膚循環に関するアニメーション、心音聴診トレーニング、神経所見のシミュレーション教材、掲示板を活用したPBLについて紹介がなされた。

PBLは、学内の教員が作成したケースに対して、学生が自学自習によって問題発見し、問題解決に向けての仮設検証を立てることを目的としている。チューターは掲示板上の学生の解答に対して助言を与えるが、チューターは学内の教員のみならず、卒業生である開業医や臨床医にも勤めていただいていることが特徴である。なお、各教材はhttp://edu.icc.u-tokai.ac.jp/cos/index.htmlから一覧視することができるが、教材自体に対してはアクセス制限がかけられている。


以上の報告について、下記の旨の質疑応答がなされた。

○ 教育計画部について

Q.教育計画部はどの程度の権限を有しているのか。

A.教育計画部は各教室の科目責任者の上に存立している。具体的な講義方法までは規定していないが、各科目責任者が授業を視察し、科目担当者に対する評価を下せることができる。なお、この評価は教員の給与に影響を与えるほど厳格なものである。

○ PBLについて

Q.学外のチューターは、該当科目の専門医に限定しているのか。

A.学外チューターは、該当科目の専門医のみならず、外科や耳鼻科など様々な分野の医師に担当いただくことにしている。チュータリングに先駆け、学内のケース作成医師による解説を行うほか、関連データを全て供与している。

2. 渋谷まさと氏による授業事例の紹介

次に、昭和大学生理学教室の渋谷まさと氏より、「『一歩一歩学ぶ医学生理学』 のコンセプトと現状」について報告いただいた。以下はその要旨である。

○ 「一歩一歩学ぶ医学生理学」


「一歩一歩学ぶ医学生理学」とは、@最重要情報を抽出し オリジナルの説明論旨で提示、A最重要情報を明確、正確、別々に提示、B知識確認練習問題による知識の定着するための、C大人数からの情報シェアリングによる高い教授力の教材である。なお、本教材は、http://physiology1.org上で全て公開されている。

○ 知能・技能のレベル


基礎的レベルとしては、専門が異なっても最低限抑えておくべき最重要情報、発展的レベルとしては、大学に入学しなければ習得することのできない高度な知識、研究経験、文献検索などが考えられるが、ここでのターゲットは前者に定めている。対象学年は一年生を想定している。

○ 最重要情報の抽出


従来の教材はテキスト中心で各器官の働きなどを直感的に理解することが難しい。そこで、ここでは例えば、心室圧、心房圧、弁の開閉、血流、心室筋の収縮/弛緩などの最重要項目に対象を限定し、イラスト、アニメーション、比喩表現を用いてわかりやすく説明している。

○ 教材の効果


教材の効果を検証するため、昭和大学医学部1年生26名を、従来のテキストによる自習クラスと「一歩一歩学ぶ医学生理学」による自習クラスへと無作為に振り分け、同一内容の試験(基本的な最重要情報30問)を行った結果、前者では得点のバラツキが顕著であったことに対し、後者では全ての学生が90点以上取得することができた。

また、試験後に行ったアンケートの結果によると、勉強時間について、前者では半数以上の学生が「短い」と回答したことに対し、後者では半数以上の学生が「長い」と回答した。さらに、友人、後輩に薦めたい教材として、前者、後者いずれも9割以上の学生が「一歩一歩学ぶ医学生理学」と回答した。

○ 知識確認練習問題

「一歩一歩学ぶ医学生理学」では、最重要情報の解説のみならず、学習者の到達度を確認するための練習問題も各章ごとに用意されている。問題様式は択一式であり、回答すると即時に正答が表示される。さらに、単元ごとに模擬テストも用意されており、ここでは誤回答した問題について、復習すべき項目が指示される。この機能についても、学生の約8割から「役に立っている」との評価を得た。

○ 教材の開発について


「一歩一歩学ぶ医学生理学」は、渋谷氏自身と学生の共同作業により構築されている。各コンテンツの内容は渋谷氏が考案し、イラスト・アニメーション、動画、htmlの作成は学生が行っている。さらに、内容の評価を学外の専門家に依頼している(ex. 中山 昌明 東京慈恵会医科大学講師)。

○ 将来の構想


今後は、既存の教材と知識確認練習問題のデータベース化を図るとともに、教材の充実化のために、教材作成用のIDとパスワードを発行し、学外の教員の教材も掲載できるよう努めたい。また、CBTの施行にも、本システムの利用を検討している。

以上の報告について、下記の旨の質疑応答がなされた。

○ 評価方法について


Q1.従来の教科書に比べて「一歩一歩学ぶ医学生理学」を用いて学習した学生の方が試験の成績が良いと述べていたが、試験問題の内容そのものが、例えばイラストの考え方が反映されているなどのバイアスが掛かっているのではないか。

A1.試験結果については、「一歩一歩学ぶ医学生理学」を用いた学生の方が、成績が良いとの予想はついていた。それ故に学習時間についてもアンケートした結果、従来どおりの学習方法よりも短時間で効率良く学習できることが現れた。

 

Q2.知識伝達のためにWeb学習システムは有効であるが、低学年には学生自らに考えさせるスキルを身に付けさせることのほうが重要ではないか。それ故、このシステムを利用するに際しては適時性を検討する必要がある。

A2.このシステムはあくまでも最低限習得すべき基礎知識を覚えさせるために開発したのであり、勿論それ以上の高度な知識を習得するためには、従来の教育方法は不可欠だと認識している。今後の課題として、適時性を分析するために、このシステムをテキストベースの教育方法の前後に導入し、どちらの方が学習の定着度が高いか調査することにしている。

○ 練習問題について


A1.練習問題の難易度はどの程度であるか。

Q1.看護学生向けのレベルからCBTレベルまで多様であるが、星印で難易度を示している。また、自由設定で難易度別に出題することも可能である。今後はトップページから学生のレベルに応じて各コンテンツにアクセスできるようチューニングしたい。

3. その他

事務局より、18年度11月に発刊を予定している報告書について下記の旨の説明がなされた。

18年度の報告書では、コア・カリキュラムをテーマとしており、医学分野においてもコア・カリの教育目標・到達目標の達成に向けて有効な授業モデルを紹介したい。具体的には、PBL、基礎知識の伝達、EBM、OSCEに関する授業モデルの紹介を検討したい。PBLについては今回の中澤委員の報告、基礎学力については渋谷講師の報告が非常に有益であったので、授業モデルの参考とさせていただきたい。

以上の説明を踏まえ、次回の委員会では、前回・今回の授業事例報告を集約した上で、報告書の授業モデルについて検討することにした。