社団法人私立大学情報教育協会
平成16年度経営工学教育IT活用研究委員会

T.日時:平成16年6月14日(月)午後6時より午後8時まで

U.場所:私情協事務局会議室

V.出席者:渡辺委員長、越島、玉木、米内山、細野各委員、井端事務局長、木田

W.検討事項

1. 本年度の委員会活動について(自由討議)

 事務局より、本年度の私情協事業計画をもとに、委員会の活動指針について説明がなされた。

「 事業計画でも書かれている通り、本年度はITを活用した教育内容向上のための研究に加え、教育の品質保証への取り組みについても検討いただきたい。大学は、第三者評価機関による評価を7年に一度受けることが義務化されたが、個々の授業内容を中央機関によって検証することは不可能であり、授業の質を高めるためには個々の教員の自己点検、自己評価を徹底する必要がある。
そのためには、例えば本委員会を通じて各大学の授業内容に対して助言するとか、本協会の教育方法研究発表会、授業情報を学外に公開して社会からのフィードバックを得るなどの工夫が必要である。
特に、経営工学は実社会との結びつきが強い学問であるから、産業界等社会からの教育支援を受けることにより、授業内容を充実することが可能ではないか。そのため、私情協では、7月に開催される理事長・学長会議において、文部科学省、経済同友会より討議者を招き、教育面での産学連携を協議することにしている。
また、18年度には報告書の上梓を予定しており、17年度半ばには執筆作業を開始する予定である。教育の品質保証を念頭に置きながら、報告内容を検討されたい。 」

以上の意見を踏まえ、まず教育の品質保証について意見交換したところ、下記の旨の意見があった。

 越島委員
「 教育の品質保証という観点から、果たして良い授業とは一体どのように定義することができるだろうか。学生にとっては、何もしないでAを出す授業が良い授業の定義となりつつある。」

渡邊委員長
「 良い授業を運営するためには、どのような学習目標を策定し、その達成に向けてどのように授業を展開していくのか、ということを最低限押さえる必要があるが、その取り組みに対する評価方法は標準化されているとは言えない。例えば、JABEEの評価基準に適うからと言って、必ずしも充実した授業内容であるとは限らない。最終的には、輩出する学生の質を媒介として、企業が大学の教育内容を評価していくのではないか。」

細野委員
「 経営工学と言っても、今日参集した委員の所属する学部学科を見ただけでも、工学部、経営学部、システム工学科など様々であり、必ずしも教育目標や前提条件が一致しているとは言えない。しかしながら、外部から見れば同じ学問分野であると認識される訳であるのだから、学部学科横断的に、授業内容を点検する必要がある。」

次に、産業界との連携について意見交換したところ下記の旨の意見があった。

事務局
「 教育素材を提供いただくということが考えられるが、経営に関わるものを公開いただくことは難しい。教育目的のために、データを改変した上で提供いただくなど、交渉のための基盤環境を本委員会でコーディネートすることはできないだろうか。
また、インターンシップ制度も現状のような日給何千円というものではなく、長期的に現場で実際に働かせるようなものにしなければならない。」

細野委員
「 現行のインターンシップ制度は、就職試験も兼ねたケースが多いので、行きたくても行けない学生がいる。企業との連携として考えられるのは、現場での実習でも良いし、あるいは逆に企業人に授業に参画いただき、講評してもらうということも可能だと思う。それらをうまく活用して学生の学習効果を向上させることは、教員の手腕に関わる問題である。」

渡邊委員長
「 企業の求める人材育成という意味では、実務型教育とはアウトプットを重視する教育であるが、一方では結論を導き出すためのプロセスを重視する教育も軽視する訳にはいかず、むしろ長期的にはこちらの方が社会に有益であるとも考えられる。」

玉木委員
「 18年度までに委員会として何らかの成果を出さないといけないとすると、これまでの議論を踏まえて考えられることとして、まず社会のニーズにマッチした経営工学のカリキュラム体系を提案することができるのではないか。細野委員が述べたように、経営工学は工学部、経営学部、プロジェクトマネジメント学科等学部学科を横断したスタンダード的な内容で、かつ学部生だけでなく大学院生、社会人向けのカリキュラムをそれぞれ考案しなければならない。
次に、教材レベルで実務的なものを求めるのであれば、最も需要があるのはケーススタディである。企業と連携し、数値をモディファイした上でケーススタディのデータを提供いただき、教員間で共有することはできないだろうか。そして、モデル校を設けて、実際のデータ活用事例など紹介や啓蒙することが可能である。
さらに、新しいカリキュラム体系の実践、ケーススタディを活用するためには、e-Learningのプロフェッショナルを育成する必要であるので、コンテンツの活用方法やインストラクショナルデザインの研修会も開催しなければならない。」

玉木委員の提案について、下記の旨の意見があった。
  
越島委員
「 玉木委員の提案は、教員側の話であり、同時に学生側の学習管理を如何に運営するかということを考えなくてはならない。これまで学生の成績管理は、単位を取っているか取っていないかという程度に留まっているが、企業では従業員1人1人のスキル・進捗を把握するシステムを導入している。またケーススタディの活用に関しては、教員のレベルや学生のレベルによって、使用方法が異なると思う。だから、コンテンツ活用の管理ツールやオーサリングツールも必要なのではないか。」

玉木委員
「 ツールの完成を待つよりも、ファカルティ・デベロップメントの一環として教員を教育したほうが早い。確かにコンテンツを用意しただけでは何もできないので、コンテンツのカスタマイズや授業シナリオ・実習パターンの講習会を開催しなければならない。それと併せて、TAに対するファカルティ・デベロップメントも必要である。教員とTAがチームとなって授業設計を行う必要がある。」

越島委員
「 先ほどの新しいカリキュラム体系の構築ということに関して言えば、学部横断的な学習内容を盛り込むとなると、一大学では全てを網羅することは難しくなる。そこで、e-Learningを活用して、一つの単元をモジュール化して大学間で共同利用するということは考えられる。ただそれを実現する場合には、インタフェースの管理を徹底し、他者の作ったコンテンツと自作コンテンツの齟齬無く用いることのできるよう工夫が必要だ。そして、コンテンツの互換性が証明されれば、自ずと教育の品質保証を確保することができるのではないか。」
2.リアルタイム授業評価システムの教育効果について
越島委員より、前回報告いただいたリアルタイム授業評価システムの教育効果について下記の旨の報告がなされた。このシステムは、講義中に学生がPDAによって講義内容の理解しているか/いないか(YES or NO)を送信させ、講師のPowerPointにリアルタイムで集計結果を表示するもので、講師−学生間で理解度を共有することが狙いである。

講義の進行と理解度の変化の変遷から、新しい概念が導入されたり数値問題を課すと、理解度が落ちることが判明した。また、講義中の理解度が高いチームは期末試験の得点も高いが、理解度の低いチームは必ずしも点数が低いわけではなかった。さらに、2001年度(TA3人付)、2002年度(TAなし)、2003年度(TAなし、リアルタイム授業評価システム導入)のの学生の成績を比較すると、2001年度、2003年度、2002年度の順に平均点が高かった。
以上のことから、学習効果を向上させるためには、良いコンテンツとTAの充実であることがわかった。今後は、小テストの結果もリアルタイムで集計・表示を可能にするようシステムの改善を図りたい。

その他に、期末試験はテスト後のフォローアップを行うために、授業期間内に実施すること、また、学生は授業で学んだ内容を他の授業で応用することができないため、授業間の連携やコンテンツレベルのインターフェースデザインの必要性が補足説明された。

3.その他

本日の議論を踏まえて、次回委員会では玉木委員より、委員会活動の提案事項を取りまとめていただき、それをもとに具体的活動を検討することとした。