第3分科会　大学情報のオープン化とＩＣＴ活用

第３分科会　大学情報のオープン化とＩＣＴ活用

運営委員　東川　昌之（立正大学）
　　　　　正木　　卓（同志社大学）
　　　　　尾山　　尚（中央大学）

１．分科会のねらい

　大学は人材育成という公的な役割を社会から付託されており、教育研究を始めとする大学の各種事業についての情報のオープン化に積極的に取り組む責務がある。これは、教育研究活動の状況・成果・課題等を広く社会に情報発信する取組であり、ステークホルダーを含む社会からの理解と支援・協力を得るために必要不可欠な活動である。文部科学省においても省令を改正し、オープンにすべき事項を法令上明確にし（義務／努力義務）、教育活動の透明化を促進するとしている。また、就業力の向上を図るため、社会的・職業的に自立できる能力の育成を法律で義務化することにしており、企業及び地域社会との連携・協力によるキャリア形成教育の充実・強化も喫緊の課題となっている。本分科会では、説明責任としての教育をはじめとする各種情報の公開がなぜ必要か、大学活動の「見える化」の意義について考えるとともに、公開の範囲、方法などについて認識を共有するとともに、教育・研究活動の充実・向上、大学の存在価値を高める手段として、ＩＣＴの戦略的活用の可能性と課題について考察する。

２．討議テーマ

情報のオープン化の意義、課題と可能性の整理
　オープン化の対象となる情報を洗い出すと共に、具体的な項目を挙げてその意義と課題、ＩＣＴ活用の可能性と課題について共有する
広報活動における情報のオープン化の現状と課題の整理
　自大学の教育・研究のあり方、方向について学内外の壁を取り払い相互評価できる場所や契機を得る、また活性化するための課題について考える
具体的な情報のオープン化とＩＣＴ活用の事例研究
　事前研修で課せられた自大学や他大学の情報のオープン化とＩＣＴ活用について、具体的な事例をもとに現状と課題について考える

３．獲得目標

討議を通じて、情報のオープン化の意義を明らかにする
自大学の情報のオープン化とＩＣＴ活用について、現状と課題を明らかにする

４．概要

本分科会の活動内容を「全体的な流れ」「事例紹介」「討議内容」として報告する。

（１）全体的な流れ

　本分科会の参加者（１０名）には事前研修として各討議テーマについて事前レポートを課すこととした。レポートは参加者にメーリングリストで配信され、課題意識を喚起するために活用された。また、参加者宛に大学時報Ｎｏ．３３３掲載の「ウェブサイトで大学の戦略を語れるか（運営委員）正木氏執筆）」を送付し、事前の問題意識の醸成に供した。

　初日は、当分科会の趣旨説明を行なうなかで、参加者間の情報共有を行うとともに、翌日からの討議スケジュールについて確認、参加者の自己紹介と大学時報の掲載記事について感想、気づきを述べてもらうことを含めた情報交換を行なった。次に翌日からの討議の進行のための役割を決定した後、二日目以降の討議テーマについて議論を進めた。

　二日目の討議では、『各大学の情報公開への対応・進捗状況の報告』を共有し、『情報公開の背景と目的・公開の対象となる項目やステークホルダーの確認』、『各大学における情報公開の現状の整理と課題の発見、公開にあたっての留意点の検討』および特に『重点課題の抽出』、企業の取組み事例を基に『ICTを活用した情報公開の課題解決方法の検討』を探ることを目指して終日討議が進められた。後半は討議のまとめや成果発表用の資料作成、発表準備を行った。

　最終日は、前日に引き続き討議内容のまとめと成果発表を行い研修成果を参加者全員で共有した。

　事後研修として、メーリングリスト上でグループ討議内容や結果を協力して整理し、分科会報告書を作成するための最終成果物として資料を提出するように求めた。

　（２）討議内容

①各大学の情報公開への対応・進捗状況の報告

　平成２２年１２月、平成２３年４月から段階的に義務化される情報公開について、分科会に参加した７大学の参加者が自大学の現在の対応、進捗状況を報告した。その結果、多くの大学が情報公開の対象となる項目をすでに公開しているものの、「全く公開できていない」項目や「十分な情報公開をしているとはいえない」項目があることが確認された。

②情報公開の背景と目的・公開の対象となる項目やステークホルダーの確認

　情報公開の背景として、参加者からは文部科学省令の改正により情報公開の義務があること、また、大学は補助金を受けて成り立っていることで「社会に対する説明義務」を負う機関であることが挙げられた。一方で、情報公開に取り組むことで、自大学の現状を教職員全員が把握できることや大学を取り巻くステークホルダーに自大学の活動の周知、深耕ができることも挙げられた。
　まず、公開が義務化される項目として１０項目、次に公開されることが努力義務化される項目として４項目と公開の対象となるステークホルダーが挙げられた。

学部､学科､課程､研究科､専攻ごとの名称及び教育研究上の目的
専任教員数
校地･校舎等の施設その他の学生の教育研究環境　
授業料､入学料その他の大学が徴収する費用
教員組織､各教員が有する学位及び業績
入学者に関する受入方針､入学者数､収容定員､在学者数､卒業(修了)者数､進学者数､就職者数
授業科目、授業の方法及び内容並びに年間の授業計画(シラバス又は年間授業計画の概要)
学修の成果に係る評価及び卒業又は修了の認定に当たっての基準(必修･選択･自由科目別の必要単位修得数及び取得可能学位)
学生の修学､進路選択及び心身の健康等に係る支援
教育上の目的に応じ学生が修得すべき知識及び能力に関する情報等

財務に関する情報（含む募金使途）
産学官連携、地域との連携
大学の将来に関する計画　
大学に対する外部からの声、評価

卒業生、在学生、在学生保護者、志願者、志願者保護者、高校・予備校、地域住民、監督官庁、企業、研究機関、自大学教員、自大学職員、公的機関、マスコミ

③各大学における情報公開の現状整理と課題の発見・公開にあたっての留意点の検討

　前述の項目について、分科会参加者の主観で自大学における情報公開の現状の整理を行った。これにより、公開すべき情報とステークホルダー毎に達成度を得点化し、課題を顕在化させた。また、情報公開にあたりステークホルダー毎の留意点をまとめた。
　その結果、情報公開にあたって特に重要な課題と思われる３項目に着目し、その原因と改善方法を検討した。

教員により学位および業績の公開に意識と公開の程度に差があることが原因であった。公開においては一定の基準を設け、その基準に沿って公開するよう、教員の同意と協力が必要である。

一部、公開することに躊躇するものがあることが原因であった。このような情報には、公開において高度な判断が必要である。

情報公開では、大学を取り巻く多くのステークホルダーに理解してもらえる公開方法をとらなければならないことが問題であった。双方向のやりとりを通じて、ステークホルダーが持つ大学に対する視点・要望を把握する仕組みが必要である。

④ICTを活用した情報公開の課題解決方法の検討

　次に、一般企業の情報公開の事例を基にICTを活用した情報公開の課題解決の手法を検討した。その結果、以下の３つが挙げられた。

ステークホルダーによって、大学に求める情報の内容は異なるため、大学が公開する多くの情報から選択できる仕組みが必要である。ICT活用の観点から、「サイト内検索」や「予想変換」の導入などにより、大学特有の多岐にわたる情報と多様なステークホルダーを正確に紐付けられる。

情報公開において、単純にデータを公開するだけではステークホルダーに内容を理解されないばかりか、誤解を招く可能性がある。公開された情報を「見る側の視点」に立ち、動画配信などのICT活用を取り入れることで、予備知識がなくても分かりやすい情報公開につながると考える。

情報公開において、大学がステークホルダーに適切な内容の情報を適切な方法で伝えるためには、常にその手法を改善していくことが必要である。そのためには、ステークホルダーの与件を明確にし、同時にナレッジを蓄積（データベース化）し、適切な情報を提供することが情報公開の内容と公開方法の改善につながると考えられる。
なお、標記の検討をする中で、以下のような意見も出された。

・情報公開の基準となるガイドラインを制定することで、情報公開をする側、情報を閲覧する側の双方に共通の認識が生まれる
・情報公開において、その基準を満たした大学に第三者機関による認証マークを発効することで、公開に取り組んでいることを示す指標になる
・情報公開においては、教職協働の仕組みづくりが必要であり、大学という一つの組織として共通の認識で情報を公開しなければならない

５．まとめ

（１）分科会のねらいに対する結論

　３日間の研修終了時点で参加者から『参加者自己評価シート』の提出を求めた。集計した結果、本分科会が掲げた３つの目標の達成度は次のような状況であった。

・情報のオープン化の意義と課題、ＩＣＴ活用の可能性と課題について共通認識する

　　　《十分に達成できた・・・４０％》　　《まあまあ達成できた・・・６０％》

・自大学の広報活動における情報のオープン化について、現状と課題の視点を獲得する

　　　《十分に達成できた・・・４０％》　　《まあまあ達成できた・・・６０％》

・具体的な情報のオープン化とＩＣＴ活用の事例を通して、現状と課題の視点を獲得する

　　　《十分に達成できた・・・３０％》　　《まあまあ達成できた・・・７０％》

　このように、全ての目標において全ての参加者が達成できたと回答しており、所期の目標は概ね達成されたと考える。しかし、情報公開に不可欠な『教職員の協働』の点においては具体的な討議が不十分であったこと、またICTを活用した問題解決手法の実現に向けた人的・組織的な課題についても十分な検討に至っていなかった。この要因として、研修の時間的な制約や参加者の教員とのかかわり方に差があることが挙げられるが、運営委員側の成果に結びつける議論への誘導の不十分さもあったと反省している。

（２）討議テーマに対する結論

　　情報公開において、既に実績のあるICTを活用したベストプラクティスを適用することで、簡易に大学情報のオープン化を成功させること、更に、多くの事例を分析・適用していくことで個々のステークホルダーに最適化された大学情報のオープン化が期待できる。これらオープン化に際して、各大学の義務化あるいは努力義務化さられる項目については大学内で一元化され、データベースの形態になると考えられる。今後、各大学が一斉に情報公開をすることで、内容の違いが顕著となるものの横一線の状態になる。そのため、これを好機と捉え一元化されるであろうデータベースを有効活用して、更なるICT技術の応用による『次の一手』が問われることになる。その一手から生み出されるものこそが、その大学の本来の価値を知らしめてくれるかもしれない。また、こうした仕組みの導入においては教職員の協働がより考慮され、導入後においても双方の作業軽減[省力化（自動化・無人化）]が実現されなければならないと結論付けられた。

資料編

グループディスカッションの最終成果物