事業活動報告 4

2020年度 私情協 教育イノベーション大会 開催報告

 本大会は、「大学教育の質向上を加速するデジタル変革を考える」をテーマに、以下の開催趣旨に基づきZoomによるオンラインで実施した。
 あらゆるものがネットにつながるIoTの普及やAI等の技術革新が進展し、産業構造、人々の働き方、ライフスタイルが大きく変化しつつある。そこでは、持続可能な開発のための目標(SDGs)の実現、分野が融合して新たな社会的価値や経済的価値を生み出す様々なイノベーションが求められる。今般、新型コロナウィルス対策として、ICTによる高度な遠隔授業の取組みが大きな課題となっているが、これを機に大学のデジタル変革を見据えて、オンライン授業の推進・普及、ネット討論によるアクティブラーニングの充実、学部・研究科等の枠を越えたサイバー空間での分野横断型教育の推進、大学と地域社会や企業との連携による数理・データサイエンス・AIなどの実践型教育を通じて、物事の本質を見極める意識を持って主体的に行動し、協働で創造的知性を引き出す問題発見・解決型学修の普及と加速化が急がれる。
 これを受けて本大会では、大学教育の質向上を加速化するデジタル変革の可能性と課題、オンライン授業への対応、AIを使いこなすリテラシー教育、SDGsを推進する教育体制、社会で求められる情報活用力の強化を目指した教育プログラム、教育の情報化推進と著作権処理、学修成果の質を保証する教学マネジメント指針等について理解を深めることにした。
 1日目の「全体会」では、向殿政男会長(明治大学)から、「デジタル変革の可能性と課題を認識共有し、それを実現する教育の在り方など多面的に探究し、改革行動につなげられる場となることを期待している」との挨拶の後、9月2日から4日に亘るプログラムが実施された。
 1日目の全体会では、①遠隔授業に対する国の取組みとして、授業の価値の最大化を目指した大学教育のデジタライゼーションへの転換、②大学教育の在り方を問う、③超スマート社会の到来を見据えた企業の取組み、④オンライン授業と対面授業による教育の質向上に向けた工夫と課題、⑤オンライン国際協働学習(COIL)の取組み、⑥数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアムの取組みとした。
 2日目のテーマ別意見交流では、午前中2グループに分かれ、①「分科会A」ではオンライン授業のトラブル、授業運営の対応、②「分科会B」では教育の質保証と情報公表、学修成果の可視化への取組み、③「分科会C」では教育の情報化推進に関する著作権問題、④「分科会D」ではテレワークによる業務改革と課題、⑤「分科会E」ではAIを使いこなす教育プログラムの取組み、⑥「分科会F」では社会で求められる情報活用能力の育成に向けたモデル授業の実施・準備対策の考察、⑦「分科会G」ではSDGsをテーマにした教育活動の効果と課題について意見交換し、理解の共有を深めることにした。
 3日目は、教育改善のためのICT活用の発表とし、41件の発表が紹介された。

第1日目(9月2日)

全体会

【遠隔授業に対する国の取組み】
遠隔授業による授業の価値の最大化に向けて

文部科学省高等教育局専門教育課課長補佐 木谷 慎一 氏

 デジタル技術を活用した教育は、コロナウィルスへの対応という一側面を越えて、多様な学修のニーズに対応し、いつでも、どこでも、誰でも学修できる機会をもたらし、対面授業に負けない深い学びや、学修者本位の大学教育を提供できる大きな可能性を秘めている。オンライン教育を活用するにあたり、大学間、産業界との連携・協働を深め、教育のオープンイノベーションを実現することが重要と考えている。
 これまで政府からは、「経済財政運営と改革の基本方針2020」の中で教育・研究環境のデジタル化・リモート化、研究施設の整備、国内外の大学や企業とも連携した遠隔・オンライン教育の推進、「成長戦略フォローアップ(抜粋)」の中で大学等における遠隔授業の環境構築の加速、「統合イノベーション戦略2020(抜粋)」の中でデジタルトランスフォーメーションの推進において高等教育機関においても遠隔授業の加速、イノベーション人材の育成に情報技術を活用した授業改善の推進などが提言され、遠隔・デジタル教育が重視されている。
 コロナ禍での大学・高専の授業実施は、7月1日時点で、すべてが授業を実施し、そのうち23%が遠隔のみ、約60%が対面と遠隔の両方を実施している。文科省では、学生の学修機会を確保するため、遠隔授業を自宅で受講可能とし、遠隔授業で取得できる単位の上限への参入を不要とする特別措置をとった。また補正予算においても、遠隔授業の環境構築に関連する経費として、機器の整備、遠隔授業のトラブル対応等の専門人材の配置など100億円を計上した。
 文科省では遠隔授業の導入支援を通じて、学生に学ばせたい気づきは何であったのかなど、改めて授業の価値を見直すきっかけとなっているという報告を多く受けていることに鑑み、学修者本位の大学教育を実現するため、サイバーとフィジカルを上手に組み合わせて、授業の価値を最大化し、教育のデジタライゼーションを推進したいと考えている。
 具体的には、「大学教育のデジタライゼーション・イニシアティブ(Scheem-D)」と呼んでいる。これは、大学授業に焦点をあて、デジタル技術を活用した特色ある優れた教育のアイデアを、大学教員とエドテック等のスタートアップ企業と協働して、教育現場で試行錯誤、普及・実施していく取組みで、デジタルの良さ、フィジカルの良さを最大限引き出して授業実現を図ろうとする挑戦的なプロジェクトである。デジタル技術を用いた授業をすることが目的ではなく、デジタル技術を上手に活用して、圧倒的に高い学修到達度の達成や、自発的な学び・気づきの効果的な誘導、現場実習・実験に近い経験の機会確保など、授業の価値を最大化するもので、withコロナ、afterコロナの時代に求められる大学教育を先取りしている。

 遠隔授業の具体的な取組みは、3月26日から国立情報学研究所のサイバーシンポジウムで報告されており、オンラインで参加ができる。その取組みの中で、コロナ対策の遠隔授業で特徴的な点を紹介する。東京大学では、オンライン授業等に関する情報をワンストップで提供するポータルサイトを開設し、学生から高い満足度を得ている。愛媛大学では、オンラインによるグループワークを実施している。大阪大学では、様々なツールを整備して、特に新入生中心に事務系職員が質問対応、履修指導の支援体制を構築し、学生からの質問に対しては、Q&Aを整理してウェブに掲載している。通信環境がよくない学生にはモバイル、Wi-Fiルーター等を無償で貸与している。東北大学では、オンデマンド授業等によるアクセス分散により、システムへの負荷を軽減する取組みをしている。名古屋大学医学部では、レポート課題による臨床実習、任意でのリアルタイム型オンライン実習を実施、無理なく学修を継続する工夫や留年回避への対策を講じている。早稲田大学は、10人以下のゼミ演習、30人規模の実習・ワーク、50人以上の大規模授業など、受講人数の規模に応じて授業形態を工夫している。九州大学は、障害のある学生への配慮として、パソコンの読み上げ機能が使えるテキストデータでの資料提供、図や画像に対する言葉による説明、色覚障害の学生には色使いに配慮したコンテンツ作成等を実施している。
 数理・データサイエンス・AI教育は、昨年、リテラシーレベルのモデルカリキュラムの策定と認定制度を創設した。大学・高専すべての卒業生50万人に初級レベルを習得させ、その半分の25万人には応用基礎レベルを習得させる計画である。今年度、どのように大学の授業やカリキュラムを認定するのか検討しており、来年の1月には認定のための公募を開始する予定である。現在、内閣府で認定制度について議論し、文科省でモデルカリキュラムを策定している。応用基礎のモデルカリキュラム認定制度については今年度末にまとめ、来年度以降、大学と情報共有したい。また、来年の認定募集に向けて、年度内に大学に向けた説明会を開催する予定である。

【質疑応答】

[質問]
AI戦略のなかで、大学・高専の卒業生50万人に初級レベルを習得させるとあるが、大学設置基準等の制度的な縛りを視野にいれているのか、あるいは、補助金の配分に差がでるのか。
[回答]
設置基準等で定める予定はない。現在、大学等にどのように積極的に認定に取組んでもらえるのか検討中である。
【大学教育の在り方を問う】
若年人口減少・米中新冷戦・感染症・デジタル革命:これからの時代に大学教育はどうあるべきか

独立行政法人日本学術振興会顧問、AI戦略実行会議座長、本協会副会長 安西 祐一郎 氏

 これからの大学にとって、特にデジタル革命の下で大学教育はどうあるべきか、「問題設定力」、「デザイン思考」、「自分で考え、自分で実行する」などの能力が求められているが、問題はそれらをどのようにして身につけるのかが問われている。その背景には、4つの潮流がある。
 第一は、若年人口の減少である。現在、団塊の世代が生まれた当時と比べると、出生人口が3分の1に減少している。その減少分は高校新卒の社会人の減少で、団塊の世代と比べると10分の1に減った。その分大学生の数が増え、大学教育の負担が増した。デジタル化によっていろいろなことが変わってきたが、その仕事を大卒者がやっていく時代になった。第二は、米中新冷戦である。これから何がおこるのかを考えるためには因果的な情報が必要となるが、全部完全に集め、データ分析するなどと言っているが無理である。そこに求められるのは、推論する力、思考する力、観察する力が重要で、このような能力をどう育成するのかを考える必要がある。第三は、感染症である。コロナ禍で失業や経済的に困窮する人々がいる。大学教育においても、このことについて考える必要がある。第四はデジタル革命である。デジタルトランスフォーメーションという言葉がよく使われるが、これはデジタル技術の問題ではない。デジタル技術と基本は日本にもあるが、転換の能力がない。社会構造、産業構造、雇用・就業構造、教育構造の転換ができていない。ここを変えるのは容易ではない。
 では、「教育の構造」をどうやって変えるのか。三つの教育理念が考えられる。第一は、大量生産から個別の教育への転換であり、横並びの学年・入試・採用の終わりを意味する。その方法としては、大量生産に見合ったパフォーマンス評価(行動主義)から個別の教育に見合ったコンピテンシー評価(認知主義)へと方向転換する必要がある。第二に、発達過程を考慮した教育への転換である。その方法としては、高校ではアクティブラーニング、大学では思考方法と知識の教育へと、方向転換する必要がある。第三は、目的は入学ではなく卒業後の活躍に転換する。その方法としては、合格者(入学者)偏差値ではなく卒業生の活躍度を重視する必要がある。
 教育方法の一つの例として、10年近く大学で実践してきた専門科目を紹介する。15週の授業のはじめに、次の6つの力を身につけることを見せて、「主体性」をもって問題を発見し、解決する力を鍛えている。

 特に「合理的思考力」を鍛えることは重要である。合理的思考は、単なる論理的思考とは異なり、複数の事象から物事を類推する類推的思考、原因から結果を推論する因果的思考、そして、結果から原因を推論する帰属的思考を歴史や世界の事象を背景に設問して鍛えている。その上で、「論旨明快に思考し、相手の立場を考慮して、論旨明解に表現する力(「ことばの」力)を鍛えている。
 そのようなことから、大学教育が行うべきことは何かを考えてみると、以下のすべての力を鍛えなければならない。

 例えば、メタ認知を訓練するには、グループ学習で自分の考えを相手を鏡にして振り返る、認識する場が必要で、グループの組み方を変えることが大事である。また、歴史的思考力については、歴史的な資料や情報から仮説を立てたり、原因と結果について推論したりする力が問われているが、英米の大学に比べて日本では推論の方法について学ぶ機会が少ないことは、一つの課題である。
 現在、「AI戦略2019」が推進され、リテラシーレベルの大学教育機関としての認定制度が終わり、応用基礎レベルの検討が進められている。AIの時代においても、目標を自分で発見して理解し、達成する力を発揮できる問題解決者の教育が必要であるが、大学教育が大きな動きを見せているのかというと、残念ながら見えない。特に観察・知覚力、推論能力、ことばの力を鍛えるための教材作りとコース作りをやらねばならない。

【質疑応答】

[質問1]
改革を実践するためには、とりわけ初等教育から変える必要があると思うが、それについてはどう考えるか。
[回答]
小学校段階の教育が大事であることは同意するが、まず小学校から変えていくとなると、いつになるのかわからないため、大学から率先して変えていきたい。
[質問2]
理系文系とわける意義がだんだん失われていると思う。文系だから数学を勉強しなくともよいという考えが、いまの問題の根本にあると考えるが。
[回答]
まさにその通りであり、「AI戦略2019」でも文理の壁を取り払うことを掲げているが、現実にはなかなか難しい。大学と高等学校の構造と高大接続の構造に問題がある。大学の出口である企業や行政の考え方が変われば大学も変わり、さらに高等学校も変わらざるを得ないと考える。
【超スマート社会の到来を見据えた企業の取組み】
デジタル変革による社会イノベーションの可能性と課題

富士通株式会社グローバルマーケティング本部ジャパンマーケティング統括部エバンジェリスト推進室長 及川 洋光 氏

 本日は、民間企業の観点から、イノベーションとデジタル変革の現状と今後の課題について話題提供する。
 大きな変化として、トップ同士がTwitter等でビジネスを決める時代の到来が予想される。先日、ソフトバンクの孫会長が、Twitter上での会話で、医療用シールドや医療用メガネの大量入手の可能性を発信し、これに吉村大阪府知事がTwitter上で大阪府での購入を申し出て、わずか4時間でビジネスが成立した。従来では考えられない短時間で行われ、非常に特徴的と思われる。
 去年発表された世界デジタル競争力ランキングでは、世界63か国のうち上位に米国、シンガポール、アジア圏があり、日本は23位である。ランキングを決める判断基準の項目では、「ビッグデータの活用と分析」、「起業の機敏性」、「機会と脅威への対応」が日本は最下位となっており、デジタル化に真剣に向き合う必要がある。今年の6月に発表された「2020年度版ものづくり白書」では、企業変革力(dynamic capability)の重要性が指摘されている。不確実性の高い世界では、環境変化に対応するため、組織内外の経営資源を再統合・再構成する経営者やの変革力が競争力の源泉となる。本日は触れないが、この企業変革力に必要な3つの能力として、Sensing、Sizing、Transformingがあるが、それを支えるにはデジタル化による強化が大事である。表面的にデジタル変革や社会イノベーションを語るだけではなく、より一層のデジタル化が必要になっている。
 以下に、デジタル変革による社会イノベーションについて富士通の取組みを紹介する。
 一つは、現実の世界デジタをデジタルに表現して監視・予測する「デジタルツイン」がある。従来のAIやIoTは、設備にセンサーを付けることで、データを収集し、故障の予測に利用していた。物理的な設備・空間をすべてサイバースペース上でリアルな世界を双子のように再現するもので、台湾の湖山ダムではダムをデジタルツインで再現し、過去のデータから貯水率の予測、災害被害予の予測、把握を行っている。先日の熊本豪雨や河川の氾濫に適用すれば、デジタルツイン上で未来の予測も可能となる。二つは、デジタルで拡張現実する「ARコミュニケーション」がある。一例として、飛行機のエンジンをリアルな空間に出すことができ、原寸サイズで分解された状態のエンジンがスマートフォンを通して再現され、保守などへの活用や、同時に複数人で見ることが可能になる。三つは、人の姿や動きまでのデータが瞬間的に転送され、別の場所で再現される「テレポーテーション」がある。これは学校に限らず、遠隔医療などにも活用される可能性があり、今年4月のテレビ番組の「カンブリア宮殿」でも紹介された。
 いくつかの事例を紹介したが、その可能性を感じていただけたと考えている。他にも多くの社会イノベーションに取組んでいる。今後の課題としては、共創しながら創ることと、デジタルネイティブなリーダーをいかに成長させ、増やしていくことができるかが重要と思われる。

【大学授業オンライン化への取組み】
オンライン授業と対面授業による教育の質向上に向けた工夫と課題

早稲田大学人間科学学術院教授 大学総合研究センター副所長 森田 裕介 氏

1.ブレンド型授業の推進

 2013年度よりWASEDA VISION 150がスタートし、教学の核心戦略の一つとして、「対話型、問題発見・解決型教育への移行」を掲げ、対面授業とオンライン授業をブレンドしたブレンディットラーニングへの移行を本センターで推進してきた。この授業は、オンラインでのビデオ視聴や課題提示を通して学び、対面授業の場で学んだ内容を用いて議論や発表を行うという、いわゆる反転授業と言われるものである。アクティブラーニングで知識や情報などをインプットする時間が不足することから、学修時間を確保するために検討された。
 センターでは、2014年度から人間科学学術院で実施しているオンライン授業のノウハウを中心に、ブレンド型授業の事例を集約し、FD活動やオンライン授業の支援、授業コンサルテーションを展開し、授業のオンライン化を進めてきた。その結果、2019年度までにおおよそ1,600科目がオンライン化され、延べ履修者数は8万7,568名となった。こうした取組みがコロナ禍においても有利に働き、オンライン授業を展開するできた。また、オンラインのコンテンツ作りも進め、2015年にはハーバード、MITのedX.orgに参画し、MOOCs上にコンテンツを配信しており、2020年9月1日現在で、累積登録者数は21万3,452人となっている。

2.教育の質向上に向けた工夫と課題

 教育の質向上において、テクノロジーの果たす役割はこれからますます重要になってくる。教員の授業を拡張し、教育全体を大きく変えていくイノベーションに直結する。その際に重要なのは、学生の学びをどのようにデザインするかであり、インストラクショナルデザインの理論に基づいて考えることである。理想は、教員が独創的な構成主義的な設計に基づいた授業を展開することができるようになることである。しかし、現実的には、カリキュラムマップでの授業の位置づけや教員の学習観を考慮し、多様なタイプの授業支援が必要と考えている。
 こうした考えに基づいて、今年度、本センターではデジタルトランスフォーメーションを促進するようなセミナーを開催した。セミナーの内容は、Puentedura、R(2006)のSAMRモデルの4段階(機能はそのままでツールを置き換える「置換」、機能を拡張してツールも置き換える「拡張」、タスクの再デザインをする「改良」、新タスクを創造する「再定義」)を基に構成したが、オンライン授業の増進から対面とオンライン授業を効果的に融合した転換レベルに行きつくには6年かかる。現在は、オンライン授業の経験を踏まえて、動画の工夫、リソースの活用レベルについてFDを進めている。
 コロナ禍でのセミナーでは、学習管理システム上でオンライン授業として最低限必要な「講義資料・課題提示による授業」、「オンデマンド配信による授業」、「リアルタイム配信による授業」、ブレンド型授業を展開して質的な転換を進める「オンデマンド+リアルタイム配信授業」を実施した。4月上旬、授業開始前に行われたセミナーでは、4日間で2,877名の参加者があった。
 また、「オンデマンド授業実施ガイド」を3月に改訂し配布した。これは通信教育課程で10年程度前から作成していたもので、著作権に関するガイドラインやオンデマンド授業のヒントになる事例が紹介されている。さらに、オンライン授業の支援サイトを学内向けに公開した。教員向けにはオンライン授業をどのように作ればよいか、学生向けにはオンライン授業をどのように受講すればよいかといった情報を発信した。
 デジタルトランスフォーメーションの中で教員も学生も自身の変容が必要である。本センターでは、教員の支援を行ってきたが、学生がテクノロジーを利用した授業を通して主体的に社会とつながる学びへ変容することができるよう、学生を支援していくことも課題であると考えている。なお、セミナーを通じて、ネットワークアクセスの集中による通信トラブルを軽減するため、パケットダイエットが重要であること、成績評価の方法で苦慮している教員向けに、ルーブリックによる形成的評価を推進しており、セミナーを通して普及に努めている。

【質疑応答】

[質問1]
紹介された「オンデマンド授業実施ガイド」や「オンライン授業の支援サイト」は、公開されていないのか?
[回答]
現在、学内限定となっている。類似のものを大阪大学が公開しているが、本学のものはまだ学内の特徴に寄ったものであるため、学内での公開とした。
[質問2]
テクノロジーの支援によって、個別に学ぶ方が効果的であるように思えるが、学修支援は今後どのような方向に進むと考えられるか?
[回答]
文科省が言う個別最適化された学びが深化すると考えている。機械学習の支援が可能になることで、学修者に適したフィードバックを返すような取組みが進んでいくと思われる。
【オンライン国際協働学習(COIL)の取組み】
海外大学とICTで課題解決型学習等を通じた協働学習の取組みと効果・課題

関西大学国際部教授・グローバル教育イノベーション推進機構副機構長 池田 佳子 氏

 COILは、アクティブラーニングを促すグループ学習のタスク設計をメインとして行う教育実践で、海外大学との連携を前提として、多国籍異文化集団で行う。ICTが必須で本学では国際化戦略の一環として、オンラインの協働授業の言語媒体として英語を選択している。海外の大学との学年歴の違いなどを考慮すると、例えば1セメスターの内で海外のクラスとのオーバーラップがある4週間から6週間を取込みオンラインの国際協働学習を行っている。
 COILの学修モデルは、3つの段階がある。
 第1段階は、海外のパートナーの学生とお互いを知り合うためのICE BREAKER(チーム・ビルディング)で、メディアを活用して互いの紹介を行う。第2段階は、COMPARISON & ANALYSIS(互いの文化を知り、情報交換を行う)で、同じテーマについて学生達が、それぞれの国の事情を調べて、情報交換する。海外との時差や準備期間として設けている。第3段階は、COLLABORATION(バーチャルチームの協働)で、海外から参加するメンバーの小グループでアウトプットを生み出す。この協働作業を通して、双方のコンセンサス確認などの役割を遂行することは、社会人基礎能力として非常に大事となっている。教員は、専門知識の理解と定着を図る努力が必要になるとともに、協働学習が首尾よく展開するよう学生へのアドバイス、全体の時間管理、海外のクラス担当者とのコーディネート等々多大な尽力が必要となるが、これらを経ることで、教員、学生もともに成長する。
 コロナ禍におけるCOILに対する海外での受けとめは、オンラインでの国際教育に非常に関心が高まっており、政府系の助成金の提供などの動きもあって、今後、国内外で急展開が期待されている。こういったVIRTUAL EXCHANGE、いわゆるオンラインの教育と、従来の留学、海外派遣、海外受け入れという国際教育を融合したブレンディッド型の学修カリキュラムは、国内外で急速に展開してように働きかけるべきと考える。
 日本でのCOILは、本学が2018年度からCOIL型の教育を中心としたオンライン国際教育を推奨する機構をスタートさせ、イノベーショングローバル教育推進機構(IIGE)を設置した。現在は「世界展開力強化事業」という助成金を文科省から受け、プラットフォーム校として、日本COIL協議会として、様々な情報の提供・発信、共有、トレーニング、教職員の研修、英語で開講する科目への研修等々を行っている。IIGEでは、American Council on Educationとオンラインで3週間に亘り、専門科目間の学修成果目標の作成、時差を配慮した授業の進め方や科目設計などの教員研修を実施した。
 コロナ禍前のCOIL型教育の事例を紹介する。一つは、日米のように時差が大きい場合は、COIL科目で使っているフリーアプリのFlipgridを使いながら、意見交換をしている。二つは、時差が少ないマレーシア国際大学と本学で、双方のクラスが協働学習して、「ムスリムに関する間違ったメディアの報道」というテーマで、同期型ディスカッションを行い、その後で各小グループでのリサーチ、発表を行った。三つは、アメリカのクレムソン大学とでは、時差13時間の中で、同期と非同期を交えながらの科目になり、COIL後に双方の学生達を合わせて、海外留学もドッキングさせた。
 現在進めている事例としては、UMAP-COIL Programで、様々な国々の学生がSDGsをテーマにしたCOILを行っている。11か国、140名が参加し、7週間で、講演、コラボレーションラーニングを行っている。本学では、COIL型教育にカスタマイズしたLMSの「ImmerseU」をアメリカのIT企業と共同開発し、LMSをフル活用することで、教員間でCOIL科目のマッチングも容易にできるようになった。
 COIL型教育の特徴は、コラボレーションラーニングで、チーム構成員全員が成功しないと、個人も成功しないので、他者としっかりとチームビルディングをしていくことを重要視している。
 COILの教育効果は、教え合う機会を創り出すことで、自己省察、グループの自己評価、他者評価、メンバーに対するリフレクションを行う力を培うとともに、自分の専門知識を他者に活用することで学際的な学びを提供できる。
 今後のCOIL型教育の実践に当たっては、我々古い世代のデジタル移民が大学運営を行っているのが現状で、若いデジタルネイティヴ世代に如何に最適な学修環境を提供できるか、錯誤のないように留意することが必要と思う。

【質疑応答】

[質問]
国際的なPBL拡大バージョンの面もあるかと思うが、基礎知識、予備知識、背景知識、専門知識などを補う構造的仕組みはあるのか。
[回答]
カリキュラム全体で取組まなければいけないので、大学全体で取組もうという覚悟が必要になってくる。トップとボトムが両方合わさって実現しないと、ご指摘の懸念は残ってくると考える。
【数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアムの取組み】
数理・データサイエンス・AI(リテラシーレベル)モデルカリキュラム〜データ思考の涵養

モデルカリキュラム(リテラシーレベル)の全国展開に関する特別委員会委員、日本電気株式会社AI人材育成センター長 孝忠 大輔 氏

 モデルカリキュラム作成の背景は、2019年6月に内閣府から発表された「AI戦略2019」のリテラシー教育として、文理を問わずすべての大学・高専生(約50万人卒/年)が初級レベルの数理・データサイエンス・AIを習得する教育施策である。カリキュラムの構成は、「導入」、「基礎」、「心得」と、「選択」からなっている。
 カリキュラムを作るにあたって、大きく二つの学修目標を掲げている。一つは、数理・データサイエンス・AIを主体的に使いこなせるよう基礎素養を身に付けること、二つは、AIは人間の活動を支えていくものなので、人間中心の判断で上手にAIを使いこなせる知識を身に付けることにした。
 実施に当たっては、四つの基本的な考え方がある。一つは、今後の社会の生活を豊かにするもので、「楽しさ」や非常に面白いと学生に「好奇心」を高め、学生の中で面白さをシェアして「学びの相乗効果」をも含めてカリキュラムを組み立てていただきたい。二つは、モデルなので各大学の実情に合わせて選択してカリキュラムを組み立てていただきたい。三つは、難しい印象を与えないように、学生に関心のある「実データ、実課題」を用いて、モデルカリキュラムのエッセンスを抽出して授業していただきたい。四つは、分かりやすさを重視して、非常に楽しく分かりやすいものであるという授業をしていただきたい。
 4部構成のカリキュラムの内、「導入、基礎、心得」をコアの学習項目としている。以下に概要を紹介する。「導入」では、①「社会で起きている変化」を知り、数理・データサイエンス・AIを活用して、社会を生き抜くための基礎素養を理解する。また、「社会で活用されているデータ」について、どのようなデータが集められ、どのように活用されているかを知る。②「データ・AIの活用領域」の広がりを知り、何ができて何ができないのか、技術の利点・欠点を知る。③「データ・AI利活用の現場」でどのような価値が生まれているか、複数の技術が組み合わされて実現されている「データ・AIの最新動向」を知る。これらを効果的に学習させるには、反復学習と学生が考える授業が必要と思う。「基礎」のデータリテラシーでは、①最初に「データを読む」として、データを正しく読み解き、その意味合いをしっかりと抽出できるよう、各大学・高専の特徴に応じて、適切なテーマを設定し、実データもしくは模擬データを使って講義を行うことが望ましい。②次に、「データを説明できる」ように、学生にグラフ化や可視化するプロセス体験をさせる。③最後に、表計算などを使って小規模のデータ集計や加工できる「データを扱う」授業を行う。学生間に差異が生じるので、補講などのフォローアップが必要になる。「心得」では、「データ・AI利活用の留意事項」として、法整備が追い付いていないこともあり、非常にリスク(脅威)をはらんでいるので、プラスとマイナスの側面を教えた上で、グループ討議などで自分達のデータを守るには何ができるのかなど考えさせることが望ましい。
 最後の4部を「選択」として、9項目の概要を紹介する。①「統計及び数理基礎」、「アルゴリズム基礎」、「データ構造とプログラミング基礎」をオプションに入れたのは、データを読んで何に気を付けないといけないかを知って欲しいというカリキュラムなので、プログラミングを教えることを目的としたものではない。しかし、実際やっていくには、データAI利活用に必要な道具として、高校で必修科目化される「情報Ⅰ」のアルゴリズム基礎やデータ構造とプログラミング基礎を大学生に学んでいただくのも一案かと思う。②「時系列データ解析」、「テキスト解析」、「画像解析」も入れている。③大規模データを前処理する「データハンドリング」の力も必要になってくるので、応用基礎教育に入る前提として、教えることも大学によっては必要になると思う。④「データ活用実績」(教師あり学習)、(教師なし学習)では、PBLなどで学生達にデータ利活用を体験し、データを使って考える力を養うもので、いろいろな答えがあること、それが産業界でやっているデータAI利活用であるということを知っていただきたい。
 モデルカリキュラムの活用イメージを紹介する。
 例えば、1科目の例で、「導入」、「基礎」、「心得」と、モデルカリキュラムの順番通りにやる場合もあれば、「心得」を「導入」を一緒にし、「基礎」の長さも臨機応変に変えてもいいと思う。「選択」も付け加えることもあると思う。「導入」と「基礎」を長めにして、「選択」も多く取り入れるのであれば、2科目構成にするというのもある。また、既存科目を活用し、その中に混ぜて全体としてリテラシーを教えることもできるので、柔軟に活用していただければと思う。コンソーシアムの大学で大量の教材をホームページでアップしているので参考にしていただきたい。
 文理を問わず、このリテラシー教育をしっかりと展開していくことが非常に重要なので、私立大学の方々には、是非お力添えをいただきこの教育を展開して、日本の明るい未来を一緒に作らせていただけると非常にありがたいと思っている。

【質疑応答】

[質問1]
数理・データサイエンス・AIと書きつつ、数理がオプションになった理由と、AIが非常に長い技術なので俯瞰的な視野が入っているか。
[回答]
1つは、大多数が文系であることと、社会におけるデータ利活用を全面に出すため。もう1つは、このモデルカリキュラム自体は2024年および2025年に見直すので、当然その時流によって中身が変わってくると思う。
[質問2]
社会の変化を理系的視点で性善説的に捉えているが、文系には受け入れがたい。いかがか。
[回答]
反映しきれていない面もある。あくまでモデルなので、足りない部分を文系で埋めてもらいたい。

第2日目(9月3日)

テーマ別意見交流

分科会A:オンライン授業のトラブル、授業運営の対応

「サーバーアクセス集中等への対応、学生の通信環境支援、教員の教育支援への対応」

関西大学教育推進部教育開発支援センター教授 山本 敏幸 氏

 コロナウィルスによる非常時に教員・職員・学生の3者協働で進めた緊急対応について報告する。
 サーバーアクセスについては、授業運営に関しては学修ポータルを中心に、関大LMS、講義ビデオ収録・配信システムで対応し、Office365で学生間、学生と教員間及び大学間のメール配信、Dropboxでファイルの共有、Zoomについては別ライセンスの購入で対応した。学生へは、BYODで対応できない学生に対するPCやWi-Fiルータの貸し出しを行い、学生とのコミュニケーションのチャンネルを保ち不安を解消するためWebページからの情報提供で対応した。学生と担当教員との間のコミュニケーションは、関大LMSのタイムラインの通知、コース内のメールサービスなどで日々の授業の進捗についての情報交換等を進めた。教員へは、FD相談会により3月の後半から4月の第1〜2週の全学休講期間に、教員の準備、オンライン化の準備を進めたが、その後の入校禁止に伴い、オンラインに切り替えた。教員には、オンライン化に対する大学の意図が十分に伝わるように配慮した。

「ライブ配信型オンライン授業運営の工夫について」

北海道医療大学薬学部教授、情報センター長 二瓶 裕之 氏

 医療系総合大学におけるライブ型オンライン授業実施の実践例について報告する。オンライン授業は通常時の時間割に沿って、キャンパス内の教室を利用して実施した。配信にはZoomを用い、契約しているGoogle for Educationで、ライブ配信授業ポータルサイトを構築し、時間割とライブ配信授業を教室番号で紐づけるというシステムを開発した。授業で使用する50室には、すべて教卓PCが設置され、これにWebカメラを追加した。トラブルの発生に備えて、教室と教務課等へのホットラインも準備した。Google Driveを利用し、教員と学生との双方向性を担保し、Googleフォームなどを使った確認テスト、グループワークでのGoogleドキュメントの共有も可能にした。教員には、FDや教員説明会で、ライブ配信の方法とかZoomの使い方、カメラの切り替えなどもビデオ化して配信した。学生への支援としては、Webサイトより動画でオンライン授業の仕組みなどについて配信し、より多くの学生に今回の目的、目標などを伝えるようにした。その結果、6,000回の授業、45万回の学生利用を安定に運用できた。

「遠隔参加型グループワークの実践」

愛媛大学大学院理工学研究科教授 小林 真也 氏

 エンジニア教育で重要な知恵・コンピテンシー育成のために実施している遠隔参加型のグループワークの実践について報告する。遠隔参加型グループワーク型PBLで、アイディアソンを今年の4月に実施した。2日間の日程で、教員および学外協力者計16人の指導者で25人と19人の学生に2回開催した。学生にはマイクとカメラが装備されたPCの所有が必須で、それ以外にグループワークにZoomを使用した。グループ分けにブレイクアウトセッションを活用し、オンライン版のPowerPointでKJ法等のチームでの共同作業を実施した。チームごとの作業では、教員は各チームのセッションに参加しながら、更新されているワークスペースであるPowerPointのファイルにコメントすることで、例年の講義室のテーブルを回るのに近い指導ができ、ペア間の情報交換であるスピードストーミングも例年同様で、Zoomによる全体に対する発表も例年通りであった。学生によるアンケートの結果は、昨年の対面型授業と今回の遠隔型授業とほぼ同様の回答であった。

「発達障害学生のオンライン授業環境」

九州大学基幹教育院教授 田中 真理 氏

 合理的配慮が求められる発達障害学生へのオンライン授業環境について報告する。コロナ感染防止対策のオンライン授業により、従来、合理的配慮を困難にしてきた「教育効果の低下の懸念」や「文字化された配布資料作成の教員への過度な負担」の問題が解決し、ユニバーサルデザイン化された学習形態が実現されることとなった。障害学生にとってのメリットとして、時間管理や注意のコントロールが難しい学生が自分のペースやタイミングで受講できること、聞きながら書くというデュアルタスクが難しい学生がコンテンツを再視聴してノート作成できること、教員の話し方の改善や読み上げ原稿が配布されること、質疑応答においてチャットが利用できること、人の視線を気にせずリラックスして受講できること、グループ討論の中での発言機会が順序正しくなることなどがあげられる。障害学生に限らず、全学生に対して、メンタルヘルスの観点からの学生支援やオンライン上のリテラシー教育を充実させることが、今後の課題として考えられる。

「オンライン授業での学修評価をどう考え、実践するか」

京都大学高等教育研究開発推進センター准教授 山田 剛史 氏

 オンライン授業という状況の中での学修評価を、どのように考え、どのように実践するかに関して報告する。学修評価は、学修理解度および学修の実態の把握、把握内容のフィードバック、学修目標・到達目標を学修成果と照合して判断する営みで、授業開始前に行う診断的評価、授業期間中に行う形成的評価、授業終了時に行う総括的評価の3種類がある。オンラインによる客観テストで不正行為は防ぐことは困難なので、試験方法について、解答時間を一問ごとに区切る、解答の様子を手元などが映るように工夫する。また、試験問題について、暗記型の問題をなくす、資料参照やネット検索に耐えられるものにする、宿題の形で実施するなどの工夫が考えられる。さらに、多様な評価方法を採用し、客観テスト以外の方法として、小テスト・論述レポート・振り返り・アンケート・自己評価・総合評価などで評価の配分比率を検討するような対応が考えられる。

分科会B:教育の質保証と情報公開

「教学マネジメント指針が目指すもの」

文部科学省高等教育局高等教育企画課課長補佐 奥井 雅博 氏

 文科省では、「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」を受けて、学修者本位の教育への転換を重要なポイントとする教学マネジメント指針を策定した。大学が養成する人材を三つの方針(DP、CP、AP)」で明確にし、DPを保証する授業科目・教育課程を編成・実施することやそれらを効果検証・改善・公表する仕組みが必要であり、重要であることが紹介された。
 教学マネジメント指針が目指すもの」として、「何を学び、身に付けることができるのかが明確か、学んでいる学生は成長しているのか、大学の個性が発揮できる多様で魅力的な教員組織、教育課程があるか」の観点に立って、学修者本位の教育の質保証を再構築するために、「教学マネジメント指針」を作成し、システムとしての大学運営の在り方について分かりやすく示すことで、各大学が構築しやすいように方向性を解説している。
 大学はこの指針に示されていることすべてに取組む必要はないが、マネジメントを牽引するリーダーを始め、教職員が指針を理解した上で内部質保証を高める取組みを進めることが重要である。
 その中で、大学の社会的責任として学修成果、教育成果に関する情報公表を可視化し、公表情報を例示している。その一環として大学の学びの実態を把握するために昨年「全国学生調査」を試行した。その結果から、授業内容の意義や必要性の説明、小テストやレポートなどの課題提出は8割以上であったが、コメントが付されて提出物が返却されたのは4割と低かった。また、専門分野の知識、将来の仕事情報、協働する力、幅広い知識については、8割程度役に立っているが、外国語を使う力は3割、統計数理の知識は4割程度と役に立っている割合が低かった。学生の学修時間や成長実感が不十分であることが分かった。教育内容のよい部分と改善すべき部分が指摘されており、教育改善に用いることができると思われる。

【質疑応答】

[質問1]
教学マネジメントの観点で考えた場合、小規模私立大学が今後輝くためにはどのような点に注意したらよいか。
[回答]
各大学の独自性や立ち位置を確認した上で、卒業生が社会で活躍できるよう、組織全体が一体感を持ってマネジメントに取組むことが重要だ。
[質問2]
学生調査の結果からも分かるとおり、学生の授業時間外学修時間が十分ではない。これは文科省が求めているものと現実の間に構造的な問題があるからではないか。
[回答]
学修時間の問題は確かであるが、学生が学びに注力できるかどうかという観点で考えると、科目数が多いと考えている。実質的に学べる教育課程を作る工夫が必要と考える。
学修成果の可視化への取組み

「玉川大学における学修成果可視化の取組みと課題」

玉川大学教学部長 中村 好雄 氏

 本学では、まず、可視化する学修成果を明確にするために、3つの方針(DP、CP、Ap)との整合性・体系性に配慮した学士力(コンピテンシー)を策定した。2008年の中教審答申「学資家庭教育の構築に向けて」を参考に、知識・理解、汎用的能力、態度・志向性の3つの内容から構成されるものであった。
 次に、学修成果を達成するために、カリキュラムの体系化を行った。カリキュラム・ツリーとカリキュラム・マップを整備し、DPとの対応、修得できる能力を明示した。各授業のシラバスにおいても、履修前に到達目標や修得できる力を確認できるシラバスAと、履修登録後に各授業回のテーマや授業外学修を確認できるシラバスBを用意し、DPとの対応を明確にした。また、履修登録単位数の上限を2013年度から半期当たり16単位とし、1日8時間の学修を徹底させる単位制度の実質化を図った。さらに、学修成果の測定では、ルーブリックを用いたパフォーマンス評価などを用いて、ペーパーテストに留まらない成果測定を教員に求めている。また、学生ポートフォリオを活用することで、学生が自身の成長を可視化できるようにしている。ポートフォリオはStudent Life、Learning、総合評価シートの構成になっており、学士力の状況をレーダーチャートで確認することもできる。
 全学的な学修成果の可視化は、外部業者によるPROGテストや大学IRコンソーシアムの調査を使って進めている。そうした結果から、学士力と授業科目の一部不整合、アクティブラーニングの実質化、外部業者の指標を用いた汎用能力測定の限界などの課題が明らかになってきている。

「学位プログラムレベルでの質保証の実現に向けて:スタートアップ支援制度の取組み」

大阪府立大学高等教育開発センター准教授 畑野 快 氏

 本学では、2017年度に教育戦略室を発足させ、各部局が主体的に内部質保証システムを構築できるよう、2018年度に内部質保証スタートアップ支援事業を始めた。これは教育プログラムにおける質の保証・向上に資する部局での優れた取組みに経費補助を行う制度で、経費補助の期間は2年間、上限は各取組み100万円、総額2,500万円であった。
 その成果として、現代システム科学域の取組では、「内部質保証に関する基本方針」が策定され、内部・外部講師を招いての勉強会、卒業時ルーブリックの作成、3つの方針とアセスメントポリシーが作成された。理学類の取組では、PROGテストを実施し、ジェネリックスキルの観点から質保証が実現できているか検討した。工学域(海洋システム工学課程)の取組では、GPS-academicを実施した。理的思考力の観点から学生の質保証を確認した。その他にも総合リハビリテーション学類、獣医学類、環境システム学類などで、内部質保証システムの構築に関する取組が行われた。
 こうしたスタートアップ支援制度により、全学レベルと部局レベルで、連携強化ができた。また、質保証の問題は教員が主体的に取組む課題であるという意識づけができた。今後進める上で、全学プログラムレベルの問題は部局が中心であるが、全学のサポートが重要であると思われる。

【質疑応答】

[質問1]
2件の発表の中で、GPAと外部業者の評価指標間に相関がなかったとの指摘があったが、そもそもGPAを数量的に扱うことに問題はないのか。
[回答]
(畑野氏)GPAには測定上問題があると思われるが、いろいろ是正する方法もあり、利用可能性はある。ただし、GPAにFDの問題を集約するのは問題があるだろう。
[回答]
(中村氏)本学のGPAは、履修単位上限16単位という制限がある上でのものなので、それなりに意味はある。ただし、将来的には成績評価の段階を増やすことを検討している。また、GPAよりも何が身についたかを検討する方が学修効果としては分かりやすいだろう。
[質問2]
(中村氏に対して)スロースタートの学生に対して何かフォローするようなことはしているのか。
[回答]
(中村氏)特別な事情で単位が取れないような学生については、イレギュラーな対応ができるよう制度を作っているつもりである。
[質問3]
(畑野氏に対して)理学系などでは研究力も重要であると思うが、こうした能力の可視化について議論はなかったのか。
[回答]
(畑野氏)研究力については、学会発表や論文のクォリティなどアウトカムがはっきりしているので、分かりやすいと思う。
分科会C:教育の情報化推進に関する著作権問題

「オンライン・対面授業の著作権処理と保証金、分配問題」

神奈川大学法学部教授 中村 壽宏 氏

 平成30年の著作権法改正は大学教育に大きな影響を与えると考えられる。大学教育に影響を与える主な変更点は、包括補償金制度導入による授業過程での第三者著作物の自由利用の拡大である。この変更は、近年の教育ICT機器の普及に伴い、授業で使用するコンテンツをデジタルコピーしてインターネットを通じて配布する機会が増えたことによる。ハードコピーであれば、例えばプリンター出力したものは画質など劣化しているが、デジタルコピーはコンテンツを劣化させず配布することが可能であるため、著作物の権利者にとって不利である。
 これを解決するため、包括補償金制度が導入された。大学の授業において第三者著作物をデジタル送信するときには適切な額の補償金を著作権者に支払わなければならないという制度である。但し、同時授業公衆送信(リアルタイム授業におけるコンテンツのデジタル送信)には、補償金を課さないという規定がある。補償金を払う必要があるのは、異時授業公衆送信(オンデマンド授業におけるコンテンツのデジタル送信)の場合のみである。
 補償金に関する管理は、法律で一つの団体のみしか行えないと定まっており、SARTRASという団体が管理を行っている。しかしながら、教育機関と権利者を如何に繋ぐか、補償金を如何にして権利者に配るかなどに関しては、現時点では未確定な部分がある。
 決定していることで重要なことは、以下の2点である。一つは、教育機関がSARTRASを介さず直接権利者と契約を交わし、異時授業公衆送信を行うことは妨げられないということ。二つは、SARTRASに補償金を支払うことで、教育目的であれば異時授業公衆送信を自由に行うことができる。大学全体として管理したい、何人かの先生で共同利用したいなどという場合に対しては、基本ライセンスというオプション契約を結ぶ必要があることも示されている。さらに、2次著作物を作成、例えば第三者著作物を含んだ自作コンテンツを作成し、異時授業公衆送信を行ったり、販売したりする場合には、専門ライセンスという契約を追加する必要があることも示されている。しかしながら、基本ライセンスや専門ライセンスの詳細な内容に関しては、現時点では定まっていない。補償金の額に関しては仮案として学生一人年間800円となっているが、集まった補償金をSARTRASがどのようにして権利者へ支払うのかは、現時点では決まっていない。

【質疑応答】

[質問1]
著作権法の改正は今年度令和2年から実施の予定だったのが、コロナウィルスの影響で今年度1年延びたという理解で良いか。
[回答]
具体的な運用のガイドラインが作られてから施行のはずが、このコロナの関係でガイドラインを作っている時間がなくなったので、ガイドライン未完成でも前倒しで2020年4月1日から適応を認めることを文化庁が決定した。今年はSARTRAS側の判断で、補償金なしに異時授業公衆送信を行えることになっていたが、2021年4月1日からは補償金を払って使用するという条文通りの扱いになる。
[質問2]
補償金を支払うことを各法人が理解しているのか。
[回答]
すでに文化庁やSARTRASから各大学に事務連絡が行われている。
[質問3]
補償金は学生から徴収するのか。
[回答]
著作権の補償金は利用者負担が原則であり、第三者著作物は授業運営者が利用するので、学生からは徴収できない。
[質問4]
オンライン学会の講演においては、適切に引用すれば問題はないのか。
[回答]
適切な引用ルールを守れば問題はない。問題は、第三者著作物の入ったレジュメを配布する際に、文章であれば明確に引用が可能であるが、図表や写真の場合は、どこからどこまでが引用なのか分かりづらいので、繊細な問題が残っていると言える。
分科会D:テレワークによる業務改革と課題

「テレワーク実践に向けた在宅勤務制度の構築と課題」

上智学院人事局長 須田 誠一 氏

 本学では、効率的に働く意識・風土の醸成とワークライフバランスの向上を目的とした取組みとして、コロナ禍の前より様々な施策を行ってきた。職員を対象とした在宅勤務制度はその中の一つであり、超過勤務と深夜勤務が禁止である以外は通常勤務と同等の条件で実施されてきた。
 コロナ対応により、2020年度在宅勤務を進めた結果、4月と5月の在宅勤務率は70%から80%、6月から7月は60%、8月から9月は50%となった。在宅勤務について、全体的には前向きに捉えられており、今後も進めていく方針である。
 在宅勤務が普及することによって明らかになった。課題としては、在宅勤務時の経費支援、決済フローの見直し、機密情報の取扱い、勤務時間の管理などがある。また、人事評価や人材育成、職場内コミュニケーションについても新たな仕組み作りが必要である。その中で、働きがいの醸成や上司・部下の関係性構築などが課題となるだろう。さらに、今後進んでいくと考えられる場所、時間、契約形態等にとらわれない働き方へ対応するために、柔軟な人事制度を導入することが必要になるだろう。

「働き方改革・生産性向上を支援する仮想デスクトップ環境の構築」

ネットワンシステムズ(株)東日本第1事業本部第4営業部長 瀬戸 則行 氏

 コロナ禍における働き方改革を進めることができるインフラシステムとして、上智学院および上智大学に仮想デスクトップ環境(VDI)の導入を進めた。VDIはサーバ上で起動した仮想PCとローカルPCとの間で画面のイメージデータのみを暗号化して通信するため、セキュリティの高い状態でリモートワークを行うことができる。仮想PCを用いることで、ソフトウェアのバージョン管理やセキュリティ設定が簡単になり、運用コストの削減につながる。
 上智大学では、全職員600名が学内・在宅・国内出張・海外出張で利用するために、VDIの設定に様々なチューニングを行うことで安定稼働する環境を構築することができた。特に、コミュニケーションツールとして用いるMicrosoft Teamsで動画や音声を円滑に使用できるようにするために、仮想化に伴う負荷をどのように小さくするかが問題であった。
 ニューノーマルな働き方が今後も継続される中で、大学の教育研究環境に最適なインフラ投資が行われることは重要である。学内のインフラには、VDIをコアとして、認証やファイルサーバ・クラウドサービスを快適に利用できるシステム間連携、セキュリティレベルを確保した上での一括管理による負荷軽減などが必要であるだろう。

「大学教職員のリモートワークを目指した働き方改革の試み」

追手門学院大学学長補佐経営学部教授 原田 章 氏

 本学では、2020年4月17日よりテレワークを全面展開することをプレスリリースし、大学管理部門の50%から60%の人員がテレワークに移行した。また、BYODによるオンライン授業を行うことで、学年暦の変更なく学修を継続することができた。
 この背景には、2019年度に開設した新キャンパスの運用を検討する過程で、BYODの導入、ICTの環境整備、教員のLMS利用が進んでいたことがある。特に、ファイルサーバのクラウド化、オンライン会議システムの導入が2020年度開始時点で完了していたことで、テレワークの導入がしやすい環境が用意できていたと思われる。また、電子決済システムの導入や会議のペーパーレス化はすでに進められていたが、テレワークを推進するために、2020年度に入ってから職員が大学の自分用PCにリモートアクセスできる環境をより整備した。
 こうした結果、4月から8月までは高いテレワーク率を保つことができた。開始当初運用に問題が出ることもあったが、テレワークを利用した働き方の経験を共有することができた。

【質疑応答】

[質問1]
テレワークの際、情報のセキュリティ対策が問題となるが、どのように対応しているのか。
[回答]
本学のリモートワークシステムは、大学システムの情報をローカルファイルシステムに保存しないものになっている。
[質問2]
対面式の試験への対応はどうしているか。
[回答]
本学では定期試験週間を廃止して、LMSによるレポート課題か、LMSでの試験を実施することにした。LMS上で試験を行う場合の手続きや注意については、本学の教育開発センターで手引書を作成し、学内向けに公開している。
分科会E:AIを使いこなす教育プログラムの取組み

「AIスキルを身につけるには」

関西学院大学学長補佐 巳波 弘佳 氏

 AI・データサイエンス関連の知識を持ちそれを活用して、現実の社会課題・ビジネス課題を解決するAI活用人材の育成が必要として、日本IBMとAI共同プロジェクトを立ち上げた。まず、AIが身近にあることを知ってもらうため、2018年度からAIが自動回答するキャリアチャットポッドサービスを開発し、定型的な質問をいつでも回答できるようにすることで、人間が本質的な質問や相談に対応できるようになった。これらの成果をもとに、AI活用人材の育成をターゲットとしたプログラムを2019年4月に開始した。
 このプログラムは、「AI活用入門」、「AI活用導入演習A、B」、「実践演習A、B、C」、そして「AI活用データサイエンス実践演習Ⅰ、Ⅱ」、「AI活用発展演習Ⅰ、Ⅱ」の10科目で構成している。
 プログラムの特長は、文系・理系を問わず、AI・データサイエンスに関する知識を前提とせずに、多くの演習やPBLを通して実践力を鍛える実際のビジネスでの活用を意識した演習やPBLで、ビジネス視点の醸成を図るとしている。教材は一定品質の全て事前に用意してあるので、教員は学生の個々の動き、理解度などに目を配るなど指導に集中している。例えば、AIを使ったカスタム分類域の資料も用意し、これに沿って作っていけばAIアプリが簡単に作れてしまう演習スライドがある。履修希望は多く、1クラス150人に増やしても競争率は2倍から3倍になっている。
 授業での嬉しい誤算として、学生達による主体的なプロジェクトが立ち上がり、AIを用いた高齢者支援、AIチャットボットによる診断システム、AIプログラミング教育など、興味に応じたプロジェクトが単位とは関係なく始まった。また、高校生のSDGsワークショップに学んだことを高校生に教えたいとして、ディスカッションにAI活用人材育成プログラムの受講生がサポータとして多数協力した。
 課題として、スマホは使えるがパソコンは使えない学生が多く、ITスキル向上の必要性があること、1教室で大人数向けに実施する講義は実習が困難、少人数にするとコマ数が増え講師や教室確保が困難となっている。

「エビデンスとしてのデータ活用力育成を目指す授業方法の紹介」

立教大学経営学部長 山口 和範 氏

 社会科学系の学生が多い立教大学では、人工知能時代が実装化される中で、リベラルアーツを見直して、バックグランドが違う人と議論する時に、エビデンスを活用して議論できることが非常に重要と考えている。エビデンスに基づいてきちんとリーダーシップを発揮しながら、自分の専門性を生かすリベラルアーツ的な素養を身に付ける「リベラルアーツ×リーダーシップ」が重要と判断し、グローバル人材育成の中にデータサイエンス副専攻をかなり意識して入れ、エビデンス活用力の修得が大学全体の一つの位置づけになっている。
 経営学部のリーダーシッププログラムでは、議論を通じた納得感が重要と考えて、エビデンスに基づいて議論がされ、納得感を持って、プロジェクトを実行していけるように企業と連携しながらプログラムも構成している。一方、全学的なデータサイエンス副専攻プログラムは、社会情報教育研究センターがオンデマンド型で展開しており、16単位で修了としている。このような教育で重要となるのは因果へのアプローチがどこまでできているか、データを活用してどこまでAIが正しいのかを考えられるような学生になってもらいたい。
 実際の教育現場では、ツールとしての分析手法を利用して分析し予測することがゴールではなく、最終的には議論をして問題解決することが重要としている。これを学生が理解できるように、弱いエビデンスと強いエビデンスがあることを意識して因果を考えることの重要性を、実例などを用いて体験させている。
 経営学でのビジネスプロジェクトや全学的なリーダーシッププログラムでも、課題解決のためのPPDAC(問題、調査の計画、データ、分析、結論)というサイクルモデルなどをもとに行うことが重要であると考えおり、学生には意識的に大学の個別の科目や正課外のコンペ活動など、カリキュラム全体でこのようなデータ活用力を修得して欲しいと考えている。

「人文・社会科学系大学におけるデータサイエンス授業の試み」

成城大学データセンター教育研究センター 特別任用教授 辻 智 氏

 4つの人文・社会科学系の学部からなる共通教育プログラムとして、2015年年度から50〜60人の定員で開始し、2019年度からはデータサイエンス教育研究センターとしてデータサイエンス教育を開始している。データサイエンスを独立で学ぶのではなく、「専門の学び×データサイエンス」としてそれぞれの主専攻に役立つ学びとして位置付け、AIはそのツールとなっている。
 その目的は、全ての学生が情報を活用する知識と技術を身に付けて欲しいことと、AIなどのテクノロジーに関する知識や技術と専門である人文社会科学の視点を兼ね備えることで、複眼的で柔軟な発想ができ、社会課題を自ら発見してそれを解決していく力をアピールできるとしている。AIを自在に組み、ビッグデータから価値ある情報を引き出せる次世代型文系人材の育成を目指している。
 AIに対する学生のスタンスとしては、「文系こそがAIが真のビッグユーザーということで、どうやるかより何をやりたいかということを大切にしましょう」という考え方で教育している。その際に、AI=ディープラーニングの誤解から、拡張知能(コグニティブ)の視点からAIを捉えることの必要性を理解させるようにしている。
 データサイエンスを学ぶ動機は、本学にデータサイエンスを学びたいと入学してくる学生はほとんどいない。主専攻で入学してきて、学ぶ場があるということで去年前期の概論からは5割近くが膨大なデータを活用するのはロマンがあって楽しみとしている。
 科目としては、AIやデジタル・トランスフォーメーションを概観する「データサイエンス概論」、統計学を中心とした「データサイエンス入門」の入門的レベルと、スキルを伸ばすための「データサイエンススキルアップ」、複眼的で柔軟な発想により社会課題を発見し、解決していく「データサイエンス応用アドバンス」の応用レベル的なプログラムからなっており、どの学年からも履修できて6科目全体で延べ500名を超え、履修倍率は2〜3倍となっている。
 概論の授業では、文系学生がAIの活用に興味をもってくれるようにIBMワトソンのパーソナリティインサイト(テキストから書き手の性格を推計)などを利用させるとか、英文の翻訳などをAIのランゲージトランスレータを活用させることで、非常に興味をもってくれる。これらの工夫による効果として、自分なりの物差しでAIやデータサイエンスを捉えられるようになって欲しいと思っているが、学生のコメントから、最初は弱弱しかったが、授業を終わってみると非常に力強いものとなっており、今そこそこの効果が出ている感じになっている。また、AIに対する恐怖感などが減少し改善してきている。また、遠隔講義の効果として、講義に関するコメントが約3倍増えるとともに、AIの輪郭が明確になったなどのコメントもある。

分科会F:社会で求められる情報活用能力の育成に向けたモデル授業の実施・準備対策の考察

 現在の情報教育で喫緊の課題となっているデータ活用力を中心とした教育のパラダイムシフトに鑑み、本協会で提示する情報活用教育のガイドラインと具体的な授業モデルの認識を共有するため、Webサイトに情報活用教育コンソーシアム(http://www.juce.jp/edu-kenkyu/lit/)を構築し、関係教員による意見交流の場を設けることとした。
 本分科会では、このコンソーシアムに掲載されたビデオコンテンツについて紹介するとともに、各大学でモデル授業の導入・実施に向けた課題の整理やコンソーシアムの機能強化の在り方について協議することにしている。(ビデオは情報活用教育コンソーシアムのWebサイトで視聴可能)
 以下に分科会でのビデオ視聴と解説の概要を報告する。
 ①「情報活用教育のガイドライン作成の背景」について、情報教育委員会情報専門教育分科会の大原茂之主査によるビデオを視聴した。ビデオでは、日本の情報教育の問題点を指摘した上で、世界における日本の競争力低下の要因にデータを活用した組織改革の遅れなどが強調された。その上で多様なニーズを抱える私立大学が目指すべき情報活用教育として、思考範囲が限定されているこれまでの「蛸壺」型教育から、インターネットをベースに仮想空間と物理空間を組み合わせて構想できる創造力の育成が重要で、文理融合と「大社接続」を高度化した教育のオープンイノベーションへの」取組みが急がれるとした。視聴後、大原主査より、情報教育は開発する人達はもちろん必要であるが、それ以上に使う人達の方が大事で、使うことによって文化的価値を高めていくということに注力すべきとした。
 ②「初年次教育における反転授業の問題発見・解決思考の授業シナリオ・教材作り」について、情報教育委員会情報リテラシー・情報倫理分科会の玉田和恵主査のビデオを視聴した。ビデオでは、分科会で作成された「社会で求められる情報活用能力育成のガイドライン」について紹介し、Society5.0時代を迎え、答えのない問題に最適解を求めて追及できる価値創造を目指して問題解決できる思考の枠組みを全ての学生に汎用能力として身に付けさせる授業を展開するため、大学での4年間または6年間を通して、初年次教育と専門教育が連携して体系的に情報活用能力育成を目指す方策として、反転授業と対面授業(3コマ)モデルを掲げ、初年次生が学修意欲を高めるテーマとして、SDGs「食品ロス」を設定した授業事例が報告された。視聴後、玉田主査より、問題発見・解決思考の枠組みを提案しているが、そのためのコツとなる見方・考え方、実際に問題解決のために必要な知識に関する情報を収集する能力などを、初年次の導入教育で実践して指導することが重要であることが報告された。
 ③「初年次向けのAI理解教育の授業シナリオ作り・教材作り」について、情報教育委員会専門教育分科会の大原茂之主査のビデオを視聴した。ビデオでは、政府のAI人材育成戦略と私情協の取組み、学生が興味を持つ事例を扱い、AI活用の楽しさに気づかせる「到達目標C」のAI教育カリキュラムの詳細化、文系・理系を問わず最小1コマ、最大3コマで修得できるAI教育のゴールについて解説が行われた。視聴後、大原主査より、情報教育の遅れやAIを教育する教員の不足は日本にとって危機的な状況で、その解決に全員で取組む必要があることが強調された。これら3本のビデオを視聴することにより、現在の日本の状況教育の状況についての認識を共有した。
 ④「専門教育科目と連携した情報活用教育のための授業設計・運営ガイド」について、玉田主査から、初年次教育で身に付けた問題発見・解決思考の枠組みや基礎的な知識・スキルを用いて、専門科目で実践して課題解決ができるように、各大学で在学期間中に訓練する必要性が報告された。引き続き、文系・理工系・家政系・医療系の分野から専門教育での情報活用能力育成のビデオ授業ガイドのイメージが紹介された。
 文系分野(経済学)のモデル授業について、分野別情報教育分科会の児島完二主査によるビデオを視聴した。ビデオでは、文系分野で求められる情報活用能力として、問題を発見・解決できる能力、正確な情報を収集する能力、データ・資料を専門領域の分析手法で解析・活用する能力を目指すとしている。テーマは「新型コロナによるテレワークの普及と課題」をとりあげ、テレワークの現状と問題点、労働生産性と働き方改革、ネット時代の新しい働き方の3コマ授業の到達目標を明示した上で、授業設計のポイントとして、到達目標の明確化、事前学修の参考資料の準備、オンラインでのアプリを活用した討論、ミニレクチャーの導入、事後学修の相互評価やオンラインでの第三者評価などが提示された。視聴後、児島主査より、人文・社会科学に参考になるよう幅広く取扱っていることと、50人程度のクラスで始めることが適切との説明があった。
 理工系(機械工学)分野のモデル授業について、角田和巳統括委員長・分野別情報教育分科会委員のビデオを視聴した。ビデオでは、理工系分野で求められる情報活用能力として、正確な情報を収集する能力、収集した情報を統計的に分析し、問題解決に活用する能力、仮設検証能力を目指すとしている。テーマはSDGsを参考に「2030年の日本のエネルギービジョンを提案する」とした上で、数名でチームを構成し協働学修するもので、ICTを活用して現在のエネルギー情勢を把握し、調査結果をシミュレーションして、エネルギービジョンの提案を作成・発表するとしている。視聴後、角田統括委員長より、実社会の問題に即したテーマを設定することが効果的である。SDGsを絡めたものを紹介したが、担当教員の専門分野に応じて多様な選択肢が考えられるとの説明があった。
 家政系(被服学)分野のモデル授業について、分野別情報教育分科会の阿部栄子委員のビデオを視聴した。ビデオでは、家政系分野で求められる情報活用能力として、問題発見・解決できる能力、正確な情報を収集する能力、収集したデータ・資料を専門領域の分析手法で解析し、問題解決に活用する能力を目指すとしている。テーマは「繊維製品の品質苦情を解決する」とした上で、品質苦情の発生原因と背景の調査による実態把握、苦情原因の再発防止策、SDGsを考慮した衣生活の提案をチームで協働学修することにしている。なお、評価はチーム・個人の振り返り、企業からの意見もうかがうことができればと考えている。視聴後、阿部委員より、衣服、被服、生活用品にもサスティナブルな製品が多くなっている点からも、快適・安全を求める消費者意識の強まりを考慮してテーマを決めることが重要であるという説明があった。
 医療系分野のモデル授業について、分野別情報教育分科会の渡辺淳アドバイザーのビデオを視聴した。ビデオでは、医療系の専門科目における情報活用能力としては、モデルコア・カリキュラムの課題探求・解決能力をとりあげ、私情協が作成した情報活用能力のガイドラインの情報活用能力が必須としている。テーマは、「新型コロナウイルス感染者の検出と感染拡大の予防」(3コマ)とAIを用いた診療支援に向けた「医療プロフェッショナルに必要な医療情報の利活用」(4コマ)の2例とした上で、授業設計・運営のポイントとして、到達目標の明確化、学習者を惹きつける話題となっている題材の選定、事前・事後学修と対面又はオンライン討論の併用が紹介された。視聴後、渡辺アドバイザーより、医療系の授業設計のポイントは、他の分野とほとんど共通だが、医学、歯学、薬学、獣医学などの分野ではモデルコア・カリキュラムと整合させることで、ガイドラインに即した情報活用教育を専門課程にスムーズに組み込める特徴があることなどの説明があった。
 ⑤関係教員による意見交流の仕組みと活用法について、玉田主査より、私情協が新しい時代の情報活用教育の改革を目指して、全国の大学教員による連携・協力の場として「情報活用教育コンソーシアム」の立ち上げを企画していることが説明され、そのツールとして、Google Classroomを活用して意見交流の場を立ち上げたことが紹介された。最後に、参加者全員による意見交流が行われ、プログラミングの基礎教育の効果的な進め方、初年次教育と専門教育の連携における課題と戦略、学生の多様性への対応などについて意見交換が行われた。

分科会G:SDGsをテーマにした教育活動の効果と課題

「国際学生寮で取組むSDGsとグローバル人材育成」

神奈川大学副学長 国際センター所長 的場 昭弘 氏

 昨年、一つの新しい試みとして、世界中の学生と共生生活を通じて、それぞれの国の風土・文化・言語をお互いに維持し交流し合うことで、それぞれの異文化を理解し行動する場所として、国際学生寮、栗田谷アカデメイアを作った。
 共通のテーマとしてSDGsを掲げているが、経済発展のための支援という観点ではなく、異文化を理解し、共通の生活を体験する中で相手の価値観を認め合い、それぞれの文化、言語をこの寮の中で教え合い・学び合うという環境を作っていくことを理想としている。そのような考えから、寮の大半は共通の空間にスペースを割いている。部屋では寝るだけ、とにかく外に出て交流をせざるを得ない状況になっている。寮は町の真ん中に建っており、周りの自治会とも一緒に考える関係をつくっており、非常に重要となっている。寮ではSDGsに関する広範囲な勉強をさせて、「共に生きる」という未来像を掲げ、生涯に亘る友情作りや様々な国との豊かな交流ができるように配慮していきたいと思っている。

神奈川大学国際センター事務部長 石崎 亜理 氏

 「まちのような国際学生寮」を目指して、昨年9月にプレ・オープンし、交換留学生と日本人新入生が入居し、特徴は男女混住の運営にしている。この4月から大勢の交換留学生を迎えようとしていた矢先に、コロナで新しい交換留学生の受け入れができなくなり、日本人新入生だけで運営を開始した。設備の特徴は、リビングストリートと呼ばれるオープン空間を設置し、ポットと名付けられた共有スペースが約20か所ある。日本文化に触れる空間としては、畳のポットや和室、和風の大浴場も設置している。
 寮のプログラム全体像は、実践プログラムと基礎プログラムを設置して相乗効果で教育していくことを考えている。コンセプトは、SDGSを推進できる人材を育成するということを目的とし、課題解決力、想像力、チャレンジ力、コミュニケーション力、発信力、総合理解力を育成していくとしている。具体的なSDGs、PBLプログラムの中身は、1年間を半期ずつに分けて運営し、6回に亘りディスカッションを含んだ講義を設けているが、その間はグループワークで課題解決を進め、必要に応じてSDGsに関わりのあるゲスト講演を組み入れていくインプットとアウトプットを交互に行うプログラム体制としている。当初は寮の特徴であるポットやオープンスペースをフルに活用した計画を立てていたが、コロナの影響でオンラインによる実施に切り替えている。日常的なコミュニケーションはslack、一堂に会して介して学ぶ場合はZoomでプログラムを運営している。SDGsのグループワークとしては、環境作りとして留学生が帰国時に不要となるものを次に来る寮生に再利用するとか、貧困や飢餓をなくすについては、文房具を集めて寄付するなど小さな活動から始めることにしている。今後は、RA(Resident Assistant)の会議と連携を強化しながら、寮の日常活動にプログラムの成果を反映していきたい。帰国した交換留学生にも参加してもらい、テーマの進化と総合理解の促進として、自分の国におけるいろいろな側面を共有し、プログラムを深めていきたい。
 来年4月に、みなとみらいキャンパスを開設し、グローバル系の学部が集約されるが、地域連携と社会貢献活動の発信力強化ということで、このプログラムが社会にどういう影響を及ぼしていくのかといったことも、新キャンパスと抱き合わせで活動していきたいと考えている。

【質疑応答】

[質問]
教育カリキュラムに差ができてしまうことに関してはどうお考えか。
[回答]
当然ながら、学生全般に反映していかないと、大学としての役割がなされない。広めていくための最初の実験で、共有空間を作っていくための仕掛けとご理解いただきたい。

「SDGsを活用した学生主体教育の効果、課題と展望」

創価大学SDGs推進センター 経済学部准教授 掛川 三千代 氏

 本学の建学の精神に、人間主義、教育・文化を作る、新しい社会を作る、人類の平和を作って守る、パートナシップを重視していくということで、SDGsの大きな目標や精神が織り込まれている。人間教育の世界的拠点〜平和と持続可能な繁栄を先導する「世界市民」教育プログラム〜ということで、SDGsを実践してきている。SDGs推進センターを設置し、教員、職員、学生の代表15〜16名で協議して進めている。2018年に「世界市民教育科目群」を設置し、学部を越える学際的な視点を含んだ授業を実施している。
 SDGsをテーマにした教育活動は、大学生・市民としてとるべき行動を考え実践することが重要で、さまざまな工夫をしながら授業を実践している。学生主体の研究を2つ紹介する。1つは「創価大学の再生可能のエネルギー率向上」で、経済学部3年の6名くらいのグループで、創価大学では総消費電力の約1%しか再エネを実施していないことに学生達は気づき、環境教育を行き届かせることで環境行動が高まり、経営に影響を与えるという仮説を立てて調査を始めた。もう1つは「プラスチックフリーの創価大学を目指して」で、経済学部の別のゼミチームが、使い捨てプラスチックの問題が深刻でマイボトルの普及率は意外と低いことに気づき、ボトルを大学の食堂に置きレンタルボトルサービスのビジネスモデルを考えた。その後、若干軌道修正し、マイボトル対応のウォーターサーバー導入の提案を大学に対して行い、最終段階にきている。
 学生主体教育の課題について一長一短あるが、学生間の意識ややる気の差が多かれ少なかれある。また、学生自身も忙しいので、取組む時間をどう作るかということも課題となっている。グループの作り方は、1グループ5〜6人が一番動きやすい体制と思うが、時には10人程度になったりする。学生の自由な発想や大胆な行動といった主体性と学士自身が実際にできる範囲とのバランス、できることをどこまで絞れるかということもあるかと思う。また、教員のアドバイスや道筋作りと、学生に任せることのバランスもなかなか難しいと思う。
 今後の展望は、アクティブ・ラーニング、討議ベースの授業の一層の充実化を図って、社会に直接的に貢献していく力を一層磨いていけるカリキュラム作り、評価システムの検討などが重要と考えている。2022年度からSDGsを副専攻として、インセンティブを与えることを検討している。
 最終的には日々の実践にいかに結びつけ、持続していくかということが大事になる。大学としてもSDGsに向けた実践をし、その環境の中で学生を育む、キャンパス自体がリビングラボになっていくと、学生も自分で実体験をし、それを行動に移していけると思う。こういった活動や授業がSDGsの最も根本的な目標と考えている。

【質疑応答】

[質問1]
学生の課題発見に教員がどれくらい関わっているのか。
[回答]
情報提供はするが、課題は学生が見つけている。
[質問2]
授業として成り立たせるための指針はあるのか。
[回答]
大きな枠を作って、学生を誘導はしている。

第3日目(9月4日)

教育改善を目指したICT利活用の発表

※以下の発表者は発表代表者のみ掲載。

A−1 文系大学生を対象にした問題解決力育成を目指すデータサイエンス教育
江戸川大学   松尾 由美

 初年次教育において「社会で求められる情報活用能力育成のガイドライン」の「問題発見・解決思考の枠組みの活用」を修得した学生を対象にデータサイエンス教育の報告であり、問題解決の継続的学修や、データサイエンスによる問題解決に必要な固有知識を学修することの重要性を示唆している。

A−2 全学共通科目のオンデマンド教材作成とインタラクティブ環境による学修支援
帝京平成大学   庄司 一也

 今回株式会社マイナビが主催する「会員制キャリア形成プロジェクト:MY FUTURE CAMPUS(MFC)」を活用した課題解決型学習(テーマ:Googleの提示するAIに関するもの)をキャリア教育に活用した報告であり、これにより主体的・協働的な学びが促進される成果を得ている。

A−3 問題解決力育成のためのWebアプリ開発の授業設計
江戸川大学   山口 敏和

 私情協ガイドラインに基づき、問題発見・解決思考の枠組みを初年次に学修した学生を対象とした専門科目「Webアプリ開発」の授業設計を行っている。その内容は、ユーザと技術者をつなぐことを目標に、ユーザ・技術者双方の視点で学修した上で、技術者に伝えるためのモデル化を体験し、実践する構成である。

A−4 初心者向け3次元CGプログラミングの教材と反転授業に関する提案
名古屋文理大学   山住 富也

 プログラミング学習の導入として、実行結果が3次元のCGを出力する言語「POV-Ray」を利用し、反転授業を行った場合の教育効果の調査報告である。CGという明確な出力を得られることで興味喚起され挫折を防止できるか、また他のプログラム言語にスムーズに接続できるか等について検討している。

A−5 日々の自由記述から捉えた情報基礎教育における学生の現状調査
関西学院大学   岩田 一男

 学生の声を聞く方法として、定量的な学生アンケートが多いが、この調査では「学生の自由な記述からテキスト分析」を行い、より深く意見や考えの傾向を確認している。適切なツールを使うことで、特定なワードの検知・整理を機械化し、比較的容易に傾向の特徴(気づき)を得る事ができることを見出している。

A−6 問題解決力を育成するための大学初年次生のプログラミング教育の意識と指導効果
江戸川大学   小原 裕二

 問題発見・解決思考の枠組みの流れに沿った授業実践の報告である。この枠組みを活用した指導法では、論理的に思考する力を修得することに効果があることを見出している。今後は、小中高と連携した大学におけるプログラミング教育のあり方を検討していく必要がある旨の報告があった。

A−7 AIの知能分類と人間の知能モデルを基礎とする情報教育イノベーションの提案
京都女子大学   水野 義之

 データ・情報・知識の中に、統合と科学を含めて、人間の知能(知性・理性・感性・悟性)との関係を明示したモデルを提案している。このモデルをAI(人工知能)教育に応用し有用性を示し、これを情報基礎論と命名した。これを情報教育イノベーションの基盤とすることも提案している。

A−8 Gmailの使い方を実例とする学生の自律的情報処理教育の立案と実践
桃山学院大学   藤間 真

 大学より学生にデジタル手段によって連絡を取る際に、学生たちに正確に伝えるための改善案の実践報告である。単なるメールソフトのノウハウの提示に終わらず、情報機器を使いこなす抽象的スキルへの昇華と試行錯誤の成功体験の提供も視野に入れている。

A−9 Microsoft Teamsの会議機能を用いた英語授業実施環境の整備について
北九州市立大学   川村 和弘

 Microsoft Teamsを用いた英語のライブ授業実施環境を少人数で整備した実践報告である。担当係内で可能な限り課題を解決し、対面授業になかった担当職員の授業参加機会が新たに生まれた旨の報告があった。学生向けにTA等でのオンライン会議運営スキル修得機会の創出等が今後の課題である旨の報告があった。

A−10 復習レポートを用いた英文法指導―思考の道筋と誤解の解消―
松山大学   金子 千香

 復習レポートは、文章化して説明する過程を通して、誤解や間違えを客観視しつつ感覚ではなく理屈で英文の正否を問う力の育成を可能にするが、非常に煩雑である。本発表はこの煩雑な作業の軽減策としてGoogle Formsの自動採点機能、LMSの提出物管理等を活用し、復習レポートへのきめ細やかなフィードバックを可能とした英文法指導の一案を提示している。

A−11 学習者オートノミーを育むICTを活用した日本語教員養成プログラム
神戸女子大学   安原 順子

 「学習者オートノミー」に焦点を当て、自分で成長できる日本語教員を育成するプログラムの構築を目的として、ICT利用した海外の大学との双方向授業を中心に、学生が学習の振り返りを行いながら自ら「学習者オートノミー」を育み、成長するプログラムについて報告している。

A−12 ICTを活用した画像検索を起点とするリサーチ課題―遠隔授業の外国語科目を1例に
埼玉医科大学   上滝 圭介

 外国語科目の授業運営に関する報告である。特定の情報を外国語のウエブサイトから入手しワープロファイルにまとめる方式の課題を例に、実際の画面や提出ファイルを投影しながら、回収・共有方法、トピック設定の要点、採点例や問題点などについて紹介するとともに、今後の外国語授業運営の方策についても提案している。

A−13 機械翻訳を活用するための逆翻訳を利用したプレエディット
東京経済大学   小田 登志子

 機械翻訳の英語教育への活用に関する報告である。現在、機械翻訳は急速な進歩を遂げ、一般社会での使用が広まっている。社会人になる前の大学生に機械翻訳の効果的な使用法を教えることは有用であると考え、英語が得意ではない学生が「逆翻訳を利用したプレエディット」によってよりよい英語(外国語)訳を得ることができると提案している。

A−14 ICT活用におけるアクティブラーニング型英語授業における反復可能性の課題
駒澤大学   西村 祐子

 ICTを活用するblended_learningで学力が向上するが、それには学習者にとっての動機づけが重要である点を強調している。特に海外ゲストとの様々な交流における英語の使用が学生に満足感を与え強い動機づけをつくりだし、コロナ禍下でのZoomによるライブ授業においても特に効果的であった旨の報告があった。

B−1 発表中止
B−2 遠隔授業の円滑な導入と実施を目的とした「遠隔授業支援チーム」の取り組みと成果
共栄大学   伊藤 大河

 全面的な遠隔授業の実施にあたり、大学として授業を円滑に行うための「遠隔授業支援チーム」を発足させ、スムーズな導入のための取り決めや教員への支援を行っている。目的が達成されたことと、学生へのアンケートからスマートフォンの利用が多いことや課題の量の調整が必要であることが判明したことが報告された。

B−3 遠隔授業における教員と学生の取り組みの違い
豊橋創造大学短期大学部   伊藤 圭一

 Google ClassroomとGoogle Meetを使った遠隔授業を進めていく中で、教員と学生の取り組み姿勢の違いと変化について考察している。特に、学生の出席率の向上と予習の実践が効果的で、教員も授業準備に時間をかけるようになった。今後は、対面授業にこの効果をどのように生かしていくのかが課題として認識された旨の報告があった。

B−4 遠隔授業におけるアクティブラーニング(AL)手法の可能性
淑徳大学   石綿 寛

 遠隔授業にアクティブラーニングを導入するために、YouTubeによる講義配信と、Slackを利用したグループワーク、およびZoomによる講演とパネルディスカッションを組み合わせた授業実践の報告である。学生へのアンケートから、Slackによる意見交換が効果的であることや、今後の改善の方向性が報告された。

B−5 大規模授業におけるオンライン・アクティブ・ラーニング実践
同志社大学   佐野 淳也

 大規模授業において、これまでのアクティブ・ラーニング形式を維持し、多様な学習スタイルに合わせた授業形式、同期/非同期ツールによるコミュニケーション、学習成果の確認などの工夫を取り入れたオンライン授業の実施報告である。公開のゲスト講義では海外のゲストも招くなど、オンラインの強みを活かすことができた旨の報告があった。

B−6 遠隔授業の形態と教育効果に関する全学調査
日本大学   大川内 隆朗

 大学の人文/社会/理系の全18学科に所属する学生を対象に、アンケート調査を行った結果の報告である。結果から、学生はノートPCを多く利用していること、教員自身による録画動画によるオンデマンド授業が学びやすいこと、教材がなく指示のみが提示される授業は評価が低いものの多数あることが示された。

B−7 オンライン授業によるレポート作成能力・ICTスキル・課題発見解決能力の開発
立命館大学   笹谷 康之

 Zoomを用いたオンライン授業の実施にあたって、レポート作成能力、ICTスキル、課題発見解決能力の3能力に重点を置いて指導項目を設定し、アンケートによりそれらの成果を検討している。ライブ授業に対する評価は高く、初中等教育・大学教育で不十分とされる3能力の開発にもある程度の効果が認められた。

B−8 全学共通教育科目としてのオンラインPBLの実践
福岡大学   寺田 貢

 学生の学びを社会とのつながりから再認識させる目的で、全学共通のPBL科目を2017年度から2019年度まで、学外の企業や学内の事務職員の協力を得て実施している。2020年度はオンラインにより、与えられた課題に対する個人の企画作成、グループワーク、プレゼンテーション、評価などをすべて実施している旨の報告があった。

B−9 初年次教育における情報環境の整備について
日本大学   谷口 郁生

 ここ数年で学生のコンピュータに関するリテラシーが低下しているのではないかとの懸念から、過去4年間の新入生へのアンケート結果を検討している。キーボード入力については、不得意な学生の割合やスマートフォンの入力の方が得意な学生が圧倒的に多いといった状況に変化はなく、パソコンの利用時間の低下を問題視している旨の報告があった。

B−10 GoogleフォームとMoodle連携のためのAwkスクリプト利用の一例
帝塚山大学   柳 元和

 Googleフォーム、CampusSquare、Moodleなどによる成績管理のデータを統合して効率よく処理するために、Linux PC上で動作するAwkプログラムを作成している。これをMS Windowsに移植する場合には文字コード変換を行わねばならず、Chromebook上で連携する際にもいくつかの問題点があることを指摘している。

B−11 既存サービスを利用した読解力テストとeラーニングによる導入教育の実践について
東京農業大学   伊藤 博武

 自然科学系の学科において、学力不足の原因に読解力の不足があると考えて、リーディングスキルテストで得点の低い学生を対象に、eラーニング教材の「すらら」を使用した学習実践の報告である。実践した結果、「照応解決」と「推論」の成績が向上し、GPAも上昇したことから、講義の理解力が向上した結果と推測された旨の報告があった。

B−12 薬学生のワーキングメモリを考慮したICT支援型学修コンテンツの開発
神戸学院大学   福留 誠

 薬学部の学生において、薬剤師国家試験の分野のみならず基本的な学修能力における格差が見られたことから、支援を要する学生に対して「5年次特別学修プログラム」を実施している。実施にあたってはSCORM形式の学修コンテンツとして、国試過去問の用語を用いたワーキングメモリのトレーニング課題を作成して、実施している旨の報告があった。

B−13 文芸創作教育におけるWebサイトの活用方法について
日本大学   楊 逸

 文芸創作教育において、学生同士がコミュニケーションをとりながら、Webサイト上で文芸作品を創作するコンテンツを構築し、実践的な教育の場で活用することを目標とした実験報告である。具体的には、植物の成長をモチーフとした短編詩の作成手法と、写真をパズル化して短編作品を作成する手法についての検証を行っている旨の報告がなされた。

B−14 出前授業の持続的な展開に向けたシステムの設計と実践計画
東海大学   宮川 幹平

 大学における「出前授業」の実施は、地域社会への貢献手段として有益であるが、教員派遣や地域との調整などのコストがかかる。そこで、ワークショップ形式の遠隔ライブ授業、オンデマンド教材による自主学習、学習システム活用による非同期活動支援を組み込んだ遠隔出前授業の仕組みと、実施計画についての報告があった。

C−1 オンラインテストの用途別使い分けとその限度
専修大学   小川 健

 オンラインテストの各種システムに関する調査の報告である。オンラインテストの実施について、その目的と実施する形態から状況がかなり異なることを明らかにしている。さらに、各システムにおいて使用の限界や利用目的に合うシステムについての調査についても報告された。

C−2 データサイエンスを題材とする事前動画を利用した双方向型・反転授業の事例報告
上智学院   鎌田 造史

 データサイエンスを題材とする双方向型・反転授業の事例についての報告である。事前動画を利用することで学生の満足度や学習効果が高まっている。また、受験科目で数学を選択しなかった学生にも興味を引くようなコンテンツの作成の必要性が高いことを指摘している。今後、一定の質と効率性を両立した教授法を大学間で蓄積・共有していくことが重要であることを指摘している。

C−3 同時双方向型遠隔授業を活用した対話的で深い学びの実践
北海道科学大学   亘理 修

 新型コロナウィルス感染症への対応として行った遠隔授業における双方向型授業の実践例の報告である。講義型科目、課題解決型科目や実習型科目に対して実践を行い、それぞれオンライン授業ツールの特性を生かしながら、双方向性を重視することにより、従来の対面授業以上に対話的で深い学びが実践できている旨の報告があった。

C−4 オンライン授業によるキャリア科目の効果と問題点について
金沢学院大学   小里 千寿

 キャリア科目における遠隔授業の効果と問題点についての報告である。メリットとして、例えば、オンライン授業になり学生が時間に余裕ができたためキャリアについてじっくりと考える時間ができたなどがあげられている。デメリットとして、例えば、オンライン授業では対面ほど集中することが難しいなどがあげられている。今後は対面授業とオンライン授業と組み合わせながらさらに効果的な授業形態を生み出す必要がある旨の報告があった。

C−5 オンラインライブ授業におけるアクティブ・ラーニングの試み
追手門学院大学   今堀 洋子

 オンライン授業によるアクティブラーニングの授業実践の報告である。工夫次第で、アクティブラーニング型の授業で重要な対話重視の参加型授業が行えるであろうという手応えを得ている。オンライン授業によるアクティブラーニングの授業の質を高めるために、このテーマに関する情報共有や、定量的な授業評価を行っていく必要がある旨の報告があった。

C−6 コロナ禍での地方小規模大学が行った遠隔講義の取り組み
仙台白百合女子大学   大久保 剛

 新型コロナウィルス感染症への対応として行った遠隔授業における双方向型授業の実践例の報告である。ほとんど全ての授業で「リアルタイム」の双方向型授業を実践している。今後、学生の要望を組み入れることで講義を改善していく方針を全学で検討していく必要がある旨の報告があった。

C−7 「クラウドラボ」プロジェクトによる誰も取り残されない学びの場形成に向けての取り組み
北海道科学大学   木村 尚仁

 科学啓発活動の一環として約10年前から取組んでいる「クラウドラボ」の取組みの紹介である。このプロジェクトは、北海道全域を仮想的なキャンパスに見立てて、北海道が一体となって地域の活性化やイノベーションに取組んでいけるような人材育成をSTEAM教育をベースとして行っている。今年度は新型コロナウィルス感染症への対応として一部オンラインでの開講となった旨の報告があった。

C−8 ポートフォリオシステムについて
崇城大学   藤本 元啓

 ポートフォリオシステムの導入、運用についての報告である。ポートフォリオの種類として、「学生面談カルテ」、「入学時自己診断シート」、「今週の活動とトップニュース」、「科目の学習到達度レポート」、「学期末活動報告書」があり、それぞれ、学生が書くものと教員が書くものがある。導入の成果として、学生の自学自習時間の増加をあげている。

C−9 内部質保証を見据えた学修eポートフォリオの運用課題
名古屋女子大学   三宅 元子

 内部質保証を見据えた学修ポートフォリオの課題について、4年間の実績を元にした報告である。期待する効果として、学生が継続的かつ定期的に学びを振り返り、取組むべき課題を発見することであるが、実態は年次が進むごとに意識が低下する傾向があることが報告されている。今後、学生自身が学びのプロセスを「見える化」し授業の点検などができるようになることが質保証につながると考えられる旨の報告があった。

C−10 アナログとデジタルのバランスを調整した授業の学修効果の測定
愛知文教大学   小林 正樹

 過去の研究において、対面授業などのアナログ授業とオンラインシステムを用いたデジタル授業において授業内における最適なバランスについて、講義系科目と実習演習系科目とで方策を分けて検討する必要性が示唆されているが、それぞれの科目についてその最適なバランスを得るための試みについての報告である。さらに検証を進めていき最適なバランスを確定することでより効果的な教育が可能であると考えられる旨の報告があった。

C−11 振り返りの可視化と効果測定―テキスト分析値とGPA値とAL型講座受講率からの推察―
敬愛大学   彌島 康朗

 人材育成プログラムにおけるアクティブラーニングに焦点を当てて、その手法だけでなく効果測定に着目し効果測定の活用の可能性の検討そして、情報活用スキルに必要な項目の指標化についての試みの報告である。これらに必要なテキスト分析にはAIテキスト分析TIARAを用いたが、そのためには学習させる教師データが沢山必要になる旨の報告があった。

C−12 オンライン授業における教員サポート体制の検証および検討:LMSの定着を目指して
駿河台大学   内田 いづみ

 オンライン授業およびMoodle継続利用に必要なサポート体制のあり方についての検証報告である。Moodle継続利用に関しては、約7割の教員が継続して利用したいと考えていることが明らかとなった。オンライン授業サポートに関しては、必要に応じて素早く参照できる電子マニュアルと気軽に相談可能な窓口の必要性が明らかとなった。ワークショップの希望者は少なく個別対応を望む教員が多いことも分かった。

C−13 看護学科1年生の専門基礎科目におけLMS活用による個別学習支援の成果
大東文化大学   高安 令子

 看護学科1年生専門基礎科目をオンラインで行った実践の報告である。LMSのコンテンツmanabaを活用し、授業を「授業動画」、「ドリル形式小テスト」、「オンラインレポート」から構成し行っている。授業アンケートの結果、対面授業と同等に充実した学修内容であったという記述があり、教育内容の確保が図れたと考えられ、非対面であっても学びが継続し、学生の学修意欲を引き出すことができたと思われる旨の報告があった。

C−14 オンライン授業とMoodle利用者急増への対応事例:継続的投資の必要性を検討する
駿河台大学   太田 康友

 全授業がオンライン化となり、大学組織として以前より導入を行っていたLMSであるMoodleを使用し授業を行う教員が急増した。この利用者急増への対応と、今後継続的にMoodleに投資する必要性についての検証報告である。結果として、対応のための人的リソースの不足はあったものの設備面の先行投資があったことにより一応の成功を収めたと考え、Moodleを今後も使用したいと考える教員が7割弱いることから、Moodleを活用した授業改善のノウハウの共有などを行い教育の質の改善を図っていきたい旨の報告があった。


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