開催報告

 本協会では私立大学における職員の職務能力の開発・強化を支援するため、全学的な教育の質的転換及び教学マネジメント体制の整備に向け、職員として情報通信技術(ICT)を駆使した教育改革に主体的に関与できるよう知識理解を深めるとともに、実践力の向上を目的として、例年7月中旬に基礎講習コースを、11月もしくは12月にICT活用コースの講習会を実施している。
 参加者が、ICT活用の可能性や工夫について基礎的な理解を深め、大学の管理運営や教育活動の充実に向けて主体的に取り組む考察力の獲得を目指している。
 本年度の基礎講習コースは、ICTの活用が大学の管理運営、教育活動の充実に果たしている役割を認識し、自己の業務の改善や職場における課題解決にICTの活用を考え、提案できるようにすることをねらいとして掲げ、7月18日~20日の3日間、加盟校・非加盟校合わせて50の大学・短期大学から95名(昨年度比7%減:昨年度は102名)の参加者を集め、従前同様、静岡県浜松市の浜名湖ロイヤルホテルで開催した。
 参加者の内訳としては、所属部門別では、学事・教務部門が34%、情報センター部門が24%と、この2部門で約半数を占めているが、学生、就職、広報、総務、会計経理、人事、管財、図書館、企画部門と、大学における業務の全部門に亘っている。
本コースの開催要項に、勤務年数が浅く、他業種からの転職者等を対象として募集しているため、在職年数別では3年以下が77%、年齢別では20歳代が71%を占めている。また、本講習会を職員の初年次研修に組み込んでいる大学も少なくなく、特に、近年の傾向として、女子職員率が高くなっており、本年度は44%を占めている。
これに加えて、勤務年数は浅い中途採用者が多く、各大学が新卒者に限定することなく、経験者の採用を積極的に行っていることが伺える。
本講習会は、開会時間前から参加者間にて、積極的に挨拶や名刺交換等が行われ、講義形式、情報提供(他大学からの最新事例報告)、全体討議、グループ討議による研修に加え、他大学職員間の懇親の場としても活用されている。
また、前述のねらいを達成するため、全体研修とグループ討議研修の2部構成にて実施した。

1.事前研修
 大学を取り巻く環境、社会が大学に求めること、ICTを活用した学修環境など、研修参加にあたり把握しておいていただきたい基礎的な情報について、本協会のWebサイト上のコンテンツと昨年度実施した本講習会のグループ討議の成果を踏まえて、事前に学習することにより、理解を深めた。
 前述に加えて、自大学の事業計画書に目を通すとともに現場の問題点を捉えた上で、大学改革及びICT利活用のキーワード等(43項目:昨年度より2項目増)についても、事前に学習した。
 ICT利活用のキーワード等は、本協会が提供している用語集等と連動しており、各自が詳細な内容を確認できるよう工夫した。

2.全体研修
 全体研修では、研修を進めるにあたり必要となる、大学を取り巻く環境、大学教育の質的転換の必要性と教学マネジメント体制の重要性、それらを実現するための基礎環境として情報通信技術(ICT)活用の意義などについて情報を共有し、課題の共通認識を深めた。

(1)イントロダクション「研究講習会での学びについて」
 説明者:木村増夫氏(上智学院理事長補佐、運営委員会委員長)
 イントロダクションでは、大学の経営戦略や教育活動の充実に向けて、職員が大学改革に主体的に取り組むための心構えについて理解の共有が図られた。
 冒頭、本協会が設立された時代背景やその目的、発展の歴史等についての紹介があり、その後、初日の情報提供の内容及び講師、担当委員の紹介も含めた『開催の趣旨、ねらい』について説明があった。
 続いて、『研修会に臨む上での基本的な姿勢』では、俯瞰して全体像を押さえつつも、分解して考え、参加者の多様な価値観や視点を共有して、本研修に大いに活かして欲しいとのお願いがあり、『大学を取り巻く環境』では、私立大学及び国公立大学の動向を把握する上で大いに参考になる、国立大学協会・公立大学協会・文部科学省・中央教育審議会等の答申や審議まとめについての紹介があった。
 私立大学の振興に関連して、文部科学省中央教育審議会の第三期教育振興基本計画のポイントの説明に加え、大学の将来像を読み取る上で重要となるキーワード(「産業構造や社会システムの変化」「就学・就業構造の変化」「国際情勢の変化」、「子供の貧困など格差の固定化の阻止」「人口減少の克服と地域コミュニティの創造」「地球規模課題への対応」)が提示された。
 最後に、「大学職員には、継続的な大学改革の推進、新たな価値を創造する能力が求められている。理念(目標)を高く持ち、常にアンテナを張って関心を絶やさず、変化を敏感に感じ取り、小さなことでも良いので、常に新しいことに挑戦する(『やってみる』)態度が大切であり、目まぐるしい社会・時代・世界の変化に対応するための大学改革の第一歩は、『外・社会に目を向ける』こと、上手に『データを活用する』ことである」との熱いメッセージが参加者に贈られた。

(2)情報提供
 事前学修の成果を確認しつつ、解説を加えて課題を共有し、課題に対する理解を深め、またグループ討議で参考にしていただくため、4大学からICT活用事例についての情報を提供した。
 なお、情報提供を選定する段階では、本協会主催ならではの内容であること、個々の参加者が各大学に持ち返ることができる内容であることを追及した。

(2)-1「ICTの活用と課題」
 講師:遠藤桂一氏(芝浦工業大学情報システム部長、運営委員会副委員長)
 大学の業務改革、教育改革におけるICT 活用の現状:過去・現在・未来を紹介しながら、各グループに問いかけることで業務改革、教育改革の必要性について参加者の理解の共有を図った。
 また、考えるべき情報システム及び支援体制について課題を整理し、情報の活用はどのようにするのか、業務のICT化で業務改革が行われたかのような錯覚はないか、目的を達成するために手段としてICTは、最適なのかとの問いかけがなされた。
 さらに、大学の業務改革、教育改革の必要性について、過去の入試業務を事例に採り、人の手でやることは非効率的で時間が掛かり、コンピュータで実施することで、効率良く業務を遂行することができるという説明があった。
 今後、人工知能(AI)技術が発達することにより、受験生に対して最適な大学を提示する、さらに学生の学習指導、生活指導や就職先を人工知能が行うようになるのではないかとの将来に向けた説明があり、同技術により業務改善に拍車が掛かり、従来の学生窓口対応業務からルーチン業務に至るまで、コンピュータ化に移行することになるので、従前から継承している業務だけを行うのではなく、問題意識等を持ち、各自の業務に取り掛かることが必要ではないかとの説明があった。
 仕事の意義・必然性、仕事のやり方の理由、何を改革するのか考え、皆が幸せになるためには何をすべきかを、本講習を受講することで考えて欲しいとした。

(2)-2「データの活用と業務の改善」
 講師:齋藤真左樹 氏(日本福祉大学常務理事、副学長)
 昨今、大学における「データの活用」はこれまで以上に重要視されていることを受け、本情報提供においては、データ(情報)を活用することについての基本的な考えやICTの活用、データ活用による業務改善について、事例も交え紹介された。
 組織で業務をするためには、まず目的を共有し、その上で目標達成に至る過程(PDCAサイクル)を経ていく必要がある。この際、目標設定を含む計画策定(P)やその点検・評価(C)において、現状を客観的に分析すること、特に、経年変化や傾向の分析、要因分析は必須であり、情報(根拠データ)を押さえることが必要となる。
 今日、大学の改革の実現や教学の運営において教職協働は不可欠であるが、その大前提として、様々なデータを取り扱っている職員がこれを適切に把握し、教職員間で共有していくことが必要である。その際、職員は多種多様な情報を収集し蓄積された情報を分かり易く可視化することが求められる。なお、紙媒体による情報共有は限界があるため、ICTを有効に活用していく必要があり、そのための環境(インフラ)として例えばタブレット端末の活用やペーパーレス化の促進が求められる(ICTを活用するにあたっては、その進化に対応する必要があり、特に大学においては、自身の好みではなく、学生のICT利用状況を常に把握し、自分自身でも使ってみることも必要である)。
 また、大学運営における各種の事業・業務の推進にあたり、主観に左右されるような表現は信用されない。このことを踏まえ、事実を客観的なデータとして押さえ、これを他者が理解し易いような方法・表現(可視化)で示していくことが求められる。
 これらの実例として、同大学においては、情報を有効に活用するために、会議のペーパーレス化を図っており、本取り組みを進めることで、印刷コスト、機会費用の削減、業務の見直しや職員の意識改革に繋がっていることが紹介された。また、情報の共有と可視化のツールとして同大学が作成しているFACTBOOKについても紹介がなされたほか、教職協働によるデータ(情報)の有効活用方策として2016年度に採択された大学教育再生加速プログラム(AP)「教職協働による学修データの可視化」に取り組んでいることも紹介された。

(2)-3「eポートフォリオの構築と活用」
 講師:高島伸治 氏(金沢工業大学情報処理サービスセンターシステム部長)
 学生の学修活動振り返りと教員の授業振り返りを通じて、カリキュラムなどの改善につなげるeポートフォリオの構築から仕組み、効果・課題など学生支援に向けた取り組みについて理解の共有を図った。
 eポートフォリオにて、1年次生は一週間の行動履歴を200文字程度で報告し、毎週担任教員に紙に印刷して提出する。教員は点検・確認し、コメントを手書きで返却する運用できめ細かなサポートを行っている。2年次生以降も、学期の達成度評価や自己評価レポートの提出等を行っている。この取組内容に関して、学生が修学・生活の自己管理と分析や自己評価の文章化による自己表現力等が身につけられるといった効果が見られた。
 一週間単位、学期単位、年間単位といったeポートフォリオによるPDCA サイクルが構成されており、「達成度評価レポート」や「自己評価レポート」はその場で記入して終わるのではなく、学生が過去に記入した目標や反省など振り返ることができる点は、非常に学修効果があると学生のアンケート結果から読み取れた。
 また、eポートフォリオをより活用して貰うために、操作性の向上や情報携帯端末等の対応など、学生が主体的に利用して貰うことが重要だと説明された。

(2)-4「情報セキュリティ(自分がきっかけにならないために)」
 講師:西松高史 氏(金城学院大学財務部システム担当課長)
 本研修が基礎講習という観点より、改めて情報セキュリティに関わる情報提供を行った。
 まずは、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)から発表されている「情報セキュリティ10大脅威2017」をもとに、組織向けの10大脅威の紹介があり、そのうち1・2位の「標的型攻撃による情報流出」「ランサムウエアによる被害」について、近年の事例について解説があった。
 これに加えて、これらの脅威はメールを介する場合が多いことから、標題にあるように「自分がきっかけにならないために」という観点から、怪しいメールの見分け方、不審メールへの対応について報告があった。その上で、普段使用しているパスワードについて、パスワードクラックツール等のツールを使用すると、瞬時に解析されてしまうという実演を通じて、パスワードに関わるリスクを再確認するとともに、最後には解析されにくい実践的なパスワードの作り方について紹介がなされた。
 その後のグループ討議の中で、このルールを準用したグループ名を付ける等、大いに参考となるものであった。

(3)全体討議
 全体討議では、事前研修を含め、情報提供について理解度を確認した上で、グループごとにICTを活用して教育改革及び業務改革に主体的に関与することの重要性について気づきを共有した。
 グループごとで情報交換することにより、質問事項や疑問点等も共有することができ、活性化した討議に繋がり、能動的に討議を進めることにより、さらに理解を深めることができた。
 本報告の冒頭に掲げた、本講習会のねらいを再確認した上で、グループ討議においてもこれを念頭に置いて意見を交わし、成果を自大学に持ち帰っていただきたいと全体討議は締めくくられた。

3.グループ討議
 大学の管理運営や主体的な学修環境を構築するにあたり、職員各自が果たすべき役割やそれを実現する手段としてICTを活用する意義・重要性について、グループ討議により確認・共有し、教育活動のイノベーションに繋がる提案、大学の管理運営改善に資する提案に向けて、ICTの活用を含む望ましい改善策の構想作りを行った。
 自らがどのように教育改革や大学改革に関与すべきか、対話と議論により望ましい改善案の提言作りを通じて、主体的な考察力、イノベーションに取り組む姿勢の獲得を目指した。
 概ね5~6名を1グループとし、3グループを1班として、グループ討議を行った。昨年度同様、6班(18グループ)に分かれ、討議のサポート役として、1班(3グループ)に研修運営委員を1名、配置した。昨年度までの経験を持った運営委員が新たな委員に交替してしまったことから、2班を配置することが可能である大きな部屋には、経験がある委員と初めて本コースに携わる委員を配置し、円滑な運営を目指した。
 また、数年前から利活用している『グループ討議「見える化」シート』により討議のポイントを明示することで、限られた時間内で効率よく、実質的な討議が交わされるよう配慮した。
 その際、昨年度まで検討開始時に、どのように検討するべきであるのか迷走してしまうグループが見受けられたことから、同シートの内容を一部見直し、円滑に検討に入れる工夫をした。
 参加者に修得していただきたいスキル(能力)については、下記の6項目を設定し、3段階の自己評価により到達度の確認を図った。

1)課題発見能力
大学が抱える諸問題について、その本質的な課題を探るため、多様な観点から事象を分析しようとする態度を持つ。
2)創造的思考力
課題解決を図るため、積極的にアイデアや意見を述べて、創造的な議論を、促そうとする態度を持つ。
3)コミュニケーション能力
他のメンバーの意見やアイデアを尊重し、議論を発展させるためにお互いに協調しようとする態度を持つ。
4)スキルを使う姿勢と態度
討議を通じて学んだ成果を認識し、これを常に磨きながら、自身の大学の教育改善に使おうとする態度を持つ。
5)プレゼンテーション能力
グループでの討議内容を他のグループに分かりやすく伝えるため、相互に協力しながらスライドを作成する。
6)発展的思考力
質疑応答や他グループの発表から、新たな着眼点や改善点を発見して、それを相互のブラッシュアップにつなげようとする態度を持つ。

<グループ討議の流れ>
『ステップ1:気づき、発見の時間」』
 第1部(イントロダクション、情報提供)を受けて、大学改革の必要性、職員に求められる能力、ICTを活用して教育改革及び業務改革に関与することの重要性と主体的な取り組み姿勢について、各自がどのような“気づき”を得ることができたか、グループ内で発表し、共有した。
『ステップ2:討議と成果のまとめ』
 教育活動のイノベーションにつながる提案、大学の管理運営改善に資する提案に向けて、ICTを活用した望ましい改善策の構想作りについて、グループ討議を行った。その際、グループ討議の成果を自己点検・評価できるようにするため、「到達度評価項目」のチェックシート等を用いて確認し、以下のステップを踏んで議論を行った。
 1)テーマ設定
 2)問題点の深堀り
 3)解決策の検討
 4)討議結果のまとめ
 5)発表準備
『ステップ3:発表会と意見交換』
 割り当てられた部屋ごとにグループ討議の成果発表、グループ間での質疑応答ならびに相互評価、意見交換を行った。
『ステップ4:省察(アンケート記入)』
 グループ討議、発表会・意見交換会を踏まえて、各自、省察を行った。

 参加者からのアンケートでは、賛否両論あったが、昨年度同様、2日目の夕食時に各班の代表が中間報告を行う場を用意した。過去のアンケートでは、2日目以降は他グループの討議状況や全体を把握できないといったコメントが数多く寄せられていたため全体の日程(スケジュール)を勘案し、各班から選出された6組が報告し、全体に向けて情報共有を図った。
 中間報告と最終報告の間に検討する時間が殆どなく、中間報告自体の是非を問われていたが、オリエンテーション等で、丁寧にその理由を説明することで、参加者の理解を求めた。
 研修という位置づけから、グループによっては、中間報告と最終報告の発表者を固定することなく、個々に経験を積ませるような工夫も見られた。
 従来までのアンケート結果では、最終日に再度全体で集まり、総括的な要素(プログラム)等を組み入れて欲しいとの意見も寄せられていたが、ホテル会場の予約状況と最終日に各グループの発表時間や他グループからの相互評価及び質疑応答の時間を可能な限り確保したいことから、今後も引き続き検討することにしたい。
 また、検討時間が短いこと等を理由として、検討内容を深堀りするために、さらにもう少し時間が欲しかった等といった前向きな意見も見られ、充実した内容であったことも伺える。

グループ討議の進捗や成果については、それぞれのグループにより異なるが、簡単にその一例を紹介する。

■「大学のブランド力を強める ~教職員の意識統一~」
 勤続年数や所属部署が異なる5名で構成されたメンバーで話し合いを進めるため、まず各々の大学が抱える問題点を洗い出すためブレーンストーミングを行った。
 各メンバーから出された問題点をグループ化した6つの分類に対し、共感度の高いものに、各自2つ投票することとした。
 その結果、「大学のブランディング」について一番関心が高く、メンバー共通の課題として意見がまとまったことからこのテーマを選定することにした。
 まず、問題点の深堀り(理想と現状)について、検討し、示した内容について、検討を進めることにした。
 幾つか挙げられた問題を解決するための方策として、
  自大学について客観的な分析を行う。
  独自性を出すため、他大学についても分析する。
  教職員誰でも大学の広報ができるように意識統一を図る。
  受験生に伝わりやすい広報を工夫する。
 とした。
 解決策をさらに掘り下げていくため、図6に示したマインドマップ形式で関連する手法や課題について議論を進めた。
 マインドマップ形式とは、トニー・ブザン(Tony Buzan)が提唱した思考・発想法の一つであり、頭の中で起こっていることを目に見えるようにした思考ツールのことである。
 幾つか挙げられた課題の中から「教職員の意識統一」を図ることについて、提案することにした。
 ICTを活用した一提案として、教職員が出勤しパソコンを起動する度に、大学に関するクイズに回答しないとパソコン自体にログインできないシステムを構築し、運営を行うものである。
 受験生へ自大学の魅力を十分に伝えるためには、所属する教職員が自大学を良く知り、愛校心を持つ必要がある。
 研修やセミナー、パンフレット等では、その場の一時的な記憶になりがちであり、いざ質問を受けた時に具体的な数値や事例を紹介できる程の説明ができない場合も少なくない。クイズ形式で問いかけられることにより記憶に留まりやすくなる効果もあるため、自大学に対する愛校心や帰属意識を測り、自大学について詳しくなるツールとして期待できる。
 自大学ことを熟知しているつもりでも、情報が最新なものになっているとは限らない場合もある(例:入学者の男女比、出身地割合、在学中の就職率の変動など)。鮮度が低い情報を受験生へ伝えることは、ミスマッチ入学に繋がりかねないため、教職員は定期的に最新情報を収集することが重要である。
 情報収集するための一つのツールとして、本システムを活用できると考えている。
 さらに、大学のブランド力を高めていく上で市場分析は欠かせない。しかし、職員の場合は日常業務、教員の場合は授業や研究等に時間を捉われ、自大学や他大学の調査・分析を疎かにしがちである。そこでこのクイズを動機づけとして、自大学に関する情報収集の一助としたい。さらにクイズ作成は、自大学情報のみならず他大学との比較問題も想定される。このような仕組みを構築することで定期的に市場調査を行う習慣が育まれることが期待できる。
 大学運営には教職員の協働意識が不可欠である。学生の自学自習時間や退学率の問題、また入試・広報部門が抱える学生定員充足率など、各部署で抱える問題や対応策を共有することにより、部門や役職関係なく教職員共通の課題であることを認知させる。
 定期的に課題提起されることにより、教職員全体に協働意識・当事者意識(危機感)を持ち、教職員間で情報共有を図ることにより、強固な組織への転換が期待できる。

4.参加者からのアンケート
 最終日に参加者全員にアンケートを提出させた。その代表的なものを紹介する。
 全体会としては、「社会の変化に伴い大学の機能・方針を再構築する必要性が確認できた」「人工知能(AI)技術を代表とした情報技術の発展により、従前までの業務範囲が変わり、職員個々の意識改革が必要である」「ペーパーレス会議導入により、印刷コスト、機会費用の削減、業務の見直しや職員の意識改革に繋がっていることを再認識できた」等の意見があった。
 職員が主体的に取り組むための心構えやICTを活用した改善・工夫について理解を促すことができたといえる。
 グループ討議としては、「InstagramやLINEを代表とするSNS等の最新技術を利活用した大学広報活動や学生の帰属意識を高める働きかけ等、本学でも取り入れられるアイデアがあった」等の感想が寄せられていた。
 また、自大学に戻ってからの対応としては、「社会全体を俯瞰して業務につなげることを意識したい」「主体性がない学生への支援に役立てたい」「大学のブランディングに貢献したい」「現在より増して、学生の満足度向上を実現したい」「教職協働を進めるために、新たな情報共有システムを構築したい」等の感想が寄せられていた。
 参加者個々に、問題意識の大きさは異なるが、本講習会に参加したことにより、大学改革及び業務改革等の意識を持つことができた結果であるといえる。
 今後、自大学において、主体的に問題に取り組む姿勢を持ち続け、自大学の中核を担っていくことを切に願っている。

5.まとめ
 本年度の基礎講習コースは、全体研修では、大学を取り巻く環境、大学教育の質的転換の必要性と教学マネジメント体制の重要性、それらを実現するための基盤環境として情報通信技術(ICT)活用の意義などについて4大学より情報提供がなされた。
 グループ討議では、自らがどのように教育改革や大学改革に関与すべきか、対話と議論により望ましい改善案の提言作りを通じて、主体的な考察力、イノベーションに取り組む姿勢の獲得を目指した上で、ICTの活用についてまとめた。「大学の役割」について論じた結果として、「次代を担う人材育成」が全グループの共通の見解であった。
 具体的な改善の対象としては、大きくすみ分けると職員の人材育成を扱うグループ、学生支援を扱うグループ、及び授業改善や教育の仕組みに対する改善といった、教員、大学へのアプローチについて議論したグループがあった。
 2泊3日の研修という限られた時間の中で、全ての課題を網羅することができた訳ではないが、様々な大学の、様々な部門の職員が集まり、多角的な視点から大学改革に関する議論がなされたものと推察している。
 研修終了後(概ね1ヶ月後)の8月25日を期限として、討議のまとめと発表内容をもとにグループの報告書(レポート)と発表スライドの提出があった。当日の研修の中では議論を尽くせなかったことや相互評価や質疑応答から気づいたこと、発表時点までにはまとめきれなかった部分等について、グループ間のSNSや電子メール等による討議等によって洗練度が一層増していた。合宿研修の成果を職場に戻ってから、振り返りを行い、改めて報告書としてまとめることによって、成果をより着実に自身のものにされた方も多いようである。
 事後のアンケート結果から、入職から日の浅い職員にとっては、情報提供の内容や課題自体が高度な内容であったとの記述も見受けられたが、短期間に集中し、問題に気づき・発見し、課題を洗い出し、解決策を考えるという今回の研修の経験により、大学職員として一段の飛躍につながったので、今後は、日常業務でもこの経験を活かし、実践していきたいという記述も寄せられていた。
 従前のアンケート結果には、スケジュール設定や運営体制側への要望や改善事項等も数多く寄せられていたが、本年度は、運営委員会等でこれらの課題を事前に整理し、改善できるところから見直しを行ったため、スケジュール的な問題の意見は減少した。
 特に、第1日目のスケジュールがタイトであった(情報量があまりに多いにも拘わらず、休憩時間等は少なかった)ために、各自検討の整理ができないまま、次のテーマに移ってしまい、参加者が消化不良になってしまったという課題もあったが、本協会らしい情報提供を厳選し、情報提供の合間に休憩を適度に挟み、スケジュールを工夫することにより、参加者の理解を深め、その後の全体討議・グループ討議に繋げることができた。
 さらに前章に記載したとおり、第2日目夕食後に中間報告の場を設けて、検討の進捗状況を全体で情報を共有した。これにより、大人数の前で発表する経験をするという目的も達成できたといえる。
 また、大学間の繋がりが同一グループ内に限定されていたという反省を踏まえ、昨年度より、第1日目夕食後の懇親会時には、所属部署でカテゴライズし、懇親できるテーブルをすみ分ける工夫を継続した。部署に共通した課題や悩み等についての懇親を促す機会を設けることにより、交流に幅を持たせることができたと思われるが、その反面、一人でも多くの参加者にマイクを廻すことを目的とし、参加者から大学紹介をお願いしたことで、フリートークの時間が少なくなり、もう少し懇親を深める時間が欲しかったとの意見もあり、次年度以降の課題となった。
 本年度のアンケート結果では、改善点に対し評価する旨の記述も見られたが、その一方で、ペーパーレス化等を事例報告として掲げるのであれば、アンケートも電子媒体で行うべきではないか、発表時のプロジェクターが最新のインターフェースに対応しておらず、画面も不鮮明であった等、新たな課題も浮き彫りになったため、次年度以降の検討段階で、引き続き改善していく必要がある。
 また、運営委員からは、昨年度と比較すると、最終発表段階で結論にまで到達できず、新たな提案(イノベーション)に至らない発表も散見され、到達目標のレベルを少し下げるべきではないか、経験豊富な参加者を各グループに分散するのではなく、1グループに集約してはどうか、との意見もあり、今後の運営委員会で引き続き検討することとなった。
 2泊3日の研修の場でできることは限られているが、事前事後の研修を含め、研修で得たことを各自が実践し、自大学内に、さらには他大学にも広めることで、自己と大学全体の職員力の向上に繋げていただければと切に願っている。
 是非、他大学職員間の繋がりを大切にして、今後の業務や情報共有等に役立てていただきたい。

研修レポート

<A班>
  A班1グループ 「マインドセット」  研修報告  発表資料
  A班2グループ 「SynergyDyne(シナジーダイン)」  研修報告  発表資料
  A班3グループ 「menaryu」  研修報告  発表資料
<B班>
  B班1グループ 「M4Ki20I7」  研修報告  発表資料
  B班2グループ 「」  研修報告  発表資料
  B班3グループ 「かっぱ組」  研修報告  発表資料
<C班>
  C班1グループ 「赤富士」  研修報告  発表資料
  C班2グループ 「スズメバチ」  研修報告  発表資料
  C班3グループ 「Cさん」  研修報告  発表資料
<D班>
  D班1グループ 「出藍の誉れ」  研修報告  発表資料
  D班2グループ 「まいど!Oh!BANG!でございます」  研修報告  発表資料
  D班3グループ 「大学改革特命委員会@浜名湖」  研修報告  発表資料
<E班>
  E班1グループ 「健康ミネラル」  研修報告  発表資料
  E班2グループ 「ドコデモドア」  研修報告  発表資料
  E班3グループ 「走りながら目薬」  研修報告  発表資料
<F班>
  F班1グループ 「ウナギネコ」  研修報告  発表資料
  F班2グループ 「オフライン」  研修報告  発表資料
  F班3グループ 「ハンマー65」  研修報告  発表資料

文責:大学職員情報化研究講習会運営委員会

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