社団法人私立大学情報教育協会

平成16年度第4回機械工学教育IT活用研究委員会議事概要

T.日時:平成17年1月13日(木)午後5時30分から午後7時30分まで

U.場所:私情協事務局会議室

V.出席者:曽我部委員長、青木、田中、森沢、田辺各委員、井端事務局長、木田

W.検討事項

(1) 機械工学教育における産学連携について

 曽我部委員長、田辺委員、青木委員より自身の考える産学連携型授業モデルについて報告いただいた。それぞれの報告要旨は下記の通りである。

田辺委員

17年度の授業実験として、教材データベースと企業技術者の支援による動機付機械工学の授業を提案したい。

 有限要素法は、産業界の製品開発の場において様々な応用がなされており、その実例を企業技術者から紹介いただくことは学生の動機付に有効であると考えられる。具体的な授業運営方法としては、(1)教材データベースを用いて様々な産業界での適用例を紹介、(2)現場の情報として、有限要素法を利用して設計を行う企業技術者に、15分程度ミニ講義をしていただく、(3)学生による質問に直接回答いただくとともに、励ましやアドバイスをいただく、ことが考えられる。

同じ趣旨の実験授業は、2000年に日産自動車の協力を得て実施したが、今回は鉄道総合技術研究所の技術者から、新幹線車両及び軌道構造の設計例を踏まえた講義をいただくことにしている。また、昨年秋には新潟県中越地震で新幹線の脱線事故なども起こり、ホットな話題でもあるので学生の興味を惹くことが期待できる。

 曽我部委員長

1年生を対象とした機械力学の授業での産学連携授業案を作成した。この授業は半期14回行い、3回ごとに一つの単元を終える構成である。受講者は一年生であり機械に関連した力学に関する知識もないので、進級後の学習意欲を持続させるためにも、基礎科目でもある本授業で動機付けしておく必要がある。そこで、それぞれの単元の初回の授業において、企業人による現場での実践例の紹介を中心としたミニ講義を実施し、学生の学習意欲の向上を図りたい。また、企業の有する自動車の構造図や性能図を提供いただき、授業で活用したいと考えるが、最新機種のものは企業秘密にも関わるので、古い機種のものでも良い。

青木委員

 前回の委員会後、大学における産学連携授業について調べたところ、企業ニーズに対して大学として応えることが可能な場合にはうまく連携のできるケースがあることが判明した。

機械工学に近い分野では、工業デザイン、人間工学分野では、産学連携型教育の実施されている大学がある。例えば日本大学芸術学部デザイン学科では、プロダクトデザイン講座という名称の科目が開講されており、そこでは中小企業に対して学生による商品提案がなされている。また、福祉系の大学では、身体障害者用の階段昇降機を企業と学生が共同開発し、商品化された例もある。

 企業が大学に求めているのは、熟練された技術ではなく、学生=若い人のアイデアやコンセプトデザインなど意匠的な感性や、学生を対象とした市場調査である。また、中小企業に対しては実験設備を提供することから連携の糸を導くこともできるのではないか。ITを用いるのであれば、例えばCADデータの共有やオンライン市場調査に対する協力など可能であり、それを上手くプレゼンテーションできれば連携も可能ではないか。

 上記3つの提案に関して意見交換したところ、下記の旨の意見があった。

  • 現役の企業人は通常業務があるため、大学に人的資源を提供することは、不況下の現状益々難しくなっている。財政的余裕のある企業であれば、社会貢献の意味で協力いただけるかもしれないが、どの程度精力を注いでいただけるかはわからない。そこで、可能性としては日常的な業務のないリタイアされた企業人であれば、協力を得易いのではないか。例えば現役時代のアイデアを学生とともに実現することを期待する人もいるのではないか。
  • 日本大学では、経済産業省管轄の研究所をリタイアされた方を非常勤講師として招聘しているが、CADの使用方法を学習したいので大学の施設を使わせて欲しいと言われ、実際に利用を許可している。このように、リタイアされた方にも最新技術に興味のある方はいるから、技術提供することで連携することも可能ではないか。
  • リタイアされた方に対しても、金銭的というより社会的地位を大学あるいは国として顕彰するような制度が必要である。その仕組みが整備されれば、積極的に協力いただけるのではないか。
  • リタイアされた方からは、技術的な話題よりも、技術者としての人間的な心構え、例えば技術者倫理など大学教員ではなかなか教えることのできない話題を提供いただきたい。
  • 最近の学生は昔常識と思われていたことが通用しなくなりつつあり、技術者倫理の教育は今後不可欠であると思われる。技術者倫理は学科や大学を超えて必要とされるものであるから、そのようなコンテンツを共有できれば良い。
  • 委員会として、実際に企業人を招いて、大学で必要とされる技術者倫理教育などヒアリングする必要があるのではないか。

 以上、今回各委員に報告いただいた提案は、17年度の実施に向けて次回委員会までにさらに詳細な案を提起いただくこととした。また、今後は必要に応じて、企業人を招聘し、技術者倫理等大学の工学教育に求められる内容をヒアリングすることとした。

(2) その他

事務局より、18年度に発刊を予定している報告書について下記の旨の説明がなされた。

大学では、授業内容が担当教員に一任されており、人材育成を目標とした一貫的なカリキュラム設計がなされていない。そのため、社会から大学教育に対する批判の声が上がっている。それを受けて、中教審大学分科会の答申「我が国の高等教育の将来像」においても、各学問分野別のコアカリキュラムの作成及びコアカリキュラムの実施状況と大学評価の有機的連動が謳っている。

 そこで、18年度の報告書においては、機械工学分野においてもコアカリキュラムを意識して、学習項目ごとに教育目標を明示して、その到達に向けた効果的なIT活用モデルを提言いただきたい。また、今回話題に出た技術者倫理教育に関しても、必要に応じて織り交ぜていただきたい。