社団法人私立大学情報教育協会
平成17年度第2回経営学教育IT活用研究委員会議事概要

T.日時:平成17年9月16日(金)午後2時から午後6時まで

U.場所:アルカディア市ヶ谷私学会館3階会議室

V.出席者:松島委員長、岩井副委員長、安田、福原、丹沢、竹田各委員
  井端事務局長、木田
W.検討事項

 T.経営学教育におけるコア・カリキュラムについて

 はじめに、松島委員長より18年11月に発刊を予定している報告書に向けた、本委員会活動の活動方針と、今回の議事について下記の旨の説明がなされた。

 18年度の報告書では、コア・カリキュラムをテーマとしたIT活用授業モデルを提言することにしているが、コア・カリキュラムの構築以前に、まずは経営学教育の現状の問題点と企業ニーズを把握する必要がある。その上で、コア・カリキュラムの検討に入り、それを具体的に実現するための授業モデルを考案していきたい。
  そこで、今回は1.経営学教育の現状の問題点の整理、2.企業のニーズの把握を議題とする。1.は福原委員の報告に基づき自由討議を行い、2.は丹沢委員、松島委員長より実施いただいた企業人に対するアンケート調査に基づき、自由討議を行うこととする。

(1) 経営学教育の現状の問題点

  福原委員より、「学生の視点からみた既存の経営学教育の問題・課題」と題して以下の旨の報告がなされた。詳細は、当日福原委員より配布された資料を参照されたい。

1) 学生自身に起因する問題
・ 意識や能力の階層化
・ 経営現象に対する現実感の欠如
2) 学生ニーズに応えていない教員側の問題
・ 理論偏重の講義内容
・ 事例偏重の講義内容
・ 円滑な講義促進の問題
・ 講義の双方向性の問題
・ リアリティの見せ方の問題
3) 結論
・ もっとリアリティのある経営学の教授法を徹底すべき
→リアリティを感得させるツールとして様々なIT活用の可能性が存在する。

 以上の報告に基づき意見交換した。主な意見は下記の通り。

○ 学生のニーズを入口とすると、企業のニーズは出口に該当する。その入口と出口を繋ぐ大学が、双方のニーズと合わない教育を施している。
○ 学生の授業アンケートをもとに授業評価を行うことも短絡的である。学生は教員個人の印象で評価しがちであり、また評価項目が必ずしも最適であるとも限らない(例えば黒板の扱い方という項目において、pptを用いる教員の評価が下がるなど)。さらに、大学側が授業評価の結果を教員にフィードバックするだけで充足してしまうが、本来ならば大学全体の問題として真摯に受け止めるべきである。
○ 学生の階層化と経営学のリアリティに関して言うと、レベルの低い大学では明確な目的意識が無く、何となく経営学部や経営学科に入学してくる学生が多い(高校の時点で目的意識のある学生は専門学校へ進学する性向がある)。そのような学生に対しては、カリキュラムを提示してニーズを掘り起こすこと自体が困難である。日本国内には、このような学生を抱えた大学が多数存在していることから、そのような大学が生き残るヒントになるようなガイドラインをここで検討することも必要ではないか。
○ 大学淘汰時代に棲み分けしていくためにも、今後大学は、汎用的な経営学ではなく、ある特定の業種に特化した経営学部・経営学科を創設した方がいいのではないか(流通科学大学や明海大学では既に設置されている)。特に私立大学では、早稲田・慶応のような有名私立大学では確固としたブランドバリューが確立されているが、定員の確保に必死な大学は、独自路線を模索しないと生き残れないのではないか。
○ 業種別と言っても、医療業界は別として、日本の企業は多様な業務に携わっているのが現実である。また、企業も新卒者に対しては、経営学特有の知識や能力ではなく、問題発見・解決能力や論理的思考力など、より一般的な能力を求めている。
○ 専門学校のブランド化が進んでいるのは、就職率の高さに依っている。大学のオープンキャンパスでも、学生の父母は頻りに卒業後の就職についての質問が多く、大学側も就職率をセールスポイントとして広報している。
○ リアリティに関して言うと、東京経済大学では、早期にビジネスゲームを導入することで学生の学習意欲の向上に働きかけている。ビジネスゲームでは、学生をチーム分けして業績を競うが、勝者敗者双方に勝因敗因を反省させることで、自ら欠落していた知識に気づかせる。それにより、後学年で関連科目を真剣に学習することが期待できる。(本年度は2年生を対象に実施したが、来年度は1年生を対象に実施することを計画している)
○ ビジネスゲームは高学年を対象とした授業科目と想定しがちであるが、必ずしもその必要は無い。むしろ、習熟度、学年別に目的の異なるビジネスゲームを実施しても良いのではないか。
○ ビジネスゲーム単体だと、実際のビジネスプロセスのサイクルや、プロダクトライフサイクルマネジメントに要するプロジェクト的な思考力を取り上げることが難しいので、それらを補足するコンテンツ(例えばバーチャルオペレーション等)と組み合わせたビジネスゲームをここでは提案できないだろうか。

(2) 企業のニーズ

 はじめに、丹沢委員よりアンケート調査の結果について報告がなされ、それに基づき意見交換を行った。主な意見は下記の通り。なお、詳細は、丹沢委員より事前にメール送信された資料を参照されたい。

 経営倫理について
○ 昨今企業が経営倫理の重視を提唱しているが、それは利潤を上げるための目的化しているのではないか。つまり、最低限の経営倫理を遵守しない企業は、市場から淘汰されることを意味する。
○ 大企業では真剣に取り組むケースもあるかもしれないが、中小企業ではやはり経済合理性が第一に追求される。従業員満足度を向上させることは長期的な利益に適うと思うが、客観的データが存在しないことから、結局経営者の耳には届かない。
○ 企業は社会的責任を果たすことにより便益を期待できるから、経営倫理を提唱するだけであって、制度としてサンクションが整備されていない限り、意味をなさないのではないか。
○ 経営倫理にも多種多様な意味を要し、例えばコンプライアンスのようにプライマリーなレベルから従業員満足度という高度なレベルまで射程に含まれる。それ故に、レベル別に議論していく必要があるのではないか。

企業人の経営学に対する考え

○ 学生に対しては経営学の知識そのものよりも、必要が生じた場合にどのように身に付けることができるかということに注目する人が多い。つまり、経営学の専門的知識よりも、より普遍的な論理的思考力を身に付けた人材を希望していることが言える。
○ 現在大学ではコース制の導入など、より専門が細分化されつつある傾向にある。企業ニーズに鑑みると、方向転換する必要があるのではないか。

 次に、松島委員長よりアンケート調査の結果について報告がなされ、それに基づき意見交換を行った。主な意見は下記の通り。なお、詳細は、松島委員長より事前にメール送信された資料を参照されたい。

ケーススタディについて(IBM栗山氏の企業の事例研究とケーススタディが異なるとの指摘を受けて)

○ 例えば、KBSのように、毎年同じケースを同じシナリオで進行していくMBAが多いので、飽きられているのではないか。
○ ケースは既存のものを使うよりも、日経ビジネスを利用して学生自らケースを構築する方が、教育効果が現れるのではないか。
○ ハーバードなどの、既存にものに依らないケースのライブラリー化を提言していくべきである。

科目間、教員間の連携について
○ 組織論も戦略論も本来は会計の知識を前提として履修されるべきであるが、科目間の連携がとれず、それぞれ独立に授業を行っているのが現実ではないか。
○ ビジネスゲームを実施すると、最終的に財務諸表を作成しなければならず否が応でも知識を身につけなくてはならなくなる。それは会計学のみならず他の周辺科目に対しても同様の効果を期待できる。それ故にビジネスゲームは「気づけ」の科目として機能、つまり経営学の鳥瞰図を提供することが可能ないか。
○ ビジネスゲームをそのように機能させるためには、科目間、教員間の連携も不可欠であるが、現状では連携が取れていない大学の方が多い。

ここで、松島委員長より、習熟度別のビジネスゲームとして下記のイメージマップが提示された。

木の幹、根の部分がビジネスゲームに該当し、枝葉の部分が各専門科目に該当する。一年時には根の部分で経営学全般の鳥瞰図を習得し、習熟度が増すに連れて、上方に移行し、各専門科目へと連結が図られていく。ただし、枝葉については、必ずしも専門科目名を付与するのではなく、キーワードでも良い。

次に、岩井副委員長より、青山学院大学国際マネジメント研究科のカリキュラムを模した、キャップストーンについて説明がなされた。

ギリシア神殿に模し、柱の部分が各専門コースの該当し、屋根の下部にビジネスゲームが該当する。最下部の土台については、 MBA に必要な科目を俯瞰するための、一年時のビジネスゲームが該当する。

経営学部・学科出身者の人材像について

•  果たして、経営学部・学科出身者の人材像として、企業経営者を想定することは適切であるのか。

•  企業側が求めているのは比較的一般的な能力が多いことから、本委員会で人材像を想定する場合にも、大学出身者の一般的能力と経営学部・学科出身者に特有の能力を分離して検討した方が良い。

 

経営学の body of knowledge について

•  経営学をフィルターとして論理的思考力を育成するためには、最低限習得するべき専門用語や知識を理解すべきであるから、ここでも一つの到達度チェックのための、経営学の body of knowledge を提言してはどうか。

 

(3)教員側から見た経営学教育の問題点

 

 次に、教員側から見た経営学教育の問題点について、自由討議した。主な意見は下記の通りである。

 

•  突き詰めるようなテーマのゼミ・授業には人が集まらない。

•  枝葉(専門科目)を詰める手前の意識づけがなされていない。

•  ゼミと称したミニ講義が多いのではないか。それ故少人数教育でも問題発見能力や論理的思考力が育成されない。

•  導入部分の気づけを与えるための少人数教育(ビジネスゲーム)では、共通の知識を身につけさせるべきではないか。

•  ビジネスゲームを全員履修させると、私立大学の場合少人数教育を実現できないのではないか。

•  必ずしも気づけの教育が少人数である必要は無い。経営活動をこれから学ぶ上でのきっかけを与えるような授業モデルとして、200?300人、50人、ゼミ、など履修学生数に応じた3パターン程度のモデルをここで提案できれば良い。

•  教員個々が細かい領域で専門科目を持っているが、基幹科目を中心としたグループ制を敷くべきである。そうすることで、知識や情報が共有可能となり、教育・研究両面でメリットがある。

•  報告書においてリテラシー能力は前提とする(5年後を見据えて)。

•  今後の構想

 

•  一つの企業モデルのバリューチェーンをベースとした、ビジネスゲームを授業モデルとして提案する。バリューチェーンに基づいて知識をモジュール化し、それを切り貼りすることで、一つの授業科目を成立することが可能である。

•  報告書では五年後を見据えることから、学生の情報リテラシーは問題視しない。

•  階層化された学生への対処としては、単位取得を容易にすることを前提として、授業内容は上層部の学生に合わせる。

 

以上の議論を踏まえ、委員各位は次回委員会までに、下記の分担に従って報告書に向けた論点を整理いただくこととした。

 

•  福原委員・・・学生の視点から見た経営学教育の問題点

•  安田委員・・・企業側のニーズ

•  竹田委員・・・今後の構想(授業モデルを中心に)