社団法人私立大学情報教育協会
平成18年度第2回医学教育IT活用研究委員会議事概要

T.日時:平成18年6月8日

U.場所:私情協事務局会議室

V.出席者:内山委員長、中木、渡辺委員、木田

W.議事進行

1. 報告書について

 本年11月に発刊する報告書の草稿について意見交換した。なお、今回提出されたのは、「2.教育現場での課題」(高松委員)、「患者データを用いた臨床医学教育への戦略的IT利用」、「患者情報の前臨床教育への提供による教育効果の向上」(4.ITを活用した授業事例の紹介、渡辺委員)、「ITを活用した基礎的知識の自習モデル」、「ITを活用した学習モーチベーション向上モデル」(4.ITを活用した授業事例の紹介、中木委員)、「5.IT活用に伴う課題」(渡辺委員)である。

「2.教育現場での課題」

 高松委員より提出された草稿について意見交換したところ、下記の旨の意見があった。

○ テュートリアルの元祖マックマスターにおいては、テュートリアルを大幅に導入した結果、知識の偏重した学生(つまりテューとリアルで取り上げた題材についての知識は深いが、他の知識が欠落している)を生み出したことの反省から、大教室での系統講義を再び重視するに至った。それ故、必ずしもテュートリアルを導入することが医学教育を改善することにはならず、それ故にここでの「転換」という言葉は語調として強過ぎるのではないか。
→勿論テュートリアルを全否定するのではなく、従来型の講義とテュートリアルを目的によって切り分けることが必要である。
○ 理数系基礎科目の知識が欠落した学生に対する対処は、各大学とも頭を抱える問題である。東京大学医学部においても、高校時に生物を履修しなかった学生に対する補講がなされていたが、昨今は入学試験において理科3科目を必須とした。東京大学に限らず、本来医学部では理科3科目を必須とすべきなのだが。
  以上の意見を踏まえ、高松委員には文中の「転換」という表現を修正いただくことにした。

「4.ITを活用した授業事例の紹介(患者データを用いた臨床医学教育への戦略的IT利用)」

 渡辺委員より、関西医科大学における電子カルテの教育利用事例と慶應義塾大学小児科の患者データベースを用いた臨床実習システムの活用事例について報告いただいた(口頭による説明は、関西医科大学における電子カルテ活用事例が中心)。詳細は配布資料を参照されたい。なお、渡辺委員の報告について意見交換したところ、下記の旨の意見があった。

○ 電子カルテにおける学生のプログレスノートへの書き込み履歴は、最終的にどのような形式で保存されるのか。
→ 電子カルテをパッと見ただけでは閲覧することはできないが、最新の学生の書き込みにはバージョン情報の記載があり、そこから記載の履歴を確認することができる。
○ 職種により、患者情報への参照権限のレベルを設定することは可能か。
→全項目400件に亘るデータへのアクセス権限は、管理者側で設定可能である。例えば、学生であれば看護系、検査系、オーダーに関するデータに対しては参照することしかできないが、プログレスノート、文書作成、件暦貼り付け、ショートサマリー、初診入院時ノート、診察済み記録オーダー等に関しては書き込み、更新することができる。また、医師に対しても、例えば麻薬の取り扱いができる医師とできない医師では権限が異なる。また、患者の同意が得られない場合には、閲覧不可としている。
○ 薬剤師の病棟実習の場合にはどのような対処を行っているか。
→ 大学の教務委員会が受け皿となってはおらず、薬剤師であれば薬剤部、看護士であれば看護部がそれぞれ受け皿となっている。電子カルテに対するアカウント登録に関しては理事長決裁に一任にしている。また薬剤師実習等は実習期間を予測できない部分もあるので、アカウント作成のために相手方に対して特定のフォームにデータ入力いただくよう依頼している。
○ 紙カルテと比較して、学生の反応に変化はあったか。
→ 正直に言うと、学生にはあまり変化を及ぼしていないように見受けられるが、教える側・医師に対する意識変化を及ぼしたように思う。具体的には、これまでPOMRをいい加減に記述する医師が多かったが、電子カルテ導入後には診療科間によるコンサルテーションが実施されるようになり、POMRを相互閲覧する必要も生じたことから、しっかりした内容を記述する医師が増加した。

「4.ITを活用した授業事例の紹介
(IT を活用した基礎的知識の自習モデル、IT を活用した学習モーチベーション向上モデル)」

 中木委員より、IT を活用した基礎的知識の自習モデル、IT を活用した学習モーチベーション向上モデル2件の事例について報告がなされた。前者は女子栄養大学短期大学部(元昭和大学所属)の渋谷教授の事例に基づき執筆されたものであり、後者は中木委員が実践されているWebによる練習問題ドリル活用の取組みを執筆されたものである。詳細は配布資料を参照されたい。
  なお、中木委員の報告について意見交換したところ、下記の旨の意見があった。

○ 報告の最後にある「2つのモデルから得られたIT 活用の将来への展望」にも書かれている知通り、IT活用が全て効果的であるとは限らず、長所と短所を明確化すべきである。コンピュータを活用することにより情報量が膨大となったが、それを取捨選択する能力を学生は身に付けるべき。
→情報を取捨選択するにはある程度の能力を要する。先ほどマックマスターが知識伝達型講義を再び重視し始めたことに触れたが、このような基礎能力を欠落した学生が増えたからではないか。

「5.IT活用に伴う課題」
  渡辺委員より提出いただいた草案をもとに意見交換したところ、下記の旨の意見があった。

○ シミュレーション一つ構築するにも莫大な費用と人員を要するが、教育利用という意味では高度なものではなくてもきちっとしたモデルを構築する必要がある。は学生のみならず、臨床現場でも生涯教育としても応用できることに鑑みれば、必ずしも採算が合わない訳ではないのだが。

2.その他

 「3.教育改善のための授業設計・開発・運営の方向性」は当初中澤委員に担当いただくことにしていたが、委員会出世数が少ないことに鑑みて、場合によっては内山委員長に執筆いただくことにした。