社団法人私立大学情報教育協会
平成16年度第2回経営工学教育IT活用研究委員会議事概要

T.日時:平成16年7月5日(月)午後6時から午後8時まで

U.場所:私情協事務局

V.出席者:渡辺委員長、越島、玉木、米内山、細野委員、井端事務局長、木田

W.検討事項
1.今後の委員会活動について
渡辺委員長より、前回の委員会で議論された内容を整理いただいた。前回の議論では、質の高い経営工学教育実現のためには、社会との連携、学習目標の策定と到達度の評価方法の確立(インストラクショナルデザインを踏まえた教育プロセス)が必要とされ、具体的には、@社会のニーズにマッチした経営工学のカリキュラム体系の構築、Aケーススタディの作成、Be-Learningのプロフェッショナルの育成(図1参照)が求められるとの結論に達した。今回の委員会では、上記@〜Bの一層の具体化を議論することとした。

まず、Bについては、経営工学に限定された課題ではなく、また教員個人よりもむしろ学内の体制的問題であるため、本委員会では検討しないこととした。よって、@、Aについて意見交換したところ、下記の旨の意見があった。

玉木委員
「社会のニーズを踏まえた実践的カリキュラムの構築は、自ずと産学連携が必要となる。社会の実態調査を踏まえ考案したカリキュラムを産業界から評価してもらい、さらに海外の大学の講義を参照して組み立てていくことが必要ではないか。
  Aに関しては、従来の講義形式の授業であると面白みが無いので、ケーススタディを用いた演習など、実践的な授業コースの設計方法を示すことが考えられる。評価方法については、学生の成績評価とコースの評価、つまり教育者側の評価の二つが必要であり、成績評価は学生が学習到達目標にどの程度達しているか、コースの評価は学習履歴やアンケートにより分析できる。
  しかしながら、本委員会でそれら全てを行うことは不可能であるから、まず経営工学ならではの実践的な演習授業のプロトタイプを幾つか示して、そのような授業を設計するためのガイド、例えばケースデータの入手方法から評価に必要なデータの取り方など提示することは可能ではないか。」

細野委員
「産業界のニーズをアンケート調査により分析すれば、体系かも可能だと思うが、その体系化されたカリキュラムがそれぞれの学科・授業の中で生かして使えるとは限らない。例えば本委員会委員だけでも所属学部学科は、工学部、経営学部、プロジェクトマネジメント学科等多様であり、またそれぞれに対する社会からのニーズも異なると思われる。体系化を議論するよりも、むしろそれぞれの共通点や相互乗り入れ可能な項目を探すべきではないか。」

ここで、越島委員より、千葉工業大学社会システム科学部の2学科(経営情報学科、プロジェクトマネジメント学科)において共通専門科目を創出するために(現在停止中)、シラバスよりキーワードを抜き出し、それを基に作成された資料を提示いただいた。

越島委員
「抽出されたキーワードを眺めると、確かに企業で求められている言葉が多数出てくるものの、それらのキーワードは科目間で脈略無く使用されることが多い。しかしながら、このようなキーワードから自大学の特色を把握することは可能であり、逆に欠如している要素なども把握することができる。」

玉木委員
「先ほど細野委員からアンケートという話があったが、アンケートよりも経営工学科出身で実務に携わるOBに、現行の経営工学カリキュラムを批判してもらうのが効果的ではないか。例えば、ソニーの豊島氏のように、経営課題の変化に学界が追従しないため、日本ではMOTの芽が育たなかったとの批判する企業人もいる。また、今後経営工学科出身者には、技術力、プロダクトプランの創造力のみならず、マーティング力も要求されると指摘しているが、このように現状の経営工学カリキュラムで欠如している部分を指摘いただくのは面白い。」

越島委員
「経営工学科にはマーケティングを教えられる人間がいないが、例えば千葉工業大学では、筑波大学大学院より非常勤講師を迎えているが、マーケティングの方法論というより、感触的な話しかしていないように思われる。また、企業サイドでも、マーケティングの徹底が図られていない企業が多いと思われる。」

玉木委員
「経営学部でマーケティングを教えているかというと、経験談を語るだけで実務的なことを教えているとは限らない。また、経営学部では、『もの造り』ということをオペレーションの一部と処理して一切教えていない。だから、経営工学では、もの造りに関連した新製品企画プロジェクトや、マーケティングの視点を絡めれば非常に有意義ではないか。」

細野委員
「新商品開発は、経験談程度であれば話すことが出来るかもしれないが、本質的な話は企業秘密に関わるので及ばないのではないか。」

玉木委員
「それでは、理論的ベースを教授するとともに新しい視点を模索するということはできるのではないか。どういうことかと言うと、例えばQCであれば、コンセプトを教えながら現実生産として、どのようにデータを残すのか、またデータをどのように活用できるのかという視点を教えなければならない。また、実務での現象を理論的にどのように解釈するのか、つまり理論と実務を繋ぐような学問体系を構築しなければならない。」

越島委員
「企業でもモノでない資産に対する工学的思考が欠如していることがある。例えば、あるシステムを企業に導入しようとしても、現場レベルでは必要としているものの、上層部がこれまでそのシステムが無くてもやってこれたのだから必要ないと判断すれば、そのシステムは売れなくなってしまう。そのため、そのような上層部の理論が改善されない限り、譬え企業内に資産に対する工学的思考を有する人材がいても消えていき、数年後に窮地に追い込まれるということもある。 
  また、ケーススタディに関しては、ケーススタディは果たして学習に貢献するのか、貢献するとすればどのような部分においてであるのか。例えば単に学習者が学んだ気になるだけなのか、それに基づいて分析能力やディスカッション能力を身に付けさせることなのか、明確ではない。確かに企業のケースは欲しいが、それを活用して何をどのように教えるのかが重要である。ケースデータで総合的判断力を身に付けるという目標を課すことはできるのだろうか。」

渡辺委員長
「ただ、実物を提示することにより学生の意識が高まるという現実がある。例えば携帯電話の液晶など身近なトピックスに対する学生の評価は高く、また私自身も駅の自動改札機の欠陥をレポートとして課しているが、学生は意欲を持って取り掛かる様子が伺える。」

越島委員
「ケースで学ばせることよりも、学生自身にケースを作らせることの方が効果的ではないか。例えば、株式会社を設立すると仮定して、学生に必要な書類の作成や資本金の集め方など考えさせることの方が勉強になるように思われる。」

細野委員
「工学に人気が無いのは、数学的なモデルの最適化などを地道にやっているという印象が強く、外部から見ると魅力が無いのではないか。工学の社会における役割や貢献を学生に明示することが必要である。」

玉木委員
「経営工学は、モノ造りの学問の要を成すものだと思う。なぜかと言えば機械工学も電気工学も基本的にはハードウェアを作るための学問であるが、もの造りを総合的に掌握するための学問である。これまでは、専らQC、IEを中心にもの造りを教えてきたが、マーケティング指向のカリキュラム体系、企業で利益を上げるという経営工学的視点、つまり市場を見て販売営業の意見を入れてモノを作ることが可能な経営工学
的なカリキュラム体系を提案し、理工系でもトップマネージメントになれるというサクセスストーリーを描くことが魅力を生むのではないか。具体的には、カリキュラムと人材育成のビジョン、どのような知識とスキルを身に付けてどのいうに経営問題を解決するかという戦略的なビジョンを提示することである。」

 以上を踏まえ、今後の方針としては、マーケット志向のもの造りを念頭に置き、新しい経営工学カリキュラム体系の提案と、人材育成のビジョンを経営に与えるインパクトを提示し、事例として、産学協同による実習授業の設計方法をモデルとして紹介していくこととした。
  なお、次回委員会では、インターンシップを題材として、例えば学生がインターンシップ前に身に付ける知識、インターンシップ後のデータ分析とレポート作成、レポート発表時に社会からコメントを貰うなどの授業モデルを考案することとした。