社団法人私立大学情報教育協会
平成19年度第2回経営学教育FD/IT活用研究委員会

T.日時:2007年8月8日(水)午後5時から午後7時まで

U.場所:アルカディア市ヶ谷私学会館6階伊吹

V.出席者:竹田委員長、岩井副委員長、安田、佐藤、福原各委員
        寺島氏(富士通株式会社)、大島氏、玉井氏、千葉氏(三菱商事株式会社)
        井端事務局長、木田
W.検討事項
1.経営学教育における産学連携授業に向けて
  議事に先立ち、委員各位および寺島、大島、玉井、千葉各氏より自己紹介がなされた。
  (1)委員会からの意見要望
  はじめに、竹田委員長より、経営学教育(学部教育)の直面する問題点について、以下の旨の説明がなされた。

 経営学は実学を標榜しているが、学生にはビジネスの経験がないため、授業内容がなかなか伝わらないという問題を抱えている。昨年来本委員会では、学生はビジネスゲーム等を会社経営や企業活動の概観を直感的に理解したうえで、授業において理論的な説明を受けた方が良いとの結論に至った。しかし、ビジネスゲームの準備や実施には労力が掛かるため、実現することは難しい。そこで、実際には企業現場を学生に理解させるために、教員は企業人を講義に招いたりビデオを活用したりすることで、学生の意欲を高めようと努力しているものの、毎回の授業に企業人を招聘することはできないし、ビデオの内容に合わせて授業を展開してしまうなどの問題点がある。そのような問題を解決するために、企業と大学が連携して、汎用的に使用することが可能な教育素材(具体的には2〜3分程度のビデオ教材)を共同して作成したいと考えている。

 次に、井端事務局長より、関連した話題として経済同友会の報告書「教育の視点から大学を変える」について説明がなされた。要旨は以下の通り。

  • 報告書では、大学には研究よりも人材育成に重点を置いたミッションがあるが、人材育成について社会の要請と大学との間にミスマッチがあり、ミスマッチ解消のためには、「大学人一人ひとりの意識変革を通じ、大学が『日本のイノベーションを担う人材』育成の場として、自らの活路を拓いていくことを強く期待」するとともに、「企業経営者としても、こうした変革を支えるための努力を重ねていきたい」と訴えている。つまり、企業サイドとしても大学教育に対して積極的に支援したいとの意志を表明するものである。このような意志表明を受けて、本委員会をその支援の内容を具体化するための協議の場としたい。

 次に、委員各位より、産学官連携サイバー・ユニバーシティ・構想に向けたアンケートを踏まえて、経営学教育において期待する産学連携のあり方について説明いただいた。要旨は以下の通り。

<佐藤委員>

  • 経営学教育の問題点としては、竹田委員長が述べられたとおり、学生に実務経験が無いため、勉強・学習することの意義が理解できず、その結果授業をまともに受けなくなってしまう点が挙げられる。例えば卒業生に会うと、大学で学んだことの意味が卒業して初めて理解できたという話を聞く。
  • それ故に、企業では実務においてどのようなことを行っているのか教えて欲しいと考える。教員自身の知っているビジネスモデルも限られているが、本来ならば経営学に含まれている知識をより有効に説明できるような事例が多様にあるはずである。そのようなものを線滝的に利用することができるコンテンツを望む。
  • 具体的には、企業においてどのような業務があるのか、どのような状況下でどのような問題が発生し、それに対処するための情報収集がなされているのか、すなわちPDCAサイクルの実例を、企業秘密に抵触しない範囲で見せてもらいたい。形式としては、市長かつ教材(動画、アニメーション)が望ましい。また、業務内容を理解するためには、職務記述書などを提供いただけることが望ましい。
  • 教材の使い方としては、教員が経営学に関する理論を説明するにあたり、視聴覚教材により実例を5分程度で見せて、理解を促したいと考えている。そのような視聴覚教材が多様にあってかつ自由に利用することができれば理想的である。

<安田委員>

  • 学生に対して企業の業務プロセスを説明するためにWeb上の素材の提示や工場見学に連れて行くが、学生は実務経験に加えて目的意識もないため、親身になって考えず他人事のように受け止めてしまう。そのためか、就職時においても、アルバイトの延長線上として、小売業や流通業に就職する者が多い。世の中には小売業、流通業のみならず、製造業、金融、サービス業など業種は多種多様にあるので、それらを知ることにより自らの職業選択につなげて欲しいと考えている。
  • 授業においては、工場の生産管理について説明するような場合には、本田とか日産が自動車工場の製造過程を業務別にWeb上で配信しているので、それらを順々に提示しながら説明している。そのような業務の様子を収めた数分の動画コンテンツが、様々な業種において自由に活用できることが理想的であると考える。

(2)自由討議
  その他に、竹田委員長より丹沢委員(株主総会、取締役会、製品開発等の現場を撮影した動画コンテンツを希望)、福原委員(企業の意思決定や戦略会議で使用された資料の開示を希望)のアンケート結果について説明がなされ、その後に自由討議がなされた。要旨は以下の通り。

  • 現代の学生は社会のことについて関心がなく、就職活動においても身近な商品を販売生産している企業やコマーシャルの多い企業にしか興味を示さない。それ故、まず世の中に存在する様々なビジネスを教えることから始めなければならない。
  • 経営学は主に経営管理の学問であり、例えば生産システムや生産現場の話をしても、修飾語に実際にそのような現場に入る学生はあまりいない。そのように考えると、経営学は即戦力に役立つ学問とは言えないかもしれないが、世間からは役立つ学問としての期待が大きい。
  • 創価大学では、「トップが語る現代経営」という、学部横断で受講できる科目がある。そこでは、週毎に交代で企業人が講義を行っているが、そこでは生の現場の話を伝えることができ、学生からも好評である。講義録は出版化されており、一般の方も読むことができる。
  • 総合商社の業務についてはわかりにくいというイメージがあるので、就職活動中の学生向けにはもちろんのこと、I企業活動の透明性を確保するためにも、IRに関するビデオをWeb上で配信している。そのビデオでは、組織変更の理由から経営計画、新規事業展開などについて詳細な説明を行っている。そういったものは授業でも活用可能ではないか。
  • 他の企業も含めて、事業紹介について公開されているコンテンツを一覧視できるようなサイトが必要ではないか(ソーシャルブックマークの活用等)。
  • 学生の中には、企業のCSR等の社会貢献活動に参与したいことを志望動機に挙げる者がいるが、企業による社会貢献活動は収益を上げるからこそ実現できる。また、収益を上げることによって法人税を納めることも社会貢献活動の一環であるが、学生は社会貢献と収益活動を切り離して考えようとする。
  • 企業では新人社員教育用の教材があると思うが、それらを大学教育でも活用することが可能であれば、大学において最低限の社会人教育を行うことも可能となる。
  • おそらく企業側に対してコンテンツの提供を求めるには、お互いwinwinにならない限り難しいのではないか。専修大学では現在マイクロソフトと共同してシニアマネージャクラスの人材の、失敗事例を収集しストーリー化するプロジェクトを行っているが、作り上げたストーリーはマイクロソフトの人材教育で活用することに加え、専修大学の演習教育でも活用することにしている。大学でのティーチングメソッドや教育効果をマイクロソフト側に対してフィードバックすることにより、双方にメリットが生じる。また、インターンシップ制度を導入している大学は多数あるかと思うが、企業側も忙しいなか社会貢献の一環として仕方なく受け入れている印象を受ける。大学側としてどのように送り出せば企業側にもメリットがあるのか示唆いただきたい。
  • 三菱商事はひとつのプロジェクトのビジネスサイクルが長いため、なかなか現場を見せることは難しく、また営業にインターンの学生が来ても企業側にはあまりメリットがないように思える。しかし、例えばIT系の企業では、インターンの学生に実際のプログラミングを行ったもらい、優れた者に対しては奨励金を出したり採用を考慮したりするところもある。業種によって制約条件が異なると思う。
  • 佐藤委員の要望のなかに職務記述書の公開が挙げられていたが、日本の企業には明確な職務記述書がない。
  • 三菱商事には新人教育用のハンドブックがあり、そこには企業理念や取引の基本形のようなものが記述されている。
  • さらに企業では文書能力が求められる。経営企画・管理部門ではドキュメンテーションが多く、一昔前では上司の決済を得てから外部文書を発信する必要があり、赤字添削されることにより文章力のトレーニングとなった。昨今はeメール等のツールにより気軽に外部に対して文書を発信することが可能となったが、その反面文章力は低くなっている印象を受ける。それ故、新人社員には文章力が求められる。
  • 大学で求められる文章力と企業で求められる文章力は異なる。それ故、企業で求められる文章力の実例として、ビジネスレターの開示などが必要ではないか。
  • 大学の授業でビジネスレターの書き方やビジネス英語の使い方を教えても、学生には一般教養の科目として聞き流してしまうことが多い。そのため、なんらかのインセンティブを付与する必要がある。例えば「どこどこに向上を新しく建設してアメリカのマーケットに進出した」という文章があったとすると、そこに至る過程において企業では社内外でのネゴシエーション、マーケットリサーチ等膨大な作業に多くの時間を費やしており、そこでは経営学、会計学、統計学の知識が多分に活用されているが、学生にはそこまで想像することができない。そこで、あるプロジェクトの過程の詳細がわかるような教材があることが望ましい。

 以上の意見を踏まえ、次回委員会では富士通、三菱商事両社の新人社員教育にて利用している教材を、可能であれば持参いただき紹介いただくこととした。また、三菱商事のWebで公開している事業紹介のビデオも紹介いただき、教育において利用可能であるか検討することとした。