社団法人私立大学情報教育協会
平成19年度第1回機械工学教育FD/IT活用研究委員会議事次第

T.日時:平成20年1月21日(月)午後6時から午後8時まで

U.会場:私情協事務局会議室

V.出席者:曽我部委員長、角田、田中、田辺各委員、井端事務局長、木田

W.議事進行

 井端事務局長より、文部科学省中央審議会大学分科会制度・教育部会学士課程教育の在り方に関する小委員会「学士課程教育の再構築に向けて」(審議経過報告)について説明がなされた。要旨は以下の通り。

(1)資料「参考1」について
本資料は、上記委員会が今後の大学の課題と政府としての取り組みをまとめたものである。

@学位の授与、学修の評価について
【国による支援・取組】

  • 学士が保証する能力の内容として、各専攻分野を通じて培う「学士力(仮称)」を示し、教育の質保証の枠組み作りを促進支援する。
  • 学士力は、知識・理解、汎用的技能、態度・志向性、統合的な学修経験と創造的思考力の4つから構成される。詳細は配布資料を参照されたい。
  • 学士力に加えて、各専門分野別のコア・カリキュラムの策定、モデル教材やFDプログラムの開発などを促進する。
  • 産学連携の促進に向けて、必要な支援や協力を要請する。

A教育内容・方法等
【大学の取組】

  • キャリア教育は、アウトソーシングに偏ることなく、教員が参画して学生のキャリア形成にあたる。アカデミック・ライティング等は共通基礎科目だけでなく専門科目の学習して訓練することが望ましい。

【国による支援・取組】

  • 個性や特色のある教育課程に関する優れた実践に対し、積極的に支援、体制を整備する。
  • 産学官の対話の機会を設け、インターンシップの推進に向けた理解の増進などの環境整備を進める。

B教育方法
【改革の方策】

  • 学習の動機付けを図りつつ、双方向型の学習を展開するため、講義そのものを魅力あるものとするとともに、体験活動を含む多様な教育方法を積極的に取り入れる。(協調・協同学習、PBL等の導入)
  • ICTの積極的な導入により教育方法の改善を図る

【大学の取組】

  • 少人数指導の推進やICT活用などに必要な施設・設備の整備の整備
  • 教育方法の革新に向けた調査研究、情報収集・提供、学協会の取組の連絡調整等を行うナショナルセンターの創設を検討

C成績評価

【大学の取組】

  • 学習成果を学生が自己点検・管理するための学習ポートフォリオの導入・活用

【国による支援・取組】

  • 徹底した出口管理、成績評価の厳格化について先導的に取組んでいる大学に対する支援
  • 大学間の連携、学協会を支援し、国際的な通用性に留意しつつ、分野別の学習成果や到達目標の設定などの取組を促進

D教職員の職能開発

【大学の取組】

  • 教員の人事採用に当たって、研究面に偏ることなく教育面を一層重視
  • 人材育成の目的に応じて大学院における大学教員養成機能(プレFD)の強化

【国による支援・取組】

  • 高度な専門職である大学教員に求められる専門性、FDによって開発すべき能力に関する枠組み等の策定を検討
  • 優れたFDSD活動を行う大学に対する支援とその情報提供
  • 大学間の連携、学協会等を支援し、分野別のFDプログラムの開発研究
  • FDの推進に資する大学教育支援センターの設置

次に、上記答申に対する本協会のパブリックコメント(参考2)と、上記委員会に井端事務局長がヒアリングのために招聘された際の報告要旨(参考3)について説明がなされた。ポイントは以下の通り。

(2)学士課程教育の再構築に向けてに対する意見(参考2)

  • 報告全体に対しては、理事長学長のリーダーシップを発揮して、教育理念や目標を大学全体で共有するようガバナンスの改革について言及すべき。
  • 学士力については、コミュニケーションスキルとして、日本語を用いて議論、文章表現することを重要視すべき。
  • 改革の方策の、「ICTの積極的な導入」については、可能性と限界を判断すべき
  • 成績評価については、一回の筆記試験だけではなく、小テストや授業での質問、課題学習等により多面的に評価すべき。また不用意はGPAの導入は、学生を楽勝科目に走らせる可能性がるので注意すべき。
  • 教職員の職能開発については、授業改革憲章を各大学が取りまとめ、教員が主体的に教育の改善に取組むよう合意形成すべき。

(3)大学教員のあり方に関する意見(参考3) 

1.大学教員としての役割・使命を大学においてとりまとめることの意義、考慮すべき点

@ 大学の固有の存在意義として教育が挙げられる。人材育成なくして国社会の発展はありえないことから、大学は国社会が期待する多様な能力価値観を備えた人材を輩出する使命がある。


A 各々の大学の建学の精神や教育理念に基づき人材育成を標榜すべきであるが、その実現に向けて理事会教員職員が一体となって取組むべき。また、学生一人ひとりに対して責任をもって教育するという姿勢を大学内外に公表すべき。


B これまで一部を除く教員は人材育成に対する意識が希薄であった。学生に学びの重要性や国・社会の発展に寄与することを理解させるために、教員は人材育成への寄与を強く意識すべき。そのためには教員の職務規範の策定が望まれる。


C 職務として配慮すべきは、人材育成を付託されていることの使命感や学識性人格性に求められる職業倫理観、教員同士による連帯意識の形成、自発的な授業改革の取組、人間基礎力育成への積極関与、教育力を向上させるFDへの参加、教育改革への積極関与などが挙げられる。


D 規範意識を継続促進させるために、大学全体で教育改革憲章を取りまとめ、その中で職務規範を位置づけることが望ましい。

2.ユニバーサル時代における大学教員に必要な能力要素とコンピテンシー、コアとして提示すべき能力

@ 学識、技術、資質、実践の側面から能力要素を検討すべき。
A コアとしては、「真理の探求力」、「授業設計・評価・改善力」、「学生主体の授業力」、「人間力養成の助言・指導力」、「教室外の学習指導力」、「適正かつ多元的な成績評価力」、「情報技術活用力」、「教育改善実践力」などがあげられる。


 
3.教育活動に研究活動が必要であるとする理由、大学の機能別分化との関連、学術的な研究と教育上必要な研究との関連など

@ 学生の学習意欲が低下しているなか、まず学びの重要性・意義について理解を促し、学生の主体的な学びを喚起することが最大の課題。そのためには、研究活動の具体的成果を用いて教授指導することが必須。
A 研究過程において培われる諸能力は、社会生活を営む上でも必須な能力であることから、教育においても可能な範囲で研究活動に参画させるべき。

4.教員の教育力向上の面でFDが実効あるものとなるためには、教員評価の中で教育力に関する項目を位置付け、これを証明する実績を考慮することが重要であるとの意見について

@ FDの実質化を図るには、教員の研究志向を教育志向へと意識変革することが最大の課題。そのためには大学が教育者としての職務意識を合意形成すべき。
A 合意形成の実質化を図るために、教員が自己改革を進められるよう教育ポートフォリオを導入し、自己点検・評価できる環境づくりが必要。
B 教員の教育評価よりも、まずは意識改革を醸成することが先決。自己点検・評価を職務規範のなかで位置づけ、FDで能力開発できるよう試行を重ねることが重要。


 
5.その他、提言すべきこと

@ 各大学が設定する学士力を公表し、学士力を保証するために教育改革の計画や方向性、教職員の職務規範とその実施状況を公表すべき
A 教員の専門性を高めるには、理事長学長学部長がリーダーシップを発揮して、大学一丸となって教育改革の方針を実現する姿勢を示すべき。
B 国は、職務規範や教育力の参考指針(分野共通、分野別)の検討を、大学関係者、社会人を交えて取組むべき。
C 教育学習支援に関する教員の専門性を充実発展させるために、FDナショナルセンターを構築すべき。

(4)教育力ポートフォリオのイメージ

  • 学識面、技能面、資質面、実践面における教員の教育力要素をリスト化している。各々の要素に対して教員が自己評価(A~Eによるランク付け)を行う。
  • 学生のポートフォリオも作成し、教員学生各々達成度を自己管理することが重要である。

 以上の説明を受けて自由討議したところ、以下の旨の意見があった。

  • 大学の学生は、高校までの学習内容を身に付けていることが前提としてあるが、昨今の大学生は基礎学力の低下が著しい。国としては、学士力と初等・中等教育との関連をどのように考えているのか。
  • 大学の先生方は、基礎学力の低下に対して大学で全て対応することはできないと述べるが、国としては、教育の最終目標地点は大学卒業にあると考えている。よって、大学が出口管理を厳格化すれば、おのずと高校にも大きな影響を与えるはずである。
  • この審議経過報告はあくまでも参考指針であり、大学に対して強制的に課すものではない。ただし、報告内に記述されている「国の支援・取組」はおそらく新しいGPや補助金などの財政的支援を指していると思われる。つまり、積極的に取組む大学に対しては、優先的に補助金を配分するのではないか。

次に、今後の活動方針について意見交換したところ、以下の旨の意見があった。

 

  • 当面は機械工学における学士力と、それを保証するための教員の教育力を検討していく必要がある。その過程でITをどのように活用すべきか、私情協として考えていきたい。
  • 報告書作成時に機械工学のコア・カリキュラムを検討したが、時間的制約もあり精査することができなかった。方針を定めて再検討・整理する必要がある。
  • 本年の8〜9月頃にはおそらく答申が出され、大学としての対応が迫られる。それを見越して、各大学の参考となるような機械工学の学士力を検討したい。
  • また、審議経過報告のなかに卒業時の学内統一試験について触れていたが、例えば医学分野では4年次において学内共用試験を実施しているが、試験問題は各大学の作成した試験問題を東京医科歯科大学にプールして、そこからランダムに出題をしている。機械工学においても、関係学科の作成した試験問題をデータベース化して一括管理するような対応が今後求められる。また、試験問題も国際的にも合致するレベルで作成されなければならない。
  • アメリカではPEの資格がエンジニアの質保証制度として公的に認定されている。日本でも、技術士の資格がエンジニアの質を保証する制度としてあるが、知名度は低い。JABEEの認定校を卒業した学生には一次試験が免除することにより、技術士の人口を増やそうとしている。

 以上の意見を踏まえ、次回委員会では、機械工学における学士力(到達目標、アウトカム)を検討するため、委員各位関係資料などを持参いただき検討することとした。