社団法人私立大学情報教育協会
平成17年度第1回経営学教育IT活用研究委員会議事概要

T.日時:平成17年8月8月12日(金)午後2時より午後4時まで

U.場所:私情協事務局会議室

V.出席者:松島委員長、安田、丹沢、佐藤、竹田各委員、井端事務局長、木田

V.検討事項
1. 新委員の紹介
本年度より、丹沢安治 中央大学総合政策学部教授、竹田昌弘 立命館大学経営学部教授が委員に就任されたことにともない、自己紹介がなされた。
2. 本年度の活動方針について
事務局より、本年度の事業計画の説明がなされた。要旨は下記の通りである。

学系別教育IT活用研究委員会では、5年に一度研究成果を集約した報告書を上梓しており、次回は平成18年度11月に発刊を予定している。よって、本年度の委員会活動は、報告書作成に向けて、内容の検討や題材の収集を行うことにしている。
今回の報告書では、単にITを活用した授業事例の紹介に留まらず、5年先を見据えた内容としたい。具体的には、中教審大学分科会の答申「我が国の高等教育の将来像」において、今後10〜20年のうちに各学問分野別のコア・カリキュラムの作成することが提言されたことを踏まえ、コア・カリキュラムを想定し、具体的な教育目標の到達に向けて有効な教育方法を紹介することにしている。そこで、本委員会でも、まずは経営学分野におけるコア・カリキュラムを大まかに想定いただきたい。

続けて、事務局より、「平成16年度 私立大学教員の授業改善白書」と「教育改革を目指したeラーニングのすすめ」「教育における産官学連携事業」に関する情報提供がなされた。

※「平成16年度 私立大学教員の授業改善白書」について
  本白書は、昨年11月に本協会が実施した、私立大学教員による授業改善に関する調査の回答結果を取りまとめたものである。この調査では、授業を運営する上での現状の問題点、授業改善のための課題、授業でのIT活用状況、授業でITを活用した場合の効果や問題点等、質問内容をITに限定せず、大学教員が授業を運営する際に関わる問題点を広く聴取したものである。
現状の問題点としては、学生の基礎学力の欠落、学習意欲を高める工夫が困難であること、教育に対する組織的支援がないことなどが、多くの教員から指摘された。授業改善のための課題としては、授業シナリオ作成、科目間の実質的な連携、授業に即した教育環境作りなどに多数の回答があった。IT活用状況では、現状ではWeb上にシラバス掲載、現実感覚の創出、レポート・課題提示に活用しているとの回答が多く、2年後には、e-Learningの導入、理解度把握、教員・学生間のコミュニケーションのために使用したいとの回答が多かった。ITを活用した際の効果については、授業に刺激を与えること、学生の学習意欲の向上に繋がることに多数の回答を得た。問題点としては、理解しているようで理解していないこと、ノートを取らないことなどの指摘が多かった。また、ITを活用している教員としていない教員の回答を比較したところ、授業運営について抱える問題点は共通していることが判明した。

※ 「教育改革を目指したeラーニングのすすめ」
本冊子は、大学におけるeラーニングの普及・啓発を目的として、本協会のコンテンツ標準化委員会により作成されたものである。これまで日本で刊行されてきたeラーニングに関する書籍は、必ずしも高等教育に限らず、企業内研修を対象として書かれてきたので、純粋に高等教育のみを対象としたのは、本冊子が日本初と言える。
冊子の具体的な内容を見ると、第一部では、全体的な要点が整理され、第2部では、eラーニングの定義、授業事例、導入レベル別授業モデル、導入に向けた自己点検表が掲載され、第3部では、eラーニングを導入する際の、教員、大学当局それぞれの配慮すべき留意点、教材作成の留意点が掲載されている。

※ 教育における産官学連携事業
大学教育に対する社会からの評価、とりわけ人材育成面での評価が厳しいことに鑑み、学生の意欲向上、教員の授業支援、及び社会人の授業参画による教育の質的保証に資するために考案されたものである。具体的には、社会人や現役を退いた企業OBの方に、インターネット会議等を用いて授業に参画いただき、情報・体験情報の紹介・説明いただくことを構想している。協力いただいた企業に対しては、政府により顕彰を与えることにより、モチベーションの向上を図ることを計画している。なお、本事業の実現に向けて、文部科学省と折衝中である。

以上の説明を受けて、コア・カリキュラムや現状の経営学教育の問題点について自由討議したところ、下記のような意見があった。
・ 医学分野では、卒後に医師の国家資格を取得するという明確な目的があるので、コア・カリキュラムを設定しやすい。しかし、経営学を学んだ学生全員が、必ずしも経営者を目指すとは限らず、また各大学の経営学に対する位置づけによって、学習範囲も異なるため、統一的なカリキュラムを構築することは難しい。
・ 例えば経営学の資格制度を仮定して、資格取得のために最低限必要な知識群をコア・カリキュラムとして想定することは可能ではないか。
・ 大学の教育内容に対する批判が高まっているが、その批判に応えるためには、実際に企業人の求める知識体系を調査し、社会のニーズと大学教育の間のミスマッチを把握することが必要である。その上で、経営学部の輩出すべき人材像を仮定し、人材育成に向けて必要な知識の整理と各科目へのフィードバックすることから始めるべきではないか。
・ ビジネスゲームは、学生に経営戦略の一貫性や業績を上げることの困難を知らしめるため、また動機付けを高めるために適切な教材である。例えばビジネスゲームを核として、関連科目への関心を惹くことや科目間の繋がりを提示することは可能ではないか。その場合には、教員間の連携も不可欠となる。
・ 現在は、科目間がそれぞれ独立して授業を行っており、学生には各科目の連関性が把握できない。そこで、コア・カリキュラムを一つの企業モデルと仮定して、各科目が企業活動として有機的に連動していることを理解させるような体系ができれば、非常にインパクトは強い。
・ 企業サイドは、新卒学生に対して各学問領域の専門知識よりも、基礎学力や論理的思考力など一般教養を求める傾向にある。しかし、大学は90年代初頭から専門教育を重点化しコース制を導入したが、結果として教養科目の時間が削減され、むしろ社会の求める教育内容とは逆方向に歩んだ感がある。

 以上を踏まえ、本委員会としては、経営学のコア・カリキュラムを構想する上で、各科目個別にアプローチするのではなく、まずは企業活動の総体を理解するという観点に立ち、そのために必要な知識体系の検討から開始することで、合意を得た。